自己消失 電 ―小説
は?
僕宛に?
それはおかしな話だ。
僕はここに来ることを誰にも話していない。
いや、カザトくらいだ。
それならどうして・・・・。
ま、兎にも角にも、
電話に出てみたほうが手っ取り早い。
僕はみぃちゃんの持ってきた子機電話を手に取った。
「グーテンモルゲン!ご主人さま。」
「おまえは、フランス人とロシア人のハーフでドイツの血は一滴たりともまじってないだろ。
設定は無視か、無視なのか?」
電話から聞こえてきたのは、流暢な日本語だった。
流暢という言葉を使うからにはこいつは外国人だ。
前述、僕にこの厄介事をたらいまわしにした人間、Aliceだった。
「え、その通りだけど、あらら、知らないの?ドイツとフランスはお隣さんなのよ。」
知っている。知っているとも。
だが、それがどうしたというんだ?
中国と北朝鮮はお隣だが、別に全員が中国語を当然のように話せるというわけではないだろう。
「で、何の用だ?」
「ん?ご主人さまがちゃんと私めの回した仕事を受けてくれてるか、気になったの。」
「うるさい。勉強しろ。期末テストが近いだろ女子高生」
「電話一本くらいでどうにかなるほど、下手な勉強の仕方してないって。
でも、よかった。
ま、ご主人さまが、困ってる人を見捨てれないって言うのはわかってたけど、
愚痴も言わずに頑張ってるみたいね。」
正直、この時期にお金の入る仕事が来たのは渡りに船というやつだからな。
そりゃ頑張るさ。
なにより、みぃちゃんは美人だ。
断るわけがない。
「本当は、声を聞きたくなっただけ・・だけど」
「毎日聞いてるだろ?一日くらい聞かないほうがいいんじゃないのか?」
「ダメ、そんなんじゃ、今晩のおかずに困るでしょ?」
「・・何のだ!?」
「え?答えなきゃダメ?・・かな。
あらら、仕方ないよね。
ご主人様の命令だし。恥ずかしいけど頑張るね。
あのね、こう、声を聞きナガラ、あっちのほうを・・」
「うるせぇ!
だまれ!
それ以上しゃべるな!
その単語は放送禁止だ!
この変態エロ外人!
お願いだから、おれの知らないところで事を運べ!」
「わかりました。ご主人様。」
「ご主人さまやめろ!虫唾が走る。」
「うん、わかった。
でもそれ、贅沢ものよ?
世の中には、お金を払ってでも呼んでほしい人が山といるのよ。
特に私のような超がつくほどのロリ美少女には特に。」
「やめろ、おれにはそんな属性ないし、
だいたい、お前たちの言うロリはおれたちにとっては普通だ。」
「ま、確かに、日本人てみんなベビーフェイスだものね。
欧州レベルから見ればロリだらけだわ」
たく、ロリだと?
ロリータという言葉からきているとはいえ、
その略し方は、日本の悪しきサブカルチャーが作り上げたものだろ。
そんなもの学校でダウンロードしてくんじゃねぇよ。
腐るぞ、てめぇ。
「あ、録音テープ回ってなかった」
「回すな、
使うな、
みなまで言わすな。
空気を読め!バカ野郎!」
「なんてツンデレ!」
「罵倒すらも通じないっッ!?」
「ううん、結構傷ついた・・・ごめんなさい」
「あ、いや、・・ごめん」
「だったら録音テープに謝って、録音テープの心が傷ついたわ」
「なんでッ!?て、言うか傷ついたのそっち?」
「ものは大切にしなきゃ駄目でしょ。
お家、確か神社だったよね。
だったらツクモ神のことはわかるでしょ?」
「ツクモ神が付くほど録音テープに愛着持ってんじゃねぇよ。」
と、ひとまず何の意味もない掛け合いはこれで終わり。
「で、本当にどうしたんだ?」
「あ、うん。本当に声が聞きたくなっただけなの。」
「電話、切るわ」
「まって、まって!わたしもそっち行っていい?手伝いたいの。いいでしょ?」
「分け前減るし、いいよ。だいたい、お前、こっち来たってすることないだろ?」
「うん、それもそうなんだけど・・・ね。
仕事をそっちに回しておいてごめんだけど、気になってきちゃって。ほら、だって似てるでしょ?」
「まぁ、確かに芸は似てると思う。でも結果だけだ。全く別物だよ。
事の顛末がそんなに気になるなら、話してやるからさ、
ここは、まかしておけよ。」
「うん、そこまで言うなら、そっちには行かないけど。
約束ね?ちゃんと話してよ」
「ああ」
「じゃぁ、明日も電話するから、何か進展あったらちゃんと話してね。
愚痴じゃダメなんだから。」
そりゃ無茶だ。
僕の言葉は、愚痴で構成されているんだから。
アリスは、自ら電話を切った。僕も、子機の電源を切ってみぃちゃんに渡す。
「楽しそうですね」
と、明るい声で言った。
顔は無表情。
「冗談でしょ?あのまま話していたら、僕はきっと鬱になってしまう。」
そうは思わないけど・・・とみぃちゃんは呟いて、ぼくを、夕食の待つリビングルームに導いた。
自己消失 1-8心象風景 ―小説
屋敷に帰ると、みぃちゃんは、台所に立とうとしたが、キャベツの時同様、材料を見向きもすることなく、ただじっと、まな板を睨んでいた。
彼女がそのような状態となってから2分後。
「お、お嬢様!料理なら私がします!テーブルでお待ちください」
あら、そう。
そうね。
あなた使用人なんだからそれは当然ね。
といって、みぃちゃんは、テーブルのほうにすたすたとリビングへ帰って行った。
何がしたかったんだ?
今更ながら天然なんだろうか?
まぁ、美人の手料理を頂けなかったのは残念ではあるが、
見た所みぃちゃんは、料理ができるといった風でもないので、
もしかして命拾いしたのかもしれない。できない料理を食べる危険性は、誰かさんのせいでよく心得ている。
さて、料理ができるまで間もあるだろう。
ここで、この屋敷の構造を把握しておくのもいいかもしれない。
前述どおりなのだが、この屋敷は広い。
部屋数も半端ではなく、そのほとんどが使われていなかったりもするわけだが、
とりあえず使われている部屋を見て回る。
まずは玄関。
セキュリティーと呼べるのかどうかは知れないが、
玄関入口のドアは、鍵が二つ付いている。
ひとつは普通の錠で、もう一つはチェーンロック。
ん?チェーンロック?
ここの扉、横開きだぞ?
まぁ、使えないこともないが、珍しいな。
他には、そうだな、
みぃちゃんのかわいらしい靴とか、
古矢さんの靴に、
ああ、これはきっと弓端さんのご両親の靴だな。
いや、どうやら父親だけかもしれない。
男物の靴ばかりが靴箱に入っている。
靴にはK・Yと書いてあった。
次に回ったのは、リビングルーム。
調理室で淡々と古橋さんが食事の準備をしているのが見える。
みぃちゃんは、食卓の前で悠然と座っている。
このリビングルームは和風で、当然、みぃちゃんは座布団の上でキチンと姿勢正しく正座している。
・・・正座の苦手な自分としては、弓端さんのように、ごく自然に正座しているというのは信じがたい。
一度、カザトの家でテレビゲームをした時に、
人間は地べたに座る生き物ではないことを痛烈に思い知らされたことさえある。
「どうしました?」
みぃちゃんがこちらに声をかける。
人のいる時に、調べものをするのはさすがにな・・と、
思ったので、ここは後回しにしよう。
さて、ここからが本番である。
いや、本命と言い換えて間違いはない。
誤解を招かぬようあらかじめ言っておくが、
これはあくまで、弓端さんを護衛する上でのセキュリティの確認作業であって、
けしてやましい気持などあるはずもない。
そう、女性の部屋に勝手に上がりこみ調べ物をするのは、
本当に、
本当に、
本当に
本当に
本当に
本当に
本当に
本当に
本当に
本当に
本当~に心苦しいのだが、
仕方のないことなのである。
必要事項なのだ、
絶対事項なのだ、
確定事項にして
これはもはや運命だ!!
すみません、弓端さん。
ごめんな、みぃちゃん。
いやいや、しかし、
妄想いや、
『想像』が膨らむ!
ふふふふ、
普段は無表情の弓端さんだが、そこにはどんな、心象風景が隠されているのか!
そう、部屋は、住人の心を映し出す鏡なのだ!
さてさてさって!
心躍る!
気持弾む!
あ~んな無表情な弓端さんでも、女の子なのだ、
案外可愛い物好きかもしれない、
小物はどんな物を?
ぶっ飛んで、乙女チックフリルも考えられないこともないこともないのでないかい!?
安心してくれ、、
下着を見つけることになってもそれは事故なのだ!
なんら問題はない。
すぐ戻す。
当然だとも!
さああああああああああああて、
失礼しま~すっッッ!!!!
バンと開く!(扉を)
ぱっと見渡す!(部屋を)
夢は崩れる・・・(アデュー、マイドリーム)
質素、
いや、簡素、
ていうか、何もない。
いや、服はもしかしたら、衣裳部屋がほかにあるのかもしれないから、置いておくとして、
ベッドさえないというのはどういうことだ?
というか、本当に人が住んでるのか?
ここ。
外に出て、扉を確認する、ネームプレートは弓端さんのものだ。
まちがいない。
窓の一つもなく、
箪笥の一つもなく、
小物の一つもなく、
目覚まし時計もない。
寝るときはどうしてるんだ?
地べたか?
そもそも、インターネットをやってるようなことを言ってたのに、コンピューターすらない。
ただ、机がある。
小学校に並んでいるようなものよりも、はるかに小さい、
物を置くための三つ足の机。
それが真ん中にある。
ぽつんと
真ん中にある。
机の上には、人形とくるみ。
他に何もない。
まるで、それだけが世界のすべてかのように・・・。
僕は、人形を見た。
向こうもこちらを見ている。
いや、何を言ってる。
見ているのではない。向いているのだ。その人形には眼なんてない。
ただの・・・
くるみ割り人形だ。
はて?
これはどういった心象風景ととらえよう。
一言でここから感じるものは、『重苦しい』の一言だ。
いや、もういいや興味は失せた。
まぁ、人生そうそううまいこと行くもんではなく、
夢も大きく消えたところで、
どこかみぃちゃんの服が置いてる部屋かという疑問を解消するべく歩き回ろうとした矢先・・・・・・。
「あの・・・」
みぃちゃんがそこにいた。
よかった。
どうやら部屋から出てきたところは見られていない。
いや、そもそもなんらやましいことはないのだから、
みられたって構わないわけだが、いや、本当だ。
信じろ。
「ああ、できたんですか?夕食」
正直言えば、予想よりずいぶん早かったが、
お腹が空いてきているこちらとしては早いに越したことはない。
大歓迎だ。
「それも確かにあるんですが。電話です。」