『われらが痛みの鏡』 | First Chance to See...

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 2015年に日本語訳が出たピエール・ルメートルの小説『天国でまた会おう』は、評判たがわずおもしろかった。ルメートルの他の著作は、どんなに評判がよくても女性が痛めつけられる描写が強烈そうで手を出していないけれど、第一次世界大戦下と大戦後のフランスを舞台にしたこの歴史小説だけは別。さすがゴンクール賞を受賞しただけのことはある。本当におもしろかった。

 

 なまじ完成度が高いだけに迂闊に続編は出さないでほしい——というか、出るとは夢にも思っていなかった。が、私がぼんやりしているうちに『天国でまた会おう』は三部作と化しており、2作目『炎の色』のみならず、2021年6月には3作目『われらが痛みの鏡』の日本語訳も出ているではないか。なんてこったい。

 

 

 ということでとりいそぎ、『炎の色』と『われらが痛みの鏡』を立て続けに一気読みしたが、「立て続けに一気読み」できる程度のおもしろさに止まっていた、と思う。読者の度肝を抜くようなけばけばしい出来事が次々と起こる一方、振り返って考えてみると出来事の原因や経緯の描き方ががあまりに荒っぽくて強引。フィクションならではの大風呂敷は嫌いじゃないんだが、それにしてもこれは……。

 

 ひょっとすると、『炎の色』と『われらが痛みの鏡』が不出来なのではなく、私の本の好みが変わっただけなのかもしれない。直近に読んだのがよりにもよってヘンリー・ジェイムズの『ロデリック・ハドソン』だったのも災いしたのかもしれない。あるいは、5年ほど前に読んで感激した『天国でまた会おう』も、今の私が読んだら「何だかけばけばしい話だなあ」と思って終わりだったかもしれない。

 

 そこのところをちゃんと検証するためにも、もう一度『天国でまた会おう』を読み直したほうがいいのかもな。とは言え、『炎の色』と『われらが痛みの鏡』はもういいや。