第5 原告に対する不法行為(権利侵害)

1 納税者である原告に対する侮辱行為(愚弄・侮蔑行為)

(1)  日本国憲法の前文に「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」とあり、同41条は「国会は、国権の最高機関であって、唯一の立法機関である。」と定め、同43条1項は、国会を構成する衆議院及び参議院について、「両院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを構成する。」と定めている。つまり、国会議員は、原告を含む国民の代表として国政に関与し、立法作業をすることによって日本国の財政を支配できる立場にある人々である。

一方、憲法30条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」と定め、原告は納税者の一人であり、日本国の財政を支えている一人である。

 

(2)  本件立法の不作為は、以下述べるとおり、原告を含め全国の納税者を愚弄し侮蔑しており、それは尊厳(憲法13条参照)をもって個人として生きる原告に対する侮辱行為である。

(ア)  他人が資金元である資金からある経費を支出した場合には、その経費に使用したことを裏付ける領収書等をその資金元に提示することは現代の常識である。ところが本件国会議員らは、この常識に反し、堂々と納税者の血税が資金源である国家財政から毎月一人100万円という高額な資金を領収書等を資金源の納税者に対し提供しないで使用し続け、憲法が禁止する本件特権的待遇を受けこれを温存し放置し、本件立法の不作為をしてきたことになる。

(イ)  一口に毎月一人100万円というが、この額は現在の国民の生活水準から考えて異常に高額な金額である。

国税庁のホームページに掲載されている、新型コロナウイルス感染症の発生以前の「令和元年分民間給与実態統計調査」という調査結果があるが、その結果概要として、「給与所得者数は、5,255万人(対前年比4.6%増、229万人の増加)で、その平均給与は436万円(同1.0%減、43千円の減少傾向)となっている。」との記載がある。(なお、利用上の注意書きの一つに、「この調査は民間の給与所得者の給与について源泉徴収義務者(事業所)の支払額に着目し集計を行ったものであり、その個人の所得全体を示したものではない。」とある)

上記統計調査によれば、日本の給与所得者の平均給与月額は、計算上36万3333円であり、何と本件国会議員らは、1ヶ月で給与所得者が1ヶ月に得る平均給与(それは1ヶ月の生活費である)の3倍近くの額を得ていたことになる。

(ウ)  何故、本件国会議員らはこのようなことができたのか、その理由は、本件特権的待遇が前記聖域の中にあることをよいことにして、自らの保身を優先して来たからである。

本件国会議員らが国家財政の中から毎月一人100万円をその使途を明示せず費消するという国家財政を蝕む行為を続け、かつこの特権的待遇を温存してきた行為は、その資金源である納税者を愚弄し、侮蔑する行為に外ならない。

なお、「愚弄」とは「人をあなどり、からかうこと。」(前記広辞苑)であり、「侮蔑」とは「あなどってないがしろにすること。あなどってさげすむこと。」(前記広辞苑)である。

 

(3)  以上のとおり、本件国会議員らは、本件立法の不作為行為を継続することによって、納税者を愚弄し、侮蔑しており、この行為は、原告を含め納税者に対する侮辱行為であり、それは原告に対する不法行為である。

 なお、原告は、ここで本件国会議員らの不法行為事実を「愚弄」及び「侮蔑」という2種類の概念で記述し、同時に「侮辱」という概念でまとめたが、その理由は、刑法231条に「侮辱罪」という犯罪が定められているとおり一般に「侮辱」行為が定型的な不法行為概念であることから、上記「愚弄」行為も「侮蔑」行為もこの定型的な「侮辱」行為に等しいことを示すためである(以下の文脈でも同じ)。