平曲研究所のブログ

平曲研究所のブログ

平家琵琶(平曲)に関するブログです。
2014年以前の記事は、ぷららブローチのブログに加筆修正したものです。

アラ琵琶ンナイト。

 

彼女は人格も平曲の語りも素晴らしかった。

私の語りをいつも褒めて下さるので、

「良いところを褒めて頂けるのは嬉しいですが、

相伝者だからこそお気づきの点を、辛口に教えてください」

とお願いしてからは、

あたたかくてスパイスの効いた薬膳のようなコメントをしてくださった。

 

持病があり、演奏活動は少なかったけれど、

平曲の事は常に心にかけていらして、

その「波長のようなもの」を、遠くにいても感じていた。

私の中の何かと「共鳴」しているような感覚。


ある年の花まつりの日、彼女の誕生日、

彼女の「波長のようなもの」「共鳴」はあった。

 

その数日後にご遺族からご連絡をいただいた。

誕生日は持ちこたえましたが……。と。

 

私は聞き返さなかった。
「波長のようなもの」と「共鳴」が消滅していたから。


2003年にご一緒できたのが良い思い出です。

 

 

彼女がとりわけ気にしておられたのは、「記録の寿命」。

「記録媒体は、かならず消滅する日が来ます。

オープンリールは日常では聴けなくなったし、

カセットテープやレコードも衰退しています。

デジタルの記録媒体も、数年から数十年で再生不能になります。

紙(譜本)もそうです。

わたしたちが稽古を始めた頃にコピーした酸性紙は、もう劣化しています。

音源や映像で記録を残しても、平曲の保存にはなりません。

師匠から弟子へ、口承で伝えなければなりません。」

 

SNSにアップした画像や動画も、いつかは失われますが、

私のパソコンにしまいこむよりは、リスクを減らせるかと思い、

一般公開可能なものは共有していこうと思います。

わたしも、常に「記録の寿命」を念頭に。

アラ琵琶ンナイト。

2020年、COVID-19影響を受けて、

私立中学校のリモート教材として、平曲「敦盛最期」の動画を作成しました。

そのときの感想文を読みながら、

ふと、敦盛は嬉しかったのではないか、という思いに至りました。

 

以前投稿した「直実の苦悩」に呼応するかたちで、

敦盛の気持ちを綴ってみます。

 

※※※

 

一の谷の合戦前夜。

わたしたち平家一門は管絃合奏をしていた。

もうこの先、こんなふうに管絃を楽しむことは無いだろう。

 

六日の月も沈み、真っ暗な外から、

先陣の名乗りが聞こえてきた。親子のようだ。

こんな夜中から先陣の手柄のために戦う坂東武者、なんて強いのだろう。

でも私たちは管絃を続けた。きっと最後だから。

申し訳ない。

坂東武者は、「平家一門は無粋と思って相手にしない」と思っただろうか。

せめて名前を覚えておこう。

直実。

 

一の谷の合戦は、とても大変だった。

坂東武者たちも負傷していた。

なおざねは何か手柄をたてられただろうか。

それとも怪我をして戦線離脱しただろうか。

 

私は何とか生き延びて、助け船に乗るために海に入った。

誰かに呼び止められた。

こういうとき、応えるのが礼儀だ。

もはや負け戦。覚悟も決まっている。

汀まで戻ると、力の強い坂東武者に組み伏せられてしまった。

 

しかし坂東武者はわたしの顔に驚いた。

息子くらいの年齢だからお助けしようと言い出した。

いやもう覚悟は決まっているのに。

名前をきいてきたが、

もうこの人の手柄にしたら良いのだ。

せめて誰の手柄になるのか、お前から名乗れ。

 

「直実。」

 

おお!直実!

昨夜、先陣の名乗りをあげた人だね!

生きていたんだね!

嬉しいよ!!!

 

それなら、今は名乗らないよ。

わたしの首をとってから、誰かに名前をきいてごらんよ。

みんなわたしの顔を知っている。

直実、君にとって先陣以上の手柄になるよ!

 

誰とも知らない坂東武者に首をとられるのではなく、

夜中から先陣の名乗りをあげていたにもかかわらず

管絃していたせいで応えられなかったお詫びに、

今日の戦いで生き抜いたことへの称賛を兼ねて、

わたしの首を差し出すよ!

 

直実は助けたいと言い出した。

とんでもない。

 

直実は、味方が迫っていて助けられないと言い出した。

味方の前なら、なおさら手柄になるではないか。

いいんだよ、疾く疾く、首をとれ。

 

直実は、供養すると約束してくれた。

いいからいいから、

わたしは、直実、きみに逢えて嬉しかったんだよ。

 

直実が、わたしの笛をみつけた。

そうだよ、直実がせっかく名乗りをあげているときに、

これを吹いていたのだ。

この笛の音が、わたしたちの共通の思い出だね。

 

直実は、先陣の手柄を得るために、管絃の邪魔をしたことを悔やんでいる。

ちがうよ、名乗りに応えられず申し訳ないと思っていたのだ。

 

直実が、平家の公達は無粋と思ったことであろう、と落胆している。

ちがうよ、坂東武者はなんと勇ましいのだろうと感服していたのだ。

 

直実が、管絃の邪魔をした無粋な源氏が自分と気づいた、と嘆いている。

ちがうよ、直実に逢いたかったんだ。きみだったんだね。

 

直実が、すべてお見通しで甘んじて首を差し出してきた、と葛藤している。

ちがうよ、嬉しかったんだよ!

 

※※※

 

どんどん苦悩して、気持ちが混乱して、無念でたまらない直実と、

逢いたかった人に斬られ、思い残すことなくハッピーな最期を迎えた敦盛と。

 

出家した直実に、

敦盛の幸福感は伝わったのでしょうか。

でも平曲を語る私の所に思念を伝えに来たのですから、

直実は「ハッピー敦盛」を受け止めていないのかもしれません。

 

「一部平家」第一期は、2015年に、年8回×10年の想定で始めた企画です。

※「一部平家」:平家物語の「一部始終」すなわち前編を語り通す演奏形式。

本来の「一部平家」は、平家物語の最初から物語順で語ったと思われますが、
今回は規範譜「平家正節」の句組を活用しながら、
毎年「巻通し」となるように語り進めることにしました。
※「巻通し」:平家物語巻之一~十二までを一句ずつ取り上げる句組。

しかし昨年3月より、COVID-19の影響で、
休止・規模縮小・講演時間の短縮が必要となりました。
(講義と演奏で構成しているため「講演」と表記しています)

そこで、当初は1回あたり90~100分としていた講演時間を、
1回あたり60~75分に変更したものを、新たに組みました。

2020年と2021年で「巻通し」、
2022年と2023年で「巻通し」、となっています。
当初の計画より2年長い、2026年末頃の終了を想定しています。

今後もCOVID-19流行状況をみながら、
開催頻度・講演時間・句組を適宜変更してまいります。

41(2020年2月終了)殿下乗合、卒都婆流、善光寺
42(2021年2月終了)大塔、有王
43紅葉
44若宮,勧進帳
45咸陽宮、経嶋
46実盛、宇佐行幸
47木曾最期
48重衡生捕、海道下
49嗣信、土佐坊

50祇園精舎
51我身、蘇武
52祇王(前)
53祇王(後)
54小教訓
55西光、三井寺
56法皇御遷幸、城南離宮
57鵺、東国下向

58延喜聖代
59入道逝去、祇園女御、
60横田河原、火燧
61倶利伽羅落、連署願書、聖主臨幸
62征夷将軍院宣、濱軍、盛俊最期
63横笛、遠矢
64弓流、副将被斬
65泊瀬、大臣殿誅罰

66禿童、徳大寺、法印
67頼豪、高倉宮、都遷、
68葵前、木曽山門・山門返牒
69法住寺合戦
70富士川、訪月、
71維盛都落、水島、落足
72宗論
73能登殿、文沙汰、平大納言

74御輿振、一行、医師、
75信連、文覚被流
76小督
77還亡、主上都落
78那都羅、小朝拝、三草、
79一二懸 、請文
80熊野、大坂、吉田
81劔

82鹿谷、小松、
83颷、大臣流罪、物怪
84厳島御幸、喘涸声
85木曾願書、篠原、緒環
86小宰相
87忠度最期、千手
88鏡
89高野巻、壇浦、判官