現地時間2021年2月23日(火)に米ロサンゼルス郊外で自動車事故を起こした米ゴルフ界のスーパースター、タイガー・ウッズ(45)。すねや足首の骨を折り、手術を受けたそうです。薬物の影響を心配したファンもいたと思いますが、今回はカーブを曲がり切れず道路脇に転落し、横転した単独事故とみられています。同乗者はおらず、他の車も巻き込まないでよかったのですが、メディアにあった画像を見ると衝撃の大きさが分かります。よく死なずに済んだというような事故だったのですね。
彼が運転していた韓国ヒュンダイのジェネシスの最新モデルSUV「GV80」に10個のエアバッグが搭載されていたことや、彼自身がシートベルトを着用していたため無事であったとの見解があります。たまたま彼は同社がスポンサーを務めるゴルフイベントの一環でこのSUVを運転していたといいますから、運が良かったのですね。
それにしても、彼は何度手術を受けているのでしょう?
彼は2020年12月に5度目の腰の手術を受け、2021年の復帰戦と見られていた1月28日開幕の「ファーマーズ・インシュランス・オープン」(米カリフォルニア州)、2月18~21日の「ジェネシス招待」(米カリフォルニア州)の出場は見送ることになったという報道がありました。
そこで、これまで彼が受けた整形外科の手術についてとともに、彼が巻き込まれた騒動についても、過去に遡りできるだけ調べてみました。まずはお読み下さい。
1994年12月 左膝関節内の2箇所の良性腫瘍を切除しています。
2002年12月 前十字靭帯にからんだ何かの手術を受けていますが、詳細は不明です。
2007年7月 全英オープン出場後、オーランドにある自宅でランニング中に前十字靭帯を断裂します。しかし手術を選択せず、痛みをこらえてプレーを継続し、出場した6試合中5勝を挙げています。
2008年に入り、同じく出場した全英オープン最初の4試合すべてで勝利を挙げ、4月のマスターズ・トーナメントで2位となったあと、左膝軟骨の関節鏡検査と何らかの処置を受けています。
この軟骨の損傷は前十字靭帯断裂の影響によるものだったと思われ、担当医は前十字靭帯の再建手術を薦めましたが、タイガーはシーズン終了後まで先延ばしにすることを希望したそうです。
「私のリハビリスケジュールは、メモリアルトーナメント(5月29日~6月1日)に復帰する予定で組まれていた。しかし、直前に見つかった(脛骨の)疲労骨折がその大会の欠場と、復帰時期に大きな影響を与えた」
左膝の痛みは続いていたようで、6月には左脛骨近位の高原部に2箇所の疲労骨折があったとされています。しかし彼は、その月のトーリーパインズGCで開催された全米オープン選手権で優勝しました。
「それでも、私はすべての精力をささげて、トーリーパインズで行われる全米オープンに出場することを決意した。そこは私が育った場所に近く、沢山の特別な思い出があるコースだから。今シーズンの残り試合に出場できないことは寂しいが、先週、そんな特別な大会で勝つことが出来たという事実に興奮している」
この大会の後、7月に左膝軟骨損傷および前十字靭帯の再建術を受けています。彼にとって、4回目の左膝の手術となります。
手術の実施日、スイングコーチのハンク・ヘイニーは復帰まで6~8ヶ月かかると話し、全英オープン、全米プロゴルフ選手権のメジャー大会の欠場を覚悟していると語りました。プロ入り以来、タイガーがメジャー大会に出場しないのは初めてのことでした。
「長年、私を支えてくれているファンとサポートしてくれる人々に感謝するとともに、すべての人に、私がこれまでのキャリアでしてきたように、膝のリハビリに私のすべてを捧げることを保証する」
ところが、この術後リハを行っているはずの2008年12月、彼はこのとき右アキレス腱を傷めていますが、すでに試合に出場しています。通常の前十字靱帯再建術後のスポーツ復帰時期からすると、ずいぶん早いように思います。
その後も右アキレス腱の症状は続いていたようですが、試合には継続して出場していました。
この間、2009年11月に交通事故を起こし、救急車で病院に運ばれています。この事故をきっかけに次々と女性スキャンダルが報道され、結婚生活も破綻し、一時的にツアー参加を自粛し欠場することにもなります。2010年2月、不倫を認め謝罪の声明を発表し、復帰を表明します。身体もあまり良い状態ではなかったようで、2010年5月のザ・プレーヤーズ選手権では、首の痛みで最終日を棄権し頸椎の椎間関節炎と診断されています。12月には、右アキレス腱にコルチゾン治療(ステロイド)を受けました。
2011年4月、マスターズの試合中、左膝の内側と左アキレス腱の痛みのためショットが乱れ、上位にからむことができませんでした。翌月のザ・プレーヤーズ選手権でも症状は続き、9ホールを終えて途中棄権することになり、その後のメジャー大会である全米オープンと全英オープンを欠場しました。
2012年3月にも左アキレス腱の痛みは続き、世界ゴルフ選手権第2戦、キャデラック選手権の最終日になって途中棄権し、2週間後のアーノルド・パーマー・インビテーショナルから復帰しました。
2013年6月、ザ・プレーヤーズ選手権で痛めた肘を全米オープンで悪化させ、7月の全英オープンまで戦線を離脱することになります。同年8月、本人は柔らかいマットレスが原因と説明していますが、腰にけいれんを起こします。
2014年3月にも、腰の痛みとけいれんが改善せず、ザ・ホンダ・クラシックの最終日13ホールを終えて途中棄権し、その後のキャデラック選手権は出場したもののベイヒルクラブ&ロッジでのアーノルド・パーマー・インビテーショナルは欠場しました。そして、4月に腰の神経痛を和らげるために顕微鏡下椎間板切除術を受け、同月のマスターズと6月の全米オープンを欠場するのです。これが最初の腰の手術となります。同年8月ブリヂストン・インビテーショナルの2番ホールでプレー中、不自然な姿勢からバンカーショットを打って腰を痛め、最終日に途中棄権することになります。
2015年2月トーリーパインズGCで行われたファーマーズ・インシュアランス・オープンの初日に、11ホールを終えて腰の痛みを訴え、途中棄権。9月に腰の神経を圧迫していた椎間板の小さな破片を除去する2度目の顕微鏡下椎間板切除術を受けました。
さらに10月、腰の神経痛を治療するため再び手術に踏み切るのです。このあたりの医学的な処置の詳細は分かりませんが、時を置かずに再手術しているのはなぜなのでしょう?
2017年4月、腰と足の痛みを軽減するために4度目の腰の手術を受けたことを自身の公式ホームページで発表しました。その手術は「ALIF:腰椎前方椎体間固定術」だったと報じられています。執刀医のリチャード・ガイヤー氏は、椎間板がすり減り腰椎の椎間が極端に狭くなっていたため、この手術を行ったと説明しています。
つまりタイガーは2014年から2015年にかけて3回、腰椎への手術を受けています。これらは顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術だったようです。4回目は、摘出ではなく固定術となったと思われます。背側からのアプローチではなく、前方のお腹側から行う手術を選択しています。これは、ただ傷んだ椎間板を取り除くだけではなく、除去したスペースに代わりになるケージを入れて固定する方法です。
固まるまではコルセットで固定するため、当然ゴルフの復帰は先になります。このシーズンの参加は諦めていたはずです。
そんな状況が予測される5月末、驚くニュースがありました。フロリダ州で酒気帯び運転の疑いで逮捕されたことが報道されたのです。彼は自宅近くの路上に車を停め、運転席で眠っていましたが、その時まっすぐ歩くことができず、ろれつが回っていない状態だったといい、フロリダ州パームビーチ郡警察は逮捕時の映像も公開しています。
ただ、単独で歩くことも片足で立つこともできませんでしたが、呼吸からアルコールは検出されなかったということでした。
「世間の皆さんには、アルコールは関係ないと知ってもらいたい。今回の事態は、処方薬による予想外の症状が原因です。薬の組み合わせが自分にこれほど強く作用したとは、気づいていなかった」
長い戦線離脱の後、2018年1月の「ファーマーズ・インシュランス・オープン」で1年5か月ぶりにツアーに復帰しましたが、優勝争いにはからむことなく終わり、その翌週にドバイで行われた欧州ツアーでは腰のけいれんにより途中棄権、その後の試合出場はしばらくありませんでしたが、徐々に優勝争いに絡む活躍を見せ、9月の最終戦「ツアー選手権」でツアー通算80勝目を挙げました。
2019年4月のマスターズ選手権最終日、首位と2打差の2位タイで出たタイガーは6バーディ、4ボギーの「70」でプレーし、大混戦の中、通算13アンダーで逆転優勝しました。ウィニングパットを沈めると、右手でガッツポーズ。両手を大きく上げて喜びを爆発させます。
2008年の「全米オープン」以来の11年ぶりのメジャー通算15勝目です。「マスターズ」制覇は2005年大会以来で5度目、これで米ツアー通算81勝目となり、故サム・スニードが持つ最多勝利記録にあと1勝と迫りました。身体的な問題に加え家庭問題など難しい状況にあった彼が成し遂げた快挙に、メディアは「完全復活」の評価を贈ります。
写真は優勝セレモニーで前年覇者のパトリック・リードからのグリーンジャケットを羽織るウッズです。
「取り乱すことなく、自分のゴルフに集中できた。カムバックを果たし、マスターズで優勝できた。息子が喜んでくれ、父親としての役割を果たせた。自分にとって最高なことだ」
その勝利から約4ヶ月後の2019年8月、左膝軟骨損傷に対して関節鏡視下手術を受けています。これは彼にとって5回目の左膝の手術です。数週間後から練習を再開し、10月24日に開幕する米男子ツアーのZOZO選手権(習志野カントリークラブ)に出場。逆転を目指す松山選手を振り切り、この日本初開催のPGAツアーで、彼は1996年に初優勝して以来、通算82勝目を飾ります。サム・スニードが1965年に打ち立てた記録に54年ぶりに並ぶ歴史的偉業を達成しました。4月の感動的な「マスターズ」での優勝に次いで、この年2勝目となりました。
2020年は1月のファーマーズ・インシュランス・オープンの9位が最高位でしたが、腰痛が再発していたようで、3月の「アーノルド・パーマー招待」も欠場していました。
2021年1月、タイガーは5度目の腰の手術を受けたと公表しています。2021年の復帰戦と見られていた、1月28日からの「ファーマーズ・インシュランス・オープン」(米カリフォルニア州)、2月18~21日の「ジェネシス招待」(米カリフォルニア州)の出場は見送ることになりました。
そして、今回の交通事故です。生命の危険はなく、手術も無事に終わったということですが、さて、彼はゴルフに復帰できるのでしょうか?
これらの過程の中で、選手である彼はどのような症状をもっており、それに対応して担当医はどんな説明をして、両者はどのような話し合いの末、それぞれの処置に至ったのか、私には興味があります。通常、これほどの回数の手術を行うことはあまりないはずです。何が特殊なのでしょう?
それにしても、今回の交通事故がどのようなものか詳細は分かりませんが、これでトップレベルの活動に復活したとしたら、本当に怪物だなぁと思うと同時に、どんなリハビリテーションが実施されたのか、知りたくてしょうがない気持ちになるのが正直なところです。
回復を心よりお祈りしたいと思います。