目的の喫茶店に着くころには、雨は土砂降りになっていた。外から店の中を覗くと十ばかりのテーブル席は半分ぐらいが埋められて、良い具合に賑わっている。カサを閉じ、紙袋に詰められた三百円の本を小脇に抱えなおすと、鏡代わりにドアのガラスを使って髪を整えた。それから静かにドアを開いた。
軽いドアベルの音に、顔見知りのウェイトレスが「いらっしゃいませ」と笑顔を見せた。思わず、そうそうこれが正しい店員の対応だよな、などと感心してしまう。──といって、先刻の古本屋の店主が笑顔で「いらっしゃいませ」というのもちょっと不気味ではあるが。
ざっと店内を見渡すと、窓際の二人がけテーブルが空いていた。それが、いつも利用する席だった。この店に来たときは必ずそこへ座るようにしている。さいわいなことに、この店で二人がけのテーブルを利用する客は少ない。それはつまりカップル客が少ないということで、事実四人がけのテーブルで談笑している客のほとんどは老人の団体か家族連れかのどちらかだった。そう、この街はそういう街なのだ。
テーブルに着くと、じきにウェイトレスが水とおしぼりを持ってやってきた。彼女の名はユカという。どういう字を書くのかは知らない。ここのマスターが彼女を「ユカちゃん」と呼んでいるのを頻繁に聞いているせいで覚えてしまったのだ。年令は僕と同じぐらいだろう。土曜日と日曜日、それに水曜日の午後だけ、この店でアルバイトをしている。おそらく大学生だ。高校生と言われても信じるかもしれないが、OLや主婦ということはなさそうだ。案外、フリーターという可能性も否定できない。
「いらっしゃいませ。大雨の中、大変でしたね」
数週間ぶりに聞く彼女の声だった。先週、先々週と、アルバイトやら飲み会やらでここへ来る時間がとれなかったのだ。彼女の声はトーンが低く、外見以上に落ち着いたイメージがある。
「いや、雨だから来たんですよ。まぁ、ここまで降ってくれなくてもいいんですけど」
「天気予報だと、明日も大雨だそうですよ」
「みたいですね」
「このまま梅雨に入ってしまうかもしれませんね。……あ、ご注文はお決まりですか?」
ユカさんはゆったりとした手つきで水の入ったグラスを置き、その隣におしぼりを並べた。彼女の給仕は常に丁寧で、ウェイトレスという仕事は天職であるように思う。
「じゃ、クラブサンドとコーヒーを」
この店に入ると、たいてい同じ注文をする。ここのクラブサンドよりうまいサンドイッチを、僕は他に食べたことがなかった。
「コーヒーはホットでよろしいですか?」
「あぁ、はい」
僕は真夏でもホットコーヒーを飲む。今日のような雨の日など、選択の余地はなかった。
「かしこまりました」
そう言って、ユカさんはカウンターの向こうへ去っていった。その後ろ姿を見つめながら、僕は自分の会話の、あまりにヘタなことに溜め息をついた。せっかく、彼女のほうから話題を振ってくれたというのに。
気を取りなおして、紙袋を開けた。滑り出すように『人魚』が出てくる。改めて手に取ってみると、やはり変わった本だ。題名以外なにも書かれていない本など、一体どこにあるだろうか。よほどの物好きが作ったものに違いない。それを買ってしまった僕自身も相当に物好きではあるが。
表紙を開くと、いきなり現れるのが真っ青なページだ。目次はおろか、作者名も題名もない。ページ番号さえも記されていない。次のページも、同じように青一色だ。その次も、更にその次も一面の青。普通に考えれば、これはただの落丁本だ。しかし、そもそも普通の文庫本で青色のページなど存在するだろうか。世界のどこかにはそういう文庫もあるのかもしれないが、僕の知識や経験においてそういう本は存在しなかった。
ページを繰る手が止まったのは、二十ページめぐらいでのことだった。そこに、白い紙片が挟まっていた。おや、と思った。たしか、この栞は本の中ほどに挟んでおいたはずだった。栞が二枚挟んであるのかと思ったが、その考えはすぐに打ち消された。右肩の角が小さく折れ曲がっていたのだ。その栞は、たしかに古書店で手に取ったものに違いなかった。事実、『人魚』の中からそれ以外の栞は出てこなかった。
「お待たせいたしました。アイスコーヒーとクラブサンドでございます」
唐突に声をかけられて、跳ね上がるほど驚いてしまった。よほどこの不思議な本に集中していたらしく、喫茶店に来ていることをすっかり忘れていたのだ。
「あ、あぁ、どうも」
テーブルの上から紙袋をどけた。そこへ、ユカさんがコーヒーとクラブサンドを並べた。最後に伝票をテーブルの上に伏せて、彼女はちらりと僕の手元を覗いた。変わった本ですね、と彼女が話し掛けてくれることを期待した。が、店が忙しいのか本に興味をひかれなかったのか、それとも僕と会話などしたくはなかったのか、「ごゆっくりどうぞ」と紋切り型の言葉を残して彼女は背を向けてしまったのだった。
僕は少しだけ落ち込んだが、すぐに忘れることにした。今はとにかくこの本だ。クラブサンドを右手に、『人魚』を左手に。一つの見落としもないよう、一枚ずつページをめくってゆく。何も書かれていない本の中からどこかのページに何か書かれていないかと探すその作業は、ヘタな小説を読むより面白かった。
しかし、結果はというと骨折り損だった。『人魚』のどこからどこまでも、背表紙に縫い込まれた二文字の題名以外に書かれているものは何もなかった。正真正銘、これは白紙の束だった。正確には青紙の束だった。僕は腕組みして考えた。──つまり、こういうことだろうか。三百円損した、と。
六月の日曜日。午後になって雨が降ったので、街へ出かけることにした。
街といってもJR終着駅があるほどの田舎町だから、新宿や渋谷のようにはいかない。駅前にはデパートなんてものはなく、薄汚れたビルが不規則に建ち並び、駅前だというのにバス停に並ぶ人の姿はない。木造家屋の目立つ商店街は寂れ果てて活気のかけらもなく、良く言っても悪く言っても時代遅れの、そんな街だ。
僕はこの街が大好きだ。駅前の通りを歩きながら雨に煙る古めかしい街並みを眺めていると、まるで半世紀も昔の日本に行ったような気分になる。我ながら若者らしくない懐古趣味だと思うが、そういう性格なので仕方ない。
今日の外出には、しかし雨の風景を楽しむ以外にも目的があった。商店街の外れにある喫茶店へ行くのだ。ヘミングウェイという名のその店では、雨の日に限ってコーヒーを一杯無料で提供してくれるという、じつにありがたいサービスを実施している。注文はなんでもいい。フルーツパフェでもスパゲティナポリタンでも、とにかく何かを頼めばコーヒーがついてくる。それでいてこれらの料理がやたらとうまいのだとくれば、利用しない道理がなかった。──本当のところは、もう一つ理由があるのだが。
アパートからヘミングウェイまでは、歩いて二十分ほどの距離だ。普段は自転車を使うのだが、雨の降っている日は歩くしかない。百円のビニール傘をさして、老人ばかりの周囲の歩調に合わせながら、のんびりと商店街を眺めて歩いた。
海の近いこの街では、南から吹く風には潮の匂いが混じる。雨の降る日にはその匂いも強くなって、一種郷愁を誘うような独特の香りになる。今までに五回ほど転居して海の近くに住んだことも何度かあったが、この街を満たす潮の匂いは他のどこにもないものだった。
ふと足が止まった。古本屋の前だった。いつでも軒先で香を焚いている仏具店の、斜向かいの位置。かなり古い店だ。木造の壁は白く粉を吹いて変色し、引き戸の磨りガラスはヒビだらけで、廃屋のようなありさまだ。そもそもそれが磨りガラスなのかどうかも怪しいほどだった。古めかしい商店ばかりのこの街でも、ちょっと見かけないほど年代物の家屋だった。看板は出ていなかったが、磨りガラスの向こうに本棚が並んでいるのが見て取れた。
こんな所に古本屋があったかなと思い出してみると、いつもは閉じられている店のシャッターが今日は開けられているというだけのことだった。この街に住むようになって三年間で一度も開いているのを見たことがない古本屋のシャッターが開かれているというのも、滅多とあるものではない。急ぐ足でもなし、と僕は古本屋の引き戸を開けた。まともには動くまいと思って力を込めたところが、引き戸は驚くほどすんなり滑って、とたんに古本屋独特の紙の匂いが鼻を打った。僕は愛書家というほどではないにしても、本を読むのは好きなほうだ。古くなった紙の匂いは、不思議と心を落ち着かせてくれる。
三十坪ばかりの狭い店内には新書に文庫本、選集や雑誌、漫画本まで丁寧に整理されて揃えられていたものの、目を引く本は見当たらなかった。これだけ古い店なのだから稀覯本もさぞかし豊富に違いないという推測は、あっさり破られた。みかけだおしかと毒づいて店を出ようとしたとき、棚の一角に目が吸い寄せられた。海外作家の文庫本がまとめられた棚の隅に、見たことのないような背表紙の文庫があったのだ。僕は半ば無意識のうちに手を伸ばしていた。
手に取ってみると、それは変わった代物だった。大きさは文庫本ほどしかないくせに、羅紗のような手ざわりの布張りが施された豪華な装丁。厚みは標準的な辞書ほどもあってズッシリと重く、ほとんど文庫本としての体裁をなしていない。それよりなにより奇妙なのが作者名はおろか出版社名も記されていないことで、薄青色の布張りの背表紙には『人魚』と銀糸で縫い込まれているだけなのだ。おまけに表紙をめくってみると紙面は青一色で文字一つ印刷されておらず、次のページをめくっても、更にその次のページをめくっても、人魚はおろかイロハのイの字すら出てこないのだった。さては落丁本かと思ったが、それにしてもこんな落丁があるものだろうか。考えられなかった。
どこかに何か書かれていないかとページを繰るうち、白い紙片が出てきた。どこにでもあるような細長い紙切れだ。角が小さく折れている。値段でも書いてあるかと思って抜き出してみたが、何も書かれてはいなかった。どうやら、ただの栞らしい。元の位置にもどして、店の奥に向かった。
店主は、頑固という言葉を絵に描いたような初老の男だった。カウンターにどっしりと腰を下ろして、なにやら分厚いブンガク書のようなものを読んでいる。僕の存在に気付いているのかいないのか、本に目を落としたまま微動だにしない。あまり商売をする気はなさそうだった。
「あの」
手に持っていた本をカウンターに置いて、声をかけた。
「ん?」
それが店主の対応だった。いらっしゃいませという言葉は、どこからも出てこなかった。面倒臭そうにこちらへ向けた銀縁眼鏡の向こうの目は、早く手元の本の続きを読ませろと訴えているようだった。
「この本、値札が付いてないんですが」
「あぁ」
店主は、右手でカウンターの端を指差した。そこに一枚の張り紙があった。藁半紙に毛筆で、こう書かれていた。──値札のない本一律三百円。
「三百円でいいんですか?」
いくら版元不明の代物とはいえ、これだけ立派な作りの本だ。三百円では安すぎるのではなかろうか。だからといって三万円などと言われても困るが、いくらなんでも三百円ということはないだろう。僕が値札を見落としたという可能性だってあるのだ。
しかし、店主の返答は「あぁ」という一言だけだった。口を開くと金を取られるとでも思っているのだろうか。それとも、なにかの宗教かもしれない。雨の日には他人と口をきいてはいけないとかいう教えがあるのだ、きっと。まぁ、他人のプライバシーには立ち入るまい。ともかく僕は三百円を払って、その本を手に入れたのだった。
街といってもJR終着駅があるほどの田舎町だから、新宿や渋谷のようにはいかない。駅前にはデパートなんてものはなく、薄汚れたビルが不規則に建ち並び、駅前だというのにバス停に並ぶ人の姿はない。木造家屋の目立つ商店街は寂れ果てて活気のかけらもなく、良く言っても悪く言っても時代遅れの、そんな街だ。
僕はこの街が大好きだ。駅前の通りを歩きながら雨に煙る古めかしい街並みを眺めていると、まるで半世紀も昔の日本に行ったような気分になる。我ながら若者らしくない懐古趣味だと思うが、そういう性格なので仕方ない。
今日の外出には、しかし雨の風景を楽しむ以外にも目的があった。商店街の外れにある喫茶店へ行くのだ。ヘミングウェイという名のその店では、雨の日に限ってコーヒーを一杯無料で提供してくれるという、じつにありがたいサービスを実施している。注文はなんでもいい。フルーツパフェでもスパゲティナポリタンでも、とにかく何かを頼めばコーヒーがついてくる。それでいてこれらの料理がやたらとうまいのだとくれば、利用しない道理がなかった。──本当のところは、もう一つ理由があるのだが。
アパートからヘミングウェイまでは、歩いて二十分ほどの距離だ。普段は自転車を使うのだが、雨の降っている日は歩くしかない。百円のビニール傘をさして、老人ばかりの周囲の歩調に合わせながら、のんびりと商店街を眺めて歩いた。
海の近いこの街では、南から吹く風には潮の匂いが混じる。雨の降る日にはその匂いも強くなって、一種郷愁を誘うような独特の香りになる。今までに五回ほど転居して海の近くに住んだことも何度かあったが、この街を満たす潮の匂いは他のどこにもないものだった。
ふと足が止まった。古本屋の前だった。いつでも軒先で香を焚いている仏具店の、斜向かいの位置。かなり古い店だ。木造の壁は白く粉を吹いて変色し、引き戸の磨りガラスはヒビだらけで、廃屋のようなありさまだ。そもそもそれが磨りガラスなのかどうかも怪しいほどだった。古めかしい商店ばかりのこの街でも、ちょっと見かけないほど年代物の家屋だった。看板は出ていなかったが、磨りガラスの向こうに本棚が並んでいるのが見て取れた。
こんな所に古本屋があったかなと思い出してみると、いつもは閉じられている店のシャッターが今日は開けられているというだけのことだった。この街に住むようになって三年間で一度も開いているのを見たことがない古本屋のシャッターが開かれているというのも、滅多とあるものではない。急ぐ足でもなし、と僕は古本屋の引き戸を開けた。まともには動くまいと思って力を込めたところが、引き戸は驚くほどすんなり滑って、とたんに古本屋独特の紙の匂いが鼻を打った。僕は愛書家というほどではないにしても、本を読むのは好きなほうだ。古くなった紙の匂いは、不思議と心を落ち着かせてくれる。
三十坪ばかりの狭い店内には新書に文庫本、選集や雑誌、漫画本まで丁寧に整理されて揃えられていたものの、目を引く本は見当たらなかった。これだけ古い店なのだから稀覯本もさぞかし豊富に違いないという推測は、あっさり破られた。みかけだおしかと毒づいて店を出ようとしたとき、棚の一角に目が吸い寄せられた。海外作家の文庫本がまとめられた棚の隅に、見たことのないような背表紙の文庫があったのだ。僕は半ば無意識のうちに手を伸ばしていた。
手に取ってみると、それは変わった代物だった。大きさは文庫本ほどしかないくせに、羅紗のような手ざわりの布張りが施された豪華な装丁。厚みは標準的な辞書ほどもあってズッシリと重く、ほとんど文庫本としての体裁をなしていない。それよりなにより奇妙なのが作者名はおろか出版社名も記されていないことで、薄青色の布張りの背表紙には『人魚』と銀糸で縫い込まれているだけなのだ。おまけに表紙をめくってみると紙面は青一色で文字一つ印刷されておらず、次のページをめくっても、更にその次のページをめくっても、人魚はおろかイロハのイの字すら出てこないのだった。さては落丁本かと思ったが、それにしてもこんな落丁があるものだろうか。考えられなかった。
どこかに何か書かれていないかとページを繰るうち、白い紙片が出てきた。どこにでもあるような細長い紙切れだ。角が小さく折れている。値段でも書いてあるかと思って抜き出してみたが、何も書かれてはいなかった。どうやら、ただの栞らしい。元の位置にもどして、店の奥に向かった。
店主は、頑固という言葉を絵に描いたような初老の男だった。カウンターにどっしりと腰を下ろして、なにやら分厚いブンガク書のようなものを読んでいる。僕の存在に気付いているのかいないのか、本に目を落としたまま微動だにしない。あまり商売をする気はなさそうだった。
「あの」
手に持っていた本をカウンターに置いて、声をかけた。
「ん?」
それが店主の対応だった。いらっしゃいませという言葉は、どこからも出てこなかった。面倒臭そうにこちらへ向けた銀縁眼鏡の向こうの目は、早く手元の本の続きを読ませろと訴えているようだった。
「この本、値札が付いてないんですが」
「あぁ」
店主は、右手でカウンターの端を指差した。そこに一枚の張り紙があった。藁半紙に毛筆で、こう書かれていた。──値札のない本一律三百円。
「三百円でいいんですか?」
いくら版元不明の代物とはいえ、これだけ立派な作りの本だ。三百円では安すぎるのではなかろうか。だからといって三万円などと言われても困るが、いくらなんでも三百円ということはないだろう。僕が値札を見落としたという可能性だってあるのだ。
しかし、店主の返答は「あぁ」という一言だけだった。口を開くと金を取られるとでも思っているのだろうか。それとも、なにかの宗教かもしれない。雨の日には他人と口をきいてはいけないとかいう教えがあるのだ、きっと。まぁ、他人のプライバシーには立ち入るまい。ともかく僕は三百円を払って、その本を手に入れたのだった。
<長恨歌>
作:白楽天
訳:おれ
漢 皇 重 色 思 傾 国 漢皇、色を重んじ傾国を思う
(漢の皇帝はわっぜか好きもんやったじ)
御 宇 多 年 求 不 得 御宇(ギョウ)多年求むれども得ず
(口癖はいつでん「若(わけ)娘(こ)つれっきっ!」)
楊 家 有 女 初 長 成 楊家に女(ムスメ)有り 初めて長成す
(よかおごじょが楊さんげにおったが)
養 在 深 閨 人 未 識 養われて深閨に在り人未だ識らず
(わっぜ育(そだ)っがよかちこっじゃが)
天 生 麗 質 難 自 棄 天生(テンセイ)の麗質自ら棄て難く
(人ん口(くっ)にゃ戸は立いもはん)
一 朝 選 在 君 王 側 一朝選ばれて君王の側(カタワラ)に在り
(皇帝:「じゃがじゃがじゃがじゃがじゃが!」)
廻 眸 一 笑 百 媚 生 眸を廻らして一笑すれば百媚生じ
(にこっち笑(わろ)えばなんちゅあならん)
六 宮 粉 黛 無 顔 色 六宮(リクキュウ)の粉黛無(フンタイ)顔色なし
(どげんむじ娘もどぼれんかったが)
春 寒 賜 浴 華 清 池 春寒くして浴を賜う華清の池
(まだ肌寒(ざみ)っ華清池)
温 泉 水 滑 洗 凝 脂 温泉の水滑らかにして凝脂を洗う
(色白ん肌に湯がピチピチッ!)
侍 児 扶 起 嬌 無 力 侍児(ジジ)扶(タス)け起こせば嬌として力無し
(こしもとん衆(し)が担(かろ)っみればまっこちしなやかで)
始 是 新 承 恩 沢 時 始めて是れ新たに恩沢を承(ウ)くる時
(こいが寵愛の始まいじゃったち)
雲 鬢 花 顔 金 歩 揺 雲鬢(ウンビン) 花顔(カガン) 金歩揺(キンポヨウ)
(花んごっ顔、ふわっちした黒髪に金のびんどめ飾(かざい)が揺れて)
芙 蓉 帳 暖 度 春 宵 芙蓉の帳(トバリ)暖かにして春宵(シュンショウ)度(ワタ)る
(蓮ん花ん帳(とばい)ん中で春の夜を過っ)
春 宵 苦 短 日 高 起 春宵短きにくるしみ日高くして起き
(皇帝:「やいや、もう朝んなったが。まいっぺんばっかい、な、な」)
従 此 君 王 不 早 朝 此れより君王早朝(ソウチョウ)せず
(こげんこっで、皇帝は朝起きをせんごなった)
承 歓 待 宴 無 閑 暇 歓(カン)を承け宴(エン)に侍じて閑暇(カンカ)無く
(アレん時も呑んかたん時も、いつでん傍に侍っちょった))
春 従 春 遊 夜 専 夜 春は春の遊びに従い夜は夜を専(モッパ)らにす
(遊(あそん)も夜(よぃ)も、まっこてひしち独い占め)
後 宮 佳 麗 三 千 人 後宮の佳麗(カレイ)三千人
(後宮にゃ、よかおごじょが三千人ばっかいおっちょいばってん)
三 千 寵 愛 在 一 身 三千の寵愛一身に在り
(三千人分独い占めじゃった)
金 屋 粧 成 嬌 侍 夜 金屋(キンオク)粧(ヨソオ)い成って嬌(キョウ)として夜に侍し
(ふっとか家でみぃごみぃごしっせぇ、あでやかに夜(よぃ)に侍っちょった)
玉 楼 宴 罷 酔 和 春 玉楼宴(エン)罷(ヤ)んで酔うて春に和す
(そんふっとか家ん呑んかたで春の余韻に酔いちくれちょったが)
姉 妹 弟 兄 皆 列 士 姉妹弟兄(シマイテイケイ)皆土(ド)を列(ツラ)ね
(やうちはねっかい出世して)
可 憐 光 彩 生 門 戸 憐れむべし光彩(コウサイ)門戸に生ずるを
(しょのんかぎぃ、一族はのさっちょった)
遂 令 天 下 父 母 心 遂に天下の父母の心をして
(うぜけん父(とう)ちゃん母(かあ)ちゃんも)
不 重 生 男 重 生 女 男を生むを重んぜず、女を生むを重んぜしむ
(「男ん子はいらん、むじょか女(おなご)ん子をこさえんならね」)
驪 宮 高 処 入 青 雲 驪宮高き処青雲に入り
(宮殿の高(たこ)っそびえちょっ辺な雲ずい届っ)
仙 楽 風 飄 処 処 聞 仙楽(センガク)風に飄(ヒルガエ)りて処処(ショショ)に聞こゆ
(仙界んごある音楽(おんがっ)が、いっぺこっぺ聞こえちょった)
緩 歌 慢 舞 凝 糸 竹 緩歌(カンカ)慢舞(マンブ)糸竹(シチク)を凝らし
(まっこち優雅な歌と舞に)
尽 日 君 王 看 不 足 尽日(ジンジツ)君王看(ミ)れども足らず
(皇帝:「じゃがじゃがじゃがじゃがじゃが!」)
漁 陽 ■ 鼓 動 地 来 漁陽(ギョヨウ)の■鼓(ヘイコ)地を動かして来たり
(じゃっどん、突如漁陽かい陣太鼓(じんでこ)ん地響(ぢひび)っがしっせ)
驚 破 霓 裳 羽 衣 曲 驚破(キョウハ)す霓裳(ゲイショウ)羽衣(ウイ)の曲
(霓裳羽衣ん舞曲もひったまがった)
九 重 城 闕 煙 塵 生 九重(キュウチョウ)の城闕煙塵生じ
(戦火煙塵も、奥深け宮中ずい届っ)
千 乗 万 騎 西 南 行 千乗万騎西南に行く
(兵隊をずんばい連れっせ、西南ずいひん逃ぐっこちなった)
翠 華 揺 揺 行 復 止 翠華(スイカ)揺揺として行きて復(マ)た止まり
(翠華ん旗が揺らめいて、行っちゃ止まい、行っちゃ止まい)
西 出 都 門 百 余 里 西のかた都門出ずること百余里
(皇帝:「♪思えば~遠くへ~来たもんだ~♪」)
六 軍 不 発 無 奈 何 六軍(リクグン)発せず 奈何(イカン)ともする無く
(兵隊:「あぁらぁいよまっ(#`皿´)!!!」)
宛 転 蛾 眉 馬 前 死 宛転(エンテン)たる蛾眉 馬前に死す
(楊貴妃は皇帝ん馬ん前(め)でひっ殺されっしもた)
花 鈿 委 地 無 人 収 花鈿(カデン)地に委(ス)てられて人の収むる無し
(花模様んびんどめは地べたんひっちゃれ、誰(だい)も拾わじ)
翠 翹 金 雀 玉 掻 頭 翠翹(スイギョウ)金雀(キンジャク)玉掻頭(ギョクソウトウ)
(頭(びんた)ん飾(かざい)もなんもかんもうっ捨てられた)
君 王 掩 面 救 不 得 君王面(オモテ)を掩(オオ)いて救い得ず
(皇帝は泣っかぶっせ、いけんもでけん)
回 看 血 涙 相 和 流 回(カエ)り看れば血涙相和して流る
(振り返っせ見れば、血ん涙をば流しちょった)
黄 埃 散 漫 風 蕭 策 黄埃(コウアイ)散漫 風 蕭策(ショウサク)
(黄色か砂埃(ずなぼこい)と風ん中をさるっせ)
雲 棧 ■ 紆 登 剣 閣 雲棧■紆(ウンサンエイウ)剣閣に登る
(雲ずい届っごつある橋やらよんごひんごん道を進んせ、剣閣山せ登っちょった)
蛾 眉 山 下 少 人 行 蛾眉山下 人の行くこと少(マレ)に
(蛾眉山麓ん成都ずい来っみたばってん、誰(だい)もおらん)
旌 旗 無 光 日 色 薄 旌旗(セイキ)光無く 日色薄し
(旗も気細せっして、お天道様(さぁ)も弱(よえ)なっちょい)
蜀 江 水 碧 蜀 山 青 蜀江水は碧にして 蜀山は青く
(蜀ん川ん流れは深緑、山は青々)
聖 主 朝 朝 暮 暮 情 聖主 朝朝暮暮の情
(皇帝:「まっこち、ぐらしかぁ~。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。)
心 色 行 宮 見 月 傷 行宮に月を見れば傷心の色
(皇帝:「月ん光も悲しい…」)
夜 雨 聞 鈴 断 腸 声 夜雨に鈴を聞けば断腸の声
(皇帝:「馬ん鈴ん音も悲しい…」)
天 旋 日 転 廻 龍 馭 天旋(メグ)り 日転じて龍馭(リュウギョ)を廻らし
(戦乱が治まい、天下ん情勢が一変すっと、都ずい帰っこちなった)
到 此 躊 躇 不 能 去 此に到りて躊躇して去る能(アタ)わず
(じゃっどん、馬嵬ずい来んみれば、そっかい行っがならん)
馬 嵬 坡 下 泥 土 中 馬嵬(バカイ)坡下(ハカ) 泥土の中(ウチ)
(皇帝:「こん土ん中におっちょっと…」)
不 見 玉 顔 空 死 処 玉顔を見ず 空しく死せる処(トコロ)
(皇帝:「ここでけ死んだ…」)
君 臣 相 顧 尽 霑 衣 君臣相顧みて尽(コトゴト)衣を霑(ウルオ)し
(皇帝も家来んしも振り返りして、涙で袖を濡らしっせ)
東 望 都 門 信 馬 帰 東のかた都門を望みて馬に信(マカ)せて
(東ん城門を望んつつ、馬ん歩(あゆ)んとに任しっせ帰っていった)
帰 来 池 苑 皆 依 旧 帰り来れば池苑(チエン)皆 旧に依る
(もどっきんみれば、池も庭もないも変わりなく)
太 液 芙 蓉 未 央 柳 太液(タイエキ)の芙蓉 未央(ビオウ)の柳
(池ん蓮も、宮殿ん柳もそんまんま)
芙 蓉 如 面 柳 如 眉 芙蓉は面(オモテ)の如く 柳は眉の如し
(蓮ん花はあん顔、柳ん葉はあの眉んごちあっせ)
対 此 如 何 不 涙 垂 此に対して如何(イカン)ぞ涙の垂れざらん
(皇帝:「:・。・゜゜・(≧◯≦)・゜゜・。・え~~~~~~~~ん!!! 」
春 風 桃 李 花 開 日 春風桃李花開く日
(春爛漫の桃ん花が咲っ頃でん)
秋 雨 梧 桐 葉 落 時 秋雨梧桐(ゴトウ)葉落つる時
(秋ん雨に青桐ん葉が散っちょっときでん、皇帝はないもせじ泣っかぶっちょった)
西 宮 南 内 多 秋 草 西宮南内(ナンダイ)秋草多く
(西ん御所も南ん御所も草ボウボウ)
落 葉 満 階 紅 不 掃 落葉階(キザハシ)に満ちて紅掃(ハラ)わず
(溜まっちょい落ち葉もそんままで誰(だい)もはわきもせん)
梨 園 弟 子 白 髪 新 梨園弟子(テイシ)白髪新たに
(梨園の楽人しも頭(びんた)ん毛が白なっせ)
椒 房 阿 監 青 蛾 老 椒房(ショウボウ)の阿監(アカン)青蛾老いたり
(お局んしもすっかいばっばんになっしもた)
夕 殿 蛍 飛 思 悄 然 夕殿(セキデン)蛍飛んで思い悄然たり
(蛍ん光を見てん、また気細しゅうなっせ)
孤 灯 挑 尽 未 成 眠 孤灯挑(カカ)げ尽くして未だ眠りを成さず
(一本灯火を点けちょっとも、芯がねごなってんまだ寝いがならん)
遅 遅 鐘 鼓 初 長 夜 遅遅たる鐘鼓(ショウコ)初めて長き夜
(皇帝:「夜ん間がこげん長(なご)っ感じっとは初めっじゃが…(TT)」)
耿 耿 星 河 欲 曙 天 耿耿たる星河 曙(ア)けんと欲する天
(やがて、ぼや~っち見ゆい天の川ん空も明けっきた)
鴛 鴦 瓦 冷 霜 華 重 鴛鴦(エンオウ)の瓦冷ややかにして霜華(ソウカ)重く
(屋根瓦ん鴛鴦(おしどい)も寒(さみ)、霜もぶ厚(あち)して華んごつある)
翡 翠 衾 寒 誰 与 共 翡翠(ヒスイ)の衾(シトネ)寒くして誰と共にせん
(皇帝:「一人(ひとい)じゃ寂しじ寝いがならんど~(TT)」)
悠 悠 生 死 別 経 年 悠悠たる生死 別わかれて年を経たり
(わっぜか遠く、生と死ん世界に別れてかい、たいぶ経ったばってん」
魂 魄 不 會 来 入 夢 魂魄(コンパク)會(カ)つて来たりて夢に入らず
(夢にも出っこん…)
臨 ■ 道 士 鴻 都 客 臨■(リンキョウ)の道士 鴻都(コウト)の客
(臨キョウん道士で、長安におっちょっとがおった)
能 以 精 誠 致 魂 魄 能(ヨ)く精誠を以って魂魄(コンパク)を致す
(こいがまた、け死んだしん魂(たまい)を招き寄すいっちこっじゃが)
為 感 君 王 輾 転 思 君王 輾転(テンテン)の思い感ずるが為に
(皇帝が悲しみで夜(よい)も眠れじおっちょっとをぐらしち思っせ)
遂 教 方 士 慇 懃 覓 遂に方士をして慇懃に覓(モト)めしむ
(側近しがそん道士に楊貴妃ん魂(たまい)をがっつい探しっもろご頼んだっち)
排 空 馭 気 奔 如 電 空を排し気に馭(ギョ)して奔(ハシ)ること電(イナズマ)の如く
(そん道士は稲妻んごつひっ飛んだ ビューン!ビューン!ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε= ━(* ̄▽ ̄)━)
昇 天 入 地 求 之 遍 天に昇り地に入って之を求むること遍(アマネ)し
(空ん上かい地ん底ずい)
上 窮 碧 落 下 黄 泉 上(カミ)は碧落を窮め下は黄泉(コウセン)
(天の果てかい黄泉ん国ずい)
両 処 茫 茫 皆 不 見 両処茫茫として 皆見えず
(じゃばってん、みっからん)
忽 聞 海 上 有 仙 山 忽ち聞く 海上に仙山有り
(んだもしたん、海ん上に仙人がおっちょい山があっげな」)
山 在 虚 無 縹 渺 間 山は虚無縹渺(ヒョウビョウ)の間に在りと
(そん山は、何(ない)もねしてわっぜ広(ひり)ときあっち)
楼 閣 玲 瓏 五 雲 起 楼閣玲瓏として五雲起こり
(そこん高殿はピッカピカで、五色ん雲がたなびいちょい)
其 中 綽 約 多 仙 子 其の中綽約(シャクヤク)として仙子(センシ)多し
(仙女んしもずんばいおっちょっせ)
中 有 一 人 字 太 真 中に一人(イチニン)有り 字(アザナ)は太真(タイシン)
(そん中ん「太真」さんっち人が)
雪 膚 花 貌 参 差 是 雪膚(セップ)花貌(カボウ)参差(シンシ)として是ならん
(雪んごつ白肌、花んごつ顔が楊貴妃にがっつい似ちょっちこっじゃが)
金 闕 西 廂 叩 玉 ■ 金闕(キンケツ)の西廂(セイショウ)玉■(ギョクケイ)を叩き
(じゃっちこっで、黄金ん宮殿の西棟、玉ん扉かいおろんみれば)
転 教 小 玉 報 双 成 転じて小玉(ショウギョク)をして双成(ソウセイ)に報ぜしむ
(次かい次っちたらいまわしじゃった)
聞 道 漢 家 天 子 使 聞道(キクナラ)く漢家(カンカ)の天子の使いなり
(皇帝ん使いが来たっちこっで)
九 華 帳 裏 夢 魂 驚 九華(キュウカ)の帳裏(チョウリ)夢魂(ムコン)驚く
(花模様の帳ん中で眠いかぶっちょった楊貴妃ん魂(たまい)もひったまがったち)
攬 衣 推 枕 起 徘 徊 衣を攬(ト)り枕を推し起(タ)ちて徘徊し
(あわてっせ服を着んみたばってん、どげんしよかちためらっちょったが)
球 箔 銀 屏 ■ ■ 開 球箔(シュハク)銀屏(ギンペイ)■■(リイ)として開く
(結局、玉ん簾やら銀屏風やら、ねっかい開いた)
雲 鬢 半 偏 新 睡 覚 雲鬢(ウンビン)半ば偏(カタヨ)りて新たに睡(ネム)りより覚め
(頭(びんた)ん毛もずんだれっせ、まっこち寝起きんごつあったばってん)
花 冠 不 整 下 堂 来 花冠(カカン)整えず堂を下りて来たる
(びんどめもせじ、そんまんま降りっ来た)
風 吹 仙 袂 飄 ■ 挙 風は仙袂(センベイ)を吹いて飄■(ヒョウヨウ)として挙(ア)がり
(風が吹けば袂がヒラヒラしっせ)
猶 似 霓 裳 羽 衣 舞 猶(ナ)お霓裳(ゲイショウ)羽衣(ウイ)の舞に似たり
(あんときん霓裳羽衣ん舞を舞っちょっごちあった)
玉 容 寂 寞 涙 欄 干 玉容(ギョクヨウ)寂寞として涙欄干
(じゃばってん、そん美しい顔も泣っかぷっちょい)
梨 花 一 枝 春 帯 雨 梨花一枝(リカイッシ)春雨を帯ぶ
(春雨ん中ん梨ん花ごつあった)
含 情 凝 睇 謝 君 王 情を含み睇(ヒトミ)を凝らして君王に謝す
(楊貴妃:「王さまには、まっこちあいがとさげもした」
一 別 音 容 両 渺 茫 一別音容(オンヨウ)両(フタ)つながら渺茫(ビョウボウ)
(楊貴妃:「声も聞っがならん、姿も見いがならん、二人(ふたい)は遥かに隔たい」
昭 陽 殿 裏 恩 愛 絶 昭陽殿(ショウヨウデン)裏(リ)恩愛絶え
(楊貴妃:「愛し合ったこっも過去んこちなっせ」)
蓬 莱 宮 中 日 月 長 蓬莱 宮中 日月長し
(楊貴妃:「蓬莱宮に来てかい、長い長い月日がたちもした」)
回 頭 下 望 人 寰 処 頭(コウベ)を回(メグ)らして下(シモ)人寰(ジンカン)を望む処
(楊貴妃:「下界んさまも気になっせ見んみたばってん」
不 見 長 安 見 塵 霧 長安を見ずして塵霧(ジンム)を見る
(楊貴妃:「霧やら塵やらでないもみえん…」)
唯 将 旧 物 表 深 情 唯だ旧物を将(も)って深情を表し
(楊貴妃:「今はただ思い出ん品で、気持ちをわかいもろご」
鈿 合 金 釵 寄 将 去 鈿合(デンゴウ)金釵(キンサイ)寄せ将ち去らしむ
(楊貴妃:「螺鈿ん小箱と金の簪をばお渡ししっくいやれんですか?」
釵 留 一 股 合 一 扇 釵(サイ)は一股(イッコ)を留め合は一扇(イッセン)
(楊貴妃:「簪は一方ん足、小箱は蓋」)
釵 擘 黄 金 合 分 鈿 釵は黄金を擘(サ)き合は鈿を分かつ
(楊貴妃:「簪は黄金んとこ、小箱は青貝細工んとこを分くったっどん」)
但 教 心 似 金 鈿 堅 但だ心をして金鈿(キンデン)の堅きに似しむれば
(楊貴妃:「っちゅうのが、うちらん気持っがこげん堅かれば」)
天 上 人 間 会 相 見 天上人間(テンジョウジンカン)会(カナラ)ず相見(マミ)えん
(楊貴妃:「どげん離れちょってん、がっつい、どっかでか逢ゆっち思います」)
臨 別 慇 懃 重 寄 詞 別れに臨んで慇懃に重ねて詞(コトバ)を寄す
(別れんきわに、楊貴妃は重ね重ねことづつっ)
詞 中 有 誓 両 心 知 詞中に誓い有り 両心のみを知る
(そんとは、誰(だい)も知らん二人(ふたい)だけん誓い)
七 月 七 日 長 生 殿 七月七日 長生殿(チョウセイデン)
(7月7日ん長生殿)
夜 半 無 人 私 語 時 夜半人無く私語の時
(二人(ふたい)だけでかたった夜)
在 天 願 作 比 翼 鳥 天に在りては願わくは比翼の鳥と作(ナ)り
(「空におっちょっときは比翼ん鳥んごつ」)
在 地 願 為 連 理 枝 地に在りては願わくは連理の枝と為らんと
(「じだんおっちょっときは連理ん枝んごつ、ずっといっしょに居(お)っちょっがね」)
天 長 地 久 有 時 尽 天長く地久しきも時有りて尽く
(どげんしてん、ないもかいも 、先の見えん世の中じゃばってん)
此 恨 綿 綿 無 尽 期 此の恨みは綿綿として尽くる期(トキ)無からん
(こん二人(ふたい)ん相思別離ん悲しい想いばっかいは、いつまでん変わらん)
作:白楽天
訳:おれ
漢 皇 重 色 思 傾 国 漢皇、色を重んじ傾国を思う
(漢の皇帝はわっぜか好きもんやったじ)
御 宇 多 年 求 不 得 御宇(ギョウ)多年求むれども得ず
(口癖はいつでん「若(わけ)娘(こ)つれっきっ!」)
楊 家 有 女 初 長 成 楊家に女(ムスメ)有り 初めて長成す
(よかおごじょが楊さんげにおったが)
養 在 深 閨 人 未 識 養われて深閨に在り人未だ識らず
(わっぜ育(そだ)っがよかちこっじゃが)
天 生 麗 質 難 自 棄 天生(テンセイ)の麗質自ら棄て難く
(人ん口(くっ)にゃ戸は立いもはん)
一 朝 選 在 君 王 側 一朝選ばれて君王の側(カタワラ)に在り
(皇帝:「じゃがじゃがじゃがじゃがじゃが!」)
廻 眸 一 笑 百 媚 生 眸を廻らして一笑すれば百媚生じ
(にこっち笑(わろ)えばなんちゅあならん)
六 宮 粉 黛 無 顔 色 六宮(リクキュウ)の粉黛無(フンタイ)顔色なし
(どげんむじ娘もどぼれんかったが)
春 寒 賜 浴 華 清 池 春寒くして浴を賜う華清の池
(まだ肌寒(ざみ)っ華清池)
温 泉 水 滑 洗 凝 脂 温泉の水滑らかにして凝脂を洗う
(色白ん肌に湯がピチピチッ!)
侍 児 扶 起 嬌 無 力 侍児(ジジ)扶(タス)け起こせば嬌として力無し
(こしもとん衆(し)が担(かろ)っみればまっこちしなやかで)
始 是 新 承 恩 沢 時 始めて是れ新たに恩沢を承(ウ)くる時
(こいが寵愛の始まいじゃったち)
雲 鬢 花 顔 金 歩 揺 雲鬢(ウンビン) 花顔(カガン) 金歩揺(キンポヨウ)
(花んごっ顔、ふわっちした黒髪に金のびんどめ飾(かざい)が揺れて)
芙 蓉 帳 暖 度 春 宵 芙蓉の帳(トバリ)暖かにして春宵(シュンショウ)度(ワタ)る
(蓮ん花ん帳(とばい)ん中で春の夜を過っ)
春 宵 苦 短 日 高 起 春宵短きにくるしみ日高くして起き
(皇帝:「やいや、もう朝んなったが。まいっぺんばっかい、な、な」)
従 此 君 王 不 早 朝 此れより君王早朝(ソウチョウ)せず
(こげんこっで、皇帝は朝起きをせんごなった)
承 歓 待 宴 無 閑 暇 歓(カン)を承け宴(エン)に侍じて閑暇(カンカ)無く
(アレん時も呑んかたん時も、いつでん傍に侍っちょった))
春 従 春 遊 夜 専 夜 春は春の遊びに従い夜は夜を専(モッパ)らにす
(遊(あそん)も夜(よぃ)も、まっこてひしち独い占め)
後 宮 佳 麗 三 千 人 後宮の佳麗(カレイ)三千人
(後宮にゃ、よかおごじょが三千人ばっかいおっちょいばってん)
三 千 寵 愛 在 一 身 三千の寵愛一身に在り
(三千人分独い占めじゃった)
金 屋 粧 成 嬌 侍 夜 金屋(キンオク)粧(ヨソオ)い成って嬌(キョウ)として夜に侍し
(ふっとか家でみぃごみぃごしっせぇ、あでやかに夜(よぃ)に侍っちょった)
玉 楼 宴 罷 酔 和 春 玉楼宴(エン)罷(ヤ)んで酔うて春に和す
(そんふっとか家ん呑んかたで春の余韻に酔いちくれちょったが)
姉 妹 弟 兄 皆 列 士 姉妹弟兄(シマイテイケイ)皆土(ド)を列(ツラ)ね
(やうちはねっかい出世して)
可 憐 光 彩 生 門 戸 憐れむべし光彩(コウサイ)門戸に生ずるを
(しょのんかぎぃ、一族はのさっちょった)
遂 令 天 下 父 母 心 遂に天下の父母の心をして
(うぜけん父(とう)ちゃん母(かあ)ちゃんも)
不 重 生 男 重 生 女 男を生むを重んぜず、女を生むを重んぜしむ
(「男ん子はいらん、むじょか女(おなご)ん子をこさえんならね」)
驪 宮 高 処 入 青 雲 驪宮高き処青雲に入り
(宮殿の高(たこ)っそびえちょっ辺な雲ずい届っ)
仙 楽 風 飄 処 処 聞 仙楽(センガク)風に飄(ヒルガエ)りて処処(ショショ)に聞こゆ
(仙界んごある音楽(おんがっ)が、いっぺこっぺ聞こえちょった)
緩 歌 慢 舞 凝 糸 竹 緩歌(カンカ)慢舞(マンブ)糸竹(シチク)を凝らし
(まっこち優雅な歌と舞に)
尽 日 君 王 看 不 足 尽日(ジンジツ)君王看(ミ)れども足らず
(皇帝:「じゃがじゃがじゃがじゃがじゃが!」)
漁 陽 ■ 鼓 動 地 来 漁陽(ギョヨウ)の■鼓(ヘイコ)地を動かして来たり
(じゃっどん、突如漁陽かい陣太鼓(じんでこ)ん地響(ぢひび)っがしっせ)
驚 破 霓 裳 羽 衣 曲 驚破(キョウハ)す霓裳(ゲイショウ)羽衣(ウイ)の曲
(霓裳羽衣ん舞曲もひったまがった)
九 重 城 闕 煙 塵 生 九重(キュウチョウ)の城闕煙塵生じ
(戦火煙塵も、奥深け宮中ずい届っ)
千 乗 万 騎 西 南 行 千乗万騎西南に行く
(兵隊をずんばい連れっせ、西南ずいひん逃ぐっこちなった)
翠 華 揺 揺 行 復 止 翠華(スイカ)揺揺として行きて復(マ)た止まり
(翠華ん旗が揺らめいて、行っちゃ止まい、行っちゃ止まい)
西 出 都 門 百 余 里 西のかた都門出ずること百余里
(皇帝:「♪思えば~遠くへ~来たもんだ~♪」)
六 軍 不 発 無 奈 何 六軍(リクグン)発せず 奈何(イカン)ともする無く
(兵隊:「あぁらぁいよまっ(#`皿´)!!!」)
宛 転 蛾 眉 馬 前 死 宛転(エンテン)たる蛾眉 馬前に死す
(楊貴妃は皇帝ん馬ん前(め)でひっ殺されっしもた)
花 鈿 委 地 無 人 収 花鈿(カデン)地に委(ス)てられて人の収むる無し
(花模様んびんどめは地べたんひっちゃれ、誰(だい)も拾わじ)
翠 翹 金 雀 玉 掻 頭 翠翹(スイギョウ)金雀(キンジャク)玉掻頭(ギョクソウトウ)
(頭(びんた)ん飾(かざい)もなんもかんもうっ捨てられた)
君 王 掩 面 救 不 得 君王面(オモテ)を掩(オオ)いて救い得ず
(皇帝は泣っかぶっせ、いけんもでけん)
回 看 血 涙 相 和 流 回(カエ)り看れば血涙相和して流る
(振り返っせ見れば、血ん涙をば流しちょった)
黄 埃 散 漫 風 蕭 策 黄埃(コウアイ)散漫 風 蕭策(ショウサク)
(黄色か砂埃(ずなぼこい)と風ん中をさるっせ)
雲 棧 ■ 紆 登 剣 閣 雲棧■紆(ウンサンエイウ)剣閣に登る
(雲ずい届っごつある橋やらよんごひんごん道を進んせ、剣閣山せ登っちょった)
蛾 眉 山 下 少 人 行 蛾眉山下 人の行くこと少(マレ)に
(蛾眉山麓ん成都ずい来っみたばってん、誰(だい)もおらん)
旌 旗 無 光 日 色 薄 旌旗(セイキ)光無く 日色薄し
(旗も気細せっして、お天道様(さぁ)も弱(よえ)なっちょい)
蜀 江 水 碧 蜀 山 青 蜀江水は碧にして 蜀山は青く
(蜀ん川ん流れは深緑、山は青々)
聖 主 朝 朝 暮 暮 情 聖主 朝朝暮暮の情
(皇帝:「まっこち、ぐらしかぁ~。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。)
心 色 行 宮 見 月 傷 行宮に月を見れば傷心の色
(皇帝:「月ん光も悲しい…」)
夜 雨 聞 鈴 断 腸 声 夜雨に鈴を聞けば断腸の声
(皇帝:「馬ん鈴ん音も悲しい…」)
天 旋 日 転 廻 龍 馭 天旋(メグ)り 日転じて龍馭(リュウギョ)を廻らし
(戦乱が治まい、天下ん情勢が一変すっと、都ずい帰っこちなった)
到 此 躊 躇 不 能 去 此に到りて躊躇して去る能(アタ)わず
(じゃっどん、馬嵬ずい来んみれば、そっかい行っがならん)
馬 嵬 坡 下 泥 土 中 馬嵬(バカイ)坡下(ハカ) 泥土の中(ウチ)
(皇帝:「こん土ん中におっちょっと…」)
不 見 玉 顔 空 死 処 玉顔を見ず 空しく死せる処(トコロ)
(皇帝:「ここでけ死んだ…」)
君 臣 相 顧 尽 霑 衣 君臣相顧みて尽(コトゴト)衣を霑(ウルオ)し
(皇帝も家来んしも振り返りして、涙で袖を濡らしっせ)
東 望 都 門 信 馬 帰 東のかた都門を望みて馬に信(マカ)せて
(東ん城門を望んつつ、馬ん歩(あゆ)んとに任しっせ帰っていった)
帰 来 池 苑 皆 依 旧 帰り来れば池苑(チエン)皆 旧に依る
(もどっきんみれば、池も庭もないも変わりなく)
太 液 芙 蓉 未 央 柳 太液(タイエキ)の芙蓉 未央(ビオウ)の柳
(池ん蓮も、宮殿ん柳もそんまんま)
芙 蓉 如 面 柳 如 眉 芙蓉は面(オモテ)の如く 柳は眉の如し
(蓮ん花はあん顔、柳ん葉はあの眉んごちあっせ)
対 此 如 何 不 涙 垂 此に対して如何(イカン)ぞ涙の垂れざらん
(皇帝:「:・。・゜゜・(≧◯≦)・゜゜・。・え~~~~~~~~ん!!! 」
春 風 桃 李 花 開 日 春風桃李花開く日
(春爛漫の桃ん花が咲っ頃でん)
秋 雨 梧 桐 葉 落 時 秋雨梧桐(ゴトウ)葉落つる時
(秋ん雨に青桐ん葉が散っちょっときでん、皇帝はないもせじ泣っかぶっちょった)
西 宮 南 内 多 秋 草 西宮南内(ナンダイ)秋草多く
(西ん御所も南ん御所も草ボウボウ)
落 葉 満 階 紅 不 掃 落葉階(キザハシ)に満ちて紅掃(ハラ)わず
(溜まっちょい落ち葉もそんままで誰(だい)もはわきもせん)
梨 園 弟 子 白 髪 新 梨園弟子(テイシ)白髪新たに
(梨園の楽人しも頭(びんた)ん毛が白なっせ)
椒 房 阿 監 青 蛾 老 椒房(ショウボウ)の阿監(アカン)青蛾老いたり
(お局んしもすっかいばっばんになっしもた)
夕 殿 蛍 飛 思 悄 然 夕殿(セキデン)蛍飛んで思い悄然たり
(蛍ん光を見てん、また気細しゅうなっせ)
孤 灯 挑 尽 未 成 眠 孤灯挑(カカ)げ尽くして未だ眠りを成さず
(一本灯火を点けちょっとも、芯がねごなってんまだ寝いがならん)
遅 遅 鐘 鼓 初 長 夜 遅遅たる鐘鼓(ショウコ)初めて長き夜
(皇帝:「夜ん間がこげん長(なご)っ感じっとは初めっじゃが…(TT)」)
耿 耿 星 河 欲 曙 天 耿耿たる星河 曙(ア)けんと欲する天
(やがて、ぼや~っち見ゆい天の川ん空も明けっきた)
鴛 鴦 瓦 冷 霜 華 重 鴛鴦(エンオウ)の瓦冷ややかにして霜華(ソウカ)重く
(屋根瓦ん鴛鴦(おしどい)も寒(さみ)、霜もぶ厚(あち)して華んごつある)
翡 翠 衾 寒 誰 与 共 翡翠(ヒスイ)の衾(シトネ)寒くして誰と共にせん
(皇帝:「一人(ひとい)じゃ寂しじ寝いがならんど~(TT)」)
悠 悠 生 死 別 経 年 悠悠たる生死 別わかれて年を経たり
(わっぜか遠く、生と死ん世界に別れてかい、たいぶ経ったばってん」
魂 魄 不 會 来 入 夢 魂魄(コンパク)會(カ)つて来たりて夢に入らず
(夢にも出っこん…)
臨 ■ 道 士 鴻 都 客 臨■(リンキョウ)の道士 鴻都(コウト)の客
(臨キョウん道士で、長安におっちょっとがおった)
能 以 精 誠 致 魂 魄 能(ヨ)く精誠を以って魂魄(コンパク)を致す
(こいがまた、け死んだしん魂(たまい)を招き寄すいっちこっじゃが)
為 感 君 王 輾 転 思 君王 輾転(テンテン)の思い感ずるが為に
(皇帝が悲しみで夜(よい)も眠れじおっちょっとをぐらしち思っせ)
遂 教 方 士 慇 懃 覓 遂に方士をして慇懃に覓(モト)めしむ
(側近しがそん道士に楊貴妃ん魂(たまい)をがっつい探しっもろご頼んだっち)
排 空 馭 気 奔 如 電 空を排し気に馭(ギョ)して奔(ハシ)ること電(イナズマ)の如く
(そん道士は稲妻んごつひっ飛んだ ビューン!ビューン!ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε= ━(* ̄▽ ̄)━)
昇 天 入 地 求 之 遍 天に昇り地に入って之を求むること遍(アマネ)し
(空ん上かい地ん底ずい)
上 窮 碧 落 下 黄 泉 上(カミ)は碧落を窮め下は黄泉(コウセン)
(天の果てかい黄泉ん国ずい)
両 処 茫 茫 皆 不 見 両処茫茫として 皆見えず
(じゃばってん、みっからん)
忽 聞 海 上 有 仙 山 忽ち聞く 海上に仙山有り
(んだもしたん、海ん上に仙人がおっちょい山があっげな」)
山 在 虚 無 縹 渺 間 山は虚無縹渺(ヒョウビョウ)の間に在りと
(そん山は、何(ない)もねしてわっぜ広(ひり)ときあっち)
楼 閣 玲 瓏 五 雲 起 楼閣玲瓏として五雲起こり
(そこん高殿はピッカピカで、五色ん雲がたなびいちょい)
其 中 綽 約 多 仙 子 其の中綽約(シャクヤク)として仙子(センシ)多し
(仙女んしもずんばいおっちょっせ)
中 有 一 人 字 太 真 中に一人(イチニン)有り 字(アザナ)は太真(タイシン)
(そん中ん「太真」さんっち人が)
雪 膚 花 貌 参 差 是 雪膚(セップ)花貌(カボウ)参差(シンシ)として是ならん
(雪んごつ白肌、花んごつ顔が楊貴妃にがっつい似ちょっちこっじゃが)
金 闕 西 廂 叩 玉 ■ 金闕(キンケツ)の西廂(セイショウ)玉■(ギョクケイ)を叩き
(じゃっちこっで、黄金ん宮殿の西棟、玉ん扉かいおろんみれば)
転 教 小 玉 報 双 成 転じて小玉(ショウギョク)をして双成(ソウセイ)に報ぜしむ
(次かい次っちたらいまわしじゃった)
聞 道 漢 家 天 子 使 聞道(キクナラ)く漢家(カンカ)の天子の使いなり
(皇帝ん使いが来たっちこっで)
九 華 帳 裏 夢 魂 驚 九華(キュウカ)の帳裏(チョウリ)夢魂(ムコン)驚く
(花模様の帳ん中で眠いかぶっちょった楊貴妃ん魂(たまい)もひったまがったち)
攬 衣 推 枕 起 徘 徊 衣を攬(ト)り枕を推し起(タ)ちて徘徊し
(あわてっせ服を着んみたばってん、どげんしよかちためらっちょったが)
球 箔 銀 屏 ■ ■ 開 球箔(シュハク)銀屏(ギンペイ)■■(リイ)として開く
(結局、玉ん簾やら銀屏風やら、ねっかい開いた)
雲 鬢 半 偏 新 睡 覚 雲鬢(ウンビン)半ば偏(カタヨ)りて新たに睡(ネム)りより覚め
(頭(びんた)ん毛もずんだれっせ、まっこち寝起きんごつあったばってん)
花 冠 不 整 下 堂 来 花冠(カカン)整えず堂を下りて来たる
(びんどめもせじ、そんまんま降りっ来た)
風 吹 仙 袂 飄 ■ 挙 風は仙袂(センベイ)を吹いて飄■(ヒョウヨウ)として挙(ア)がり
(風が吹けば袂がヒラヒラしっせ)
猶 似 霓 裳 羽 衣 舞 猶(ナ)お霓裳(ゲイショウ)羽衣(ウイ)の舞に似たり
(あんときん霓裳羽衣ん舞を舞っちょっごちあった)
玉 容 寂 寞 涙 欄 干 玉容(ギョクヨウ)寂寞として涙欄干
(じゃばってん、そん美しい顔も泣っかぷっちょい)
梨 花 一 枝 春 帯 雨 梨花一枝(リカイッシ)春雨を帯ぶ
(春雨ん中ん梨ん花ごつあった)
含 情 凝 睇 謝 君 王 情を含み睇(ヒトミ)を凝らして君王に謝す
(楊貴妃:「王さまには、まっこちあいがとさげもした」
一 別 音 容 両 渺 茫 一別音容(オンヨウ)両(フタ)つながら渺茫(ビョウボウ)
(楊貴妃:「声も聞っがならん、姿も見いがならん、二人(ふたい)は遥かに隔たい」
昭 陽 殿 裏 恩 愛 絶 昭陽殿(ショウヨウデン)裏(リ)恩愛絶え
(楊貴妃:「愛し合ったこっも過去んこちなっせ」)
蓬 莱 宮 中 日 月 長 蓬莱 宮中 日月長し
(楊貴妃:「蓬莱宮に来てかい、長い長い月日がたちもした」)
回 頭 下 望 人 寰 処 頭(コウベ)を回(メグ)らして下(シモ)人寰(ジンカン)を望む処
(楊貴妃:「下界んさまも気になっせ見んみたばってん」
不 見 長 安 見 塵 霧 長安を見ずして塵霧(ジンム)を見る
(楊貴妃:「霧やら塵やらでないもみえん…」)
唯 将 旧 物 表 深 情 唯だ旧物を将(も)って深情を表し
(楊貴妃:「今はただ思い出ん品で、気持ちをわかいもろご」
鈿 合 金 釵 寄 将 去 鈿合(デンゴウ)金釵(キンサイ)寄せ将ち去らしむ
(楊貴妃:「螺鈿ん小箱と金の簪をばお渡ししっくいやれんですか?」
釵 留 一 股 合 一 扇 釵(サイ)は一股(イッコ)を留め合は一扇(イッセン)
(楊貴妃:「簪は一方ん足、小箱は蓋」)
釵 擘 黄 金 合 分 鈿 釵は黄金を擘(サ)き合は鈿を分かつ
(楊貴妃:「簪は黄金んとこ、小箱は青貝細工んとこを分くったっどん」)
但 教 心 似 金 鈿 堅 但だ心をして金鈿(キンデン)の堅きに似しむれば
(楊貴妃:「っちゅうのが、うちらん気持っがこげん堅かれば」)
天 上 人 間 会 相 見 天上人間(テンジョウジンカン)会(カナラ)ず相見(マミ)えん
(楊貴妃:「どげん離れちょってん、がっつい、どっかでか逢ゆっち思います」)
臨 別 慇 懃 重 寄 詞 別れに臨んで慇懃に重ねて詞(コトバ)を寄す
(別れんきわに、楊貴妃は重ね重ねことづつっ)
詞 中 有 誓 両 心 知 詞中に誓い有り 両心のみを知る
(そんとは、誰(だい)も知らん二人(ふたい)だけん誓い)
七 月 七 日 長 生 殿 七月七日 長生殿(チョウセイデン)
(7月7日ん長生殿)
夜 半 無 人 私 語 時 夜半人無く私語の時
(二人(ふたい)だけでかたった夜)
在 天 願 作 比 翼 鳥 天に在りては願わくは比翼の鳥と作(ナ)り
(「空におっちょっときは比翼ん鳥んごつ」)
在 地 願 為 連 理 枝 地に在りては願わくは連理の枝と為らんと
(「じだんおっちょっときは連理ん枝んごつ、ずっといっしょに居(お)っちょっがね」)
天 長 地 久 有 時 尽 天長く地久しきも時有りて尽く
(どげんしてん、ないもかいも 、先の見えん世の中じゃばってん)
此 恨 綿 綿 無 尽 期 此の恨みは綿綿として尽くる期(トキ)無からん
(こん二人(ふたい)ん相思別離ん悲しい想いばっかいは、いつまでん変わらん)