前回の記事で、Scott Rudinの人となりについてお話ししましたが、今回は、彼のハラスメントが露呈したことに対して業界がどのような反応をしたかを、時系列に沿ってご紹介したいと思います。

 

2021年4月7日

The Hollywood Reporterが、Rudinのもとで働いたことのある多数の従業員たちから、彼が長きに渡って暴力的な態度で部下たちに接してきたという証言があった、と報じました。

 

 

 

けれど、これに対して演劇界はしばらく、ほとんど何の反応もしませんでした。そして…。

4月14日

ミュージカル「ムーラン・ルージュ!」で主演をしているKaren Olivoが、演劇界がRudinを恐れて反応を示さないことに対しての抗議として、BW再開後に「ムーラン・ルージュ!」には戻らず降板すると声明を発表。特に彼女の「社会的正義は、輝くダイアモンド(演じている役の愛称)でいることより大切です。未来の俳優たちのためにより良い労働環境を創ることの方が、私のポケットにお金を入れることよりも重要なのです」という発言が非常に印象的でした。Rudinはこの演目に関わっていませんでしたが、それでもBWのスター俳優からの抗議声明は、業界に大きな衝撃を与えました。

 

 

4月17日

俳優組合 the Actors' Equity AssociationがRudinに対して「ブロードウェイおよびその外における労働環境を、安全でハラスメントの無いものにするために、全ての従業員を非公開で不当な契約と暴力から解放するように」と声明を発表しました。また、組合員からRudinを「一緒に働くべきではない人物」ブラックリストに載せるように声が上がります。

 

 

 

同日

Rudin本人が、自分がプロデューサーを務めるブロードウェイのプロダクションから身を引くことを発表しました。

 

 

4月18日

Rudinがプロデューサーを務める最新作であった「the Music Man」で主演する予定のSutton Fosterがこれまで表立って発言しなかったことを詫びると共に「物事が良い結果に向けて動いていて嬉しい」と発表。

 

 

4月20日

TVや映画の業界からもRudinが身を引いたことが明らかに。

 

 

 

 

4月22日

Sutton Fosterと一緒に「The Music Man」で主演予定のHugh Jackmanが、Rudinを糾弾した人たちの勇気を讃えると共に、今回の騒動が業界の職場環境改善に繋がることを祈ると発言しました。

 

 

 

 

演劇や映画の業界ではしばしば密室の中で会話・交渉が行われ、それゆえに被雇用者が不利な条件下で働かされることも少なくありません。これは米国に限ったことではなく、日本や英国でも同じです。今回の騒動は、その氷山の一角が露わになったに過ぎないと思いますが、それでも、こういう動きが起こることによって、雇用者側も被雇用者側も意識が改善されて、ゆくゆくは業界全体の向上に繋がっていくのではと思います。コロナやBlack Lives Matterを契機に、世界中の様々なところで、人権の在り方を見直す流れが起きています。この世界が少しずつでも、より良い方向に向かって言ってくれることを願ってやみません。

 

(最初に声をあげたKarenと、Rudin)

 

 

 

 

徐々に再開の機運が高まっているブロードウェイですが、ちょっと暗い問題が出ております。Scott Rudinという映画と演劇の双方の業界で働いていたプロデューサーによる、度重なるハラスメント問題が浮上したのです。このハラスメントは、主に身体的な暴力を従業員に対して行う、というものだそうです。

 

Scott Rudinが関わってきた作品のなかで、私がよく知ってる作品を簡単に列挙しますと、、、

 

映画:

「天使にラブソングを」

「めぐりあう時間たち」

「ファンタスティック Mr.フォックス」

「犬ヶ島」

 

演劇:

「パッション」(1994トニー賞受賞)

「ブック・オブ・モルモン」(2011トニー賞受賞)

「ハロー・ドーリー!」(ベット・ミドラー主演の再演版)

「橋からの眺め」(2016トニー賞受賞)

 

と、かなり錚々たる作品が並びます。

 

 

とは言え、元々、いろいろな問題を起こすことで有名なプロデューサーだったようで、例えば、、、、

 

2012:「Clybourne Park」BW開幕直前に、脚本家と対立し、プロデューサーを降板。

 

2013:自分がプロデューサーを務め、興行的に失敗した作品に関する記事を書いた記者を、名指しで批判する広告を出す。

 

2016:「Groundhog Day」BW版準備中に、創作の方向性の違いからクリエイティブチームと対立、プロデューサーを降板。

 

2016:「The Front Page」で、批評家たちに初日前に観劇することを禁止し、The Hollywood Reporterの記者と対立。

 

2018:「To Kill A Mockingbird」で、原作からあまりにかけ離れすぎていると、原作者の権利団体から告訴される。

 

と、なかなかのことをやってきています。実際に業界では、かなり難しい人間として有名だったようで、誰もが「あいつには気をつけろ」と言っていたようです。それが今回、職場における暴力を従業員たちが暴露するという形で、問題が明確化したという流れなのですが、それに対して業界がどのようなことを行なったか。。。というのはまた次回にお話しすることにしましょう。

 

ちなみに、Scott Rudinってこんな人です。

 

 

 

 

 

 

最近のコロナの影響で、急遽、代役の俳優さんが舞台に出る、というケースを日本でも見かけるようになってきました。俳優さんの名前でマーケティングが展開される日本では、キャスティングされている役者さん以外が舞台に出るというのは、少し前まで大騒ぎになるような出来事でした。けれど、実は海外の舞台では頻繁に起こることで、決して珍しいことではありません。そして、同じ代役でもいくつかのランクに分けられています。今日は、そんな代役のランクや呼び方の違いについて書こうと思います。

 

1)Alternate オルタネート

これは代役の中でも、出演回が約束されている代役です。例えば「オペラ座の怪人」のクリスティーヌ役は、声帯の保護のために週に二回は代役を出演させる、という契約になっているのが通例です。普通だと週中の夜と土曜の昼公演ですが、これはその時に本役でキャスティングされている役者さんの意向も反映されるので、チケットを買う際に必ず劇場に確認するようにしましょう。他の演目でも、Alternateが設定されている場合は劇場やウェブサイトに出演スケジュールが大抵発表されています。要チェックです。

 

2)Standby スタンバイ

これは、ある特定の役だけを代役として演じることになっているけれども、出演が確定されていない人のことです。大抵は「開演後〜分後まで、劇場から半径〜m以内にいること」というような契約になっていて、本役の人に急な体調不良があった場合にすぐに入れるようになっています。

 

3)Understudy アンダースタディ

これは、普段はカンパニーの中で他のアンサンブル等の役で出演しているけれど、本役の人が休演になった際に代役として入ることになっている人たちです。普通ですと、役ごとに第1から第3くらいまでアンダースタディが設定されていることがほとんどで、万が一、数人の役者が急病などで倒れたとしても、組み合わせでなんとか乗り切れるようになっています。

 

4)Swing スウィング

普段は出演していないけれど、複数の枠(普通はアンサンブル)に代役として入れるように稽古している人です。Understudyで、普段はアンサンブルを演じている人が急に別の役を演じることになった際に、その空いたアンサンブルの枠に入ったりします。数種類のダンスや、何通りものセリフや動線を覚えなければならないので、技術の高い役者さんが選ばれることも多いです。

 

 

こう見ると、「代役」と一言で言っても何通りものパターンがあるのが分かるかと思います。何年間もロングラン公演をするのを目指すブロードウェイやウェストエンドの大きなプロダクションには、こういった代役のシステムは必要不可欠です。開演前に、写真にあるようなキャストボードでその日に代役が出演する役が貼り出されるのが普通ですが、観客も代役の役者が出演していたとしても、よほどのことが無い限り苦情を言ったりしません。もしコロナをきっかけに日本にも代役文化が広まれば、もっと多くのプロダクションがロングランを敷けるようになるかもしれませんね。