法制審議会区分所有法制部会の検討内容(4) | セミリタイアを目指すサラリーマン大家 マンション管理のお勉強

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令和4年10月から令和6年1月にかけて法務省の法制審議会区分所有法制部会において、決議要件の緩和、所有者不明の課題等、広範な検討が行われ、見直し要綱がとりまとめられました。部会で行われていた議論内容も参考になるかと思い、資料を参照し、気になった点をメモ書きしましています。今回は令5年1月16日の第4回の検討内容についてです。

■第4回会議(令和5年1月16日開催)
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00178.html

(1)建替え決議がされた場合の賃借権等の消滅
1)各提案の課題(再開発コーディネーター協会の認識)
2)【B案】における補償金額
3)質疑
(2)区分所有関係の解消と区分所有建物の新たな再生手法


(1)建替え決議がされた場合の賃借権等の消滅

1)各提案の課題(再開発コーディネーター協会の認識)

・特に深刻なのは、何らかの理由で賃貸人である区分所有者が協力しない場合。
・賃借権の存否は外部からの確認が難しいため、後になって存在を主張されると手の打ちようがない。

■A案(建替え決議で賃貸借契約の終了時期を定める)
・賃貸人の主体的行動を要さず、未確認の賃借権にも対抗できると考えられるのが大きなメリット。
・「建替え決議の時点で取壊し工事の着手時期の目安を明示することができるか」については、通常可能と思われる。
→建替え決議をする時点で、いつぐらいに工事を着手して、いつで賃借権がなくなるか、すなわちいつ明渡しをするかということは、基本的には目安を示さないと、そもそも建替え決議の賛否の意見が集まらない。
・区分所有法制研究会報告書記載の通り、これを徒過しても賃借権を復活させるような規律を設ける必要はなく、実務上適切ではない。

■B案(補償金による賃借権消滅請求)
・請求という賃貸人の主体的行動が必要になる。
・請求権者は賃貸人とすることが妥当。ただし意図ある賃貸人が、建替えに賛成しながら消滅請求を拒むと手詰まり。他の合意者が代位行使できるとされるが、肩代わりした補償金の回収が確実とは言えず、現実に行使し得るか疑問。
・補償金の算出方法も課題。

■C案(借地借家法の適用除外)
・前提として賃貸人の協力が必要、賃借人に対して更新拒絶または解約申入れを主体的に行う必要がある。
・「賃貸借契約において長期の期間の定めがある場合には、その期間が到来するまで賃借権が消滅しないことになるが、それでよいか」との指摘について、一般に2年を超える契約は少なく、事業の支障となることは多くないと思われる。

2)【B案】における補償金額

①現行のマンション建替円滑化法に準ずるとする考え方
・権利変換期日において借家権を失い、かつ、施行再建マンションに借家権が与えられない者に対する補償の基準(「近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額」)が設けられていること(同法5 第62条)を踏まえ、専有部分の賃借権を消滅させるに当たっては、その補償基準を用いることが考えられる。
・これに対しては、建物賃借権には一般に市場性がないため、「近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格」を算定することが困難であり、基準として機能しにくいとの指摘が考えられる。
・また、マンション敷地売却事業においては、通損補償が定められていることから、これを用いることも考えられるが、これについては後記②を参照。
 
②通損補償に準ずるとする考え方
・賃借人は、目的専有部分において独自の居住・営業の利益を有しており、区分所有者が団体的な意思決定に基づいて賃借権の消滅を求めるのであれば、区分所有権等の時価とは別に、賃借権の消滅に伴った賃借人が失う利益が補償されるべきであるという観点からは、公共用地の取得に関する用対連基準の通損補償と同様の基準で補償することが考えられる。
 これに対しては、賃借権に対する補償と売渡し請求を受けた区分所有者が受ける対価とでバランスを失しないかとの指摘が考えられる。
 すなわち、前記のとおり、売渡し請求を受けた区分所有者が受ける対価の額である区分所有権及び敷地利用権の時価の評価は、再建建物が建築された状態における建物及び敷地利用権の価額とそれに要する経費との差額、又は、再建建物の敷地とすることを予定した敷地の更地価格と現在の建物の取壊し費用との差額を基準として算定するものとされており、区分所有建物の所在等によっては、売渡し請求の対価の額が非常に低廉なものとなる。 そうした場合には、専有部分の賃借人に対する補償金額が、その専有部分の区分所有者が売渡し請求により受ける対価の額を超えることがあり得るが、それでよいかという指摘である。

〇通損補償
・公共用地の取得に伴う損失補償基準(以下「用対連基準」という)によると、借家人は、「土地等の取得又は土地等の使用により通常生ずる損失の補償」(以下「通損補償」という)を受けるものとされ、その項目には、動産移転料、借家人に対する補償、移転雑費、営業休止補償等がある。
・借家人補償は、家賃差額補償及び一時金に係る補償に区分されている。家賃差額補償は、支払賃料における標準的な家賃相当額と現在家賃との差額の一定期間(従前の建物との家賃差に応じて、家賃差が2倍以下の場合は2年、2倍超3倍以下の場合は3年、3倍超の場合は4年)分の補償であり、一時金に係る補償は、新たに物件を賃借するための契約を締結するのに通常要する費用(敷金や礼金)等(一時金に係る補償)の補償である。

③区分所有権等の時価の一部とする考え方
・賃借人の利益は賃貸人である区分所有者の利益の一部であることに着目し、消滅請求により賃借権を失う賃借人に対しては、売渡し請求の対価である区分所有権及び敷地利用権の時価のうちの相当額を、残存契約期間等を勘案して補償することが考えられる。そして、「相当額」の算定方法としては、借家権割合を参考とすることが考えられる。
・これに対しては、賃借人は目的専有部分において独自の生活・事業を営んでいるのであり、賃貸人である区分所有者の利益の一部に限られるといえるかとの指摘や、借家権割合は基本的に相続税の課税において簡便に算定するためのものであり、補償されるべき賃借権の価格を正確に表すものとしては適当でないのではないかとの指摘が考えられる。

〇借家権割合
・相続税の課税の際の財産評価においては、借家権は、その目的となっている家屋の価額に借家権割合を乗じて計算した価額によって評価することとされており、その借家権割合は、一律30パーセントとされている。
・不動産競売の実務においても、借家権は、建物の最有効利用を制約する負担として、建物及び土地利用権に対する影響、阻害の程度として現れるものと捉えた上で、買受人に対抗できる借家権のある建物の評価は、原則として、経験則に基づく画一的評価の方法である割合法によるとするものがある。最先順位の抵当権の設定登記前に設定され、かつ対抗要件を備えた賃借権の価格は建物価格の20~40パーセントが標準とされる。

④借家権価格とする考え方
・賃借人が建物賃貸借において独自に有している利益は、借家権そのものの利益であるととらえるのであれば、借家権を消滅させるに当たっては、借家権価格を補償することが考えられる。
・これに対しては、適正な賃料で賃借している者については、当該専有部分を賃借していること自体についての経済的利益がないと判断されてしまい、補償が受けられないおそれが生ずるとの指摘が考えられる。

〇借家権価格
・専有部分の賃貸借を含む建物の賃貸借においては、その賃借権(借家権)は、一般に、市場性がないとされる。すなわち、民法は、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権の譲渡・転貸をすることができず、これに違反して譲渡・転貸をしたときは、賃貸借契約の解除原因になるとしている(民法第612条)。
・そして、借家権については、借地権とは異なり、裁判所による譲渡・転貸の承諾に代わる許可の仕組みもないため、借家権が取引の対象となることはほとんど見られない。そのため、借家権の価格を算定することは困難であることが多いとされる。
・このように、借家権自体の価格を算定することには困難が伴うことが多いが、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的基準である不動産鑑定評価基準(国土交通省)において、借家権の取引慣行がない場合に採用することが可能なものとして、用対連基準と同様の借家人補償の方法が採用されている。
・この方法により算出される借家権価格は、賃貸人から建物の明渡しの要求を受けた賃借人がその意思に反して立退きを要することになった場合に賃借人が事実上喪失することになる経済的利益であり、建物利用権に相応する経済価値であるということができる。
・具体的には、現在の実際支払賃料と、同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払賃料との差額を基礎として算定が行われる。この考え方によれば、現在の実際支払賃料が新規の実際支払賃料よりも低額であればあるほど、賃借人が喪失することになる経済的利益が高額になる。

3)質疑

・B案は、やはり賃貸人が建替えに参加表明しないようなケースではどうなるのかとか、あるいは何らかの理由によって賃貸人が賃借権消滅請求をしなかったり、あるいはできなかったりした場合にどうなるのかということも気になり、これについては代位行使するということが記載されているが、こういうことが実際に機能するのかという問題もありそうに思われる。
・補償金の算出方法について、具体的には、やはり営業借家において用対連基準で積算すると高額な補償費となって、建替え事業に支障を来す事例が出ている。確かに公共事業で買い取られて補償される場合と異なり、老朽マンションの建替えで、それによって借家人の営業ができなくなることの責任を全て賃貸人に負わせるべきなのかということについては、検討が必要。
・B案に関しては、補償金を管理組合が負担するようになることは、これは絶対この制度上はできないのではないか、飽くまでも賃貸者間での清算が前提になるのではないか。ことにB案については、賃貸人の補償金の負担が大きくなると、建替えに賛成する代わりに管理組合側に補償金を負担してくれれば建替えに賛成するというような、一時的なことで出てくると、その調整に時間が掛かってしまう。B案にすれば簡単に建替えが進むというわけでもないと思う。特に高経年マンションにおいては、賃貸率が上がるのは、こういう危惧が大変大きくなってくる。
・区分所有建物の他の部分がなければ当該専有部分の賃貸借というのも成り立たないという関係にあるところ、他の区分所有者はその賃貸借に元々関与していないし、その賃貸借から利益も得ていない。そこが一戸建てなどとは根本的に異なるのではないか。
 また、仮に建替え決議が成り立った後、しかし、ある賃借人の立ち退き拒絶によって建物がずっと存続せざるを得ないということになると、賃貸借に関与せず、また利益も得ていない他の区分所有者は、建物維持の負担を負い続けるということになる。逆にいうと、これがなぜ正当化されるのかということは考えなければならない。
・このまま賃借権が容易に消滅してしまうシステムを作ってしまうと、恐らく予測されるのは、憲法訴訟のようなものが多発するであろうということも懸念する。まず、賃借権がなぜ保護されているのかというのは、一つとしては、社会的な政策でもって賃借人は保護されるべきだというものがあるから、現状はそのようになっているのだろうと思う。そこの部分を変えてしまっていいのかというところが、区分所有建物であるからといってそれを変えてしまう理屈が本当にあるのか、ないのかというところを考えていく必要がある。とはいっても区分所有権よりも保護されるのはおかしいという、その一つの意見等も理解できなくはないので、この中でどれが近い意見かということになると、B案、情報共有を前提として、賃借人に対してもきちんと建替えの議論について付いていってもらうような情報共有を経た上で、しかも行き先を探す十分な検討期間を与えつつ、金銭的な補償ということを与えた上でのB案と、ここで行けばB案が一番近いのかなとは思っている。
 円滑化法の中での補償金のシステムを利用するのであれば、その支払時まではやはり消滅をさせることができないと、補償金を支払う、あるいは供託したときに終了するというようなシステムであるべきかなと思っておいる。
・A案を基本に検討いただきたいと考えている。補償金の支払なく円満に借家人に明渡しを頂いているケースが数多くあるので、区分所有者の負担軽減を考えると、B案のような一律で補償金ありきというような制度とすることについては、賃借人と良好な関係を築いている大半の区分所有者の方にとっては、やはり抵抗感が大きいのではないか。
 B案、C案は、個別の賃貸借契約それぞれの事情を踏まえて対応していくことになるので、スケジュールの不確定さがあるが、A案については、建替え決議時に賛同いただいた権利変換、工事等の全体スケジュールについて、賃貸人の方も賃借人の方も理解が進むというシンプルさがあるので、建替え決議時の機運醸成やその後の機運維持にも資する案と考えている。
 一方で、B案については、補償金支払を必須条件にする必要はないという考えだが、実際に生じている補償金に関する争いを避けるために、若しくは区分所有者や事業者において予見可能とするためには、一定のルール化が望ましいと考えている。
 ルール化に当たっては、賃借権評価が区分所有権価格を上回るということは合理的ではないと考えているので、区分所有権価格の何割といった上限を定める必要があると考えている。②案の用対連基準を基本とした通損補償を行う場合、現在家賃が相場よりかなり安価の場合においては、賃借権の評価が区分所有権価格を大きく上回るということも生じてしまうので、そういったことを回避するためにも、③案の区分所有権等の時価の一部とするのがよいのではないかと考えいる。
・A案について、どうしてこれで明渡しの請求ができるようになるのか、根拠は何かということについては、結局、建替え決議というのは建物を取り壊すことになるものだと。建物を取り壊すということになると当然、客体の滅失によって区分所有権もなくなるし、その賃借権もなくなると。したがって若干前倒しにして、建替え決議があったことが賃貸借の履行不能もたらすというような発想で終了させよう、ということだと。そうであるとして、その履行不能になる時期はいつかというと、やはりこれは工事に本来着手したときということになるはずであるので、6か月の最低猶予期間に加えてというか、それだけでいいというのではなくて、工事の着手時期の目安を示したのであれば、それにかなり近接した時期がその履行不能時というか、その終了時とされるべきだと。
 A案を採った場合には、補償はなかなか理屈が付かないのではないかというのがありましたけれども、賃借権そのものに対する補償ではなくて、外在的事情による履行不能をもっての終了ということになったことに対する、迷惑料というと少しおかしな言い方かもしれませんけれども、当座要る費用はありますよね、そこだけは見ますね、という理屈だと。
・補償金について、もし賃貸人が建替え決議に不参加だった場合は、その不参加区分所有者の権利というものは売渡し請求でほかの方に移るということで、賃借人に対する補償金はほかの人たちが払うことになる、その理解でよろしいでしょうか。
→今の制度では、売渡し請求があって買い取った人が賃貸人になるので、その人が支払うということになる。
・どの基準を適用して補償金額を算定するのかということについてはいろいろな考え方があるが、現在の賃料をベースに算定するというのは少し優先度は下がるのではないかと思う。建物賃借権には一般に市場性がないという指摘があるという記述があり、そういう市場性の低いものをベースに補償金を算定するということは、複数の賃借権者がいるときに、あの部屋の人は幾らもらっているけれども、この人は幾らなのだという差が出てくるということが、果たしてマンションという集合体における補償の在り方として妥当なのかどうかという論点は一つあるかと思う。
 そう考えると、③の区分所有権等の時価の一部とするなど、市場性のある価格を基準として、そしてその算定に当たっても、管理組合の負担は増やせないけれども、施工者の方で一律で算定するなりの効率的なやり方の方がいいのではないかと考える。
 賃貸人と賃借人の間で鑑定をして金額まで決めるとなると、更に手続負担が重くなり、時間も掛かることが懸念される。また、金額にばらつきが生じたり、あるいは不参加区分所有者が自分は立ち退いて、そして残っている賃借権者が多く補償金をもらえるように現在の賃料を意図的に操作する余地も出てきてしまうかもしれない。そこで、団体の意思決定というものと個々の契約関係というものの整理も、この補償金の算定方法を考える上では一つ、論点ではないかと思っている。
・建物の所有者は、自らの意思に基づいて賃借目的物や担保目的物である建物を建替えによって消滅させることができるのではないかと思う。これに対して、賃借人や抵当権者が、賃借権や抵当権に基づく妨害排除請求権を行使して、建替えを妨げることができるのかが問題となる。そして、賃借権や抵当権に基づく妨害排除請求権が、目的物の所有権を基礎として認められる権利だとすると、妨害排除請求が認められないと解する余地もあるのではないか。このような議論が成り立つのかが、まず問題となる。
 そして、このように考える場合には、建物の建替えによる賃借権や抵当権の消滅は、建物の所有者の債務不履行に該当し、建物所収者が損害賠償義務などの債務不履行責任を負うのだろうと思う。
 他方、建替え決議に基づく区分所有建物の建替えによって賃借権や抵当権が消滅することは、区分所有者が建替え決議に賛成していたか否かにかかわらず、区分所有者の債務不履行には該当しないと考えられるのではないか。建替え決議自体は個々の区分所有者の意思とは異なる、集団としての意思決定であるといえますし、建替え決議に賛成をしたことによって区分所有者が債務不履行責任を負うことになるのはおかしいように思う。そうすると、区分所有者が債務不履行責任を負わないことを前提として、賃借人や抵当権者に金銭的補償などの保護を与える必要があるのか否かという問題が生じることになるのではないでしょうか。
→建替えの賛成票は契約関係上の責任を覚悟しないと入れられない、投じられないなんていうことにはしていないのが原案。

(2)区分所有関係の解消と区分所有建物の新たな再生手法

・今まで経験してきた、地上げやコンサルティングの名において一部区分所有者が敷地売却などを進めるなど、そういう件でトラブルが多く発生し、そういう面での危惧を心配している。ただ、この場合に経済的利益追求のみの売却が進められないよう、ある程度期限を限定する築年数要件とも絡んでくるかと思う。
・現状で、中古住宅、中古のマンションで売買されているより、建物を解体して更地にしてしまった方が戸当たりの資産価値が上がるという敷地もある。そこで、そういうところに目を付けてくる業者もいるかもしれない。これを横浜市でシミュレーションしたところ、この数字が独り歩きしてはないが、仮にシミュレーションするとマンションがある土地と建物の一体の資産価値よりも土地だけにしたほうが資産価値が上がるというマンションが2割ぐらいあった。立地によってはその数はさらに大きくなる。建物を解体して更地にしてしまった方が戸当たりの資産価値が上がるマンションが世の中に一定存在することから考慮すると、いわゆる地上げみたいなものが存在しうることになる。