コロンビア白熱教室  第3回「選択日記のすすめ(後半)」
(コロンビア大学ビジネス・スクール教授 シーナ・アイエンガー)

人間の利益と損失に対する心の動き、どのような直感が正しい選択につながるのかなど、ビジネスに、生活に非常に参考になります。

(前半はこちら)http://ameblo.jp/hc-design/entry-11140111084.html

■情報をどの枠組みでとらえるか

・プロスペクト理論(ノーベル賞受賞対象)
情報をどの枠組みでとらえるかによって選択が左右される

A:無条件で100ドルもらえる V.S. 200ドルもらえるかゼロかは、50%の勝負
B:無条件に100ドル支払う V.S. 支払わなくてよいか200ドル払うかは、50%の勝負

左右のどちらを選んでも期待値は同じ。
Aは「利益」という枠組で捉えており、
一般にリスクを回避しようとする(確実)傾向にある。
Bは「損失」の枠組みで捉えており、
一般にリスクをいとわない(支払いたくない)傾向にある。
つまり、利益よりも損失に重きを置いている。

これは売買でも同じで、売り手と買い手では、まったく決断のし方が違う。
買い手は利益という視点に立ち、売り手は損失という視点に立つ。
同じ情報でも、プラスを強調して話すか、マイナスを強調して話すかで、
相手の捉え方とその選択が全く異なってくる。

→プロスペクト理論は、執着や煩悩の世界ですね。
 株式売買にしろ他にしろ、損切りができずに傷を深くすることはよくあります。
 商売で応用した事例を考えてみると、買う気が低い客に商品を売る場合、
 おまけとしていろいろと付けることで購入してもいいかと思わせることはこの例かなと。

・枠組みは様々な形で選択に影響する
我々は多くの情報を得て、整理し解釈するするための枠組みを用意する。
それが選択に影響する。
例えば、ある人をテロリストと呼ぶか、革命家と呼ぶかでイメージが異なってくる。

→ラベルは大事ですね。人は手に入りやすい、見かけやイメージ情報で判断しがちということ。
 だから肩書きって重要で、日本人の名刺好きにつながるのかも。


・人をやる気にさせる枠組みの例
コカコーラ社のCEO、ロベルト・ゴイズエタ氏(1981年~)の市場拡大についての話。

当時、清涼飲料水市場で45%のシェアで業界TOP。
10%成長の計画だったが不満だった。そこで幹部たちの認識を変えた。

人が1日に必要とする水分量は2リットルで、世界の人口と掛け合わせた中での
コカコーラの飲料市場のシェアは2%にすぎないと。

ゴイズエタ氏が基準を変えたため、幹部はリスクを回避する利益の視点から
リスクをいとわない損失の視点への移行を余儀なくさせられた。
その結果、16年後には時価総額が約36倍に。
彼は、幹部を奮い立たせ、想像力をかきたてることに成功した。

→市場を捉え直すということはマーケティング戦略の鉄則ですが、リーダー企業の場合、
 守りの意識から攻めの意識に変える効果も含まれていたとは、勉強になりました。
 無機的にもみえる戦略に、相手の心の変化も考慮して実行することで、
 大きな効果が得られるんですね。

・枠組みは、決断する時の情報の捉え方や情報の集め方にも影響する。
例えば、面接官が求職者を雇用するかしないかといった判断は、
60秒±30秒といわれている。
また、音声を消した同じ映像を見ても、第三者が最初の2分くらい見れば、
だれが採用されるか予測できる。

では、面接中の判断はどの程度あたるのか。
本当に仕事ができる人を選ぶ割合は2%
1日仕事をさせてシミュレーションすれば、予測できる確率は25%に上がる。
こうした、当てが外れることはよくある。

→人は印象で判断しがち、第一印象はすごく大切だということです。
 一般的な教えを調査結果から明らかにしてくれました。ちょっと反省。

・何故、新商品の多くが失敗するのか。
それは、新商品を作っている間、その商品のよい面ばかりを見てしまうから。

新婚も同じで、人生を共にする人と一緒に過ごしているため、 その人のポジティブな面に集中する傾向がある。
自分が取り組んでいることや、目の前にあるもののよい面ばかりを見て過信してしまう傾向がある。


→思い入れや思い込みが強くなると独りよがりになり、失敗しやすいということです。
 良いアイデアでも、自分の見方や思い入れだけで突き進むと失敗しやすいですが、
 そこに他人の視点、意見が加わることで大化けするということはありがちです。
 以前ブログで書いたタクラム社さんの「アイデア・クロマトグラフィ―」もこれを狙っています。
 デタッチメントと言っていますが、作者を自分の作品から引き離し、作者を客観的な非作者にする
 ことで、他人の良いアドバイスを受け入れやすくするワークショップです。

 (参考)新しいデザインメソッド「ストーリー・ウィーヴィング・メソッド」セミナー参加記録(3)

・他に、どのような人に過信する傾向があるのか。
何も知らない人や、非常に知識がある人は過信しない。
大多数の、少ししか知らないのに知っていると思っている人が過信する。
これは投資の専門家やTVに出る政治評論家による実験で明らかで、
偶然の的中率とほとんど変わりなかった

→これは痛い実験結果ですね。
 他人も認めるプロフェッショナルになるまでは、自分だけの思い込みで進めるとリスクが高い
 ということです。人は他人のアドバイスがないと客観的な判断がしにくいということでしょうが、
 逆に他人の意見に振り回される危険性もありますので、注意が必要です。

 自分の目的をしっかりと持ち、まじめに言ってくれるきちんとしたアドバイスに、
 真摯に耳を傾けるということかなと思いました。


<ここまでのまとめ>

選択をするとき、脳は近道をしようとする。=直観を使った選択。

不確かな記憶から間違った選択をすることがある。
様々なレンズから情報を解釈し、自分の選択を容認できるような情報を探ため。

このように、「直観」は我々を道に迷わせるもの。
では、どうすれば正しい選択ができるか。

何かをしようとする時に、何を知っているのか自分に問こと。
例えば、枠組みを変えて正反対の視点で考えてみる、
あえて自分の見解と反対の情報を探したり、
あえて反対のことを言うことで周囲の反応をみるなど。

→自分の結論に都合の良い情報を探していたら、その選択を疑ってみた方がよさそうですね。

・直感が役立つとき
イラク戦争の開戦前、ペンタゴンが行った大規模な軍事演習の例。 
最強の武器と最高の通信技術を備えたアメリカ陸軍と、


通信技術も武器もはるかに劣る中東の軍事国家で戦闘シミュレーションをした。

アメリカ陸軍は理性的分析を利用したが、仮想敵国軍の司令官、
ポール・バン・ライパー(元海兵隊中将)は、相手の出方を見て対応し、
想像力を駆使して直観で行動すると決めていた。

通信設備を破壊されても、最新の武器を奪われても、いまあるアナログ的な
手段で十分代替してしまい、演習に勝利してしまった。

ライパーが持っていたもの=
情報に基づく直感
この直観は豊富な経験からくる。実はライパーはベトナム戦争の時に、気づいたことはすべてメモしていて、戦争中にそのメモをもとに指示を出すという経験をしていた。

また嘘を95%見破れるある心理学者は、動物の表情研究の観察から
人間の微細な表情を読めるようになっていた。

→数多くの体験や観察をしていても、分析し、それを引き出しとして整理しておかないと、
 使えるレベルまでにならないということですね。
 勉強も、仕事も、恋愛も、マメな人が勝つということか。。。

<直観の定義>
「直観とは認識以上のものでも、それ以下のものでもない。
認識のひとつのパターンである。」 (社会科学者のハーブ・サイモン)

情報に基づく直感を身に付けるには経験が必要
何度も繰り返すことで、情報を分類し、整理する能力が培われる。
しかし練習だけで身につくものではなく、なぜよかったのか/悪かったのかという
フィードバックが必要

その時に、目標をはっきりしておくことがポイントで、それが基準になるから。
また失敗したら、別の方法を試すという実験も重要。
練習→フィードバック→実験が求められる。

→これって、PDCAサイクルを回すことですね。人間中心設計もそうですが、このループは鉄則!
 職場でPDCAが徹底し情報が共有されれば、みんな直観で正しく素早く仕事を進められるようになる
 ということかな。すごい!(^^)

チェスで8手先を読む場合、あらゆる手を考慮したらものすごい選択肢になる。
しかし達人は全体をひとつのパターンと捉えて、不必要な選択肢を素早く排除し、少数の重要な選択肢に絞ることができる。

→将棋で有名な羽生さんの「大局観」に関する講演を聴いたときにも、同じような話が出ました。
 10手先は、約6万通りだそうです。
 羽生さんは、まず直感を使い、1場面で80通りくらいある展開のうち、2-3通りに絞って、
 ほかの手筋は捨てています。
 経験則で自分なりのパターンを作ることが大切だということで、勝ちパターンとかよく言いますよね。

 また、建築関係で研究された、パターンランゲージという、簡単にいうと様々なパターンをまとめて
 Tipsのように言語化する試みがありますが、直感による選択に大いに役立ちそうだなと注目
 しています。
 以前のブログでも、慶応大学の井庭先生の実践(学びとプレゼンのパターンランゲージ)を
 紹介しました。


情報に基づく直観から得られるものは、自分の知識の限界を知る能力。
その能力は過信から自分を守ってくれる。

孔子曰はく、「知るを知るとなし、知らざるを知らずとなす。これ知るなり。」

情報に基づく直観とは、理性的な選択を通じて得た情報をもとにした直観
理性的な選択は何度も繰り返すことで習慣となり、直観と思えるほどになる。
情報に基づく直観は、理性と直観を掛け合わせたものといえ、
仏教でいう「中道」のようなもの。

→習慣化して、身も心も反射神経のように動くようになると強いということ。
 しかし、今までにないような新しい動きが起きた場合、どうその直感に頼らずに判断できるかという
 柔軟性も必要だな~

チェスの元世界チャンピオンの決断の極意は「先を見ないこと」。
今そこにある選択肢に集中し、それが何か、そこにどんな要素が含まれているかをよく見ること。
それらを正しく評価すれば、何を選ぶべきかは、自ずと見えてくるはず。

→先を見て判断しようとすると、可能性はいろいろとあるので迷ってしまったり、軸がぶれて誤った判断になりやすいということかなと思いました。

・情報に基づく直観を身に付ける方法
選択日記を最低週1回はつけること。

大小を問わず、自分が下した選択を書き出して、その選択について考える。
どんな思考プロセスを経たか、何がうまくいってだめだったのか
そして選択がどれだけ成功したかを点数で表す。
記憶は時間がたつとあいまいになるため、数字で表す

これを定期的に行い、しばらくして振り返るとパターンが見えてくる。
上手くいった時、上手くいかなかった時の共通している特徴や要素がわかってくる。

■結論

良い選択は、情報に基づく直観を養うことで可能になる。

情報に基づく直感を育てる作業は非常に価値あること。
究極的には、私たち自身が下した選択によって評価されることになるから。

素晴らしいリーダーは、選択の科学的をひたむきに実践する人である。

以上。