Tちゃんは寒い冬の明け方に生まれました。
生まれたばかりのTちゃんの顔を見ながらパパは言いました。
どんな人生の荒波にも負けないように強くて逞しい子になれ。
僕が知ってることは何でも教えてあげるから。
Tちゃんを抱きながらママは願いました。
やさしい子になってね。争うことをせず、思いやりのある、やさしい子に。
Tちゃんが可愛くて仕方のないパパは
赤ちゃんの頃からたくさんのことを教えてくれました。
自立するためには何でも一人でできるようにならなくちゃ。
赤ちゃんは知りました。
泣いたって誰も来ない。
でも泣くのをやめたら何だか褒めてもらってるみたい。
それにちゃんと一人でいられます。
赤ちゃんは知りました。
時々心細くなるけど、ある日発見したのです。
体に力を入れると心細い気持ちがなくなってちゃんと一人でいられます。
Tちゃんが大きくなるまで
パパはいつだって励ましてくれました。
何だか怖くなると
大丈夫、お前は強い子だから、怖くないよ。
一人でできなくて悲しくなると
大丈夫、頑張れば必ずできるよ。
Tちゃんはパパの言うとおりだと思い込みました。
わたしはとても強くて、何でも一人でできるんだ。
わたしは怖いはずはないし、悲しいはずもない。
だって強いんだから。
3歳になる頃、Tちゃんは小さな大人になりました。
小さな大人になったTちゃんは
時々困った思いをするようになりました。
いやだなぁと思ったり
したくないなぁと思ったり
腹がたつなぁと思ったり・・・
今度はママが教えてくれました。
我慢して、争いはやめて、思いやりを持つのよ。
Tちゃんはどうしたらいいのかわからなくてママを見ました。
そうか、ママのやっていることを真似すればいいんだ。
Tちゃんはママのやり方を取り入れることにしました。
それから何十年もたったある日
Tちゃんはびっくりしました。
誰かの温かい手がおずおずと自分に触れるのを感じます。
遠くから声が聞こえます。
もういいよ。
強くなくていいよ。
怖くていいよ。
悲しくていいよ。
怒ってもいいんだよ。
Tちゃんのまんまでいいんだよ。
最初は意味がわかりませんでした。
その声が段々と力強く、心からの声になりました。
Tちゃんは初めて声を上げて泣きました。
温かい腕に包まれて
いつまでも泣きました。
Tさんが心から自分を許した素晴らしい日です。