この1週間、何も無かったことでこの事件に勝手に終止符を打っていたのは、完全に私の誤算だった。
事の重大さをまだ分かっていなかったのだ。
楽観主義と自己中心主義の最たる弊害だ。
この時、少しずつ私は感じていた。
これは大変な長丁場になると・・・。
それでも、それでも一筋の光を信じて、誠意を見せれば必ず良い方向に行くと考えていた。
だから、この恐怖の2通目が送られてきた時、私の答えは一択しかなかった。
会って謝罪することだ。
ここまで最悪の事態にまでは発展していない。
もちろん、会社にメールを送ってくるなんて普通じゃないし、相手がとんでもない相手だということくらいはわかる。
しかし、それだけ感情的になっている証拠でもあるから、そこに今できる最大限の誠意を見せれば、事態を収拾をさせることができると淡い期待を抱いていた。
私は長くならないように淡々と、会って謝罪をさせていただきたい旨の内容を送った。
もう会社は出ていた。
この状態で家に帰ることは気が重過ぎる。
家に帰ることさえも本当は嫌でしょうがない。
何の罪もない家族の顔を見るだけで、涙が出てくるし顔もどんどん青ざめていく。
逃げ出したいくらいの恐怖を抱えながら、でも誰にも相談できないこの孤独感は絶望的だった。
せめてメールを返してから家に帰ろうと思い、とりあえず近くの漫画喫茶で対応を待つことにした。
すると、メッセージを送ってから30分くらい経った時、黒川から返信が来た。
「それは当然ですね。わかりました。では、詳細を決めたいので、明日の12:00にこの番号までお電話ください」
で、電話?しかも明日の12:00。
丁度、家族と実家に遊びに行く予定が入っている日だった。
頭はもう既に2回目のパニックだ。
どうするんだ・・・
しかし、この期に及んで断ることなどできない。
答えは一つしか残されていなかった。
「わかりました。明日の12:00にお電話します」
そう返信して、このやり取りは終わった。
どうやって家に帰ったかなど覚えていない。
何を食べたかも。
今私はとんでもない渦の中にいることだけはわかった。
そして、もっともっと奥底へと渦に引き込まれることも予感していた。
こんな恐怖はない。
人生最大のピンチを迎えている。
私はもういつもの私では無くなっていた。