月猫@HOME 第零話にして第弐拾参話 「地球崩壊」
第零話にして第弐拾参話 「地球崩壊」
―闇夜を照らすはずの月すらも闇が覆ってしまったら、
誰が人の足元を照らしてくれるというのだろうか?
燃える世界に、誰も答えを与えてはくれない。
黒い月が僕らを上から見下ろしていた―
影が二つ、この世界を駆けていた。
街灯すらも光を放つこともできない闇の中で、人の影と足音だけが、世界のすべてであると錯覚させる。
―蠢いている。
たとえそれが愚かしくとも、『二人』にはそれしかできなかったのだ。
そんな二人の足が、水たまりをはじいた。
そんな二人の足が、血だまりをはじいた。
闇夜において、その両者の区別はできずとも、それでもなお二つの影は走り続けた。
音が響いた―響きすぎるほどに。
音の反響は、彼らが屋内いることを自覚させた。
そんな中、轟音とともに、わずかな光が辺りを照らした。
それは、『二人の少年』にとっては、『認められない現実』の直視に他ならない。
熱い風が汗ばむ肌を焼いた。
そこは、かつて二人が過ごした商店街だった。
すぐに明かりは落ちる。
崩落した廃墟になったそこに、町の焼ける赤い光照らし出す。
この街自体が崩落していた。
かつてここには全てがあったはずだ。
多くの人がささやかながらも夢を掲げ、毎日を一生懸命過ごして、笑って泣いて、また笑って、そんな毎日がゆるやかに流れていたはずなのに。
崩落した世界が、その全てを飲み込んだ。
飲み込んでしまった。
またも、轟音。
またどこかで何かが爆発したらしい。
「マサキ、行くぞ」
「ああ」
二人は、再び走り出す。
そう、この廃墟となった回廊を立ち止まるわけにはいかない。
獣の凱歌がすぐそこまで迫っている。
獣の軍靴がすぐそこまで迫っている。
やつらの音がすぐ背中で響いているのだ…。
「対象を発見、追撃し殲滅せよ」
「西地区、東よりα、二個師団により封鎖完了、対象を追い込まれたし」
獣の持つ銃の先についたペンライトが二人を追いかけていた。
手にしていたのは自動小銃だ。
撃てば人間をごみクズ同然に、粉砕し貫通し死滅させる。
それが複数、20や30という数でまっすぐこちらを追ってきている。
「サムおじさんは、なんとも愉快なものを持ち出してくる。俺たちを、大型動物か何かと勘違いしてんじゃねぇか?マキャベリの手も借りてぇ気分だ」
「テルキ、三秒後、左側に威嚇射撃来る・・気をつけろ」
予言通り、ちょうど三秒後にテルキの左側を銃弾が通り過ぎていた。
それでも、足を止めるわけにはいかない。
静止=死、この明確な原理が、疲労困憊の二人の足を先へ先へと進ませた。
「たく、重装備の割にやたら早いな、やつら」
「しかたないさ、こっちはもうずっと休まず走り続けてるんだから」
「追いつかれる…マサキ、先に行け。『アイツ』には、お前が必要だ」
「どうするつもりだよ、テルキ」
「なぁに、意地があんのさ、漢の子にはッ」
その瞬間、テルキが振り返り、相手の正面に立つ。
「ふざけんなッ!もうそう言うのはヤメロッていったろうが!」
「仕方ねぇだろッ、マサキ、お前がいかねぇと何も始まんねぇんだよ。そうだろ?お前じゃなきゃダメなんだ、行ってやれ、行くんだ!」
「ふざけるな!ふざけるな!ふざけんなぁぁぁあああッ!」
「ふざけてねぇッ!」
二人の意地の張り合いの間にも、敵は迫っていた。
「いえ、ふざけてますぜ。若頭。」
その時、正樹の後ろから、すっと新たな影が現れた。
黒い日本刀を握りしめるその影。悠然と歩くその男の口元にくわえた煙草から煙が尾を引く。
「ヒガシロ…」
テルキと呼ばれた少年は、その影の先にさらに多くの影を見た。
同じく悠然と歩くその影達。総勢100名以上いる漢たち。
「若頭、この鉄火場はあっしらが仕切らせてもらいやす。」
「おめぇら…」
「若頭、あんたもいなきゃ始まらねぇ人間の一人でさぁ。ここは、あっしらに任せてマサキさんと一緒に行ってくだせぇ」
「バカ野郎!相手が誰だかわかってて言ってんのか!?」
「非正規軍、作戦遂行部隊、特殊部隊、イラクで、アフガンで、中南米で、ド玉をかち割ることに熱狂した最新最先最悪の屈強な番犬ども、なるほどなるほど、どっから見ても上等ですね。キチが騒ぐにゃあ十分ですわな」
「おま…」
「守りたい女がいるんでしょ?止まってんのは漢の道ですかい?」
テルキと呼ばれた少年が頷いた。
再び、マサキとともに走りだそうとする。
「おっと、こっちの女も忘れねぇでくだせぇ」
その瞬間、放り投げられたものを、テルキはしっかりと掴んだ。
大量の死の弾丸が装填された銃、愛器。デザートイーグル。
「事務所から持ってきやした。必要でしょ」
「けっ、違いねぇ」
ホルスターも一緒に受け取ると、そのまま二人は走り出した。
ヒガシロと呼ばれた男は叫ぶ
「てめぇらッ!ここが漢の見せ所だァッ!」
「オオオオオォォォオォオオォオッッ!!」
百二十の影が夜空に吠えるッ!
列強屈強漢の道ッ!
極めて通る、故に極道ッッ!
猛り!進め!義を立てよ!
血染めの道に覇を報せッッ!
ここにアソウに忠す修羅極道、数は総じて百二十!
嬉々とし狂せッッ!
「圧して参殺(まい)る・・・」
そこに、狂犬どもがついにやって来た。
「Get out,japs!!(どけ!日本人!)」
血が踊る。
◆ ◆ ◆
一方、二人の少年は商店街を走り続けていた。
後方から聞こえる、いくつもの声と発砲音。
目の前に二つの影が現れた。
ひとつは長い長い耳を持つ少女、ひとつは小柄で白い髪を持つ少女。
「ッ・・・」
「・・・」
少年たちは、知った顔に気が緩むが、少女たちは、腕を広げ行く手を阻んだ。
「いかせない…」
「死にますわよ…、確実に…」
涙を浮かべて、この先には通すまいとする少女達。
「お前ら…」
「どいてくれ、僕たちは、どうしてもこの先に行かなきゃいけない」
「『あの子』の所ですか?なおさら行かせる訳にはいきません」
「私は、テルキに死んで欲しくないだけ…」
テルキとよばれた少年が、拳銃を突きつけた。
その凶器は、けして手加減のできる代物ではない。
「テルキッ!」
もう一人の少年の静止の言葉にも、少年は眉一つ動かさない。
「どけ・・・、大事な舎弟(家族)が開いた道だ・・・塞がせねぇよ、この道だけは」
底冷えする冷たい口調、冷徹な瞳で少年はつぶやいた。
銃口は、少女のどちらかを正確に狙っている。
引けば殺せる、そしてこの少年にはそれができる。
「どうしても、行くの?テルキ・・・」
白い髪の少女は、か細い声で問うた。
「ああ」
「それはなんのため?この地球のため?」
「お前のためだ・・・」
白い髪の少女は、数瞬、うつむき、戸惑い、考えると、広げた腕を下ろした。
「わかった、なら、もう止めない・・・」
「っ!?」
長い耳を持つ少女は、白い髪の少女に叫んだ。
次の瞬間、かちゃりと、照準は間違いなく、長耳の少女にあてられた。
「お前はどうする」
「そんな物で、私は動きませんわよ・・・。」
長い耳の少女の決意に揺らぎはない。暴力で動揺するようなものならば、こんな処に辿り着く事すらできないだろう。
だが、マサキとよばれた少年が、近づくとわずかにその瞳が揺れた。
「ウサギシキ、頼む。僕は『あいつ』に、会わなきゃいけない」
「何故ですの?
なぜ『あの子』なんですの!?
私ではいけませんの!?
このまま先に行ったら、死にますわよ!絶対です!
私なら、あなた一人くらい逃がせますわッ!
なのになんでッ!!
そこまでして、私を選んでくれませんのッッ!?」
少女の瞳から涙があふれかえっていた。
マサキと呼ばれた少年の手が、ポンと長い耳の少女の頭に乗った。
「ごめん、僕は行かなきゃ…、好きでいてくれてありがとう、けど、僕にも好きでいたい人がいるから。生きていてほしい人がいるから・・・」
少年は、少女の手を取る。
「だから、ぴょん。お願いだ!あいつのところに連れて行ってくれ!」
少年は、真剣に、目をそらさず、真正面から少女に願った。
その、少年の瞳に少女は揺らぎ、そして別の決意を固めさせた。
それは、少女にとってとても悲しいことだったけれど・・・。
「仕方ありませんわね。ホント・・・・」
赤い顔をした少女は、困り顔でそう言った。
カチャリと、テルキと呼ばれた少年が銃を下ろす。
「さぁ、行くぞ!マサキッ!」
「ああ」
「待って!」
白い髪の少女は、テルキと呼ばれた少年の服の裾をつかむ。
「テルキは、こっちに来て。すごく重要・・・」
「あん?」
「地球を救う方法、教える・・・」
白い髪の少女の瞳は真剣だった。
この少女もまた、新たな決意を決めたのだ。
「テルキさんは、その子と一緒に行ってください。私が、マサキさんを『あの子』のところにまで連れて行きますッ!」
二人の少年は、お互い眼で同意する。
こうして、少年達はそれぞれの道に向かって走り出した。共通の目的をもって…。
◆ ◆ ◆
マサキと呼ばれた少年と、長い耳を持つ少女は、夜の街を走り抜けていた。
「見えました。あそこです!」
長い耳を持つ少女が指差す先―眼前に巨大なビルが見えた。
この街で、最も高い場所。
この災厄の中でも奇跡的に倒れずに残っていたらしい。
「あの、最上階に『あの子』はいますわ!」
ようやく、目的のビルの下にまでたどり着く、少年と少女。
だが、そこには先ほどの獣どもがいた。
手には、どれもオーバーキリングを顕現させるに十分な重火器群。
さすがの、少年と少女も立ち止まった。
「どうする?」
「マサキさんは、このまま行ってください。」
「何言ってんだ!?」
「時間がないんです!行くんです!行きていんでしょッ!『あの子』の元へッ!!迷ってる暇なんかありませんわよ!!選んだんでしょッ!私より、『あの子』を!なら、行って!中途半端なことしたら、許しませんわッ!!」
マサキと呼ばれた少年は、苦虫をかみつぶしたような表情をするが、すぐに意を決した。砕けそうなほど握った拳を握りなおし、少女に背を向ける。
「早く行ってあげてください。きっと『あの子』、泣いてるわ…」
「ぴょん・・・」
少年の発した今までで一番やさしい声音に、少女の耳がぴくんと動いた。
「ありがとう・・・」
少年は―走り出した。
少女は、獣の群衆に向かっていく。
少女は、少年が好きだった。
どうしようもなく、愛してしまった。
その恋が実らなくても、彼女の中に確かにある『恋心』が、獣群れを烏合の群れへと変えていった。
―何てことはない・・―
本当はすごく怖い
―あれが、いったい何だというのだ?―
マサキ・・・マサキ・・・マサキマサキマサキ・・・。
―あんなものはただのサルではないか?―
怖いよ、助けてよ、でも、だけど・・・。
―なら、あんなものに負けるはずはない、なぜならば!―
あなたを守るためならいけるはず、だって!!
少女はかくしもっていた重火器ガトリングを装備する。少女には似つかわしくないその力を敵に向けるために。
少女は高く高く跳躍し、空を舞った!
信じられない身体能力―ゆうに5,6メートルは跳んでいる!
「ウサギ式体術・・・神楽落とし」
少女は、空中で二転三転、更に捻り、空から群衆のド真ん中に向かって落下する!
轟音とともに、五つほど獣群れを粉砕!
だが、これは同時に囲まれたことを意味する。
―負けるはずない、なぜならばッ!!―
いけるはず、だってッ!
―なぜならばなぜならばなぜならばなぜならばなぜならば!!―
だってだってだってだってだってだってだってだってッ!!
「恋する兎は強いんだからあああああああぁぁっぁあぁぁああ!!!」
少女のガトリングが火を噴いたッ!
◆ ◆ ◆
轟
強い風がビルの屋上に吹いた。
マサキと呼ばれた少年は、気圧で重い屋上の扉をゆっくりと開いた。
少年の息は、定まらなかった。電気も止まったこの街でこれほどの高いビルのてっぺんまで走り切ったのだ…当然である。
少年の視線の先に求める少女の後ろ姿があった。
ビルの屋上の真ん中にポツンと立ち、今は黒く染まってしまった月を見上げる月色の髪の少女。
青い髪を揺らしながら、世界の絶望を一身に背負ったかのような瞳に、光はなかった。
少年は、ようやく息を整え、やっとのことで一言漏らす。
「何・・・、一人で行こうとしてんだよ・・・?」
その少年の声に、少女は零れ落ちる涙と共に振り返った。
その顔には、驚きの表情が浮かんでいる、
「マサキ・・・さん?」
「何かってに行こうとしてるんだって、言ってるんだよッ!」
少年のその荒々しい叫びが、この上なくやさしい声が、少女には耐えられなかった。
涙がボロボロといくらでも落ちていく。
「だって、私のせいで…。こんな…、こんな…。」
崩れ落ちそうになる少女。
「町も!人も!何もかも!全部全部私のせいじゃないですかッ!!」
「ああ」
「だから、全部私が責任をとるんです!私のせいだから!私がやらなきゃいけないんですッ!」
「うっせぇッ!知るかッ!」
少年は叫んだ!
青い髪の少女は、少年の声に、心臓が穿たれる思いだった。
トクンと、小さな胸が跳ねる。
少年は、尚も叫ぶ。
「お前さぁ!お前ってさぁ!ドジで間抜けで、とことん抜けててさぁ!熱いおでんは食えないし、家事やらせてもてんでダメだし!その癖馬鹿で世間知らずで、失礼で!気まぐれでッ!」
思いのすべてを、すべての言葉に乗せて―
「何でも一生懸命で!妙なところで優しくて!明るくて!笑ってて!元気をくれてッ!」
声がかれてもかまわずに―
「あきらめなくて!本当に猫で月猫のくせしてッ!!」
―伝えるのだ。
「一人でかっこつけてんじゃねぇよ!
お前みたいなあまちゃんに戦争なんて出来るかよッ!
一人で何か出来るつもりかよッ!
馬鹿野郎ッ!!」
―叫ぶのだ!
少女は動揺した。
動揺して叫び返した―助けを求めるように、答えを求めるように、少年に甘えるように。
「だったら、どうしたらいいんですかッ!?」
手を大きく広げて、少年に叫ぶ!
少年はつぶやいた。
「俺がいる。」
少女は、少年の言葉から目をそらすことができなかった。
「テルキがいる。オヤジも、ウサギシキも、ヒガシロも、ミコトも、アルテミスも、そこにあのバカネマルを加えたってイイ・・・」
少女の視界は歪んでいく。
「一人でやんなよ・・一人で気張んなよ、一人で背負いこむな、俺がいる、俺たちがいる。お前の感じる責任くらい一緒に背負いたいってやつらが、お前のそばにいつもいる」
少女は、声を上げたかった―だが、涙で焼けた喉は声を出せない。
「俺たちは家族だろ?」
少年は、少女に手を差し出す。
「大丈夫、俺と輝樹、それに『お前』が加わって出来ないことなど『ありはしない!』」
さぁ!
「手をとれ!『みゃあ』っ!」
少女は、零れ落ちる涙で軌跡を描きながら、少年のほうに駆けだした。
ぎゅっと、差し出された手を両手で愛おしく握って抱き寄せる。
少年も、少女を抱き寄せた。
―眼前で燃え上がる街並み、上空で見下ろす黒い月
世界が、僕たちの愛おしい日常を壊してしまったとしても
僕たちは、今ここにある。
ここにある命で必死に抗う。
すべての思いをこの手に集めて、必ず迎えられる明日がある―
少年と少女は黒い月を見上げた。
手をつないで、まっ直ぐに、天を穿つように眼を向けた。
その時、黒い月が、巨大な赤い眼(まなこ)を開けた。
二人を見つめている、人類をみつめている、地球を見下している。
「さぁ、地球を救うぞ、『みゃあ』」
「はい」
―そして世界は始まるのだ―
動画編集おつ~
ちりも積もれば・・・
ちょっとづつやれば日々の少ない時間でも出来るもんです・・
ちょっと愚痴なんですが
ウインドウズムービーメーカーっていう低レベル無料ソフトで作ってるわけですよ。これ
機能少なすぎるので、「黒い月が」のところなんか、自分で、一枚一枚書いてアニメーションの要領で作るわけですよ。
最後のタイトルでるところの一瞬のエフェクトとか、エフェクト使った同じ動画を何枚もつなぐわけですよ。
小説書くのって楽だなぁ・・・って感じです。
ついでに、StemのロゴはリーダーのJORKER氏に無許可で作ってます。


