第2352回「スリリングな出会い」

風邪をひいていたのかもしれない。彼女は、マスクをしていたが、少なくとも隠されていない部分は、CanCamのモデルのような「かわいさをアピールしつつもかわいいだけじゃないのよ」系のメイクをきめていた。

「マスクをとってもいいよ。風邪がうつったってかまわないさ」と思ったが、口には出さず、言葉を飲み込んだ。ちゃらい男と見られるのは本意ではない。

ここは、寡黙な男で通そう。必要なこと以外は、しゃべらないのだ。

たいていの男は、「キミ、カワゥイイネェ」から始まり、いきなり携帯番号を聞くのだろう。だからこそ、彼女は、寡黙な僕に、不安を感じるのだ。

「私に魅力がないのかしら?」

そこがねらいだ。

ピンクのミニのワンピースを着た彼女は、そんな不安を隠し、平静を装い、僕を席に案内してくれた。

彼女は、僕の方を振り向き、

「お荷物のほう、そこに、置いちゃってください」

と、にこやかに微笑んだ。

「・・のほう?」、「・・ちゃってください?」・・僕は、おおいに引っかかったのだが、こうした席で、つまらぬことを言って、空気を壊すのも無粋ってもんだ。

彼女は、僕の横に座り、耳元に顔をよせた。

僕は心の中で叫んだ。

「お顔のほう、いっそのことくっつけちゃってください!」

しかし、僕は、その言葉をぐっと飲み込んだ。なにしろ、僕は寡黙な男なのだから。

・・・歯医者は、いつもスリリングだ。



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☆ セラピストビレッジは、セラピストおよびセラピストをめざす人、セラピーや心理学に興味を持っている人たちの相互勉強会です。勉強会と言ってもお固いものではありません。自分たちが思いついた事を試してみる場です。参加者が自分たちのセラピーを作り出し発信して行く場にしたいと思います。


☆ TENは、多くの精神的疾患と呼ばれる状態を、「成長の過程における混乱」ととらえることによってサポートするあり方を探求しています。3ヶ月に1度ミーティングを開いています。ミーティングは、参加者のそれぞれの感じている事を自由に語り合う場です。



向後善之(ハートコンシェルジュ・カウンセラー)
ハートコンシェルジュ

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