2 憲法が禁止する特権的待遇

(1) 毎月7億700万円の使途不明金

 現時点で統計上確認できる国会議員数は総数707名(2021年10月3日現在の参議院議員数は242名、同年11月10日現在の衆議院議員数は465名)であるが、この707名の国会議員に助成される本件文通費は毎月7億700万円である。

日本の財政が危機的状況にあるにも拘わらず、毎月7億700万円の資金がどこに使われているのか全く不明であるという異常な事態が生じていることになる。

そして、この異常な事態は、同時に、以下のべるとおり国会議員に憲法14条違反であるところの特権的待遇が与えられていることでもある。

 

(2) 憲法14条が定める「特権的待遇の禁止」

  1.  日本国憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定め、人は「差別されない」という基本的人権を謳っている。この14条1項の「法の下に平等であつて」の部分が、重要である。「法の下に平等」であるとは、「法律上の差別(差別待遇)が禁止される意」((宮沢俊義著『法律学大系 日本国憲法』(日本評論社、1964年)216頁)であり、14条1項は「不平等な差別待遇」を禁止している。

    そして、「不平等な差別待遇」が禁止されることは、同時に、「不平等な特権的待遇」もまた禁止されなければならない。

    その規定が、次に述べる憲法14条2項及び3項である。

  2.  憲法14条2項は、「華族その他の貴族の制度は、これを認めない。」と、同3項は、「栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。」と定めている。

    両項の趣旨は、「特権階級」も「特権」も認めないという趣旨である。

  3.  ここで「特権」とは、「一般国民の負うべき負担の免除(もしくは軽減)または一般国民に与えられない利益の供与を意味する。」(前記宮沢俊義著『法律学大系 日本国憲法』216頁)。また、宮沢は、「栄転の授与」に関して、「ここでいう「特権」とは、したがって、民主主義の理念から見て不合理と考えられる特典を意味するとみなくてはならない。」と述べ、不合理な特典の例として、「その者の社会に対する功労を表彰する程度を越えて、その者を他の者の権利より多く尊重するような趣旨の特典は、民主主義の理念から見て、合理的とは、考えられないであろう。」(宮沢俊義著『法律学全集4 憲法Ⅱ』(有斐閣、1962年)、283頁)と述べる。

  4.  以上のとおり、憲法14条は、1項乃至3項により、民主主義の理念及び平等原則の理念からみて不合理であると評価されるような「その者を他の者の権利より多く尊重する特権的待遇」を禁止しているといわなければならない。

     

    (3) 文通費助成による国会議員に対す特権的待遇

    前述のとおり、議員歳費法は、国会議員に対し使途が定められている本件文通費を助成するに当たり支出に関する領収書等の支出先が分かる資料の提出を求めていない。ところが、世の中において、使途が定められて支給される資金で領収書等支出先が分かる資料の提出を求めていない資金は他に存在しない。従って、国会議員は本件文通費を助成されることにおいて、憲法が禁止している不平等な特権的待遇を与えられていることになる(以下、この特権的待遇を「本件特権的待遇」という)。

     

    (4) 「聖域」の中にある特権的待遇

    本件特権的待遇の事態を一層悪化させていることは、この特権的待遇を誰も制止する権限を有していないことである。この特権的待遇は、これを廃止する権限は国会にしかなく国会議員以外誰も手を付けられないいという意味で「聖域」の中にある。従って、今後もこの特権的待遇は生き延びることになる。

こんなことは、あってはならないことである。