「「カード師」 中村文則 著 朝日文庫」 

どこかで、躓いて転んだ時、たまたまそこにとんがった岩があり、その岩で頭を打ち、死んでしまった人がいるとします。その人は運が悪かったと思う人がほとんどでしょう。でも、こう考える人もいるかもしれません。「その岩は、その人がそこで転ぶのをじっと待っていたのだ」という考えです。

 

もしそれが正しいとすれば、宇宙の法則を完全に知ることができれば、次の瞬間に何が起こるのか知ることができるでしょう。

だから、人は、予言を含む超常的な力に救いを求めます。1973年に出版され大ブームとなった「ノストラダムスの大予言」、1974年のユリ・ゲラーブーム、1990年代のオウム真理教の台頭、近年の陰謀論。有力者も占いに頼ります。山本五十六は水野義人という占い師からアドバイスを得たとのことです。ヒトラーにはお抱え占い師がいたと言われています。マスコミは超能力者を煽り、大衆は超常的な能力に狂喜します。今ではSNSが情報を拡散していきます。

 

狂喜のエネルギーは、未来に影を落とす存在を敵視し、それが、魔女狩りによる火刑などの残虐な行為、ナチスによるユダヤ人虐殺、スターリンによる大粛清などになり得ます。ネット上のバッシングや炎上は、その種火のようなものだと僕は思っています。

 

しかし、未来は予測することはできません。

 

この本の中のギャンブル場面で、「ポーカーで自分のフルハウスが確定していて、自分が負けるのは相手が、成立確率は0.17%のフォーカードの場合のみなのに、負ける」シーンが出てきます。ありえないことは起こります。

 

1995年1月17日の阪神淡路大地震も、2011年3月11日の東日本大震災・大津波も、誰もピンポイントで予言することはできませんでした。

 

「だから人間は、本当は、誰も完全に絶望することはできないんだ。(p.430)」と、主人公の新籐の大学の同期で物理学専攻のIが言います。僕は、Iの言葉に安堵します。

 

2011年の3月10日の僕自身の経験を思い出します。何がきっかけだったのかは忘れましたが、その日、たまたまネットで日本各地の地震の長期予測がどうなっているのかを調べました。その時、東北に今後30年間に大きな地震が起こる確率がとても大きいことを知りました。それがどのような地震を想定していたのかの詳細は覚えていませんが、東北で地震があるとリアス式海岸だから津波は怖いよなと思った事は覚えています。嫌な感じだなと思いました。

 

僕には、予言能力があるのでしょうか?少なくともその頃にはあったのでしょうか?

 

それはないでしょう。この小説の主人公のように、僕には占いの能力はないのです。予言はたまたま当たる事があります。その確率は、おそらくフォーカードをあがるぐらいの低いものなのだろうと思います。偶然に過ぎないのでしょう。偶然を必然と勘違いした時に、悲劇が起こります。

 

 

 

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