アルメイダ・ライブ「リチャード三世」 | First Chance to See...

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 ナショナル・シアター・ライヴやブラナー・シアター・ライヴに続き、ロンドンのアルメイダ劇場も舞台作品の映像配信を開始した。その第一弾がレイフ・ファインズ主演の「リチャード三世」で、イギリスでは、昨年6月から8月にかけて上演された舞台が、7月にスクリーン上映されている。
 

 「リチャード三世」は、シェイクスピア作品の中でもかなりの人気演目だ。ベネディクト・カンバーバッチがリチャードを演じた「ホロウ・クラウン」第2シリーズがBBCで放送されたのも昨年5月のことで、正直、「え、また?」という気がしなくもない。そりゃ、レイフ・ファインズ主演の舞台を日本語字幕付きで観られるというからには、逃す手はないとは思うけどね。ストーリーも主要登場人物もだいたい頭に入ってるから、予習する必要もないし。

 という訳で、「ひょっとしたら途中で眠くなるかも?」とか思いながら映画館に足を運んだのだが、なんてことだ、フタを開けてみたら退屈どころかめちゃくちゃおもしろかった。「リチャード三世」がこんなに現代社会とフィットするとは思わなかった、というより、リチャードが自分の都合のいいように事実を捻じ曲げ、嘘と真実の違いが意味をなさない世界を築き上げようとする辺り、もはや呑気におもしろがっていられない気分にさえなってくる。

 先に書いた通り、この舞台はイギリスでは昨年夏に上演/上映され、当時はまだトランプ大統領は誕生していなかった。"post truth"も"alternative facts"も、ここまで大手を振っていなかった、はず。たまたま日本に入ってきたのが約半年遅れだったせいで、この舞台は現実味がありすぎてシャレにならないものとなったが、見方を変えると、素晴らしく先見性のある演出と演技だった、とも言える。

 では、ここからは観てて気になったことを箇条書きしていきます。演出のネタバレになるので、ネタバレを避けたい人はご注意を。




 いいですか? いきますよ??






・冒頭、演出家のルパート・グールドへのインタビューがあり、2015年にリチャード三世の遺骨がレスターの駐車場の地下から発見されたことを踏まえて、今回の舞台ではその遺骨の発掘シーンから始めることにした——って、おいおい、演出家みずからこれから始まる舞台演出のネタバレをしてどうするの、と思ったけど、それはさておきこの演出はとっても良かった。

・レイフ・ファインズのリチャードは、時折ひどく卑しい表情を見せる。道化じみた、という言葉も浮かんだけど、道化っぽい大仰な振る舞いはなし。素顔はあんなに美しいのにねえ。今回の舞台ではまったくそう見えないから、役者って凄い。

・この何とも卑しい表情ゆえに、先に見たベネディクト・カンバーバッチのリチャードが「ひとでなし」なら、レイフ・ファインズのリチャードは「人間のクズ」という感じがした。あくまで私の印象だけど。

・さて、この「人間のクズ」がアンをくどくシーンは、いやはや何ともおぞましくてすごいことになっていた。なぜか私は突然「これって江戸川乱歩じゃん!」って思ったんだけど、江戸川乱歩をたいして読んでないのでそう思った根拠は曖昧。ただの勘違いかも。あとこのシーン、暗くてよく見えなかったけど、リチャードは"pussy grabber"になってませんでした? それともこれも私の勘違いかしら??

・同様に、「人間のクズ」が後半で兄嫁であるエリザベスに「アンが死んだらお前の娘と結婚したい」と言い出すシーンも、あまりのクズっぷりに呆然。これまでにもああいう演出とか解釈はあったのかしら? ともあれ、エリザベスがリチャードの提案にイエスと答える不自然さは軽減したとは思う。

・話は戻るけど、リチャードがロンドン塔に暗殺者二人を送って兄クラレンス公を殺害するシーンでは、画面が暗いのとカット割のせいでイマイチ殺害方法がよくわからなかった。今回の演出では、クラレンス公の口にホースを突っ込んで水を大量に飲ませて殺した、ってことで合ってます? 

・王子二人を殺害される前、戴冠式の日取りを決める会議の場でヘイスティングスがはめられるシーンでは、リチャードの突然のキレ方が凄まじかっただけに、逆にカメラがレイフ・ファインズの顔をクローズアップしすぎかなとも思った。このシーンに限らす、もう少しクローズアップを減らして舞台全体を映してほしかったな。アルメイダ劇場の舞台って、そんなに広くなさそうだし。

・後半、「リチャード三世」に混じって「ヘンリー六世 第三部」のセリフが出てきてびっくりした。"I have no brother, I am not like my brother."——「ホロウ・クラウン」第2シリーズ第2話のラスト、ベネディクト・カンバーバッチが語ってたのがものすごいインパクトだったからたまたま覚えていただけけど、この手の借用って他にもあったんだろうか。正直、「ハムレット」とか「ロミオとジュリエット」からの借用があったとしても、全く気づかない自信があるぞ。

・最後の幕切れも良かった! 過去の物語が見事に現代に繋がった、っていうか、さっきも書いた通り、2017年の今となっては繋がりすぎててシャレになってませんってば(涙)。