昨年、2021年3月18日に、東京雑学大学に出講しました。
そのときの講演要旨に加筆修正して、こちらでご紹介します。
「平家琵琶にみる“占い”」
日本には何種類かの琵琶があります。
平家琵琶は「平家」物語の「詞(ことば)」全てに「曲節」をつけて語るので、
「平家詞曲」「平曲」とも呼ばれます。
有名な章段も、あまり知られていない話も語ります。
本日は、平家物語の中から「占い」が描かれた章段をいくつか紹介します。
当時は、天災が起こったり珍しい動物が現れたりすると、
陰陽師が科学的な知識や経験をもとに占いました。
平家物語巻之三で強風が吹き荒れたときは「天下と大臣の凶兆」、
巻之四で鼬が騒いだときは「以仁王の御謀反の前兆」、
巻之五で馬の尾に鼠の巣ができた時は「重い慎み」と占いました。
巻之十一「鶏合」は、闘鶏占いで源平どちらに味方するかを決めた話です。
この時代は、勝つほうに味方して手柄をあげ褒美を貰うことが大事でした。
熊野湛増は白い鶏と赤い鶏を七羽ずつ戦わせ、
いずれも白が勝ったので、源氏に味方しました。
巻之十一「先帝御入水」では、
壇之浦の平家軍の船近くに現れたイルカの大群について安倍晴信が占いました。
現代でも瀬戸内海にイルカが現れることがあります。
またイルカは助けるべき存在に寄り添う習性があります。
陰陽師はそれを知っていたのでしょう。
この時のイルカは平家軍の船をくぐって遠ざかり、晴信の占い通り平家は危うくなりました。
平曲で「鼬沙汰」と「先帝御入水」を抜粋して語りました。
さて、旧暦二月七日は一の谷の合戦があった日です。
本日(開講日)は旧暦二月六日ですので、その前夜の出来事を確認しましょう。
合戦前夜、熊谷直実は一番乗りの手柄を計り、
平家の陣地の前で名乗りをあげますが、平家の公達は管絃合奏中でした。
直実は、管絃をやめて戦ってほしい気持ちと、管絃を邪魔した後悔とがあったはずです。
いっぽうで平敦盛は、戦に敗れて助け船に向かうときに直実の名を聞き、
管絃を優先した後悔と、一番乗りをした武将に逢えた嬉しさとがあったはずです。
見透かされていたと気づいて混乱する直実、よろこんで手柄をとらせた敦盛。
それぞれの心理を踏まえて、平曲「敦盛最期」を語りました。
さいごに、平家物語巻之一「我身栄華」の一節「桜の中音」を皆様と唱和しました。
状況を鑑み、皆様には小さな声での唱和をお願いしましたが、
定員(通常の半数)ちょうどのご参会者数があり、
今年の桜が長く咲くことを皆様と祈ることができたように思います。