勇者と剣を交えながら、魔王はおかしな感覚にとらわれていた。胸の奥が痛む。その度に、目の前の勇者が、別の生き物の形をした何かに見えた。
しかし、いくら成長したとはいえ、魔王に比べれば勇者はまだまだ弱い。溢れ出る魔力で強化した魔王の肉体は、スタミナが切れることもない。強さの次元が全然違うのだ。
「例えお前が俺を殺しても、人間界は平和になどならない。世界最強のお前が人間界に戻れば、今度はお前自身が人間達の畏怖の対象だ」
「…殺す…殺してやる……俺は勇者だ…勇者だ……」
これはいけない、と魔王は思った。確かに彼は、今までにないほどの高揚を感じていた。この時間がいつまでも続けばいいと思っていた。しかし、もはや勇者は殺戮人形と化している。
「勇者よ…」
「死ね!死ねえ!!!勇者の俺が…お前さえ殺せば…お前さえいなければ……」
「……俺と友にならぬか?」
勇者の動きがピタリと止まった。それに併せてか、魔王も動きを止めてしまった。特に考えて発した言葉ではなかったが、それは、全世界の時を止めてしまったかのように感じた。
「ふざけるなああああああっ!!!!!!」
再び動き出した時の中で、魔王は自分の腕が切り飛ばされるのを感じた。その瞬間、何もかもわかってしまった。何から勇者に話すべきか、そう考えている間に、金属がゆっくりと体の中に分け入ってくるのが見えた。勇者の剣が魔王の胸を貫いた。
「話さなければならないことがあるのだが…それほど時間はなさそうだな」
「お前の話なんか…」
「聞け。友となりたい、と言ったのは…本心だった……」
「…………」
「もし、お前が俺の言葉に…何かを感じたのなら、そうだな…そこに転がっている腕をもって…いけ…必ず必要に…なるだろう……」
「…何を企んでいる?」
「何も企んでなど…おらんよ……我が、友よ……調べ…ればわかる…魔力…何も…ただの…だ……だが、必ずひつ……」
最後の言葉を待たずに、魔王は突然青い炎に包まれ、そして消滅した。
「くそっ!!!」
勇者は転がっていた魔王の腕をとり………道具袋に入れた。
――― 5年後
「お、俺は…勇者だ……勇者なのに…」
「なぜ…こんなことなら…ちくしょう、ちくしょう……」
「…これじゃあ、もう…剣も………あ…あの時……」
――― 6年後
「魔王様、以上で精霊界の報告を終わります」
「続きまして、人間界ですが………