「「第三次世界大戦はもう始まっている」 エマニュエル・トッド 著 文春新書」
ロシアのウクライナ侵攻に、僕は当初から反対の立場をとっています。戦争は、特に民間人を殺害してしまうことは許される行為ではないという当たり前の感情からです。そういうことを言うと、「じゃあ、イラク戦争のときのアメリカはどうなのよ?」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、僕は、イラク戦争時のアメリカについても批判してきたので、矛盾はないかと思っております。
戦争という行為にはNoですが、その原因は考察すべきだと考えています。

戦争を始めたのはロシアなので、ロシア側から、ウクライナとその背景にあるNATOおよびEUやアメリカはどのように見えていたのかという視点も知っておきたいということと、戦争が始まって1年以上が経ち、さまざまな情報が錯綜する中、そうした情報を整理したいと思い、この本を買いました。

この本の中で紹介されているシカゴ大学教授の国際政治学者ジョン・ミアシャイマー氏は、「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確に警告を発してきたのにもかかわらず、アメリカとNATOがこれを無視したことが、今回の戦争の原因だ(p.13)としています。

これは、おそらく今見えてきている「理由」の中で、最も説得力のあるものだと思います。

この本を読んで、興味深かったのが、ウクライナの3つの地域の文化的な違いです。

西部(ガリツィア)、中部(小ロシア)、東部・南部(ドンバス・黒海沿岸)という3つの地域があまりに異なっていることから、著者は、「ウクライナには国家が存在しない(p.29)」とまで言っています。ウクライナは、「西部に「ユニアト信徒〔ウクライナ東方カトリック教会の信徒。儀式は東方典礼を受け継ぎつつもローマ教皇の首位権を認める〕のウクライナ人」、中部に「ギリシア正教のウクライナ人」、東部に「ロシア系住民(ロシア語話者)」という、三つの住民集団を抱えている(p.29)」のです。

ウクライナには国家が存在しないとまで言っていいのか僕にはわかりません。なかなか一枚岩にはなりにくい国なのだろうと想像します。ただ、著者も指摘しているように、ロシアのウクライナへの侵攻が、ウクライナ人としてのアイデンティティを高め、「反ロシア」の機運で、国内がみな同じ方向を向くという結果になってしまったことはあるかもしれません。

もし短期にウクライナ侵攻が成功していたら、こうした機運は起こりにくかったかもしれません。また、「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」と言う理由で始めたとしても、もはやウクライナが親ロシアになるということは当面考えられませんし、フィンランドやスウェーデンがNATOに加盟する方向になってしまったという結果を招いてしまいました。その意味でも短期に勝利を得ることのできなかったロシアの作戦は、失敗と言えるでしょう。これは、誰もが想像できなかった「軍事面での予想外の事態(p.100)」なのです。一体、なぜ、こんなことが起こってしまったのかについても、戦争が終わった後明らかになってくるでしょう。

また、新聞・テレビ・ネットでは、ロシア側からの「虐待を受けている東部ロシア系住民を救済するため」という「理由」が報道されていますが、この本の中では、ほとんど語られていません。

その他、著者自身にも、迷いがあるように思える箇所があります。ロシアが奪った土地はウクライナ領土の20%から25%に及ぶのでこの作戦は成功したかのような記述があります(p.38)が、一方で、キーウ制圧の失敗、黒海艦隊「モスクワ」の沈没について、ロシア軍の凄まじい失敗(p.109)としています。おそらく、著者自身も確固たる確信を、現時点では持てないのでしょう。

また、著者自身も仄めかしていますが、著者はアメリカが嫌いなのです。だとすると、なんらかのバイアスが入り込む余地はあると考えておいた方がよいでしょう。ですから、さまざまな知見が示されているこの本も、「絶対」ではありません。書かれていることは、現時点での推論に過ぎません。僕自身は、いくつかの点には賛同しますが、いくつかの点については賛同できませんし、そのほかについては、正しいのかどうか判断がつきません。

今回の戦争について、まだまだ、知られていない「理由」があるはずです。現時点で表に出てきた「理由」が必ずしも真の「理由」とは限らないでしょう。著者も言うように「ロシアもウクライナも嘘をついている(p.146)」ことを常に念頭に置いておかないと、判断を誤ることになるでしょう。

「理由」を含む「真相」は、長年かけて明らかにされていくのでしょう。現時点で断定できるものではないと考えます。

その他に気になる点は、ロシアによるウクライナ侵攻に関する副次的なテーマとして日本の軍事についての言及です。著者は、日本もアメリカ追従ばかりでなく、独自の国家として日本が存在するために、「日本は核を持つべきだ(p.58)」と、主張しています。アメリカの行動は、危うく不確かなので、盲目的な追従は危険であり、独自の判断で動くべきだ、そのためには核武装して発言力を高めるべきだと言うことなのでしょう。

しかし・・・と、僕は思います。空気によって個人の意見が表明できにくい日本が、独自の判断で動き始めたらどうなってしまうのだろうかと心配になります。日本は、まずは、多くの人(少なくとも指導者層)が、対等性・多様性を意識した対話ができて、皆が自由に意見交換できる国になることが先決でしょうと思います。

そして、僕は、第三次世界大戦は始まっているとは思いませんし、それを始めるほど人類が愚かだとは思いたくありません。

 

 

 

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