だが、順調だった遠距離恋愛も、少しずつ綻びが出はじめた。


原因は、一言で言うと私のメンヘラ化である。

しかも、恋、という面ではなく、彼自身に対して複雑な感情を抱きはじめたのだ。


まず、付き合ってから足掛け三年ほど経つのにまだ親にも言っていないこと。そのために、好きな時に電話ができなかったり、家に手紙を送れなかったり、家でばれるようなプレゼントを渡せなかったり。

という数々の不満が蓄積し、うーーん、という感じになっていた。



だがこの感情はそこまで深刻ではなかった。

一番辛かったのは、彼に対する嫉妬心だった。

彼の周りの女の子に対する、などではなく、人間としての、彼自身に対する、嫉妬だった。



彼とのラインでは、しばしば、彼が医学部でどんなに難しい勉強をしているのか、どれだけ忙しいのか、大変なテストがあるのかなどが話題になった。


とても大変そうだった。



だが、私としても、アメリカのトップといわれている大学(ハーバードじゃないんですよ!というアピールです)で勉強一筋で生きているというプライドがある。絶対私の方が忙しい。絶対私の方が大変。そう思いたい気持ちが邪魔をして、素直に頑張れ、と言えなくなった。



また、彼は、私が全く知らない医学知識を学んでいる。私が知らないことを勉強している。そのことに対し、私はとてつもない劣等感を持ち、それを払拭するためだけに医学部に入りなおしたいと思うほどであった。


彼は、私がもし何かを抱え込んでいたらすぐに言え、と言ってくれていたので、私はこの感情についてを彼に話すことにした。

1024日、私の母とT2人でご飯を食べに行くという不思議なイベントがあった。


Tが、松茸の土瓶蒸しを食べたことがないと聞いた母は、ぜひ食べてもらいたいということで、彼を行きつけのお店に連れて行った。


事前に私が母とラインしたときに、「土瓶蒸しは、初めて見たら食べ方わからないかもしれないけど、面白いから、食べ方を教えずに黙って見ておこう」ということになっていたのだが、母はしっかりと、Tの初土瓶蒸し記念のビデオを送ってきてくれた。


土瓶蒸しを見て「豆腐が入ってるんですか?」と母に聞くT

食べ方が分からず、とりあえずじっくりと土瓶の中を観察するT


とてもとても愛おしく思えた。


また、私は母に、印刷してTに渡してもらいたい手紙をメールで送っていた。縦読みが織り込まれており、Tがくれた縦読みの句の返歌となっていた。


「便りなく さみしき夜も 空見上げ 見守る月と 君を重ねる」


Tは、私がこんなに手の込んだ縦読みができるとは思わなかったようで、なかなか気づいてくれなかった。また、気づいたあとも、「便り」を「たより」ではなく、「べんり」と読み、「便利ってなにぃ?」などと聞いてきたので拗ねたふりをしておいた。


五時間ほど続いたそのご飯会で、母とTは、私の子守がいかに大変かを同情しあっていたらしいが、楽しい時間を過ごしたようで嬉しかった。

私は、二年生が始まって早々に、プライドに大打撃を受けた。


ニューヨークに、日本企業がリクルートしにくるということで、友達と一緒に面接に行ってみたのだが、その子は受かって私は落ちたのである。そもそも民間企業に就職する気もあまりなく、何の思い入れもなかったのに恐ろしく凹んだ。


どちらかというと、私の方が勉強が好きでガリ勉な性格なのに。なぜだ。私は理解に苦しんだ。


一言で言うと、その企業のカラーと合わなかったから落ちた。割とキラキラした人が受かるところであった。


しかし、私は自分の、勉強に対する姿勢やプライドが否定された気になって、荒れた。


荒れまくって泣きまくっていた私を、時間をかけて慰めてくれたのはTだった。


私は、はじめての面接で落ちたので、全企業が私を必要としていないかのような気分であった。消えたいとまで思った。


彼はそんな私を叱ってくれた。消えたいなんて言うな。俺が必要としてるんだから、要らない人間だなんて言うな、と。


また、私が「私を採用しないとかあり得ない!」と荒れていると、「さすがに俺でもそれは思わん」と冷静なコメントをくれて、どうやって立ち直っていくかの相談にも乗ってくれた。


そんなこんなで、私のメンヘラなラインに数時間ほど付き合ってくれて、私は夜寝られるレベルには落ち着いた。


朝目覚めると、何をあんなに心乱していたのだろうと思うほどに落ち着いていたのだが、睡眠と、Tの力はすごいなぁと思った。


改めて、素晴らしい恋人である。