平曲研究所のブログ

平曲研究所のブログ

平家琵琶(平曲)に関するブログです。
2014年以前の記事は、ぷららブローチのブログに加筆修正したものです。

昭和期には、晴眼の平曲相伝者が館山甲午ただ一人という時期がありましたが、

今や相伝者は16名(たぶん)に増え、平曲は幕末以来の隆盛期を迎えております。
 

積極的に演奏活動をしている相伝者や学習者が、

互いに交流を持ち、情報を共有する機会も増えて参りました。

この四半世紀の流れをまとめておきます。

 

25年ほど前、晴眼の平曲相伝者は数名いましたが、

積極的な演奏活動をしている人はわずかでした。

あるとき、そのわずかな一人に急なことがあったそうで、

主催者がどう調べたのか前日に私に連絡をしてきて

「代理で演奏してほしい」と言われました。

でもナリワイの繁忙期のため前日に変更もできず断りました。

平曲伝承者同士が交流する機会も少ない状況でした。

 

その後、

2003年5月24日、弘前「スタジオ・デネガ」にて、

当時の平家琵琶相伝者4名を含む全6名で「弘前藩の平家琵琶」を開催してから、

少しずつ交流の機会が出てきました。

 

2004年『CD-BOOK声で楽しむ「平家物語」名場面』(講談社)出版

2007年『平家琵琶にみる伝承と文化』(大河書房)出版で

先人たちの知識や工夫を共有できたように思います。

 

2008年秋、平曲研究所を設立し文化庁に助成申請。

名古屋の荻野検校顕彰会にもお声がけをしました。

 

2009年、【平成21年度文化庁芸術団体人材育成支援事業

<調査研究・情報交流>

鳴海家本「平曲吟譜新集」に関する情報交流】

が採択されました。

同年、荻野検校顕彰会の事業も採択。

顕彰会の尾﨑先生が、顕彰会の申請書類の文面を考え、

それを参考に私が平曲研究所の文面を作って尾﨑先生に見て頂き、

最終的に私が両事業の書類作成と提出を担当しました。

 

これがご縁で、

2009年の平曲鑑賞茶会(名古屋。荻野検校顕彰会主催)

2011年と2014年の妙音会(名古屋。荻野検校顕彰会主催)

2011年と2013年と2014年の応挙館平曲会(上野。荻野検校顕彰会との共催)

など複数の伝承者が出演する演奏会が企画されました。

 

それ以外にも、

2017年10月17日、日比谷コンベンションホールにて平家琵琶相伝者6名が出演する「平家琵琶の世界」(相伝者たちとの共催)、

2023年に春秋で開催した「一ツ目弁天巻通し平曲会」(一ツ目弁天会との共催・秋はクラウドファンディング)
など、平曲相伝者や学習者との交流を積極的に図って参りました。

 

現在は、(推定設立年の順で)

平家琵琶普及会(東京)

平家琵琶研究保存会(仙台)

荻野検校顕彰会(名古屋)

平曲研究所(東京)

一ツ目弁天会(東京)

仙台平家琵琶普及会(仙台)

一般社団法人月見ケ岡文芸舎(名古屋)

平家琵琶訪月会(名古屋)

が、単独あるいは共催で活動しております。

 

「平曲協会」のような包括団体は存在しませんが、

ひとりで演奏活動が可能な平家琵琶だからこその強みがあります。

 

今年(東京)・来年(仙台)・再来年(名古屋)で開催する「巻通平曲会」は、

現代の平曲伝承の拠点となっている三都市の伝承者が交流を持てるような人選で企画されています。

今年は東京開催で、去る10月20日に無事終了いたしました。

仙台から渡辺一宇先生、名古屋からは福島真佐子さんが参加されました。

プレスリリース的な物を作りましたが日の目を見なかったので、こちらで公開します。

 

◆平家琵琶の成立

 

平家琵琶は鎌倉時代に成立しました。平家物語の一部始終に節をつけて語る「耳で読む文学」です。

当初の旋律や言葉の根幹を保持しながら今日まで伝承が続いています。

とはいえ、「那須与一」や「木曾最期」などの有名な章段は語られる機会も多く、節が練られていきます。
時代や地域によって表面的に変化することもあります。

 

視覚障害のある男性が継承してきたことは有名ですが、

千利休の頃からは晴眼の武士や文化人が教養として学ぶようになり、

徳川幕府は法要の式楽として(大勢の僧侶が写経をするときのBGMとして平曲を語る)

平家琵琶を用いたことから、語りを整備して規範譜を作る必要が出てきました。

(法要で語るのは盲人ですが、晴眼の役人が確認するのに規範譜が必要だったと思われます)

 

 

◆教習順であり、「巻通(まきとおし)」でもある

「平家正節(へいけまぶし)」

 

荻野検校(けんぎょう/当道座の最高位)は安永5年(1776年)に尾張藩において「平家正節(へいけまぶし)」を編纂しました。平家物語を199句に分け、教習の順番を定めました。平家物語の話の順番とは異なります。

 

そのかわり、全十二巻構成の平家物語を、巻之一から1句、巻之二から1句というように1句ずつ抽出し、12句習うと平家物語の巻之一から巻之十二までを1句ずつ学べるようにしました。これが120句めまで繰り返されるので、「巻通」を10回経験することになります。

 

 

◆巻通しの面白さ

 

江戸時代の平曲会の記録に、「巻通」を採り入れたものが確認されています。
1句の長さは決まっていないので、抜粋で語った可能性もあるのですが、

12句を聴くことで、平家物語の全巻をダイジェストで味わえたと思われます。

語り手が交代していくことで、声質の違いなどを楽しんだのかもしれません。

(江戸時代の平曲会を聴きに行ったときの記録に、「声が小さいが上手」「虎の吠えるがごとく」「老巧だが上手とは言えない」「正確で感じ入る」などの評価が残っています)

 

 

◆相伝者が一人だけだった昭和期

 

平家正節199句に、「八坂流」として伝わる1句を加えて、全200句が私達相伝者が伝えている平曲です。

全200句を「修得」したと師匠が認めると「相伝(=免許皆伝)」になります。

 

晴眼の館山甲午が「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財」に選択された昭和40年代、平曲全200句を語れる相伝者は館山甲午ただ一人でした。
(この少し前に名古屋在住の三人の検校も無形文化財に指定されましたが、すでに全句の伝承は失われており、現代では今井検校がわずか8句を伝承するのみとなりました。)

 

 

◆相伝者が増えた今だからできること

 

これを平曲伝承最後の姿にしてはいけないと危機感を抱いた青山学院大学のジョージ・ギッシュ先生が「平曲普及後援会」を立ち上げ、平曲を聴いたり学んだりする機会を設けました。また個別に館山甲午に入門する人も現れました。


多くの人々の努力や支援が実り、現在の相伝者は16名(たぶん)に増えました。風前の灯火とも言われていた平曲ですが、いまや幕末以来の隆盛期を迎えています。積極的な演奏活動をしている者も10人余りいます。


平曲は物語を淡々と語るだけなので、通常は1人で語りますが、

相伝者が増えたことで、複数名が出演していた江戸時代の平曲会を再現したり、互いの工夫を参考にしたりと、多角的な企画が組めるようになりました。

 

 

◆「巻通平曲会」

 

再来年の2026年は、平家正節編纂250年にあたります。これを記念し、名古屋の一般社団法人月見ケ岡文芸舎が、東京・仙台・名古屋で毎年1回ずつ、それぞれを拠点とする平曲相伝者が連携して「巻通」を語る演奏会を企画しました。

 

12句を3年かけて語るので、今年開催の東京では4句を語ります。江戸時代の演奏会で祝儀として語られた「桜の中音」という一節を、名古屋在住で平曲を学んでいる福島さんが担当します。巻之三は、仙台平家琵琶普及会として活動している渡辺一宇師が、あとの3句は東京在住の相伝者が語ります。


演奏前には松尾葦江先生による「いま平家を聴くということ」という講演もあります。平家物語の成立、平家正節の特徴、語る句のあらすじと旋律形式の関連などにも触れて下さると思います。


 

◆会場の「旧東京音楽学校奏楽堂」

 

会場は国の重要文化財のため、バリアフリー化が叶わず、すべて階段での移動となります。客席は3階相当の高さがあります。トイレと給水スペースは1階にしかありません。

 

不便な会場ではありますが、東京や上野から行きやすいことに加え、平曲伝承とも関わることで選びました。

①  徳川幕府の法要が上野寛永寺で執り行われていたこと。江戸時代には、上野公園の一帯で、大勢の僧侶たちが一斉に法華経を写経するときに、そのときの検校が平曲を語っていたのです。

②  『平家音楽史』著者の館山漸之進(館山甲午の父)が、東京音楽学校の「邦楽調査掛」として勤務していたこと。記録手段として、日本の伝統音楽を五線譜に採譜していたそうです。

 

 

◆参加方法

 

この企画は「会員向けの催し」としておりますが、ひろく一般の方にもぜひ聴いていただきたいので、「当日会員・ご鑑賞」に事前に申し込んで頂くことで参加が可能です。

また、参加は難しいけれどプログラムだけ欲しい方には、「ご協賛」として申し込んで頂ければ、後日プログラムを郵送いたします。ご協賛費の約半額は、この企画および来年以降の同金額に充当いたします。

 

郵便振替:郵便振替口座 00100-7-330524平曲研究所。
振込手数料はご負担ください。

ご鑑賞:4000円(要事前申込)(プログラム付。当日受付にお越しください)
ご協賛:2000円(受付は10/21まで)(11月上旬にプログラムを郵送します)

 

Webお申込み:https://heikyoku.base.shop/
BASE利用手数料を上乗せしております。
ご鑑賞:4200円(受付は10/18まで)(プログラム付。当日受付にお越しください)
ご協賛:2100円(受付は10/25まで)(11月上旬にプログラムを郵送します)

 

お問い合わせ:heikyoku@gmail.com

【平家琵琶(平曲)演奏会のご案内】
2024年10月20日(日)18時~
旧東京音楽学校奏楽堂

平家正節編纂250年記念 三都連携「巻通平曲会」
其の一、東京開催


【講演と句組】
講演「いま平家を聴くということ」松尾葦江先生
句組 開口として祝言の「桜」の中音のあと、 4名の平家琵琶相伝者が、「平家正節一之上」のうち巻之一~巻之四の4句を語ります。

【会場の旧東京音楽学校奏楽堂についての注意事項】
重要文化財のためバリアフリー設計ではありません。
建物に入るだけでも階段。 お手洗いは1階にしかありません。
客席(3階相当)までは階段でしか移動できません。
会場内での飲食も不可(1階階段横の給水スペースのみ)。

ご不便をおかけします。

敢えてこの会場を選んだ理由は次の3点となります。
①三都連携(東京・仙台・名古屋)のどこからでもアクセスしやすい場所であること。
②100人程度のご参会を想定していますが、増えても対応できること。
③なによりも、『平家音楽史』の館山漸之進が「邦楽調査掛」として勤務した場所であること。
https://taitogeibun.net/sougakudou/

当日は「一般公開日」なので、建物の見学が可能です。
入館料:300円 公開時間:9:30~16:30(入場は16時まで)
※16:30で閉館です。巻通平曲会にご参会の方は、いちど外に出てください。
※当日午後は日曜コンサートがあります。
【参加申込方法】
会員制です。事前にお振込み下さい。
★ご鑑賞★4000円(当日会員費)をお振込み下さい。当日受付にてプログラムをお渡しします。
★ご協賛★2000円(当日参加なし)ご住所とお名前を明記のうえお振込み下さい。後日プログラムを郵送します。 振込手数料はご負担ください。

巻通し平曲会の時間帯は、展示室の見学はできません。
したがって入館料も不要です。
会費4000円だと、ご参加申込(プログラム付)。
会費2000円だと、プログラム郵送のみです。
当日は金銭授受ができません。
準備の都合上、10月10日頃までにお振込みをお願いします。

【趣旨】
安永五年(1776年)荻野検校が尾張藩で「平家正節(へいけまぶし)」を編纂。
旋律理論や物語の構成を踏まえて譜を整備し教習順を定め、
今日の平曲伝承者たちの規範譜となっています。
平家正節編纂250年に向けて、平曲伝承の拠点である東京・仙台・名古屋で、相伝者たちが巻通を語ります。

「巻通(まきとおし)」とは、十二巻の平家物語を、各巻から一句ずつ抽出した十二句で語る方法です。
平家正節は、平家物語の全章段を199句に分け、重要な句や難しい句を除く120句について、巻通を十回繰り返す教習順となっています。
この企画では3年かけて巻通をいたします。

【会員のみのご招待です】
https://taitogeibun.net/sougakudou/schedule/…
旧東京音楽学校奏楽堂ウェブサイト 年間スケジュール(外部主催)に掲載していただきました。
「無料招待」表記になっていますが
「記念事業基金」お申込み済の方と、「当日会員」事前お申し込みの方の【招待】です。
当日の金銭授受ができないためです。 ご不明点はメッセージでお問い合わせください。