医学の常識は、新たな研究によって年々移り変わっていきます。

近年医療の現場ではEvidence Based Medicine(EBMエビデンス ベースド メディスン)が重要視されています。これは、権威ある大先生がこうやって治療しているからまねをする、この治療が効果ありそうだから行うといったように、経験的なもので行う医療ではなく、基礎のみならず臨床研究よる科学的な証拠(エビデンス) に基づいて、より合理的で新しい医療をやっていこうという考えで行われる医療なのです。

 事実、近年では病気の診断や治療 などについての指針となる各科の「診療ガイドライン」も、EBM の考え方に沿って作成されることが一般的になっています。

 ところが、現実の臨床の現場はそう単純には行かないものなのです。同じ治療方針が、全員に当てはまるとは限らないからです。たとえば、分かりやすい例として卵の食べ方をかんがえてみましょう。

 これまで、食べすぎると動脈硬化などを招くとして悪者扱いしてきたコレステロールについて、2015年5月に日本動脈硬化学会が「食事で体内のコレステロール値は大きく変わらない」との声明を発表しました。厚生労働省も同年、5年ぶりに改定された「食事摂取基準」いおける「コ

レステロールの基準」を撤廃しました。つまり、これまでのコレステロールが多いから卵はたくさん食べない方が良いという考えは間違えだったということが,エビデンスによって明らかとなったという訳です。

 このエビデンスとなった研究を、ここでは分かりやすく9人の対象者で行ったとして考えてみましょう。たとえば9人に卵を毎日5個ずつ食べていただいたとします。食べる前と,食べ続けて2週間後に採血をすると、3人の血液中のコレステロールが増加し、他の3人ではかえって減少。残りの3人では変化がなかったとします。全体の平均でみれば、卵を沢山食べても血液中のコレステロールは変化しなかったということになります。ところが、一人一人でみれば、その結果は大きく異なっていることに気付くでしょう。

 つまり、卵を沢山食べることで動脈硬化にかかわる悪玉コレステロールが増えてしまうケースも考えられるわけで、喫煙習慣や高血圧の合併など、他のリスクも考慮しつつ、食事のことを考える必要があるのです。
 
 このように、「卵は沢山食べても良い」というような新常識も、ケースバイケースという訳です。新常識だといって鵜呑みにするのではなく、正しく知ることがとても大切です



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