監督からのメッセージ③】
「先祖になる」 監督・池谷 薫
映画を撮るとことで、ずっと人間の尊厳とは何かと考えてきた。
だから被災地で映画を撮ると決めたときも、漠然とではあるが、逆境を生き抜く人間の姿が撮れるのではないかと思っていた。
だが、現地の状況は私の想像をはるかに超えていた。
千年に一度の大津波は、まるで人間の営みをあざ笑うかのように、人も家も、そして歴史風土や文化までも飲み尽くしていた。
茫然としながら被災地をさまよっていたとき、私はある町で花見が開かれることを知った。
全国的に自粛ムードが広まるなか、当の被災地でその花見が開かれる。
悲惨な状況ばかりを映し出すメディアとのギャップに、私は驚き、感動した。
高台にある寺のお堂で開かれた花見は心温まるものだった。
この地に古くから伝わる和太鼓が打ち鳴らされ、ボランティアの手によって全国から集められた地酒が振る舞われた。
集まった住民を前に、ひとりの老人が静かに語りだす。
今年もさくらは同じように咲くと。
復興への壮絶な覚悟をにじませたこの言葉を、私はこの地に根ざし生きる人の魂の叫びだと感じた。
その晩、撮り終えた映像を観た私は、この老人の映画を撮ることに決めた。
それが『先祖になる』の主人公・佐藤直志さんである。
その日から、ひたすら彼を追いつづける日々がはじまった。
きこりを生業とする彼は、息子を亡くした悲しみを抱えながら、みずから森で木を伐り、津波で壊れた家を再建しようとする。
行政に頼ることなく、つねに前を向くその姿は、戦争や災害から立ち直ってきた日本人の底力を感じさせ、孤高の人と呼ぶにふさわしい。
私にとって、やはり映画は人間の尊厳を問うものだった。
『先祖になる』が単なる震災映画の枠を超え、そのように観てもらえることを願うばかりである。
池谷 薫

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池谷 薫(監督)
1958年東京生まれ。
世界が注目するドキュメンタリスト。
国家や社会に翻弄されながらも懸命に生きる人間を撮りつづける。