620日まで緊急事態宣言が継続される中、徐々に気温が上がり、マスク着用による体調不良が話題となっています。613日の某新聞に、これに関する記事が掲載されていました。

 

 専門家に対処法を聞いたという記事では、「急増する原因不明の頭痛患者」として、「頭痛に加えてめまいと耳鳴りがする。病院に行ったが、原因が分からない」と、ある整骨院を訪れた女性の例が紹介されていました。以下はその整骨院の院長の対応です。

 

「原因はマスクにあると直感し、手首や背中のバランスを整え、血流をよくする施術などを行った上で、背伸びや深呼吸といったセルフケアの方法を伝えた」と言います。この整骨院では、COVID-19感染拡大が顕著となった20205月ごろから原因不明の頭痛や肩こりを訴える患者が急増し、1カ月で約20人が来院したこともあったとされています。

 

私がこの記事で気になったことは二つあります。一つ目は、頭痛を訴えて病院に行って原因が分からないとされた方が、次に整骨院に行ったとき、具体的な対応を受けているという事実です。

 

二つ目は、整骨院という治療所において、こうした「原因不明の頭痛や肩こり」が受け付けられ、対応されていることです。

 

話をわかりやすくするため、後者のテーマから私の感じた疑問を説明します。

 

まず、医療行為とは何かということを確認しましょう。一般的には、患者さんの訴えを聞き取り、医学上の専門知識を基盤とする経験と技術を用いて診断すること、その診断のために聴診や触診により診察し、採血、採尿、生体組織の顕微鏡検査、電子機器による検査などを行うこと、そしてその結果からなされた診断に基づいて処方、投薬、注射、外科的手術、放射線照射などによる治療を行うこととなると思います。つまり、問診、診察、検査、診断、治療という段階を踏み、問題を解決していく行為ということになります。そして、医業とは、業として医療行為を行うこととなり、医師法第17条に「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と規定され、国家資格である医師免許を持つ医師以外が行うことを禁止しています。

 

その一方で、マッサージや指圧、整体、カイロプラクティックといった施術は古くから一般に広く利用されていて、これらの施術(治療とは区別されています)は医師が行う医療行為に対し「医業類似行為」と総称されています。これらの中には国の資格を要する柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の4資格がありますが、国家資格ではなく民間資格で実施されているものとしてカイロプラクティック、整体、骨盤矯正、気功などがあります。

 

さて、ここで記事にある柔道整復師の業務について、日本柔道整復師会のホームページでは次のように書かれています。

 

「接骨院や整骨院では、柔道整復師によって、骨・関節・筋・腱・靭帯などに加わる外傷性が明らかな原因によって発生する骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷などの損傷に対し、手術をしない「非観血的療法」によって、整復・固定などを行い、人間の持つ治癒能力を最大限に発揮させる施術を行っています。最近は骨盤矯正や脊椎矯正、頭痛や冷え性、単なるマッサージなどを行う接骨院や整骨院がありますが、これらは柔道整復師の業務範囲ではありません。」

 

 頭痛は柔道整復師の業務範囲ではないと明確に記載されています。また、通常用いられる健康保険は、外傷性が明らかな原因のケガに対する施術だけが適用となるとされています。つまり、そもそも頭痛や慢性的な肩こり、内科疾患が原因での腰痛などは整骨院の施術の対象ではないし、仮に何らかの対処を行ったとしても、それを保険を用いて請求することはできない仕組みとなっているのです。

 

 この記事を書いている記者の方も、頭痛や肩こりでの整骨院の利用があまりに一般的になっているために、法律に違反しているという意識は全くなく書かれているのでしょうし、取材されている整骨院でもその意識がないのかもしれません。それだけ普通になっているとしたら、この法的な仕組みは変更するべきだと思います。

 

実際に、厚労省のデータから作成したグラフを見てもお分かりになると思いますが、この30年間で整骨院の施設数は2.7倍に増えており、柔道整復師数も2.9倍になっています。

 

 

 私はこの整骨院の実態を主として問題にしているのではありません。ただ、法的に定められた枠組みと実情があまりにかけ離れていることに、それを放置することは良くないという警告を発しているだけです。より大きい問題は、一つ目のテーマです。

 

 頭痛を訴えて病院を受診したが原因が分からないとされた方が、次に整骨院に行ったという実例が紹介されていました。最初に受診した病院では、何をしたのでしょう。おそらく先の医業の定義に示したように、西洋医学のアプローチとして<問診、診察、検査、診断、治療>という段階を踏もうとしたのだと思います。その時、担当医の頭には、脳腫瘍や脳内の血腫など検査で見つかる医学的対処が必要な疾患があって、CTMRIといった検査を行ったのだろうと想像します。しかし、それでは異常が見つからなかった。その時の患者さんへの説明は、「大したことはありません。このまま様子を見れば、そのうち、良くなるでしょう。」といったものではなかったかと想像します。

 

 私の専門分野でも、こうしたことはよくあります。患者数が非常に多い腰痛についてもそうです。検査で異常がない、つまり手術などの自分たちの技術を使う状態でなければ、患者さんの困っていることには、ある意味親身になることなく、痛み止めや湿布で様子を見ることを薦めるのが一般的ではないかと思います。その時患者さんが訪れるのが、医業類似行為を行う施術所ということになるのでしょう。それが、多くのこうした施設がなりたっている一つの背景ではないかと思うのです。

 

 制度がおかしいとすれば、それは実態に即して変えるべきでしょう。私は西洋医学を学んだ医師として柔道整復師の存在が必要と認めるので、彼らの役割を明確にして、より連携がとれる体制を作るべきではないかと感じています。

 

 そもそも、今の医業類似行為と呼ばれる手技の位置づけは、1874(明治7)年に制定された「医制」に遡ることができます。当時の政府の基本方針として掲げられた欧化政策によって、西洋医学を主流として扱う基本方針が定められたのです。具体的には、鍼灸が医師の指示を受けた場合のみ施術可能と規定されました。それまで庶民の身体についての相談に応じてきた歴史のある古来からの医術は、西洋からの学問体系の下に位置づけられたことになります。真面目にこの分野に取り組んできた関係者の思いを想像すると、胸が潰れる思いがします。

 

さらに1911(明治44)年には、「按摩術営業取締規制」ならびに「鍼術、灸術営業取締規制」によりあん摩、はり、きゅうの営業が免許制となります。柔道整復は1920(大正9)年に「按摩術営業取締規制」の法改正により公認されました。その後数次の改定を経て1970(昭和45)年に「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」と「柔道整復師法」が明確に区別され、さらに1988(昭和63)年に都道府県知事免許から国家資格となり、確立した資格として現在に至っています。

 

 ということで、西洋医学を修得した医師とこの歴史を踏まえた医業類似行為の施術者の間で、国民の健康を守るという視点から、お互いの問題点を整理した上でもう少し実態に即した体制が求められるのではないか、というのが私の意見です。