The Horsewoman | First Chance to See...

First Chance to See...

エコ生活、まずは最初の一歩から。

 ジェイムズ・パタースン。アメリカの大大大ベストセラー作家で、名前は私も存じ上げている。が、私があまり読まないスリラーとかミステリーといったジャンルの書き手ということもあって、これまで一字も読んだことがないし、これから先も読まないだろうと思っていた。

 

 ところが、である。スリラーとかミステリーの作家だと思いこんでいたパタースンが、このたび何を血迷ったか、スポーツ・コラムニスト兼小説家のマイク・ルピカとの共著で、障害馬術競技でパリ・オリンピックに挑む女性を主人公にした新作小説を発表したというではないか。一体全体なんでまた、と、好奇心にかられて無料サンプルを私のKindleに送って読んでみたところ——さすがはアメリカの大大大ベストセラー作家、どうにもこうにも続きが気になるように出来ている。くそう、おとなしく金を払って続きを読めばいいんだろ、読めば!

 

 

 大学生のベッキーは、祖母と母との三代にわたる障害馬術のアスリートだ。でも、オリンピック代表選考に向けて日々の訓練を怠らない優等生気質の母マギーとは違い、ベッキーは馬術の練習よりも友達とのパーティに心惹かれるタイプ。そんなある日、練習に遅れたベッキーを置いて一人で遠乗りに出たマギーが落馬し大怪我を負ったことで、ベッキーは母の愛馬コロラドに乗ってパリ・オリンピックを目指すことになる——が、いざベッキーが自身の愛馬スカイからコロラドに乗り換えて競技で成績を出し始めると、マギーのほうもオリンピックへの夢を断ち難く、医者や家族の目を盗んでこっそり乗馬を練習を再開する。そしてある日、ベッキーに告げる。やっぱり私自身がオリンピックに行きたいから、コロラドを返してちょうだい。

 

 ……この小説で私が最初に驚いたのは、ペーパーバックなら約450ページほどの長さの小説なのに、131章もあることだった。つまり、一つの章がやたらと短い。おかげで読みやすいというか、話の展開が早いというか。

 

 次に驚いたのが、最初、ベッキーの一人称で書かれていると思ったら、章が変わると三人称に切り替わったこと。おまけに、三人称は三人称でも、章によって今どの主要キャラクターの視点に沿って書かれているか読者にはっきりわかるよう、あらかじめ章の下に人物の名前が書かれているという親切ぶりだ。そしてまたベッキーが主体の章に戻り、ベッキーの一人称になる。

 

 これは別段、多義的な視点を導入するための芸術的な構成などではなく、単純に「読者にわかりやすくストーリーを語る」に特化した結果なのは明らか。そうか、イマドキのアメリカのエンタメ小説ってこういう工夫がなされているのか、と逆に感心させられた。考えてみれば、普段の私はアメリカのエンタメ映画とかエンタメドラマにどっぷり浸っている割に、アメリカのエンタメ小説にはご無沙汰だったんだな。

 

 The Horsewomanという小説そのものについては、話の盛り上げを優先しすぎるあまり「いくらなんでも」とツッコミを入れたくなる箇所が多々あった。が、それでも、結局最後の最後まで続きが気になって読まずにいられなかった以上、パタースン&ルピカの勝ち、と言わざるをえない。アメリカのページターナー作家、恐るべし。

 

 最後にもう一言。私がこの小説をさくさく英語で読めたのは、昨年の東京オリンピックの馬術競技をBSグリーンチャンネルで片端から録画して観て、障害馬術のルールがばっちり頭に入っていたおかげである。そして、つくづく思う。英文読解って、最低限の単語と文法を習得した後は、書かれている内容についてあらかじめどれだけ日本語で知っているかに依るよな。