べりぃ的
百万円と苦虫女
監督 タナダユキ
あらすじ
蒼井優さん演じる佐藤鈴子は、短大を卒業しても就職できず実家にいながらアルバイト生活を送っている女の子。
そんな生活を変えたいとバイト先の同僚とルームシェアをして暮らすことにしたが、理不尽なことから事件を起こしてしまい、前科者になってしまう。
人との関わりを避けるように家族のもとを離れ、
百万円あれば一人暮らしができるからと、百万円が貯まるたびに誰も知らない土地へと移り住むことにする。
海の家、桃畑、行く先々で働きながらさまざまな出会いがあり温かさに触れるが、その関係から逃げていく。
そんな中、はじめて自分の心を打ち明けられる森山未来さん演じる中島亮平に出会い、少しずつ心境が変わっていくが....。
グッときたポイント
⚠️ネタバレ注意⚠️
むしろ探したくないんです。どうやったって、
自分の行動で自分は生きていかなくてはいけないですから。
探さなくたって、
イヤでもここにいますから。
...逃げてるんです。
口下手で、ずっと自分の殻に閉じこもっていた鈴子。
前科者となってしまった鈴子が実家に帰ると、中学受験を控えている弟の拓也からは激しく非難され、両親からも腫れ物に触るように扱われてしまい、鈴子は百万円貯めて、この家を出て行く決意をします。
なぜ百万円なのかは、新しく家を借りるときの頭金と当面の生活費になるから、新しい場所に引っ越しても心配のない金額だからと弟の拓也に伝えますが、
その百万円というのは、鈴子にとって
自分と他人を隔てられる壁のようなものを表している具体的な金額なのだろうなと思います。
本当のことを話したり、自分の秘密が知られることは、自分の居場所がなくなるということだと鈴子は思っていて、拓也に話したとおり、鈴子は百万円が貯まるごとに誰かと親しくなる前にいろいろな所へ転々としていきます。
まず、鈴子は海の家でアルバイトをします。
そこで口下手の鈴子は、かき氷を作る才能があると店主にベタ褒めされます。
鈴子は手先がとても器用なのです。
鈴子は自分には何も取り柄がないと思っていたけど、海の家で働き始めて、器用にかき氷を作ることができる自分の才能を発見した瞬間でもあります。
またそれは、手先は器用だけど、器用だから生き方も器用なのかと聞かれたらそれはどうなのだろうと問われているのかなと思いました。
まぁ、そもそも器用な生き方ってなんだろうって思いますが、
鈴子は、そこでしつこくアプローチをしてくる男性にも目もくれず、ひたすら百万円を貯めることだけに集中しています。
俺たち、友達だろ?
とアプローチしてきた男性に言われ、お互いに名前も知らないのに。(本当の自分を知らないのに何言ってるの)と百万円を貯めた後、男性から逃げるように海の家を去ります。
次の所は、桃農家での住み込みバイト。
そこでも鈴子の器用さは光り、桃をもぐために生まれてきたと言われる程、農家からベタ褒めされます。
桃農家のお母さんと息子さんの温かさに少しずつ心を開きかけますが、住み込みというのは他人を遠ざけたいという心理がさらに反映されたような場所と部屋で...
お風呂のドアを1枚隔てた脱衣所や、起きて来なければ寝室にまで入ってこられるという、自分と他人の距離感が近すぎる田舎特有の感覚に戸惑うのですが、そのことも後に鈴子の心の成長につながったのだと思います
そして次に越した所は、実家から特急電車で1時間ちょっとで行ける場所で、1人で住むには十分に広い心の余裕が少しだけできたと思えるような部屋。
その心の余裕は、彼女がホームセンターのバイトで出会った大学生の中島亮平と打ち解けていく様子からもわかります。
中島亮平は、親切で優しく悩みをさらけだせるほどの包容力があって、落ち込んでいる鈴子を励まし、真意も見抜いたり、隠された彼女の気持ちも理解しようとしていました。(大学では心理学を学んでいたからかな)
亮平は、鈴子に転々と暮らしているのは自分探しのようなものですか?と尋ね、鈴子は、そこで
むしろ探したくないんです。どうやったって、
自分の行動で自分は生きていかなくてはいけないですから。
探さなくたって、イヤでもここにいますから。
...逃げてるんです。
と、本心を伝えるのです。
鈴子にとって、本当に必要だった人は、本心を伝えられる人だったということがわかります。
亮平と交際をすることにした鈴子は、やっと幸せな日々を過ごしていましたが、ある時からお金貸してくれない?と亮平に言われるようになったり、お金がないからとデート代を払ってくれなくなります。
献身的に亮平に尽くしてきた鈴子でしたが、お金があるから交際してるのだろうと疲れてしまい、亮平と別れることを決意します。
ただ、それは、亮平が鈴子と離れたくなくて百万円が貯まらないようにしていたのであって、
鈴子は、亮平が他に彼女ができたのだろうと勘違いをしたまま2人は別れてしまいます。
亮平に疲れたと伝えた後、鈴子は弟の拓也から初めて届いた手紙を読みます。そこには、
お姉ちゃんみたいに逃げないと決め、中学受験はせずにいじめっ子と同じ中学に行く、と書かれていました。
拓也は壮絶ないじめを受けていたのです。
そんないじめから逃げずに1人で立ち向かっていた拓也を想い、鈴子は、
姉ちゃんダメだ。全然ダメだ。と泣き出し、
そして悟るのです。
鈴子は、拓也に、
家族でも恋人でも大事なことは言わないでいることが、長く一緒にいるためのコツだと思っていたと返事を書き、こう続きます。
いつの間にか何も言えない関係になってしまうことは不幸なことです。
人は出会ったら必ず別れるのだと思います。
その別れが怖いから、姉ちゃんは無理をしていました。
でも、出会うために別れるのだと今、気づきました。
だから、好きな人とお別れしたって、ちっとも泣くような事じゃないって思いました。
そして、鈴子は、バイトを辞めて、次の街では逃げずに自分の足できちんと立って生きていこうと決意して、
ドーナツを咥えながら階段を登り、自分が間違っていたと追いかけてきた亮平に出会うことなく、一度振り返りますが、また歩き出し、そこで映画は終わります。
辛いことがあったのなら逃げてもいい。
逃げ続けていたとしても自分からは逃れられない。
どんなことがあって、
どんなことをしたとしても、
それはいつしか幸運につながることもあり得るし、人生には必要なことだったと思えるようになるかもしれない。
一見、鈴子はフラフラと生きているように見えますが、どんな所でも、自分自身を成長させて自分の中で自身と闘ってきたのだと思います
そんな鈴子のこれからの未来が
明るいものでありますように