第2 当事者

1 原告

原告は、千葉県船橋市に住み国税を納税し、国政選挙権を有し、また2019年の千葉県議会議員選挙によって千葉県議会議員に選任され、現に千葉県議会議員の地位にあるものである。

 

2 被告

被告は、その機関である国会が制定した「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」第9条第1項に基づき、国会議員に対し「文書通信交通滞在費」を支給しているものであるが、国会議員からはその使途が分かる支出の領収書等が被告に提出されていない。

 

3 不法行為者

 本件における不法行為者は、原告(日本国民である納税者、選挙民)を代表している「内閣総理大臣である岸田文雄議員をはじめとする後述の国会議員610名」である。

 

第3 本件不法行為に至る経緯及び事情

1 議員に対する交通費等の助成制度

(1) 国会議員に対する交通費等の助成

(ア)  昭和22年法律第80号として制定された現行「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」(以下、「議員歳費法」という)第9条1項は、「各議院の議長、副議長及び議員は、公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等のため、文書通信交通滞在費として月額百万円を受ける。」と定めており、被告は国会議員に対し毎月100万円を「文書通信交通滞在費」(以下、「本件文通費」という)として助成している。

(イ)  本件文通費は、その使途として「公の書類の発送(費)」及び「公の性質を有する通信(費)」等という文言並びに「文書通信交通滞在費」という文言によって、「文書発送費」、「通信費」、「交通費」及び「滞在費」という特定の使途が定められて交付されている助成金であり、それ以外の使途のために使うことは認められていない。また、同法同条2項は、「前項の文書通信交通滞在費については、その支給を受ける金額を標準として、租税その他の公課を課することができない。」と定めており、本件文通費は、課税される国会議員の歳費とは別枠の実費に対する弁償金である。

(ウ)  ところが、本件文通費の支給を受ける国会議員には文通費の支出について領収書等により使途を説明する義務がなく、国会議員は文通費を定められた使途以外の使途に支出することが可能であり、いわば第二の歳費化している。

 

(2) 地方議員に対する交通費等の助成

(ア)  地方自治法(以下、「地自法」という)100条14項は、「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。」と定めており、各地方自治体は条例を定めて地方議員に対し「政務活動費」を交付し、調査活動等にかかる交通費等を助成している。原告が住みかつ議員として活動している千葉県は、上記地方自治法を受けて、「千葉県政務活動費の交付等に関する条例」を(以下、「千葉県交付条例」という)を定め、千葉県議会議員に対し毎月40万円(会派分5万円、議員個人分35万円、計40万円)を政務活動費として助成している。

(イ)  この政務活動費もまた、千葉県交付条例2条2項の別表が支出の経費項目として「調査研究費」、「研修費」、「会議費」等10項目を定めているとおり、特定の使途が定められて交付されている助成金であり、それ以外の使途のために使うことは認められていない。この政務活動費に関する千葉県議会発行の解説書である「政務活動費の手引き(改訂版)」(平成25年3月)」6頁は、「3 実費弁償の原則」との見出しで「政務活動費は、会派及び議員が政務活動を行ったことに伴い支出した経費の実費を弁償するものである。」と説明している。

このように、地方議員は、国会議員の助成対象である「文書発送費」、「通信費」、「交通費」及び「滞在費」という名目の経費について、政務活動費の各経費項目に該当する場合にその支出が認められている。

(ウ)  一方、地自法100条15項は、「前項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。」との定め、同条16項は、「議長は、第14項の政務活動費については、その使途の透明性の確保に努めなければならない。」と定めている。そこで、地方議員は、この地自法の条項及び各自治体の条例に基づき、毎年4月1日から翌年3月31日までの収支をまとめた収支報告書及び支出を裏付ける領収書等の資料を議長に提出しており、これら法令に基づき1円たりとも不明朗な支出がないことを求められている。また、地方議員は、収支報告書により政務活動費の残余が生じた場合は、これを地方自治体に対し返還する義務を負っている。

 助成金の原資が税金でありまた使途が限定されていることから、この収支報告書は余りにも当たり前の制度であるといえる。

(エ)  なお、政務活動費は、2000年に立法された政務調査費制度を前身として支出経費の対象が若干拡大されて2012年に改正されて成立した制度である。