Tと仲直りした翌朝、私はデートの待ち合わせのために京大へ向かった。

Tと合流した後、私達はキャンパスの裏にある吉田山(?)へ向かった。

 

Tは、私と付き合っていることをまだご両親に伝えていない。バレるとなにかとマズイらしい。そのため、知っている人に見られた場合はいろいろと面倒なので、デートの際はできるだけ人目につかない場所で、周囲の目を気にしながら一緒に過ごしていた。ヤマシいことは全く無いのにもかかわらずすごい警戒の仕方である。

 

この日も、私達のデートは、山、だった。

 

だが、ただデートを見られるのがマズイ、というよりも、キスできるような人気のない場所を探した、というのが正直なところかもしれない。

 

山をしばらく登り、私達は立ち止まった。

誰もいない場所。暑い日だったが、木陰には風が吹き抜け、涼しかった。

せっかく二人きりでいいムードができてきた、と思った瞬間、大量の京大生が、授業か何かの一環でぞろぞろと山に登ってきた。私達は明らかにカップルのラブラブムードに突入していたので気まずく、こちらをジロジロ見てくる京大生から視線を外して気配を消そうと必死だった。

 

彼らがひとしきり去ったあとも、私が大の苦手としているカラスが頭上を飛んだり、ハチが耳元をかすめたりなど、なかなか心休めることはできなかった。

 

だが、奇跡的に鳥も虫も去ってくれたタイミングがあった。

 

「キスしよっか」

 

3月末ぶりの、二回目のキスである。

お互いにまだ慣れていないながらも、多分あの頃から2人ともキスが好きだったと思う。

 

「昨日、仲直りはしたけど、キスするまで、仲直りしたっていう実感はなかったからね。」

 

彼としては、やはり仲直り直後に食堂でキスしとけばよかったと若干の心残りがあったらしい。

 

ともかく、私達の間からわだかまりは消え、中高時代のように、仲良く手をつないで山を降りた。

Tと仲直りした夜、私は友達と一緒に京大の近くに泊まった。仲直りに貢献してくれた友達である。話題は必然的にノロケ話になる。

夜中、私とTとのラインを友達と一緒に見る、という会が始まった。

Tは、私のことだから、友達にラインを見せて惚気ているのだろうと予測していたが、誠にその通りである。Tはもはや、誰に見られても良いような言葉を選んでいた。

だが、「友達はもう寝ました」と嘘をついてみたあとには、少しずつ甘い言葉を送ってくれた。まぁ、それが嘘だということも把握済みで、手のひらの上で私を転がしていたのかもしれないが。



また、私が友達のフリをしてTとラインをし、Tの本音を聞き出すという会も開催した。まぁ、トーク履歴は全て私の携帯に残るので、あまり意味は無いように思われたのだが、Tは意外にも色々語ってくれた。

一番楽しかったのは、中学三年生のとき、なぜ私と付き合ってくれたのか、の話。
大きな理由としては、「文化祭の時に着ていた法被姿がかわいかったから」ということらしい。

眠かったので、あまり中身のある話をしたわけでは無いが、とても楽しい時間だった。

翌日は仲直り後初のデートの日。
それに備えて早く寝る予定だったが、ラインが楽しすぎたので3時くらいになってしまった。

京大の食堂、「ルネ」。
そこで、久々に再会したTと私は、付き合い続けるか別れるかの会議を開始した。

彼は、出るべき授業を切って食堂に来ており、その不真面目な事実は、「別れたい」という決意をさらに強くした。

私は別れるつもりで話していたのだが、Tは仲直りの方向に持っていこうとしているとわかった。

私は、「無理だと思う」「遠距離を続ける自信がない」「貴方と恋愛する資格がない」など、とにかく否定的なワードを並び立てた。

実際、気持ちが戻る自信もなく、ずっと好きでいる自信もなく、ほせさんの一件など、Tよりも心ときめく相手はこの先出てこないという自信もなかった。私はバンドに入っており、メンバーはみんなかっこよく見えるので、浮気心を抱くのは時間の問題かとも思われた。

また、私の気持ちが冷めた原因として、Tのように硬派に生きている人よりも、楽しく生きている人の方が好きになる、というタイプの変化、があった。


だが、彼は私を必死で引き止めようとしてくれている。弱気になったり、懇願したり、という感じではなく、あくまでも冷静に、話し合ってくれた。

「俺は、おまえとこれからも付き合っていたい。」

今までにないくらい、ストレートな想いも聞けた。

途中、私のためにお茶を汲みに席を立った彼の後ろ姿を見て、私の中で何かが変わった。


彼が戻ってくるまでの間、ざっと色々考えてみた。

ラインの内容や会話の内容、電話の回数などを調整したら、上手いこと関係が続くかもしれない。

学校にいる、私が知る限りのイケメンを思い浮かべ、Tと冷静に比較してみたところ、Tの方がいい、きっと愛してくれる、という確信も持てた。(気持ちが冷めそうになっている当時でさえそう思えたのだから、きっと大丈夫、と思えた。)


彼が席に戻ってきたあと、私は少し前向きに話を進めた。 

「ねぇ、もう少し、楽しそうに生きられる?」

そもそも、彼は私のタイプに合わせて硬派なキャラを作ってくれていた感もあった。

彼は、私の心境のあまりにも大きな変化に気づいたのか、お、おぅ、と少し戸惑いながら答えた。

「じゃあ、大丈夫」

私の、突然の仲直り宣言に、彼は目を丸くしていた。そりゃそうだろう。勝手に喧嘩して勝手に解決して、振り回しまくった末の仲直り。

彼は、私を信じてもいいのか、と私に数回聞いた。うん、と私は答えたが、彼はあまりの急展開に、仲直りについて何の実感も抱いていないようだった。

ただ、今後、仲良く過ごすためのプランも考えた。

時間は短くてもいいから、ちょこちょこ電話すること。カンファレンスでなくミーティングの感じで電話しよう、と彼は言い、私は正直全くピンとこなかったが、元気よく返事した。


二時間ほどの話し合いの後、彼は、未だに、「本当に仲直りしたのか」「本当に大丈夫か」など、色々と腑に落ちていない様子だった。

だがとにかく仲直りしたので、「キス、しよっか」と言ってみたが、周りに人がいるということでその話は流れた。

こうして、私の自分勝手さが露骨に現れまくった喧嘩は終わり、Tの寛容さがしみじみと感じられるステキな1日となった。