中沢啓治『はだしのゲン』(7) ~アメリカ批判は自然の発露~ | 池内昭夫の読書録

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本を読んで思ったこと感じたことを書いていきます。

【はだしのゲン 愛蔵版 第5巻 184頁】(汐文社)

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『はだしのゲン』が面白いのは、それが単なる反戦漫画そして反日漫画ではないということである。原爆投下という地獄を体験した作者が、その憎しみを天皇に向け、軍部に向け、そしてアメリカにも向けている。


 また、誤解無きように付け加えておけば、私は『はだしのゲン』そのものに批判を加えているのではない。私は戦後日本に蔓延(はびこ)る歴史観に異議を唱えているのである。


 右寄りの考え方の人たちは『はだしのゲン』が天皇批判をしているのがけしからんとし、この漫画を学校に置くことを禁じようとする動きも見られたが、アメリカをも公然と批判する『はだしのゲン』は、腰の引けた親米保守よりもむしろ全うな感覚であると言えなくもない。


 ただ、「東京裁判史観」「戦勝国史観」に呪縛されてしまっているのが問題なのである。


【はだしのゲン 愛蔵版 第5巻 211頁】(汐文社)

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【はだしのゲン 愛蔵版 第5巻 211頁】(汐文社)


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アメリカを批判し、利権にありつこうとする浅ましい医者を非難する。これは原爆を落とされ、そしてその後の壮絶な人生を生き抜いた人間の自然な感覚と言うべきである。



 『はだしのゲン』における台詞は下品である。画自体も戦争を知らない現代の子供たちの目には刺激が強すぎる。したがって、この漫画を小学生に読ませたいかと問われれば、私なら否と答えるだろう。


 が、だからといって、小学生に読ませてはならないとして閲覧禁止にするのもどうかと思われる。世の中に様々な考え方があればこそ自由社会は成り立つ。

 多様な物の見方があることによって公正な判断を下すことが可能になるのだという観点からも、私は『はだしのゲン』を小学校から排除することには反対である。

 

 今回で『はだしのゲン』の連載(第1巻~第5巻)を中断し、次回からは、『大東亜戦争の真実 東条英機宣誓供述書』を取り上げます。