前記事で、アニメ「ザ・リフレクション」の最終回がゲド戦記を彷彿とさせる…てなことを書きました。

作中で描かれる光と闇の関係性が似ているなと。

 

そしたら読みたくなって我慢できなかったので再読しました。

『影との戦い』。

 

 

 

『影との戦い ゲド戦記1』岩波少年文庫
(アーシュラ・K. ル=グウィン作 清水真砂子訳/岩波書店)


アースシーのゴント島に生まれた少年ゲドは、自分に並はずれた力がそなわっているのを知り、真の魔法を学ぶためロークの学院に入る。進歩は早かった。得意になったゲドは、禁じられた魔法で、自らの〈影〉を呼び出してしまう。(カバー裏表紙より)

 

 

もうめっちゃ面白いの。
中学・高校・大学生時代の計3回は読んでるはずだし、まぎれもない古典的名作だし、私がここで感想書くのも今更感があるとは思うのですが、それでも言いたい。
めっちゃ面白いよー!

多島海(アーキペラゴ)から成る異世界アースシーを舞台にした「ゲド戦記」。
ハードカバー版刊行当時は三部作と思われていたものの、かなりの年数を経て第4巻が発表されました。
現在は岩波少年文庫で全6巻のシリーズとして再構成されています。

1『影との戦い』
2『こわれた腕環』
3『さいはての島へ』
4『帰還』
5『ドラゴンフライ アースシーの五つの物語』
6『アースシーの風』

邦題はゲド戦記ですが、ゲドが中心人物として出てくるのは3巻目まで。実質主人公なのは第1巻のみ。
4巻目以降は作者自ら作品世界の在り方を否定し再構築していくので、ゲドの物語と言うよりアースシーに生きる人々の物語になっています。
『こわれた腕輪』と『ドラゴンフライ』が好きだな。

そして私の中で『影との戦い』は格別です。
子どもの頃に読んで、ストーリーにいたく感銘を受けたので。


のちの大賢人にして竜王、魔法使いゲドの知られざる少年期を描いた物語。
ハイタカ、真の名をゲド。
田舎の島でヤギ飼いやってた少年が魔法学院に入学して、竜退治をして、世界を舟で旅して、得体の知れぬ影と戦う。

これだけ書くとドキドキワクワクなスペクタクル冒険ファンタジーって感じだ!
でも、文章が冷静で俯瞰的だからか、とても静かな印象を受けます。
バトルシーンや魔法は決して派手なものではなくて、登場人物の問答や内面描写の方が鮮烈です。

例えばペンダーの竜との戦い。
ここって作中でも特にファンタジー的な(珍しく魔法で戦う)シーンにもかかわらず、竜に打ち勝つ決め手は魔法の一撃ではないのです。
竜の甘い言葉に抗い、誘惑を退けた末に決着がつきます。
改めて読むと象徴的だ。

魔法使いのくせに魔法を使わないのがアースシーの魔法使い。

「この石ころを本当の宝石にするには、これが本来持っている真の名を変えねばならん。だが、それを変えることは、よいか、そなた、たとえこれが宇宙のひとかけにすぎなくとも、宇宙そのものを変えることになるんじゃ。(中略)わしらはまず何事もよく知らねばならん。そして、まこと、それが必要となる時まで待たねばならん。あかりをともすことは、闇を生みだすことにもなるんでな。」
 

小石をダイヤモンドに変えたゲドに対する、手わざの長の台詞。哲学っぽい。

ゲド戦記の魔法観好きなんですよね。
RPG的にバンバン使える魔法も夢があるけど、魔法=万能ではない方が腑に落ちる。
科学が使い方次第で世界を滅ぼすのと同じように、魔法にも制約があり世界の法則の上に成り立っている、そういう描かれ方が好きです。

血気にはやる少年だったゲドは最初それに気づけない。
なまじ優れた力を持っていたために、慢心とプライドと対抗心におぼれて〈影〉を呼び出してしまう。

以来、彼は不安と恐れと自己不信に苛まれて生きる。
過ちを犯して初めて魔法を使わないことの大切さ、世界の均衡について理解し始める。
逃げ、追いかけ、最後にようやく影の何たるかを知る。

ゲドという人間が出来上がっていく過程のなんと愛おしいことか。
クライマックスに向けての精神的な高まりがすさまじくて、そういう意味では何にも増してドキドキワクワクします。

ゲドが影の名を呼ぶシーン!
この後の地の文がすっごい好きで……引用したい……
しかしこの文は、物語を読み進めて自力でたどり着いてこそ意味がある。
とにかく文庫版307ページ8行目から14行目の文章がさ、たまらんな。

本作の醍醐味は魔法で何かをすることではなく、魔法を理解すること、自分と向き合うことなんだと今ではわかります。
影とゲドの対峙。初めて読んだ時は衝撃でした。
もちろん大人になった今でも感動的ですが、主人公ゲドへの共感は自己確立に悩む学生の時期に触れてこそって気がします。
だから児童書なんだろうなこれは。

 

理屈は置いといて、ロークの学院生活とかカラスノエンドウとの友情とか、島から島への船旅とか楽しいよ。
ゲドと行動を共にする小動物のオタクも可愛い。

オジオン師匠が良いんだ。
沈黙をもって語る姿勢も、ゲドを導く言葉も愛情深くてジンときます。
少年時代のゲドは傲慢だけど、ちゃんとオジオンへの愛情に気付くあたり憎めないって言うか。いとしいハヤブサめ。

でもって冒頭に出てくる『エアの創造』が素晴らしく詩的だ。


 ことばは沈黙に
 光は闇に
 生は死の中にこそあるものなれ
 飛翔せるタカの
 虚空にこそ輝ける如くに

 

もうこれだけでカッコよくて痺れる。

本編を最後まで読んだらさらに痺れることは間違いない。