【ヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》2013
監督からのメッセージ②】
「飯館村」~放射能と帰村~ 監督・土井 敏邦
「飯舘村―放射能と帰村―」があぶり出す「国家」の本質
ジャーナリスト・土井敏邦
2012年春に完成した『飯舘村 第一章――故郷を追われる村人たち――』では、
飯舘村の2つの酪農家の家族が、生業の源であり、“家族”の一員”だった牛を手放し、
避難のために家と先祖が眠る墓を残したまま村を離れていく姿を描いた。
映画の中で村人たちは故郷の意味を自問し、愛郷の想いを切々と語った。
もう1つのテーマは“放射能の恐怖”だった。
幼い子どもの被曝を怖れ、放射能に汚染された村から一刻も早い避難を訴えた若い親たちと、“村”という共同体を残そうと
奔走する村の為政者たちとの間に生まれた深い乖離と軋轢も、飯舘村を描くのに欠かすことができない要素だった。
本作『飯舘村――放射能と帰村――』はその続編である。
前作で描いた酪農家の2家族のその後を追うなかで “故郷”“家族”の意味を改めて問うとともに、
「放射能に汚染されたあの村に、住民は帰れるのか」という深刻な問題がこの映画の主要なテーマである。
若い親たちは、幼い子どもたちの被曝を怖れ、帰村を断念し始めている。
一方、年配者たちも、断ち難い望郷の念と、「子どもも孫もいない村、農業もできない村へ独り帰るのか」という不安と葛藤のなかで苦悩する。
そんななか、国は全村民の帰村をめざし、莫大な費用をかけ“除染”を推し進める。
しかし取材を進めていくと、「除染はほんとうに効果があるのか、村人はほんとうに帰れるのか」という疑問が湧き起ってくる。
さらに、いったいこの除染事業によって誰が利益を得るのか、国は除染によって何を狙っているのかという疑惑も浮かび上がってくるのである。
“日本の中のパレスチナ”いう視点から、「人にとって故郷とは何か」「家族とは何か」を問うことから取材を始めた「飯舘村」は、
「国家はほんとうに民衆のために動くのか」という視点へと私を向かわせた。
この映画は、私のその問題意識の変遷の報告である。
「飯舘村―放射能と帰村―」公式サイト
土井 敏邦 (監督)
1953年佐賀県生まれ。
1985年以来、パレスチナをはじめ各地を取材。
テレビ各局でドキュメンタリーを放映。