令和7年のマンション関係法改正により、マンションの新たな再生手法(建物・敷地の一括売却、一棟リノベーション、建物の取壊し等)、それらに対応した事業手続等が創設されたことを踏まえ、既存のマニュアル等の見直しが検討されています。検討状況の資料を参照し、気になった点をメモ書きしましています。今回は令和7年10月31日の第2回の検討内容についてです。
第2回(開催:令和7年10月31日)
(1)第1回検討会終了後の意見・質問
1)再生等手法の比較検討・合意形成の進め方
●費用について
・今までの事業の進め方の経緯を踏まえると、推進決議より前の段階で必要な費用に関して、管理組合で承認されない可能性が想定され、検討に必要な費用負担の目安や必要性について示せないか
→管理組合による再生等手法の比較検討に必要な費用負担の目安については、検討の対象とするマンションの個別の状況に大きく左右されるため、記載しないこととする。
・工事費の見積も困難な状況で、概念だけで推進決議を取ることが可能なのか。
●再生手法等の選択
・再生等手法を比較し判断するための考え方として、長寿命化手法にも一定の限界があり、建替え、除却等を選択せざるを得ないタイミング(分岐点)が存在する旨を記載できないか。
→長寿命化手法と建替え等手法とを比較検討する上では、既存マンションの寿命をあらかじめ把握することが有効な手段の1つであることから、第三者機関による耐用年数評価や耐用年数推定調査等の実施が望ましい旨について、「マンション再生手法の比較検討マニュアル」で記載することとする。
2)「建物の更新(一棟リノベーション)」の対象工事
・建物更新は「一棟全体をスケルトン状態とし」とされているが、必ずしも躯体のみの状態にまでしなくとも、建物の更新となり得る場合もあるのではないか。
→構造躯体の状態が良好であり、全体をスケルトンにする必要がないと考えられる工事であっても、建物更新に該当し得ると考えられるが、実際のニーズも含めて整理の上、「マンション再生実務マニュアル」での記載も検討していく。
3)賃貸借の終了請求(手続き・補償)
・老朽マンションの借家解約における立退き料の算定を公的事業で用いられる用対連基準に準拠して行うことが基本となると、賃貸人たる区分所有者の負担が増え、再生の実現を阻害する懸念。
→法制審議会の答申(区分所有法制の見直しに関する要綱)においても、「「賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金」は、公共用地の取得に伴う損失補償基準における借家人等が受ける補償(いわゆる通損補償)と同水準とすることを想定しているが、公共用地の取得の場合との異同を踏まえた上で、適切な額が算定されることになると考えられる」とされている。
なお、改正区分所有法に基づく賃貸借の終了請求に伴う補償の場面では、建物の老朽化などの事情があるのが一般的であり、賃借権が永続的に存在することを前提として算出される通損補償よりも低減される可能性があるとも指摘されており、こうした事情を踏まえて個別の事案に応じて適切に算定されるものと考えている。
・借家補償(特に、商業店舗の工作物補償や営業補償)について、用対連基準ではなく、壊す合意をしたマンションの退去に必要な費用とする基準を設定することができないか。
→新たな算定基準を設定することは検討していないが、個別の事案に応じて適切な金額が算定されるよう、補償金額の考え方について検討していく。
4)売渡し請求における時価の考え方
・再生手法ごとの評価に応じた時価が算出されるべき。特に、非賛成者が儲かる基準であれば、そもそも決議が通らなくなる。
・建物更新の価格は中古価格と分譲価格の中間程度と想定され、建物敷地売却価格より低くなる可能性。建物取壊し敷地売却と敷地売却についても解体費分の差額が発生すると考えられ、同一にはならないのではないか。
・「最有効使用」という表現が多くみられるが、少なくとも建物更新において、当該敷地における最有効使用の用途がマンションでは無い場合、市場価格と時価が大きく乖離するおそれ。
・現行のマンション敷地売却ガイドライン(令和4年3月)にて、「売渡し請求の「時価」については、マンション敷地売却決議があったこと、すなわち取壊しを前提として、不動産鑑定の方式により算出された額を一つの基準として算出され、売却代金の分配金の額と理論的に大きな違いは生じないものと考えられ」るとの記載があるが、実務上では、算出の考え方がそれぞれ異なるため、売渡し請求の時価と分配金が同額になるとは限らず、立場に応じて解釈が分かれる。
(2)マンション再生等手法の比較検討マニュアル(概要)
1)住戸面積基準の見直し
・「特別の事情によりやむを得ない」と判断する際の基準については、基準を厳しく運用したいというよりも、建替えがしっかりと進むよう、近年増加している区分所有者の負担を減らすことができるような形となるよう、運用の明確化に向けた検討を今後進めてまいりたい。
・従前面積が 25 ㎡を下回る場合、マンション再生事業の手続を活用する際には、面積を 25㎡以上まで拡大する必要。なお、「住宅事情の実態により必要があると地方公共団体が認める場合」については、都道府県知事等により、基本の 50 ㎡、単身者向けの 25 ㎡よりも小さな面積を定めることが可能であることから、その基準を活用することもあり得るかと考えている。
2)費用増加に対する留意点
・現在最も気にしているのは、工事費高騰により、そもそも概算を取ること自体ができなくなっており、最初の検討段階と比較して半年後、1年後になるとどんどん見積額が上がってしまう状況にある。
また、従来の比較検討よりも難しくなっている点として、解体工事費の高騰、働き方改革などによる工期延長等の影響を踏まえ、仮住まいの期間が大幅に延びていることについて、留意事項として付記する必要があるのではないか。
・都心では、仮住まいの家賃も相当高騰していることから、いわゆる通常の改修、居住しながらできる改修のメリットとして、その他再生手法とは異なり、仮住まいが不要であることや、緊急性の高いものから時間をおいて進めることができることなどについても、留意事項として記載したほうがよいと考えられる。
3)建物更新について
・建物更新については、初期の検討段階において、建替え、建物敷地売却等の選択肢と比較してもかなりざっくりとした内容しか示すことが困難であると考えられ、具体性を持たせるためには、設計等に関する調査などが必要とならざるを得ないため、実際の現場では管理組合としても悩まれるのではないか。
また、建物更新には先例がないことから、管理組合の背中を少しずつ押しながら、次の段階に進んでもらうことが非常に難しいところであり、検討費用が必要である点と具体性を示すことが難しい点の2つが大きな課題。
・建物更新を行った上、一部区分所有者が転出する場合が想定されるため、売り住戸としての一定のエビデンスが必要になると考えており、図面を改めて作成する、建築確認等を申請する、等の様々な確認を経る必要があると考える。
また、耐震診断を行った上で、住みながらの耐震補強を検討するケースも存在するが、建物更新を検討する場合には、一般的な耐震補強とは全く異なる内容になると想定されるため、追加の費用と手間が必要となるのではないか。
・建物更新には確認申請が必要となるのか。確認済証があれば、新築同様の扱いを受けるため、ローンが通りやすくなると想定されるが、そうでない場合、本当にローンがつくのか、という心配が出てくることになり、この点についての見解をお伺いしたい。
→法的には、建物更新を行う場合に必ずしも確認申請は必要ではない。ただし、ご指摘のとおり、実際に売却する場合やローンを借りる場合の実務を考慮した場合、どのような調査を行い、手続を踏む必要があるのか、というのは別の課題であり、建築確認、住宅性能評価等、しっかりとした建物であることを示すための証拠をどのように積み上げ、市場に乗せられるようにするのか、という検討も進めていく必要。
・建物更新の際の融資については、建替えのスキームの延長線上にあると考えるが、新築ではなく、中古のイメージで物件を確認する形になると想定されるため、中古物件としての評価制度等を組み合わせながら、融資判断を行うことになるのではないか。
(3)各マニュアル等に反映すべき論点
1)売渡し請求における時価の考え方
・建物更新後の建物の価額の考え方が非常に難しい。耐震性不足のマンションであっても、その住戸をフルリフォームした場合には、買取再販によりかなり高額で売却できていると考えられるが、現在、耐震性不足のマンションを耐震補強したとしても、市場価格はほとんど変わっていないことから、共用部分の耐震補強を行った上で専有部分の工事を行ったとしても、いわゆる買取再販価格以上の値は付かないのではないか、と想定。
・国のマンション管理計画認定制度や(一社)マンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」が広がりつつある中で、しっかり管理されているマンションの価格が今後適正に評価されるとするとした場合にどのようになるか。
・建物更新後の価額について、耐震補強せずにスケルトン改修した再販物件よりは高くなることが想定されるが、どう考えても新築の価額まではいかないのではないか。個人的には、確認済証の取得の有無が決定的に異なると考えており、確認済証を取得することで、1戸だけのリフォームとは異なり、基本的には新築の建物と同等の構造安全性等を有することを明確にする必要があるのではないか。
・少なくとも建物更新の事例はほとんど存在しないため、販売事例等と比較して、というのは実務上不可能ではないか。そのため、建物更新に要する実際の原価を積み上げたときよりも、建物更新後の価額のほうが上がっているのか、という比較になると思われるが、事業に実際に取り組むまでは何の保証もないままに進める必要がある、という点が建物更新として最も難しい点かと考えている。
・壊す場合(=建物取壊し敷地売却)については、建替え決議の時価にかなり近いため、時価の考え方を整理できると思うが、壊さずに売却する場合(=建物敷地売却)においては、最有効使用の用途によって考え方が大きく異なってくる。この場合、土地をベースとして、何を建てるかが最有効使用であり、現に建っているマンションの価額とは異なると考えている。
このため、どのような用途に変更するのか、という点で、マンションの場合には取引事例比較法で算出することになると思われるが、事業用の他用途の場合、収益還元法で算出するが、還元利回りをどう考えるかにも左右されるため、こちらも非常に難しい課題。
・事業者目線で考えた場合、建物敷地売却の場合には、デベロッパー等が買い受けることから、当該デベロッパー側で収益還元法、あるいはリフォーム再販により想定される売却価額を算出する等の手法により、一定の考え方が出てくることとなり、その額が時価という考え方になると思われる。
マンション建替事業の場合には、建替え決議の存在を前提として売渡し請求の時価を決定するため、本来オフィスビルを建設した方が儲かる場所であっても、マンションの再建設を前提に時価を算出する。一方、マンション敷地売却事業についてはそうした前提がなく、希望者の戻り入居を念頭に買受人がマンションを建設する場合でも、オフィスビルにした方が高い敷地価額になる場合には、その時価が適用される認識。
同様に、希望者の戻り入居を念頭に建物敷地売却を行い、建物を再利用する場合でも、建物を解体した方が最有効使用になるとすれば、その時価を採用すべき、という話となるのかどうか。
・前提として、建替え後の用途についても決議時点で示さなければ、売渡し請求ができるのか、という問題もあり、例えば、マンションが建設される前提で反対して転出したが、違う用途の建築物で床を取得できるのであれば賛成した、というケースも想定される。
マンション敷地売却事業においても、買受人の取得後の利用意向で価額が決まり、それで売却するかを判断しており、それとは異なる前提の時価が仮に設定されたとしても、売却組合側ではその時価で売渡し請求することはしないのではないか。
2)賃貸借終了請求の補償額
・複数のマンション建替えの現場実務者から、公共用地の取得に伴う損失補償基準(以下「用対連基準」という。)を用いた場合には、特に営業借家の補償が非常に高額になってしまうため、現実的な交渉が非常に難しくなり、逆に阻害しているという指摘が以前から上がっている状況。
・ 「用対連基準における借家人等が受ける補償(いわゆる通損補償)と同水準とすることが想定されるが、公共用地の取得の場合との異同を踏まえた上で適切な額が算定されることになると考えられる」との趣旨の注釈があるが、そもそも用対連基準が非常に高額という現場実務者からの指摘と、「異同」という表現の曖昧さ、どちらとも捉えられ、争いのもとになりかねないとの指摘があるため、特に営業借家の補償に対しては、用対連基準とは別個の基準を設けるなど、実務を阻害しない現実的な交渉に資するような基準の検討をぜひお願いしたい。
3)借家人への補償
・建物取壊し敷地決議で借家人の補償をするのは、現区分所有者なのか、買受人なのか。現実論として、区分所有者の立場としては、借家人補償まで処理してくれないと決議に応じることができず、そこまで処理してくれるから全体をそのまま売り渡しましょう、という形になるのではないか。
→賃貸借終了請求では、賃貸している区分所有者、それ以外の区分所有者、組合のほか、その他の第三者を指定することも可能となっている。ただし、建物取壊し敷地売却の買受人を賃貸借終了請求を行う者に指定できるかどうかについて、明示的に議論されているものではない。
区分所有者以外の者が賃貸借終了請求を行う場合、その者にも補償金の支払義務が発生するが、最終的には、賃貸人である区分所有者が補償金の支払義務を負う建付けとなっている。