第三章 幸福在処 家族ごっこの中で 少年はそれを過去に置き忘れ、少女は最初から知らなかった―小説
それから三日が経ちました。
流さんは、まだ元気がありません。
そして、一日中、ずっと宙を眺めながら、過ごしています。
まるで、それは流さんが結界・・・あの公園の中で過ごしていた時間の再現のようです。
「流さん、晩御飯出来ましたよ」
「すまぬ、小羽・・・食欲が出ない。」
今日も・・・・ですよね。
そんなの駄目ですよ・・・・。
わたしは、そっと流さんの肩を抱きます。
「流さん、ご飯食べましょう?体に・・・悪いですよ」
「食欲・・・ない。」
「絶対においしいです。」
「食べれない。」
「みんなで食べたら元気出ます。食欲も出ます。私たちがいます。みんなで・・・」
そうです。
また一緒にご飯を食べましょう。
そしたら・・・。
「食べない・・・無理だ。そんなの・・・」
「む・・・り・・・?」
「だってそうであろ!?そんなに簡単に割り切れぬ!」
流さんは、私の手を振り切って、ドアの壁を背にして私を見ます。
「小羽は、俺に『家族ごっこ』をしろと言うのか?」
「いいません・・・けど、本当の家族に」
「家族ごっこであろ!?」
流さんは叫びます。涙は流れ、喉をからして―。
「春咲!
藤崎!
富時!
違う苗字!
他人同士で集まって!
本当の―
本当の家族でもないくせに!
小羽だって捨てられたのだろう!?だから俺に優しいのだ!同情なんだ!」
「流さん!」
私が、流さんに近づこうとした瞬間、足がぴたりと止まりました。
ぞわりと、流さんの髪がぴんと張り、あの甲高い音共に。
「近づくなっ!」
ぴぃぃぃぃん!!
強い風が巻きあがって、私はその風圧に押されて、尻もちをつきます。
あ・・・・、血が・・・・。
頬をそっと触ると、、指には血がついていました。
「簡単に、他人を家族にした小羽にわかるか!?俺の幸せはあの場所にあったのだ!他にない!他になんてあるものか!」
「幸せ・・・ですか?」
幸せ・・・それが幸せ、・・・・あれが幸せ・・・・・流さんのそれは・・・過去にある。
「俺は捨てられた!
俺はいらない!
俺は役に立たない!
できそこないだ!
だから捨てられた!
父を落胆させた!
母に見限られた!
それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それでも、それで・・・!、それで・・・・!、それで・・・・・・・」
絶望の色が世界の色を灰色に染め上げるほど、
その記憶の色は鮮やかに、きらきら光る万華鏡。
もはや、命よりも大切で、・・・・決して離せない、
決して捨てられない、
握りしめずにはいられない。
「俺は幸せだったんだ!少しでもいれて幸せだったんだ!幸せで、幸せで、幸せで、幸せで、・・・・・・」
流さん・・・、ごめんなさい。
「小羽・・・父も母も死んだと言う・・・昔あったはずの幸せは・・・今どこにあるのだ?」
おまえなら、答えてくれるであろ?
そして、つぶやいた言葉・・・。・・・問いかけは。
「俺の幸せは何処にある?」
・・・・・・。
・・・・・・。
ごめんなさい。
ごめんなさい、流さん。
「わかりません・・・・」
「ごめんなさい、流さん。私は、流さんに内緒にしていたことがあります。」
ごめんなさい。
「わたし・・・・『幸せ』って何なのかわからないんです。」
そもそも、私には幸福と言う概念がない。
感じたことも、見たことも、知ったこともない。
すいません、流さん。
ずっと、ずっと、探してるんですけど、見つからなくて。
『幸福』を探してるんですけど。
「流さん?『幸福』ってどこにありますか?私、流さんのためなら探しに行きますから、泣きやんで下さい?」
流さんは、恐ろしいものを見るような眼で・・・私を見ました。


