しかし、松竹座って無茶苦茶久し振り。というか、人生二度目。
前回は、劇団新感線にハマっていた高校時代の同級生に誘われて見た、「大江戸ロケット」だった。もう15年も前か。
で、いしだ壱成かっこええ、奥菜恵って背ぇ小さっ、とか楽しんできてから、わずか1週間そこいらで主演のいしだ壱成が大麻取締法違反でタイーホ、大阪公演の残りは打ち切りに…。
この舞台、江戸時代の花火職人の話だったもんで、逮捕の一報を聞いた時は「やっぱり、警察は「御用」って書いた提灯とか持って踏み込んできたんやろか」と、一緒に行った友人と下らないことを言っていた。
…そういう、正直どうでもいいのに忘れられない思い出はともかく、やって来ました、松竹座。
今回の目的は、昼の部「鳴神」です。
初役となる雲の絶間姫を演じる中村壱太郎さんは、2010年に「曽根崎心中」で父君の中村翫雀(現 鴈治郎)さんを相手に、ヒロインのお初を役と同じ19歳で演じられた際、幸運にも京都南座で拝見しておりまして。
そのたおやかで健気な姿にもう、本気で恋しちゃいましたよ、私…。歌舞伎って、80代の女形が堂々と若い娘を演ることも珍しくないですが(そう、壱太郎さんのお祖父様、坂田藤十郎さんもお初を60年以上勤められています)、でもやっぱり、リアルに若い人ならではの、蕾が開く前の花のような初々しさ、瑞々しさは、やはり何物にも変えがたいなあと。
で、前から見たいなあと思っていた演目「鳴神」で、今回は女形の大役、雲の絶間姫！主人公の鳴神上人は、片岡愛之助さんです。
一言でいうと、高潔な僧侶が謎の美女の色仕掛けの罠に嵌まり、堕ちていく話です。インドの伝説を元に、お能の題材にもなった「一角仙人」が元祖なんですね。(元)英文学専攻学生の私にとっては、破戒僧の話というと、マシュー・グレゴリー・ルイスの「マンク」が真っ先に思い浮かぶところですが、こちらは勿論「鳴神」との関連はなし。
で、本日の「鳴神」の壱太郎さん、良かったと思います。この話、失神した鳴神上人に口移しで滝の水を与えたり、着物の中の胸をまさぐられたり…と、結構エロい(ただし、基本健康的なエロ)シーンがありますけど、壱太郎さんのはそこまで露骨にこれ見よがしな色気プンプン…という感じではないです。
ご本人も「強くならず、宮中にいるお姫様であることを忘れずに」演じたいと意図されていたようですしね。ジェームズ・ボンド役がダニエル・クレイグに代替わりしてからの007におけるボンドガールのような、清楚知的系の雲の絶間姫。
(そうだ、この役だって要は朝廷の女スパイ、ハニートラップでした)
愛之助さんの鳴神上人。総髪姿だと、尚のこと、片岡仁左衛門さんに似てる感じがします。絶間姫の恋バナにワクテカで思わず身を乗り出しちゃうところ、生まれて初めて知る女の体、酒の味…に戸惑いつつもはまっていくところなど、そこまで背徳的な恍惚感はなく、どちらかというと、ちょっとお茶目でコミカル、情けない感じかな。
あと、ミッションを完遂した姫に逃げられた後の、荒事の演技も良いです、力強くて。上方系の演目が多いでしょうし、あまり荒事のイメージってなかったんですが、本当に何されても単に器用にこなすだけでなく、魅力的な方ですね 。
他の演目についても。中村扇雀さんの舞踊劇「枕獅子」は、牡丹の花、獅子、蝶のモチーフが鮮やかで、ドラマチック。傾城が獅子の精に姿を変えて見せる毛振りは、激しくも女形の獅子だけにどこか優雅。
あと、禿二人も獅子に戯れる胡蝶として可憐な踊りを相当たっぷりと見せるのですが、小さい方の禿を演じていた中村祥馬くん。
本公演が扇雀さんの部屋子としてのお披露目だそうですが、こんなに幼いのに、ちっこいのに、その流し目の何とあだっぽいこと。どんな役者さんになるのかな、気になる。
昼の部最後は、上方落語に材をとった笑劇「らくだ」。ガラの悪い乱暴者役の愛之助さん、気弱な紙屑屋を演じる香川照之こと市川中車さんという、芸達者すぎる「半沢」コンビが、大阪弁で共演するって時点で面白くないはずはないのですが…もう最高！
愛之助さんが扮する熊五郎は、紙屑屋の久六を利用し、フグの毒で死んでしまった弟分の宇之助の死体を使って酒と肴を無心する(これ、ほとんどテロの領域w)のですが…。
当然一言のセリフもなしに、不気味な死人メークで死体役を演じる中村亀鶴さんが、力なく中車さんにのしかかったり、障子を突き破ったり…客席大爆笑。
私も、笑いすぎで涙出ました、腹筋が痛い！
こんな具合で、大満足の三本立て、大阪までやってきた価値大いにありでした。楽しかった！