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DADA ~KuRU/kurU RE; SS~ Episode1  #35

 

◆ ◆ ◆

 

 東豊町(とうほうちょう)には予言者がいる。

 

 これ以上無い陳腐な内容の噂、とはいえ火の無いところに煙は立たず、それはある意味事実ではあったのだ。だからといって、その予言者をキリストやモーセのように祭り上げようとする者は誰もいなかったのだけれど。

結局のところ、それは現代において予言と言う物がありふれていて、その価値が俗物的なレベルにまで零落してしまったからだろう。もはや現代人にとって予言は神秘性を感じる物ではないし、それらの物がどういった物であるか無意識に周知されているのだ。

 

例えば、天気予報などがわかりやすい例だ。

 

 一週間後の天気さえ高確率で言い当てる天気予報は、最もありふれた予言の一つだ。太古の人間ならばそれこそ神秘の産物だったであろう。しかし、我々はそれをごく当たり前に受け入れているし、そこに神秘(ふしぎ)を感じない。それは、結局のところ天気予報なるものの正体を知っているからだ。天気予報は神秘でもなんでもない。莫大な統計データ。気象衛星による地球規模でのリアルタイム情報に、全国に点在する気圧、湿度の測定施設。隙間無く測量された地形データ、それら全ての情報と気象学のアルゴリズムから算定される大気の流れ。全てはあるべくしてあり、起こるべきして起こる『科学』の器をはみでないデータに裏打ちされた未来予測(計算結果)。

それは則ち、『常識』であり、ビルから落としたリンゴの行方を誰もが言い当てられる事と道義なのである。そこから考えれば、極論あらゆる予言は知識と情報次第で、いくらでも可能だ。そんな大げさな話をしなくたって、明日を夢見て生きていない人間はいないし、夏場に大雨が降った年に「今年の秋の野菜は高騰するかも」と未来視(そうぞう)しない主婦はいまい。

 もし、そんなありふれたものに神秘に感じる事があるならばそれは、そう感じた人がその仕組みを知らない情報弱者であるが故であろう。卜占の類いはコレをネタにしたパフォーマンスであり、知っている人間が知らない人間を驚かす―なんてありふれた日常に雰囲気を与えておもしろがらせるエンターテイメントなのである、

 ならば、その予言者と呼ばれる人物も一種の実演家(パフォーマー)にちがいない。本人もそれを自認しているし、政府(まわり)もそれを自覚し、だからこそ情報源として信頼している。

 

当然だ。

 

極論、あらゆる予言は知識と情報しだいで可能となる―逆説的に人に出来ない予言が出来ると言う事は、人の知らない情報を持っていると言う事なのだから。

 

―予言者(彼女)は、我々の知らない事実を知っている。

 

だからこそ、この予言者が同時に情報屋と呼ばれる事も、その情報を集める探偵業を行う事もごくごく自然な、そして当たり前の着地点(未来予測)だったに違いない。

 

霧宮探偵事務所

 

と掲げられたその看板は、山の上にある閑静な住宅街にひっそりと掛けられていた。

 

 

DADA ~KuRU/kurU RE; SS~ Episode1  #34

    ◆ ◆

 

 Epilogue

 

3日後―

メイド喫茶 のすとらぶChuChu

 

「あ、お帰りなさいませご主人様―はい、ノルマ終わり。久しぶりだね、旦那。こんな日にくるなんてあたしの事恋しくなった?」

と入り口で発情しだしたみーしゃを無視して白ブタは店内へと入っていった。

カウンター座るとマティーニ片手に昼間からべろべろによっているミランダが出迎えた。

「旦那、今日は休業日よぉ。」

「バカ野郎、今日は客じゃねぇ。取り立てだよ。ミランダ。この間の『配達代』だ。」

「何言ってるのかしらぁ、あのジャップの情報教えてあげたわよぉ?」

「んな、条件出してねぇよ。」

「たく、しょうがないわね。要は、これでしょ旦那」

と、ヒラヒラとチケット見せる。

「それより旦那も一杯飲まない?」

「ロックヘネシー」

「あいよぉ」

と、丸い氷の入ったグラスに黄金色の液体が注がれていく。

「そういや、なんであのジャップを助けたんだ?ここは中立がもっとうの場所だろ?」

「旦那ぁ、何の事だか『みら』にはさっぱりだぁ」

「誤摩化すなよ。そもそもあんなタイミングであのジャップの目の前に『アイスピック』を載せたトレイが上手い事来て、ちょうど誰かが頼んだ火のつくようなアルコールが手元に出てくるなんて事あると思うか?」

「たまたまだってぇ。テキーラは、ほら、あいつらメキシカンだからさ」

「テキーラはロックやアイスを入れて飲む酒じゃねぇよ。あと、煙草に火をつけるタイミングもわざとらし過ぎてフライドチキンが口から吹き出る所だったぜ?」

「まぁ、全員ヘビィスモーカーだしねぇ?」

と、ミランダはそう言って煙草に火をつけた。

「その後は、もっとあからさまだったろ。何故か奥に据え付けてる消火器がすぐさま出てくるしるな。そもそもあのメキシカン共が、ジャップが外へ逃げたと勘違いする原因だって、『誰かが』ドアを開け、外に出る足音がして、おまけに「逃げた」といった奴がいたからだ。なぁ?『あいつらを追跡してた』リンリー、シュエホア、ルイリー?そういや、お前ら其の頃からいなかったなぁ?」

と、あの時メキシカン共に酒の酌をしていた3人に問いかけると、「アハハハ、なんのことでしょう?」と中華三人娘は困った様な笑顔を見せた。

「ペドロにSMを薦めたのはのはオレだが、言い出しっぺは、『らぶ』だったな。そして、ジャップをオレの所に押し込めたのはみーしゃだな」

「旦那ぁ、今更そんな事聞いてどうすんのさぁ?関係ない話だろぉ?それが真実であろうと無かろうと全て終わった話。それでいいじゃないか」

「ああ、だから唯の好奇心さ。お前らがポリシー引っ込める程の理由って奴、あの女にあったのか?」

と、そこでミランダは降参とばかり手を挙げると紫煙を吐き出した。

「女には何も無いよ。ただ、さ、むかついていたのさ」

「ん?」

「ここにいる奴らは、みんな大なり小なりこの街のヤミに関わった時点で死んでてもおかしくなかった奴らさ。それを吉川ちゃんがアレコレ世話してくれてやっとここに居着く事が出来た。

多かれ少なかれある程度みんな、あのオタクには感謝してるのさ」

「まぁ、いい奴だったよな。吉川ちゃんは。オレとのオタク話に付いて来れるのも、あいつくらいだったし、レベルの高い変態だったな。」

「ああ、本当にいい人だった。」

すると、一同はうんうんとうなづき一斉に呟く。

 

「「「「「あれでラヴコメセクハラ主人公体質じゃなければなぁ」」」」」

 

「やっぱり死んで当然だと思うんだがなぁ」

と、トニーは冷静にコメントする。

多分、おそかれはやかれ死んでいたと思う。

多分死因は女難。痴情のもつれの末、複数人の女性に後ろから刺されるとか。

「それはそうと、旦那はなんであんなジャップの方に理由があるとおもったんだい?ありゃ一般人ど真ん中だろ?」

と、みーしゃは、トニーを覗きこんで聞いた。まるで本当に猫みたいな仕草だが、何故かトニーは反応しない。

「あれが一般人?冗談だろ?」

トニーのその一言にだれも同意をしなかった。

 

DADA ~KuRU/kurU RE; SS~ Episode1  #33

 

◆ ◆ ◆

 

宙に舞う硝子ノ破片(かけら)

ふわりと、手も足もまるで曖昧模糊(あやふや)で

虚(うろ)の様な暗い天蓋(そら)には、一つとして星は瞬いていなかったけれど―ただ、月が宙に浮いた私を影で覆っていて

 

地上100MUDXの頂上付近から地面を背にする事になった私は

 

常識的に考えて―死んだの

 

―「掴まれ!ジャップ!」

 

と、私はその腕を咄嗟に掴んだ。そのままぐいと引き寄せられる。

すると、彼は背に付けたリュックの紐を引いた。

其の瞬間リュックからパラシュートが展開する。

E-VESTだ。」

BOOOOOOOM!!!!!

と、其の直後ビルが爆発した。

「配達完了だな」

「ま、あの広さの場所で物陰もある。死んだかどうかはわからないが。降りてきた所をミンチにしてもいい。」

「いえ、死んだわ。」

と、私が言うと更に大きな爆発が。

「おい、あのC4あんな火薬の量あったか?」

「そんなはずねぇんだが」

「もう一回爆発起こるわよ」

再び、更に大きな爆発が起こる。

「私、上から3階分、全部給湯室のガスの元栓開いてきたもの。

20階と21階は時間があったからメタンガスでパンパンよ。本当は、拳銃が発砲出来ない様にする為のものだったんだけど、22階は間に合わなくてね。だけど、無駄じゃなかったわ。死ね、タコス野郎。消し炭になれ。いい気分よ。非常にいい気分よ。」

この一夜をもって完全にゲスへと身を落とした私は、死んだ魚の目をしてそんな事をつぶやいた。だが、そんな事よりも。

「ねぇ、そんな事よりこのパラシュートの落下、早くない?」

「当たり前だろ、4人分近くの体重を一つで支えられる分けないだろ。そろそろロープも切れる、最悪な事に、さっきのでかすぎる爆発で傘の表面に穴があいたしな。」

「はぁ!?じゃあ、どうすんのよ!?」

「問題ねえよ。糞ジャップ。」

ブチンという音ともに

と、その間にもどんどん地上は近づいていくが、そこには。

「死ぬうううううううううう!!!」

 

―時の戦隊ヒーローもののイベント用に設置されたエアートランポリンが。

 

 

WHOMP!!!(ドシン)という音ともに、エアトランポリンの天井が破れそこで屹立とたっていたはずの戦隊ヒーローの偶像はへなへなとしぼんでいった。

 

「まさか、この年になってコレ(エアトランポリン)で遊ぶ事になるとは思わなかったわ、しかもデブのキモオタと、ガリの陰鬱ギークと一緒に」

「ああ、オレもだが、それよりも」

「何よ…」

「ありゃ、俺たちの所為じゃ無いからな?」

ぼうぼうと燃え続ける哀れ今年できたばかりの秋葉原の新名所は、見るも無惨な姿へとなっていた。