長年の平和に積もった歪み
江戸幕府晩年のころ。長年積み重ねられたしきたり、慣例に従うなかで膨れ上がった借金によってつぶれる寸前の、ある大名家の話。
隠居した先代と全く違う考え方を持つ若い当主が、誠実に正直に何とか立て直そうとがんばる。
いろんな立場の人たちの思惑が丁寧に詳しく説明されるため、ページ数はとても多い。
でもそれぞれの人柄がよくわかり、そこから行動の根拠もよくわかる。
江戸時代の人は「〇〇のため」のような信念をはっきり持って、それを貫くための行動を取るようだ。私ならすぐにぶれるので、その「江戸人らしさ」に憧れる。
古い言い回しが混ざったり漢字が多かったり、読みにくいところはあるが、楽しげな語り口で進む。
時々貧乏神や福の神も出てきて、暮らしの中に共存しているように描かれる。きっと、人々はそういう神様が本当にいるような気持ちで尊重して暮らしていたのだとおもう。
読むのに時間はかかったけれども、読み終えてとても楽しい気持ちになった。
浅田次郎
1951年、東京都生まれ