今回の記事は、叙々苑のホールスタッフについて。
叙々苑は、以前バイトした無印良品と同じで都内の高級住宅がある場所と同じ区内にある店舗だった。隠れ有名店のようなところ。
募集要項で「ホールスタッフは着物が着れます」と書かれていて、薄ピンク色の綺麗なお着物に興味を持った。落ち着いた上品なお店で日本人らしい接客やマナーを学んでみたいなと思い応募をしたところ、採用をいただいた。
大学2年の2月から研修を始めたため、私は春休み中で、平日・土日のランチ10:00〜15:00、または16:00までのスタートだった。
座席番号、おしぼりを持っていく方法、オーダーの取り方、バッシング、ドリンクの作り方、ロースター掃除、座席案内、デザートのアイスとお茶の出し方、ランチセットの並べ方などなど、盛りだくさんであった。バイトで学費を稼ぐために休学している同い年の音大生の女の子が週5.6でシフトに入っていて、よく教えてくれた。
客層は、30代以上が8割くらい。入っていたランチタイムでは、お座敷予約の子連れマダムのママ友ランチ(長い...!)が多かった。生まれて数ヶ月のほやほや赤ちゃんを横のベッドで寝かせ、ママ友とゆっくりおしゃべりをしながら3,000円以上する高級ランチを食べるんだ、と生きる世界が違いすぎるあまり言葉を失っていた。お肌も髪の毛も私よりプルプルうるうるのツヤツヤで、貧しくてブスで声が小さい私が接客していいのかと劣等感でいっぱいだった。
毎週決まった時間と曜日にご来店する芸能人も数人いて、変装していたりしていなかったり、初めて会ったときは普段通りであろう慣れている様子にこれもまた驚いた。田舎者の私は「芸能人」というだけでヒヤヒヤドキドキする。
このようにマダムやセレブなどのとにかくお金を持ってそうな人や有名人がよく来店していたため、緊張のあまりオーダー後に「火を付けるのを忘れるミス」をよくしていた。ランチセットが出来上がって持って行っても焼き網が冷たい、という失態。お客様は何も怒らない人ばかりだけれど、チーフや主任に何度も怒られた。本当に申し訳なかった。
また、追加オーダーでは焼肉のジュージューした音と店内BGMに私の声がかき消され、話してもほとんど聞こえていないことが多くあった。そのせいでたまにオーダーミスがあり、お客様に迷惑をかけ、スタッフは中で激怒。
目を見て笑顔で声を張り行う、上品な接客。お肉もお料理も料理人も一流なのに私のミスのせいで台無し、だけれどお客様は一切怒らない人たちばかり。高級だからとミスしないようひとつひとつ丁寧にやっても、難しいことはやっぱり難しい。「高級」の言葉の先にあるものに私は気付くことができず、劣等感を漂わせながら接客をしていたかもしれない。最悪だな。
ディナーシフトに入るようになるとメンバーも変わり、その中にいた超お嬢様育ちの「Tさん」という同い年の女の子と人間関係で苦労した。
初対面のときに挨拶をしたら、私を下から上までまじまじと見て無視。持ち物はすべてハイブランドで、コスメもデパコス。「ごきげんよう」を日常的に使う人なのに、休憩中は足を組みながら煙草を吸い、口調や態度がサバサバで上から目線。当たりがとにかくきつい。育ちがいいのにこの態度かよ、と何度思っただろう。
とろい私のせいもあるけれど、仕事中Tさんからは「は?」「何それ?」「バカじゃないの?」を連発され、しまいにはわざとぶつかってきて、私に熱いお茶をこぼす。ほかの人と私とでは態度が全く違い、主任にも店長にもにこやかなのに私にはこれ。同い年で新人の私にとにかく上から目線で、使う言葉のひとつひとつがズキズキと刺さった。
訳がわからなかったけれど誰にも相談できず、予約がないお座敷の個室に駆け込み声を殺して泣いたこともあった。
そのあと私は半年で退職。どのアルバイトも半年間は絶対に耐えるけれど、ここでもまた人間関係が原因となってしまった。
p.s.
テレビに出ているような人がご来店してお連れ様が家族であれデートであっても、スタッフには「守秘義務」があるから絶対に秘密という決まりがあった。個室でももちろん「お料理をお出しするだけ」で一般のお客様と変わりなく接する。
そんな中、超有名俳優の方が私に話しかけてくれたことが何度かあった。大学名を聞かれ、どのあたりに住んでいるの?といった内容だったり、今日もおいしかったです、と満面の笑顔も一緒だったり。
テレビの画面越しだと綺麗にかっこよくメイクをして高い衣装を身にまとっていい部分だけを編集して放送しているし、芸能人は何よりお金持ちだという先入観(もちろんその分スケジュールは多忙)で、非の打ち所がない人たちばかりだと思っていた。それがモデルさんなら加えてスタイルも抜群に良いから、食事制限を毎日毎日しているのかな、と。
私が勝手にこう思っていた、雲の上の上にいるようなすごい人たちのカメラもパパラッチもない自然体な一面を見たとき、そのたびになんだか嬉しくて、心の中で感動した。