〜おまえは守って戴くことを心の底から必要とした日は無かったろう〜 


「吉本隆明初期詩集」吉本隆明著/講談社文芸文庫/256ページ

 

この本の前に読んだ本がたまたま

「地の糧」(アンドレ・ジッド)

であった。

 

地の糧は、主体のナタナエルへの独白というかたちで進められる。

 

ところどころ

心に深く埋め込まれる言葉があることも確かではあったが、

言葉と言葉の間に私の思考がしばしば途切れ、

世界に入って行けないことも多かったというのが正直なところ。

 

今回、この吉本隆明詩集のなかに、

 

「エリアンの手記と詩」

 

が収められていて

思わず前出の「地と糧」を連想させるとともに、

それとの相違も感じさせた。

 

こちらも基本、主体のミリカへの独白というかたちで進められる。

 

この世界の律を肌で感じ始める多感な時期に

律で収まりきらない乱を心の内に抱え生きる

 

どうしようもない、

自分の異質さ、生きにくさ

 

辻褄を合わせること

合わせきれないこと

 

生の実感と

自己の無力感

 

心の相剋が

時に投影され、時に投影されない

満目荒涼とした現実世界

 

この社会において

人は皆、

それぞれの時間軸で

内面にその相剋を抱え生きている

 

「地の糧」が私にはずいぶん読みにくいと感じただけに、

今回は、情景が途切れずに読めることの幸せを感じた詩だった。

 

一方で非常に自分の無力感も感じた

 

吉本隆明のほとんどの詩が、わからない

 

「地の糧」のときに感じた読みにくさはない

 

読めるのだ、


だが わからない

 

私には

戦争体験が(間接的にも)身に備わっていない、

死の恐れがない、

絶望がないのだ、

ということを痛感せざるを得なかった。

 

私はミリカのような人間なのかもしれない。

自分は

 

おまえの晨朝のお祈りはきっと≪神様お守りください»だろう 

だがおまえは守って戴くことを心の底から必要とした日は無かったろう

 

このとおりだなと思う。

 

転位のための十篇をまるで理解できない、

自分の感性の底の浅さにがっかりした。

しかしそんな自分との出会いもきっと一つの経験であり、

時の流れとともに変化することもあるかもしれない

 

そう、「エリアンの手記と詩」のミリカのように。