玻璃狐の睡眠不足部屋 -5ページ目

満たされているはずの世界 5


電話は繋がらないまま、昼を回った。

肝心のルビの知り合いに電話をかけるものの、そっちも繋がらなかった。


「…なんなんだよ。」


そうボヤいて、俺は彼女の手がかりを探そうと闇雲に家の近くを歩き回った。

一緒に歩いた道。

ベンチに座ってくだらない話をした公園。

ルビの大好きな草団子の美味しい和菓子屋。

お腹が空くと行くハワイアンカフェ。

よく行くところは、考えうる限り回った。

どうしてだろう。

こんな時に限って、浮かぶのはルビの笑ってる顔で、他のことは泡のように浮かんでは弾け、浮かんでは弾けを繰り返している。

そんな俺の最後の手は親友に電話することだった。


ー~♬


元気かな、ショウ。


「もしもし…」

「もしもし、アツムだけど…久しぶりだな。」

「…悪いけど、あんま重要な用じゃなきゃ改めてくれないか?
俺ちょっと取り込み中なんだよ。」


ショウもどうやら忙しいらしい。


「忙しいのにごめんな。
 ちょっと聞いて欲しいんだ。」


 ショウに経緯を喋るとうーんと唸った。


「奇遇だな…俺の彼女もいないんだよ。
まぁ俺の彼女は昨日の夜からなんだけどな。」

「お前もか。
取り込んでるってそのこと?」

「まぁそう言うこと。
お前もめいに電話したんじゃないか?」

「した、やっぱり繋がらなかったけどな。」

「…待ち合わせて一緒に探すか?」

「そうだな、ショウは今どこいるんだ?」

「今、めいの家の近くの公園にいる。」

「じゃあ、原宿あたりか?」

「おう、そうだな。」

「じゃあ原宿で会おう、多分20分くらいで行く。
じゃ、あとでな。」


そう言って電話を切ると、ハワイアンカフェでの勘定を済ませて、外に出た。

太陽は少し陰りはじめた。

風が吹き込むと、冷たさが右手を寂しくさせる。

満たされているはずの世界 4



ーピーンポーン…ピーンポーン…


出て来ない友人に苛立ち、仕方なく持っていた鍵で玄関を開けた。

中に人はいなかった。

太陽の差し込む寝室にも。

ご飯を食べた後に片付けなかった食器が置いてあるキッチンにも。

物置の限界を超えたロフトにも。

トイレにも誰もいなかった。

すれ違ったのだろうか?

電話をかける。

やはり出ない。

何をしてるんだ、あのアホ。

時間は…11:56。

待ち合わせしてもう一時間経っている。

おそらく、この皿は昨日の夜のものだろう。

お皿についた米がかなり乾いている。

昨日の夜、帰って来てはいたはずだ。

その時、私に電話をかけてきて話したいことがあると言っていた。


「明日さぁ、ちょっと話したいことあるんだよね。
明日休みでしょ、ユキ。」

「そうだけど、何時にする?
いつもの喫茶店でいいの?」

「うーん、そうだね。
いつものところに11時。」

「わかった。」

「お、ご飯炊けた~。
じゃあゲームしながらご飯食べるわぁ。
明日ね。」

「あいあーい。」


そう言っていたのに、今は待ち合わせ時間を過ぎている。

どこに行ってしまったのか?

朝ごはんも食べずに。

朝ごはんは譲れないと旅行先でも駄々をこねるあのアホが、朝ごはんを食べずに何処かに出かける?

あり得ない。

電話の後でかけたんだ。

…呑みにでも行ったのかな?

まぁよく考えたら、忘れて出かけただけかもしれない。

今日中に連絡あるだろう。

そう考え、私はメイの家を後にした。


満たされているはずの世界 3



電話に出てもらえず、留守電に入れたが聞いてくれているだろうか?

彼女とは言え、良い大人。


朝まで帰って来なくて心配するのは変なんだろうか?

…いや付き合ってたら、普通なんじゃない?

だって、もし他の男と会ってたら?

どうしよう。

…今、7:00くらい?


「頼む!次の電話には出てくれ!」


携帯を持ち直し、発信履歴から番号を出す。


ー 三木谷 留美


「頼む…頼む頼む。
電話に出てくれ。」


 ー~♬


彼女の好きな歌が流れる。

まちうたというやつだろう。


ー留守番電話サービスに接続いたします…


無情にも響く無機質な声。

こんな時に限って変なことを考えてしまう。

なんでこういうアナウンスは女性の声なんだろう。


ー発信音の後にお名前、ご用件を入れてシャープを押してお切り下さい。ピーッ


「ルビ、俺アツムだけど、心配してます。
これを聞いたら電話ください。」


 俺はシャープを押して電話を切り、ベッドに放った。

確かに昨日、遅くなるって言ってたよな。

でも、朝帰りは話違うだろ。

なんでこんな不良高校生のお父さんみたいなこと考えなきゃいけない。

昨日一緒に遊んでた友達とか、場所がわかれば良いんだけど…。

そうだ。

あいつに電話かけよう。

俺はベッドに飛び込み携帯電話を掴んだ。