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【公式ブログ】HCBほほえみオフィス

人の知恵や技術を結集して、新たな突破口を開くことを目指すのが、ヒューマン・チャレンジ・ブレイクスルーです。
選択制企業型確定拠出年金・中小企業の健康経営・人的資本・事業承継・労務DD・労務監査・PMI・人事評価など、人に関わる情報を発信。

令和7年の通常国会では、企業の労務や業務に大きな影響を与える可能性のある重要な法改正が多数予定されています。本稿では、社会保険、ハラスメント対策、公益通報者保護制度、下請法、iDeCoといった、特に企業として関心の高い分野における改正のポイントを、現時点(令和7年2月20日)で公表されている情報をもとに網羅的に解説します。

1.社会保険の適用拡大と「年収の壁」

① 社会保険の適用拡大

社会保険の加入条件は、事業所の被保険者数によって異なり、一定数以上の事業所は強制的に特定適用事業所となります。この特定適用事業所となる企業規模要件が撤廃される予定です。

  • 企業規模要件の撤廃
    • 厚生労働省の案では、令和9年10月から従業員36人以上令和11年10月に21人以上令和14年10月に11人以上へと段階的に緩和され、令和17年10月に完全に撤廃される見直し案が示されています。ただし、国会情勢により実際の撤廃時期は不透明です。
  • 賃金要件の撤廃:「月額賃金8.8万円以上」という要件が撤廃される予定です。施行日から概ね3年以内とされています。最低賃金の上昇などを背景とした措置です。
  • 被扶養者の収入要件:「年収130万円以上が2年連続しても、一時的な増収と認められれば扶養のままでいられる」という暫定措置の恒久化が検討されています。また、19~22歳の学生などの扶養基準が「年収130万円未満」から「150万円未満」に引き上げられる方針も示されています。ただし、被扶養者の収入要件自体がなくなることはないとみられます。
  • 非適用業種の解消:個人事業所における社会保険の非適用業種制度が解消される予定です。令和11年10月に新規の個人事業主から適用され、既存の事業所については当面の間、任意適用となります。常時5人未満の従業員を使用する個人事業所に関する要件は、今回は見直されません。

② 「年収の壁」対策

社会保険料の労使折半の原則について、労使の合意に基づき、事業主側の負担を増やし、労働者側の負担を減らす特例が導入される予定です。これにより、年収の壁を超えることによる手取り収入の減少を回避することが期待されます. 施行時期は現時点では不明です。

2.ハラスメント対策の強化等

① カスハラ対策の義務化

顧客等からの迷惑行為、いわゆる**カスタマーハラスメント(カスハラ)**に対し、事業主に雇用管理上の措置義務が課される予定です。

  • カスハラの定義:①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと、②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること、③労働者の就業環境が害されることの3つの要素全てを満たすものとされています。具体的な内容や判断基準は今後の指針で明確化されます。
  • 事業主が講ずべき措置:セクハラやパワハラ対策に準じた措置(事業主の方針等の明確化・周知啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応等)が義務付けられます。
  • 他の事業主からの協力要請に対し、協力するよう努める義務が課される予定です。協力要請を理由とした不利益取扱いは望ましくありません。
  • 施行時期は公布日から起算して1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日です。

② 就活等セクシュアルハラスメント対策の強化

就職活動中の学生等の求職者に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)について、事業主に雇用管理上の措置を行うことが義務付けられます。

  • 雇用管理上の措置義務:OB・OG訪問等を含むあらゆる機会において、面談等のルールを定めることや、求職者への相談窓口を周知することなどが指針で定められる予定です。セクハラが発生した場合の被害者への配慮(謝罪、相談対応等)も考えられます。
  • 男女雇用機会均等推進者の業務に、就活等セクハラに関する事項が追加されます。
  • 施行時期は公布日から起算して1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日です。

③ パワーハラスメント防止指針への「自爆営業」の明記

従業員にノルマ達成のため不要な商品の購入や自腹での契約を強要する、いわゆる**「自爆営業」**について、パワーハラスメント防止指針に明記される予定です。ただし、パワハラの定義(優越的な関係を背景とした言動、業務上必要かつ相当な範囲を超える、労働者の就業環境が害される)の3要素全てを満たす場合に限られます。施行時期は不明です。

3.女性活躍推進法の改正

  • 女性活躍推進法は10年間延長される予定です。施行日は公布日です。

① 女性の職業生活における活躍に関する情報公表の適用拡大等

  • 男女間賃金差異の情報公表義務が、常時使用する労働者の数が101人以上300人以下の企業にも拡大されます。
  • 女性管理職比率の情報公表が、常時使用する労働者の数が101人以上の企業で必須となります。
  • これらの改正は令和8年4月1日に施行予定です。

② 職場における女性の健康支援の推進

女性特有の健康課題を踏まえた支援を促すため、事業主行動計画策定指針に取組例が示されるなど、行政による支援が行われます。法律上も女性の健康支援が位置づけられます。会社側に義務が課されるわけではありません。施行日は公布日です。

③ えるぼし認定制度の見直し

  • プラチナえるぼし認定の条件に、就活等セクハラ対策に関する情報公表が追加されます。
  • えるぼし認定1段階目の基準(2年以上連続して実績が改善していること)が見直される予定です。
  • 女性の健康支援に積極的に取り組む企業を対象とした**えるぼしプラス(仮称)**が創設される予定です。

プラチナえるぼし認定の条件追加の施行時期は、公布日から起算して1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日です。えるぼし認定(1段階目)の基準の見直しとえるぼしプラス(仮称)の創設の施行時期は未定です。

4.労働者の安全衛生に関する改正

  • 50人未満の事業場におけるストレスチェックが、努力義務から義務となります。ただし、労働基準監督署への報告義務は課されません。施行時期は公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令の定める日です。

  • 個人事業者等に対する安全衛生対策が推進されます。

    • 個人事業者等の定義が明確化され、労働者と同様の保護対象・義務の主体となります。混在作業における「作業従事者」の定義も定められます。
    • 個人事業者等自身にも、労働災害防止に必要な責務が規定されます(協力義務、必要な事項の遵守、機械等の安全確保、安全衛生教育等)。一部は令和9年4月1日施行予定です。
    • 仕事を他人に請け負わせる者の安全配慮義務が明確化され、建設工事以外の注文者にも広く適用されることが明記されます。施行日は公布日です。元方事業者等の義務範囲が、労働者だけでなく個人事業者を含む作業従事者へ拡充されます。令和9年4月1日施行予定です。
    • 作業従事者が労働安全衛生関係法令違反の事実を労働基準監督署等へ申告できる仕組みが整備され、不利益取扱いの禁止が規定されます。令和8年4月1日施行予定です。
    • 作業従事者の業務上の災害に関する報告制度が創設され、一定の要件を満たす場合、注文者等が労働基準監督署へ報告する義務が課されます。令和9年1月1日施行予定です。
  • 高年齢労働者の労働災害防止対策が、事業者の努力義務となります。指針の公表や指導・援助も行われる予定です。令和8年4月1日施行予定です。

  • 治療と仕事の両立支援対策が、事業者の努力義務となります。労働施策総合推進法の改正によるもので、指針も公表される予定です。令和8年4月1日施行予定です。

5.iDeCo等の私的年金の見直し

  • iDeCoの加入可能年齢の上限が、70歳未満に引き上げられます。老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していないことが条件となります。70歳まで加入する場合、実質的には年金の繰下げ受給が必須と考えられます。
  • DC(企業型確定拠出年金)のマッチング拠出において、労働者側の掛金額が事業主掛金額を超えることが可能になります。
  • DCの拠出限度額が、月額5.5万円から6.2万円に引き上げられる予定です。
  • iDeCoの拠出限度額が、国民年金の加入状況等に応じて見直されます。60歳から70歳までの加入者の拠出限度額は月額6.2万円となります。
  • 国民年金基金の掛金額の上限が、月額6.8万円から7.5万円に引き上げられる予定です。

6.公益通報者保護制度の見直し

  • 公益通報者保護制度の体制整備の実効性を高めるため、以下の見直しが行われます。
    • 従事者指定義務違反が刑事罰の対象となります。
    • 事業者が整備した公益通報への対応体制について、周知義務が法律で明示化されます。
  • 労働者等による公益通報を阻害する要因に対処するため、以下の措置が講じられます。
    • 公益通報者の探索行為が法律で禁止されます。
    • 公益通報をしないことを約束させるなどの妨害行為が禁止され、これに反する契約等は無効となります。
  • 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止と救済措置を強化するため、以下の措置が講じられます。
    • 公益通報を理由とする解雇(普通解雇)と懲戒処分が刑事罰の対象となります。
    • 不利益取扱いについて、公益通報から1年以内の解雇・懲戒処分に限り、立証責任が事業者側に転換されます。
    • 公益通報者保護制度相談ダイヤルが設置される予定です。

7.下請法の改正

  • 適切な価格転嫁の環境整備として、コスト上昇局面での価格協議に応じない等の買いたたき行為が規制対象に追加されます。
  • 下請代金の支払いとして手形を使用することが原則禁止されます(令和8年度末までに廃止予定)。金銭以外の支払手段も制限されます。
  • 発荷主と運送事業主の関係が下請法の対象取引に追加されます。
  • 下請法違反行為に対し、事業所管省庁に指導権限が付与され、報復措置の禁止の申告先に主務大臣が追加されます。
  • 下請法逃れを防ぐため、現行の資本金基準に加え、従業員基準を導入する方向で検討されています。
  • 「下請」という用語が「中小受託事業者」、親事業者が「委託事業者」に改められる予定です。

まとめ

今回の法改正は、社会保険の適用拡大による労働者の加入機会の増加、ハラスメント対策の強化によるより安全な職場環境の整備、公益通報者保護制度の見直しによる不正の早期発見と是正の促進、下請法の改正による公正な取引環境の実現、そしてiDeCo等の制度拡充による個人の資産形成の支援など、多岐にわたる分野で企業と労働者に大きな影響を与える可能性があります。

各企業においては、これらの改正内容を正確に理解し、今後の法案成立の動向を注視しながら、適切な対応を検討していくことが重要となるでしょう。

Q1 高齢社員の安全衛生と健康管理対策

課題:

  • 60歳以上の従業員の増加に伴い、小さな事故(つまずき、衝突など)が発生しやすくなっている。
  • 工場などでは、ベルトコンベヤーへの巻き込まれや高温多湿環境での熱中症といった注意が必要な箇所が多い。
  • 加齢による体力の低下や病気、ケガにより、職場以外でも健康上のリスクが高まっている。
  • 労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の割合は高い(2023年で29.3%)。
  • 男性では「墜落・転落」、女性では「転倒による骨折等」の労働災害発生率が特に高年齢層で顕著。
  • 高年齢女性の転倒災害発生率は、20歳代の約15倍にも達している。

対応策:

  • 安全衛生管理体制の確立と職場環境の改善
    • 経営トップによる方針表明と体制整備(担当者・組織の指定、労使協議の場の設定)。
    • 危険源の特定とリスクアセスメントの実施(高年齢者の身体機能低下などを考慮)。
    • リスクアセスメントに基づいた対策の決定。
    • 必要に応じてフレイルやロコモティブシンドロームを考慮。
  • 身体機能の低下を補う設備・装置の導入(ハード対策)
    • 作業場所の照度確保。
    • 聞き取りやすい警報音、有効視野を考慮したパトライトの使用。
    • 階段への手すり設置、通路の段差解消。
    • 不自然な作業姿勢をなくすための作業台の高さや配置の改善。
    • 涼しい休憩場所の整備、通気性の良い服装の準備。
    • 防滑靴の利用。
    • 水分・油分のこまめな清掃。
    • 解消できない危険箇所への標識等による注意喚起。
    • リフト、スライディングシート等の導入による抱え上げ作業の抑制。
    • 滑りやすい箇所への防滑素材の採用。
    • 熱中症の初期症状を把握できるIoT機器の利用。
  • 高年齢者の特性を考慮した作業管理(ソフト対策)
    • 敏捷性や持久性、筋力低下などを考慮した作業内容の見直し。
    • 事業場の状況に応じた勤務形態や勤務時間の工夫(短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務など)。
    • ゆとりのある作業スピード、無理のない作業姿勢などに配慮した作業マニュアルの策定。
    • 注意力や集中力を必要とする作業における作業時間の考慮。
    • 身体的な負担の大きな作業における定期的な休憩や作業休止時間の導入。
    • 暑熱な環境への意識的な水分補給の推奨。
    • 始業時の体調確認と体調不良時の申告指導。
    • 情報機器作業における無理のない業務量。
  • 高年齢者の健康や体力の状況の把握
    • 労働安全衛生法に基づく健康診断の確実な実施।
    • 高年齢者が自らの健康状況を把握できるような取り組み।
    • 体力チェックの継続的な実施と結果の適切な説明।
  • 健康や体力の状況に応じた対応
    • 個々の健康や体力の状況を踏まえた労働時間短縮、深夜業の回数減少、作業の転換などの措置।
    • 業務軽減等の就業上の措置実施時の本人への確認と十分な話し合い。
    • 個々の状況に応じた安全と健康に適合する業務のマッチング。
    • 心身両面にわたる健康保持増進措置の実施。
    • フレイルやロコモティブシンドロームの予防を意識した健康づくり活動।
    • 体力低下者への維持向上支援(運動時間や場所への配慮、トレーニング機器の配置など)।
    • 健康経営やコラボヘルスの観点からの健康づくり।
  • 安全衛生教育
    • 高齢者対象の教育における丁寧な説明と文字以外の情報の活用。
    • 再雇用や再就職時の丁寧な教育訓練।
    • 管理監督者や共に働く労働者への高年齢者の特性と対策に関する教育।
  • 転倒災害防止におけるDXの推進(AIを活用したリスク予測、データ管理、フォローアップなど)。
  • 高年齢労働者の目の健康に着目した転倒災害防止(アイフレイルへの気づき、眼科検診の推奨)。

Q2 定年後再雇用申出の拒否と配置転換

課題:

  • 定年を迎える社員から再雇用希望の申し出があった場合に、原則として拒否できない。
  • 勤務態度不良を理由とした再雇用拒否の可否。
  • 再雇用後の配置転換(業務内容の変更、賃金の低下)における本人の不満。

対応策:

  • 定年後再雇用申出の拒否について:
    • 原則として、希望者全員の65歳までの雇用確保義務がある。
    • 例外として拒否できるのは、心身の故障により業務に堪えられないと認められる場合、勤務状況が著しく不良で職責を果たし得ない場合など、就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合のみ
    • 継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められる
    • 過去の裁判例では、度重なる就業規則違反や改善が見られない場合に継続雇用拒否が適法とされた例がある一方、解雇事由や退職事由に相当する事情がない場合の拒否は無効とされている。
  • 継続雇用移行時の使用者による変更提案について:
    • 高年齢者雇用安定法は、定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲内の条件を提示していれば、労働者が継続雇用を拒否しても法違反にはならない
    • ただし、「指針」では、継続雇用しないことの合理性・相当性が求められるほか、賃金・人事処遇制度の見直しに関する留意事項が示されている।
    • 労働者のそれまで培ってきた経験能力と大きく乖離した業務への従事や労働者の希望に反する著しく低い待遇など、高年法の趣旨に明らかに反するような提案は不法行為とされ、損害賠償が命じられる可能性もある
    • 配置転換や労働条件の変更を行う場合は、指針の留意事項を遵守し、裁判例を参考に、労働者の経験能力や希望を考慮し、十分に話し合うことが重要

Q3 子会社等での定年後再雇用

課題:

  • 定年退職者の増加により、社内で全員の再雇用希望を受け入れられない場合の、子会社での雇用(転籍)。
  • 子会社での雇用における処遇低下。
  • 子会社での雇用における試用期間の設定の可否。
  • 経営状況の変化等による、契約更新ごとの他の関連会社への転籍の可能性。

対応策:

  • 継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大:
    • 2012年の法改正により、継続雇用制度は、当該事業主だけでなく、グループ企業(「特殊関係事業主」)によって行うことも可能となった。
    • 特殊関係事業主の範囲は、親法人等、子法人等、親法人等の子法人等、親法人等の関連法人等、関連法人等と定められている。
    • グループ企業で継続雇用を行うためには、元の事業主とグループ企業(特殊関係事業主)との間で、「継続雇用制度の対象となる高年齢者を定年後に特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約」を締結することが要件となる。
    • 特殊関係事業主は、この事業主間の契約に基づき、元の事業主の定年退職者を雇用する。
  • 子会社での処遇の低下:
    • 特殊関係事業主が提示する労働条件も、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものであってはならないが、労働者の希望に合致した労働条件の提示までを求めているわけではない
    • 最低賃金などの雇用に関するルールの範囲内で、労働時間、賃金、待遇などに関して、特殊関係事業主と労働者との間で労働条件を決めることができる
    • 合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者との合意が得られず継続雇用に至らなくても、元の事業主も特殊関係事業主も法違反とならない。
    • 転籍先の子会社は、合理的な裁量の範囲で条件を提示する必要があり、その際には「指針」の留意事項も考慮する必要がある。
  • 3カ月程度の試用期間:
    • 継続雇用するかどうかを判断する主体は、定年まで雇用していた元の事業主である。
    • グループ会社は、元の事業主との契約に基づき、高年齢者の65歳までの雇用を確保する義務を負う।
    • 契約締結時点で子会社は雇用確保の義務を負うため、試用期間を設けることは制度としてなじまない
    • 試用期間を設けても、その結果を理由に高年齢労働者に不利益を主張することは難しく、試用期間の意味や効果もないと考えられる。
  • 契約更新のたびに他の関連会社等へ転籍させる必要が生じる場合:
    • 雇用先と労働条件が流動的になることは、グループ企業への拡大措置の趣旨(転籍後も同一企業グループ内で安定した雇用が確保されていること)に反する。
    • 高年齢者雇用確保措置の目的を逸脱する不適格な運用として、その頻度等の実態を見た上で、社会通念上・客観的合理性の観点から、場合によっては違法とされる可能性や行政指導の対象にもなり得る

Q4 高齢者に関わる労災防止策

課題:

  • 従業員の高齢化に伴い、視力や聴力、体力等の低下が目立ち、ヒヤリハット事例が増加している。
  • 労災防止の観点から、高年齢者向けマニュアルの作成やヒアリングによる改善を進めているものの、今後特に検討すべき点。

対応策:

  • DXの推進による転倒災害防止
    • 第14次労働災害防止計画やエイジフレンドリーガイドラインに基づき、転倒災害が対策を講ずべきリスクであることを認識し、取り組みを進める。
    • 安全衛生対策におけるDXの推進(AIやウェアラブル端末等のデジタル新技術の活用)。
    • 事例として、AIを活用した足腰力測定システムによる転倒リスクの定量的な予測、データ管理、ハイリスク者へのフォローアップ、設備改善などが紹介されている。
  • 高年齢労働者の目の健康に着目した転倒災害防止
    • 転倒リスクの要因として、高年齢者の視力低下も考慮する必要がある。
    • 目が悪いと転倒リスクが10倍以上になる可能性がある一方、運動と視力検査、目の治療をした人は転倒リスクが83%減となる。
    • 「職場の健康診断実施強化月間」における眼科検診等の実施の推進。
    • アイフレイル(加齢に伴う目の機能低下)を意識し、早期に対応することが望ましい。
    • 緑内障などの視野狭窄を伴う眼科疾患の予防と早期発見のための眼科検診の周知。
  • 体力測定や認知機能の測定結果は健康情報となるため、取り扱いには「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」を踏まえた対応が必要
  • 個々の労働者に対する不利益な取扱いを防ぐため、体力状況に関する情報の取扱方法等について安全衛生委員会等の場で定める必要がある

Q5 認知症の疑いのある高齢者に対する勤務配慮等

課題:

  • 定年後再雇用社員に業務ミスや会議日程忘れなど、認知症の疑いが見られる場合の対応。
  • 医療機関への受診勧奨と診断結果の報告における留意点。
  • 認知症と診断された場合の勤務軽減措置の必要性と、定年後再雇用者に対する健康配慮義務の範囲。

対応策:

  • 医療機関への受診の勧奨と結果報告:
    • 認知症の兆候があれば、早期の専門医受診が望ましい。
    • 会社が受診を勧める際は、健康情報(要配慮個人情報)であることに留意し、本人と面談して趣旨を丁寧に説明し、理解・納得を得る必要がある
    • 取得した情報の取り扱いについては、労働安全衛生法や指針を遵守する必要がある。
    • 受診を拒否された場合、職種によっては受診命令が認められる可能性もあるが、就業規則の根拠や合理的かつ相当な理由が必要となる。
  • 認知症と診断された場合の勤務軽減措置:
    • 会社には、定年後再雇用労働者にも**安全配慮義務(健康配慮義務を含む)**がある。
    • 認知症と診断されても、直ちに仕事ができなくなるわけではなく、可能な範囲で安全な仕事を提供できるよう、医師等の専門家とよく相談し、本人の意向も聞きながら決めることが重要
    • 労使双方のコミュニケーションがポイントとなる。
    • 少子高齢化と人手不足の状況を考慮し、高齢労働者の安全衛生管理や労務管理の手法を計画的に構築し、人材活用していく視点が重要।
    • 認知症基本法も、認知症の人の就労を想定しており、医師等の専門家と相談した上での勤務配慮が必要となる。
    • 事業場における心身の状態の情報の適正な取扱いのための規程(取扱規程)を策定し、取扱いの明確化を図ることが望ましい

Q6 定年退職時に病気休職中の社員

課題:

  • 定年退職日に病気休職中の社員から再雇用希望があり、休職期間満了まで休ませてほしいと要望されている場合の対応。
  • 定年退職日時点で復職できない場合、再雇用の対象外とすべきか。

対応策:

  • 原則として、定年退職日の時点で病気休職中の社員に対しても、再雇用を認め、当初の休職期間満了までは休ませる必要がある
  • 例外として継続雇用しないことができるのは、就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合に限られる。
  • 「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること」が就業規則に明記されている場合でも、本人の同意を得て、主治医や産業医等の専門家の意見を聞き、状況を正確に把握した上で、慎重かつ適切に判断する必要がある
  • 就業規則に「定年退職に伴い休職期間が満了すること」「休職期間満了時点において復職できないときは『退職事由』になること」等が明記されている場合でも、それだけで直ちに継続雇用しないことができるわけではなく、心身の故障により業務に堪えられない状態かどうかを検討する必要がある
  • 就業規則に上記のような規定がない場合は、原則として再雇用となるが、その場合でも再雇用の際に健康状況を確認しておくことは重要。
  • 高年齢者雇用確保措置においては、希望者全員の雇用を確保する義務が原則であり、継続雇用しないことについては客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められる。病気休職は解雇猶予であり、この点も考慮する必要がある。

Q7 複線型コースによる再雇用

課題:

  • 一律の再雇用制度を廃止し、定年前の業績評価・能力評価によって複数の再雇用コースを設定したことに対する、対象者からの処遇決定の不当性に関する抗議。
  • 複線型コースによる再雇用を実施する際の留意点。

対応策:

  • 高年齢労働者は多様であり個人差もあるため、複線型コースで多様なニーズに応えることは一つの方法である。
  • 留意点:
    • 納得性: 定年時の人事評価に基づく一方的なコース提示ではなく、事前に各制度の説明を十分に行い、本人の希望を聞いて労使で話し合いをした上で決定することが望ましい。ただし、事業主が合理的な裁量の範囲で提示していれば、合意が得られず継続雇用を拒否されても法違反にはならない。
    • 明確性・公平性: 年俸制を選択肢に入れる場合は、給与決定の基準(仕事の成果や個人の能力)を十分に説明する必要がある。継続雇用においても、何を期待しているのかを伝え、働きぶりを適切に評価し賃金を支払うことが重要であり、特に年俸制においてはそれが求められる。人事考課を行い、働きに応じた処遇を行うことで意欲向上を図る。制度の仕組みは就業規則に明文化することで公平性を担保する。
    • 制度の整備: 「指針」では、勤務形態や退職時期の選択を含めた人事処遇について、個々の高年齢者の意欲及び能力に応じた多様な選択が可能な制度となるよう努めること、就業生活の早い段階からの選択が可能となるよう制度整備を行うことが示されている。
  • 厚生労働省の「70歳雇用推進マニュアル」では、高齢社員の活用方針を「業務の内容・責任の程度」と「働き方」の2つの視点から、「バリバリ活躍型」と「ムリなく活躍型」の2つに分け、さらに働き方(フルタイム、短日・短時間)による3つのタイプを紹介している。

Q8 在職老齢年金,高年齢雇用継続給付金の見直し

課題:

  • 高齢者雇用の推進を図るための在職老齢年金、高年齢雇用継続給付金の見直しが、定年後再雇用者の処遇にどのような影響を及ぼすか。
  • 70歳雇用を見据えた処遇制度を検討する際に考慮すべき改正内容。

対応策:

  • 留意すべき主な改正内容:
    • 在職老齢年金の見直し: 60歳台前半の低在老の支給停止基準額が、65歳以上の高在老と同じ基準額(2024年度は50万円)へ引き上げられた。これにより、60歳台前半で一定以上の収入がある場合、年金の支給停止額が増える可能性がある。労働者から支給停止を避けたいという要望がある場合は、給与額の見直しが必要になる可能性がある。
    • 在職定時改定制度の導入(2022年4月から): 65歳以上の在職者は、退職を待たずに毎年10月に年金額が改定されるようになった。就労継続の効果が早期に年金額に反映される。
    • 高年齢者雇用継続給付金の縮小: 65歳までの高年齢者雇用確保措置の進展等を踏まえ、給付額が2025年度から原則15%から10%に縮小される。
    • 老齢年金の繰下げ受給・上限年齢の75歳への引上げ(2022年4月から): 受給開始時期の選択肢が拡大し、75歳まで繰り下げることで最大84%増額された年金を受け取れる。70歳以降に請求する場合の繰下げ申出みなし制度も創設された。私的年金(確定拠出年金)の受給開始年齢の上限も75歳に引き上げられた。
    • 高年齢者雇用安定法の改正(70歳までの就業機会確保): 定年引上げ、定年制廃止、継続雇用制度(他事業主によるものを含む)、業務委託契約、社会貢献事業など、70歳までの就業確保が努力義務となった。
  • 全体的な留意事項:
    • これらの改正により、企業や高年齢労働者にとっての選択肢が変容・増加している。
    • いずれの措置を講ずるかについては、労使間で十分に協議し、高年齢者のニーズに応じた措置を講じることが望ましい।
    • 複数の措置を組み合わせることも可能だが、個々の高年齢者にどの措置を適用するかは、本人の希望を十分に尊重して決定する必要がある।
    • 従前と異なる業務に従事する場合は、必要に応じて研修や教育訓練を実施することが望ましい。
    • 対象者基準は原則労使に委ねられるが、高年法の趣旨や他の労働関係法令、公序良俗に反するものは認められない。
    • 柔軟な対応として選択肢が広がった一方で、長く働き続けることへのプレッシャーと感じる人もいる可能性や、事業主にとって高齢化への対応が課題となる可能性がある。
    • 労使で十分にコミュニケーションを取り、対応していくことが重要である。

短時間勤務社員の採用は、企業と社員双方にとって様々な側面を持ち合わせています。以下に、ご質問の趣旨に沿って、会社側のリスクと対策、社員側のメリット・デメリットをまとめます。

会社側のリスクと対策

会社が短時間勤務社員を採用する際には、以下のようなリスクが考えられます。

  • 労務管理の複雑化:多様な働き方をする社員が増えることで、それぞれの勤務時間や条件に応じたきめ細やかな労務管理が求められます。現場では、労務管理に関する判断に迷うケースも少なくありません。
    • 対策: 就業規則や賃金規程等において、短時間勤務に関する規定を明確化し、ルールの周知徹底を図ることが重要です。また、労務管理担当者への十分な研修や相談体制の整備も必要となるでしょう。
  • 均衡・均等待遇の問題:短時間勤務社員と通常の労働者や契約社員との間で、不合理な待遇差が生じる可能性があります。パート・有期雇用労働法(パート・有期法)の8条(均衡待遇)および9条(均等待遇)に抵触しないよう注意が必要です。
    • 対策: 短時間勤務社員の職務内容、職務の内容および配置の変更の範囲、その他の事情を考慮し、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けないようにする必要があります。特に、業務内容が同等であるにもかかわらず処遇に差がある場合は、差別的な取扱いとみなされる可能性があります。比較対象となる「通常の労働者」の定義についても理解しておく必要があります。
  • 人事評価の難しさ:労働時間が短いことを理由に、一律にマイナスの人事評価を行うことは、育児・介護休業法における不利益取扱いに該当する可能性があります。
    • 対策: 短時間勤務であることを直接的な理由とするのではなく、実際の貢献度や業務遂行能力に基づいた評価を行う必要があります。ただし、不就労の時間分に応じて賞与額を減額したり、病気等で不就労だった場合と比較して同程度の不利益な評価を行うことは許容されると考えられます。
  • 業務分担・配置の問題:介護等の理由で短時間勤務を選択した社員に対し、過小な業務を割り振ったり、軽易な業務中心の部署に異動させることは、不利益取扱いに該当する可能性があります。
    • 対策: 業務上の必要性を十分に検討し、安易な業務変更や異動は避けるべきです。やむを得ず変更等を行う場合は、事前に本人と十分な協議を行い、本人の意思を確認することが重要です。
  • 裁量労働制・フレックスタイム制の適用:企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制を短時間勤務社員に適用する場合には、みなし労働時間や総労働時間の設定、労使協定の変更など、通常の労働者とは異なる対応が必要になります。
    • 対策: 裁量労働制を適用する場合は、短時間勤務に見合った業務内容・量への調整が不可欠であり、単にみなし労働時間を短縮するだけでは不十分です。フレックスタイム制を適用する場合は、清算期間内の労働時間管理が煩雑になる可能性も考慮し、メリット・デメリットを比較検討する必要があります。
  • 短時間正社員制度の運用:パートタイム社員から短時間正社員への登用制度を設けている場合、登用基準の変更は労働条件の不利益変更にあたる可能性があります。
    • 対策: 登用基準を変更する場合は、その必要性、合理性を慎重に検討し、労働者との十分な協議や同意を得る必要があります。

社員から見たメリット・デメリット

社員が短時間勤務を選択する際には、以下のようなメリット・デメリットが考えられます。

メリット

  • 働き方の選択肢が増える:育児、介護、自身の治療など、様々な個人的な事情に合わせて、正社員の身分のまま労働時間を短縮して働くことができます。
  • 仕事とプライベートの両立:労働時間の短縮により、育児や介護、趣味、学習など、仕事以外の時間を確保しやすくなります。
  • 柔軟な働き方が可能な場合がある:フレックスタイム制と組み合わせることで、より柔軟な時間管理が可能になり、仕事と育児・介護の両立がしやすくなる可能性があります。
  • 正社員としての安定性:パートタイム社員と比較して、雇用が安定しているという安心感があります。

デメリット

  • 賃金の減少:労働時間の短縮に伴い、賃金が減少します。
  • キャリアへの影響:短時間正社員の場合、通常の正社員と比較して昇進・昇格の機会が限られる可能性があります。特に管理職への任用を想定していない雇用区分である場合もあります。
  • 業務上の責任や負担:労働時間が短縮されても、責任範囲や業務量が軽減されない場合、時間内に業務を終わらせるための負担が増加する可能性があります。
  • 周囲の理解:繁忙期などに労働時間が短いことに対し、他の社員から不公平に思われる可能性があります。
  • 自己学習の必要性:育児休業からの復帰など、ブランクがある場合、知識や経験の不足を補うために自主学習が必要となることがあります。

会社と社員双方が、短時間勤務のメリット・デメリットを十分に理解し、それぞれの状況に応じた柔軟な働き方を実現できるよう、適切な制度設計と運用が求められます。