遺書のことは英語でWILLと言います。Willとは「意思」「希望」などが含まれ、英語の将来形にも使われます。というのも、そこには自分のコントロールできるものに対する将来への意思が示されているからです。つまり遺言というのは亡くなる人の意思の表れであり、遺言を残す側はその「意思」と理由付けを明確にしなければなりません。古代から、自分の子孫にはこう生きて欲しいといったような希望なども書かれていましたが、基本的に死んだ人の言うことは聞かないというのが、過去からの生きている人の特徴です。なので、そのような故人の意思より、死んだ後の彼らの富の分配という点で故人は自分の意思を反映させてきました。

 

日本ではWILLを遺言書と遺書と言葉を変えてわけているそうです。そして遺言書というのが民法に則した法的に有効な書類となるそうです。但し、基本的に法律的に有効でないものは何でも書けるので英語ではWILLではなく、Messageになるでしょう。WILLとは遺言書のことになります。そして、むしろ法的に有効なものにしっかりと意思を含めるという配慮が重要になります。というのもその遺言書に書かれた内容は遺族には大きな影響があるので、それに関する説明責任を果たしていなければ、それ自体がもめ事の原因になりうるからです。更には法律的に有効である限り、そこに書かれていることには遺族に対してそれなりの意味をもつことになります。なので、そこには法的に有効な要素だけでなく、自分が残す遺産や遺業に関する説明と方向性が示されているべきです。もめないようにするのには筋を通すことが重要であり、筋を通すことは生前にやっておくべきことなのです。

 

法的に有効な遺言書とは

通常、遺言書(WILL)が法律的に有効になる要素として以下のようなものがあります。

·       遺言書であるというその目的とタイトルが明記されている。

·       作成された日にち及び自筆のサインがある。

·       Executor財産分与執行人が明記されていること

·       遺族(自分の子供や認知された相続人)が明記されていること

·       財産目録(前回記載したバランスシート部分)

·       子供(未成年)の保護責任者及び保護内容

·       個別財産のBeneficiary(受取人)これはアメリカの場合は口座開設時に聞かれるのでそれをリストしておく。

·       その他の財産に関する受取人及び分割内容

最低限これらのことは明確に書いておくべきですが、問題になるのはそのような判断に至った経緯になります。人によってはその場の雰囲気や出来事といった短期的な状況変化に応じてWILLを書き換える人がいます。そういったことは周りを混乱させるだけでなく、INTEGRITY(自己一貫性)に関する信頼にも影響します。それなりの財産を築いた人であるのであれば、それなりの判断力と良識を用いているはずです。自分の人生の最後のまとめである遺言書なので、そういった判断力や良識を感じさせるようなものでなければ、それ自体の信用性が欠如し、かえってもめ事を大きくしてしまうリスクもあります。

 

遺言書の歴史と意義

古代の有力者にとって自分が亡くなった後に自分が築いた富や、帝国が崩壊して残された家族が悲惨な状況になることだけはなんとしても避けるべき状況でした。ビジネスの世界でよく言われるSuccession Plan (後継者育成)は実は古代から語られ、それ故に遺言や旧約聖書の中に記載があるように遺産相続に関する法律まで記載されていました。以前も書きましたが聖書にある最初の殺人事件というのは兄弟間で起きており、古代から家族や兄弟のもめ事は絶えませんでした。特に問題になったのが、子供が多くいる場合は財産を平等に分割するというのが理想的なのですが。国や大きなビジネスの場合はぶんかつしてしまうと力が分散され、それが理由で崩壊してしまうこともあります。世界を制覇するに至ったチンギス・ハンの帝国も家族に分割され消滅していきます。なので遺言におけるもっとも重要な要素は後継者を決めることであり、更には後継者に選ばれなかった家族も何らかの資産や資格をえることで後継者争いの問題に発展させないということが大きな趣旨としてありました。すれゆえに法律の中でも後継者がより多くの資産を得るということが規定されています。こういった考えは現在でも会社の経営者の場合などはあてはまる可能性があります。但し、現代社会では株式会社のような共同保有制度が普及しているので、例え自分の後任を子供のだれかにしたとしても、株を分割して子供たちに配ることはできるので、比較的もめずにすみます。つまり昔に比べると相続は簡単になっているはずなのです。ではなぜそんな社会で相続を巡った争いが過去にもまして増えているのでしょうか?恐らくそれは個人主義の普及の中、兄弟、姉妹を含め人間関係が希薄になっていき、「家族を守る」という要素が欠けてきたこと。更には、亡くなる故人も自分のことだけ考え、亡くなったあとの家族の関係などを考慮することがなくなってしまったことなどが考えられます。遺言書は、法定相続と異なる場合は特に重要性を増します。だからしっかり考えて準備されなければなりません。つまり、法律的に有効であることと同時に、家族に対する配慮が必要になるのです。

 

遺言で追記すると良い項目

以下のような文言は遺言で含めるものには入っていませんが、通常の契約書などには書かれるものです。これらが含まれていた方が良いのではないかと思います。

 

1)        Arbitration (もめ事の解決方法)について明記しておく

遺書というと財産分与のことばかりだと思ってしまいますが、willとは「意思」をしめすことであり、故人の遺志に関しては明記しておくべきだと思います。そして通常亡くなる人は、自分が残す財産を巡って家族が争うようになるなどとは考えていないことが多くあります。但し、現実的にはそのようなもめ事が多くあるので、仮にもめた場合はどのような解決方法をするのかという記載をしておくことが重要です。通常ビジネスの契約においてはもめることを想定してArbitrationの記載があったりします。というのももめて裁判沙汰になるとむやみに弁護士費用や裁判費用がかかり、せっかくの遺産も弁護士たちなどに取られるだけになってしまいます。更にはArbitrationをする役割を担ってくれるような信頼できる第三者をリストしておくと効果的です。執行人が弁護士であれば同じ人がその役割を担ってくれる場合もありえますが、税理士などとなるともめ事の解決能力が低い場合もありうるのでより経験値が高い人物を選んでおくとよいでしょう。

 

2)         資産の特徴とその資産に対する継続に関する意思

受け継ぐ財産は本来故人、或いはその先代が築いたものであり、もっとも重要なのがその受け継ぐ資産の本来の目的はなんであるかということです。非課税の効果があるので会社という形で相続がされることもあります、店や会社など代々受け継がれたものを相続する際にむやみに分割してしまうことはその事業の弱体化を招くことがあります。なので、その事業や店に対してどのようにこの世で続いて欲しいのかというプランを提示しておくか、事業を引き継ぐ人を明確にして生前からその準備をしておく必要があります。映画God Father では最終的には一番ギャングをきらっていたIVY Leagueを卒業した三男が引き継ぐことになります。長男は殺され、失敗ばかりする次男は、三男の判断で殺すことになります。つまりあの映画では事業の存続が家族より重要だということが象徴的に描かれています。事業経営者の場合は子供全てを事業に関与させる必要性はありません。子供それぞれに与えられた才能や興味は異なります。なので事業を相続させる場合には、そのまま事業を選んだ後継ぎに渡し、そのほかの子供や現金や自宅などの資産を渡すことでもめ事を回避することもできます。戦前の日本の相続が長男が受けるとなっていたのもまさにこのような状況からそのような法律ができたのだと思います。

 

3)        法定相続における原理原則とそれに従わない理由

遺族は相続に関してはある程度法定相続に順った分配がされるのではないかというある種の平等感があります。その平等感が崩れた際に争いが始まります。なので、その期待値からそれる場合は事前に、或いは遺言書に納得いくような説明が必要になります。それがないと不平等感から争いに発展するリスクをうみます。

 

 

4)        INDEMNIFICATION補償:

相続には債務を相続することもあり得ます。更には子供やペットの世話や、家など維持をするのに費用がかかる場合もあります。なので、相続をするものにはそれなりの補償をすること、更には逆に相続で不満を持つ人に対するそれなりの補償を組み込むことも重要です。

 

 

5)        葬儀及び医療に関する意思表示:

葬儀では一族が集います。通常遺族は全員その場にいます。もめ事は葬儀から始めることもあります。なので、葬儀における手順や、宗教、お墓のことなども事前に決めておき、明確に記載しておくといいでしょう。細かいことからもめごとに発展することも多いのでこういった段取りが故人の意思であることを示しておくと遺族は助かります。更には、医療に関しても生命維持装置や臓器の提供など、遺族が決定するのが難しい状況もあり得ます。私は病院のチャプレンになることを考えたことがありますが、病院のチャプレンの仕事として、こういったことに関する意思決定の依頼をうけたりすることもあると言われました。確かに家族の誰かが決定するより故人の牧師が決めた方が楽な場合もあります。但し、なによりも故人自身がそれを記載しておけば決定がスムーズになり、遺族間で揉めるリスクが減ります。本人以外、その人の体や命に関する決定はできないものです。

 

自分が亡くなった後で家族が争うということは何とも忍びない状況です。なのでそれを防ぐためにも生前にしっかりと自分が亡くなった後のことを考えておくことが重要です。それが人生最後の大きな仕事であり、責任でもあります。