――われわれの神々もわれわれの希望も、もはやただ科学的なものでしかないとすれば、われわれの愛もまた科学的であっていけないいわれがありましょうか――

 
 
ひと昔前の『アヴェンジャー』という火星を舞台にしたSFアニメをひととおり見たあと、そのエンディングテーマがALI RRPJECTの『未来のイヴ』だったことから、ヴィリエ・ド・リラダンの『未来のイヴ』という小説を図書館で借りて読みました。ネット上ではこの本を、押井守監督による『攻殻機動隊』を原作とするSF映画の2作目『イノセンス』冒頭シーンのエピグラフで引用された、という形で多々紹介されているのですが、ぼくが読んだ光文社古典新訳文庫巻末にある海老根龍介氏(仏文学者・白百合大学教授)の解説によると、厳密にはミシェル・カルージュの『独身者機械』という本からの引用だそうです。
 
以下、ヴィリエ・ド・リラダン著、高野優『未来のイヴ』(光文社古典新訳文庫、2018)巻末の「解説」からの引用です。
 
p.774~775
 フランスのシュルレアリストであるミシェル・カルージュが1954年に出版した『独身者機械』(1976年に増補改訂版)は、『未来のイヴ』を含む、19世紀後半以降のさまざまな芸術作品を分析した論考だが、エロティシズムを追求しながら、それを機械化することで、生殖が否定され異性との交流が切断されるという共通のモチーフを、「独身者機械」の名のもとに鮮やかに指摘してみせた。この本の邦訳(旧版)が刊行されたのが1991年で、映画監督の押井守は2004年に発表した長編アニメーション作品『イノセンス』の冒頭で、「われわれの神々もわれわれの希望も、もはやただ科学的なものでしかないとすれば、われわれの愛もまた科学的であっていけないいわれがありましょうか」という『未来のイヴ』の一節を、カルージュの邦訳から引用している。映画では少女型の男性用愛玩ガイノイド(人造女性)が『未来のイヴ』の人造人間の名である「ハダリ」と名付けられてもいて、アニメやゲーム、ヴァーチャル・アイドルが巨大な市場を形成する、高度に情報化された現代社会、それが特に顕著な日本社会において、愛と欲望の諸条件を考えるための古典のひとつとして、ヴィリエの作品を位置づける可能性が示唆されている。

 

 

 

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