以下、『エッセイで楽しむ日本の歴史(上)』(文春文庫)より引用&作成

 

 

p.321~326

日本人の魂の記録・万葉集

犬養 孝

 
壬申の動乱は、日本古代史における極めて重要な転換期を示すばかりでなく、万葉の理解の上でも極めて影響の大きいものであった。
 
壬申の乱の、以後の宮廷和歌への影響はまことに大きいものがある。持統女帝の歌のひびき1つとっても、壬申の乱がもたらす宮廷安泰期の律動を除外することはできない。
 
壬申エネルギー、天武エネルギーは、以後の宮廷和歌を一変させた

天武の皇后鸕野讚良皇女は、その父、天智天皇の智能をそのまま輪にかけてうけついだような人で、遠くを見る力の極めて鋭い人といってよく、遠く奈良朝の末までをはっきりと見とおしている。
 
万葉は、古代日本人の残しておいてくれたすぐれた魂の記録、日本人にとっての率直に述べたバイブル
 
◎万葉は汲めども尽きない古代日本人の魂の記録である。

巻14は、大部分東国の歌謡と見られる東歌を集録していて異色である。
 
巻17から巻20までは、年代順におおむね家持の歌日記の体をなす。
 
巻20には、東国出身の防人の歌を90余首も採録しているのは、これまた異色である。

 作者として、大和の宮廷を中心とした貴族層のほか、社会の各層にわたり、ことに無名の庶民の間の歌謡がたくさん含まれていること、また地域的に大和を中心として、日本全土にわたり、しかも実地の風土と密着した万葉美を構成するものの多いことは、後の時代の歌集に見られない特色である。