現職の大統領が大きなスキャンダルもない中で大統領候補から外されるということは前代未聞の大きな問題です。但し、その背景にはアメリカのインテリジェンス層が歴史的、更にイデオロギー的視点から考える大きな懸念事項があります。今回のオオボケ発言も(ウクライナのゼレンスキー大統領をプーチン大統領と紹介等)、そんなことを側近が許した背後には、そのリスクを明らかにしようとしている大きな力があったような気がします。昨日のトランプ暗殺未遂に見られるようにアメリカ人の中にはトランプを大統領にしてはならないと考えている多数の一般人がいます。今回の暗殺未遂は、銃規制に反対している共和党の銃愛好家のメンバーが、自分の政党の大統領候補を暗殺しようとする何とも不可解なものです。但し、これを生き残ったトランプにとっては、この事件は選挙戦を戦う上では追い風になります。ただ、民主党員の最も大きな心配はバイデンの不人気です。なんとしても大統領選でMAGA帝国を防ぐために左派、民主党は何らかのアクションを取ると思われます。

 

大統領再選のシナリオ

以前このブログでも説明しましたが、現職の大統領再選はアメリカの経済の状況と相関関係があると言われています。確かにトランプもコロナに伴う経済の停滞の中で落選しました。バイデン政権下は比較的にアメリカ経済は強く、このストーリーでいけば再選を果たすはずです。ただ、そんな中でもバイデンの人気がここまでないということは大きな問題です。更に多くの民主党員がバイデンを支持していないという民主党内の分裂の問題もあります。私はそこにはバイデンの年齢に関する問題もあるのではないかと考えています。

 

歴史的背景と年齢問題

ジョー・バイデンは81歳の高齢で日本では運転免許を返上するように言われ始めるような年齢です。最後に年齢からの懸念がされた大統領は私が覚えている限りでは40代大統領ロナルド・レーガン(退任年齢77歳)でした。世界最大国家アメリカの大統領の発言や権限には世界に将来に大きな影響を与える結果をもたらします。年寄りが運転をすることは確かに危険ですが、世界最強国家で核兵器のボタンを押す責任者を任せるのはもっと危険ではないかと思います。私も日々アメリカの大企業のCFOをしていた教会の80歳代のリーダーと対話して思うのですが、80歳代の人間の多くはその時代、自分が育ってきた時代の価値観や習慣の中に生きており、世代が変わり、自分より多くの若い人間が社会の多数となるとその彼らと通じるのには相当なレベルの価値観や習慣の変化と寛容性が必要です。但し、年を取れば取るほど人間は変化に対応するのが苦手になり、学習能力も落ち、頑固になり、むやみに感情的に自分の権威だけを主張するような傾向があるような気がします。その昔、企業役員などをしていて意味もなくプライドだけ高い人は特に問題です。更に死が近い人間は自分のレガシーを優先してしまい、それが国にとって最大の利益にならないこともあります。例としてフランクリン・D・ルーズベルトのヤルタ会談を上げましょう。

 

32代大統領のフランクリンD.ルーズベルトは、世界恐慌の後のNew Deal政策や、第二次世界大戦を勝利に導いた大統領として歴史的に最も優秀な大統領だったと言われています。彼は65歳とバイデンよりかなり若かったのですが、彼が亡くなる前にヤルタ会談でソビエトのスターリンに対する譲歩が戦後のドミノ理論にある世界の共産化をよんだという批判がされています。同席したチャーチルが大激怒したほどでした。ヤルタ会談のわずか1か月後に彼が亡くなったことからも年老いた大統領は自分の遺産としてなんとしても早急に第二次世界大戦を勝利に導きアメリカ国民にまた幸せを実感してもらいたかったのかもしれません。ただ、その結果としてソビエトは太平洋戦争に参戦し、満州に侵攻し、一気にベルリンも陥落させ東ヨーロッパを手中に入れることとなります。

 

ヤルタ会談の失敗を受けて戦争を終わらせることを最優先しなければならなくなったアメリカは、1945年だけでも100万人ほどの日本人民間人を殺す(原爆や各地の大空襲、沖縄上陸など)ような手段に訴え出なければならなかったのです。私の父の家族も東京大空襲で父を除いて全滅したので、ルーズベルトの失敗がなければそのような状況も防げたわけです。当時恐らくルーズベルトはある程度自分の健康状態がよくないということも意識していたと思います。戦争を早く終わらすために自らの戦士たちを殺さずに戦争を終わらすことは人々の為になるとでも思ったのでしょう。この失敗以降、アメリカの大統領が2期以降の再選はないとした法律も通り、大統領の健康チェックも厳しくなってきています。人間も80を超えると色々なところでガタが来て必ずしも安全ではないし、死を直前にした判断は必ずしも冷静で正しい判断ではないことがあります。というのもそこには長期的視点とその感覚が抜ける傾向があるからです。

 

誰が確実にトランプに勝てるか

副大統領から選挙に出て大統領になった人は自分が副大統領であったときの大統領の人気と関係があります。ケネディー大統領の副大統領であったジョンソン大統領もそうですが、最近では代41代のブッシュシニア(George HW Bush)でしょう。ちょうど就任式をNHKのワシントン支局でアルバイトをしているときに生中継したのを覚えています。ただ、彼は湾岸戦争に勝利したにもかかわらず経済がリセッションになり、再選されずに民主党のクリントンに選挙で負けました。ブッシュはレーガン大統領という人気があった大統領の副大統領であり、彼のレガシーが大きかったので最初の選挙では勝てたのではないかと思います。ハリス副大統領は私の家があるカリフォルニア出身ですが、そこまで人気や知名度はなく、更に不人気のバイデンの副大統領です。最近バイデンに忠誠を尽くすというようなことを言ったので、恐らく自分に力がないことは認識しているのでしょう。

 

最も勝てる可能性があるのはオバマ元大統領の奥さんであるミシェル・オバマではないかと思います。言うことはかなりまともだし、南部、中西部の白人を中心としたMAGAに対応するのには効果的です。民主党も、共和党も、分裂より統一という言葉をスローガンにして中間票をそれぞれ集めようとしていますが、それは無理だと思います。むしろ確実に自分の立ち位置を意識し、黒人などのマイノリティーの票をまとめ上げれるミシェル・オバマのような人物の方がトランプと良い対象になり、その結果としてより多くの中間票を集めることができるのです。

 

アメリカはより分断されていくでしょう。それは政治的にリベラルか、コンサーバティブといった視点というだけでなく、経済的な格差、世代の格差、宗教的格差、価値観の格差など色々なエリアでその分裂が見れます。恐らく戦争でもない限りアメリカを本当に統一することは難しいのではないかと思います。そしてそのような分断は日本でもはじまってきているような気がします。結局のところ、自由と人権追及のエスカレーションとして個人主義があり、その個人主義が自己欲求の拡張のみを追求するようになり、他者の価値観をも受け入れないレベルまでエスカレートしていくことにより分断が広がっていくのです。