今後のマンション政策のあり方に関する検討会(9) | セミリタイアを目指すサラリーマン大家 マンション管理のお勉強

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2022年10月に国土交通省によって設置された"今後のマンション政策のあり方に関する検討会"は、9回にわたって議論が重ねられ、2023年8月10日に取りまとめが行われました。
9回の各検討会で行われていた議論内容も参考になるかと思い、資料を参照し、気になった点をメモ書きしましています。今回は令和5年7月24日の第9回の検討内容についてです。

■第9回(開催:令和5年7月24日)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000214.html

(1)第8回検討会からの主な変更点
●マンションの長寿命化の推進
●適切な修繕工事等の実施
●性能向上工事の促進
(2)とりまとめ(案)についての意見
〇EV充電器
〇コミュニティ条項の削除
〇建替え時の建築規制
〇一棟リノベーション
(3)今後のマンション政策のあり方に関する検討会 とりまとめ
3.1.1 区分所有者の責務の明確化
3.1.2 マンションの長寿命化の推進
3.1.3 適切な修繕工事等の実施
3.1.4 管理不全マンションへの対応
3.1.5 管理組合役員の担い手不足
3.1.6 定期借地権マンションの今日的評価
3.1.7 大規模マンション特有の課題への対応
3.1.8 マンションの管理状況が価格に反映される環境づくり(市場への情報提供の充実)
3.1.9 (3) マンションと宅配サービス
3.1.10 マンション管理士の専門性の向上等
3.2.1 円滑な建替え事業等に向けた環境整備


(1)第8回検討会からの主な変更点

●マンションの長寿命化の推進
・「もはや修繕工事の実施による機能回復は困難」とあるが、工事をすれば回復は可能と思われる。そこで、適時修繕を行っている場合と比べ、機能回復には多額の費用が掛かるという流れにしてはどうか。

●適切な修繕工事等の実施
・長寿命化に向けて、修繕履歴を蓄積していくことは非常に重要。修繕履歴は一元化していくことで有効活用できるため、修繕履歴の整備・蓄積・活用は重要であることを記載いただきたい。
・通常の長期修繕計画よりも長期の修繕計画のあり方の検討を行う場合、修繕周期の長期化についても検討願いたい。

●性能向上工事の促進
・「性能向上工事を実施しているマンションは限定的である」と示されているが、資金不足以外にも様々な要因があると考えられる。その実態を把握し改善していくことが重要である。施策の方向性に追記する必要があるのではないか。
→性能向上に対する管理組合の意識の希薄さ、資金不足、検討にあたってのツールやサポート体制不足など検討会において取り上げられた課題のほかに、性能向上が実施に至らない要因等について実態把握を行った上で、必要な措置を検討する。


(2)とりまとめ(案)についての意見

〇EV充電器
・戸建住宅に比べ、マンションは対応が遅れている。新築マンションにおいては建設計画時より規模に応じて計画されていれば適切な運用が可能だが、既存マンションでは EV 充電器を必要数確保できる環境ではない場合もある。
・急速充電器の活用により少ない台数で効率的に運用する方法や、居住者が公平に利用できるシステムを検討する必要がある。既存マンションで急速充電器を導入するにあたっては普通充電器からの仕様変更や設置場所等、利用面からの検討が必要であり、居住者間での合意形成が困難になると考えられる。こうした既存マンションに対する EV 充電器設置の考え方を整理し、今後検討を進めて欲しい。
・今後本格的に EV 車が普及していくことを考えると、中規模以上のマンションにおいては普通充電器だと需要に対して供給が追いつかないおそれがある。EV 充電器の設置に対し経産省や東京都の補助金があるが、主に普通充電器を対象としており、急速充電器は対象とならない場合がある。マンションにおける EV 充電器の普及を促進するためにも急速充電器に対する補助等の措置が必要ではないか。

〇コミュニティ条項の削除
・管理組合は区分所有法第3条の所有者だけの団体であるので、居住者のコミュニティ活動に修繕積立金を使うのはいかがなものかという話があり、所有という原点に戻って管理組合を考え以前の検討会で削除したと理解している。
 例えば、100%賃貸に出ているマンションに対して、居住者と自治体で協議すべき地域の問題を、その自治体に住民票がない区分所有者の管理組合とどこまで協議できるのかといった考え方がある。

〇建替え時の建築規制
・これまでの幾多の建替え促進策が講じられたにも拘わらず建替えの実績が伸び悩んでいる実態を重く受け止め、事例収集やその横展開だけでなく、より踏み込んで検討すべきではないか。マンションが多く存する大都市圏において、地公体が定める建築規制と、それらの規制が建替えの隘路となっている実態を把握したうえで、国としての対策を検討し、技術的助言やガイドラインとして発出する必要があるのではないか。

〇一棟リノベーション
・マンションの建替や敷地売却が進まない理由として、立地はいいが容積率に余裕がないといったことがあげられる。いわゆる一棟リノベーションなど今ある建物を綺麗に再生できることは有効。一方、マンションで一棟リノベーションを実現するには、全員同意や多額の費用がかかるといった問題もあげられる。意思決定に関しては、多数決による決議の仕組み、費用に関しては、住宅金融支援機構による融資等で解決できるのではないか。


(3)今後のマンション政策のあり方に関する検討会 とりまとめ

3.1.1 区分所有者の責務の明確化

・マンション管理適正化法では、管理組合については建物の適正な管理、区分所有者については管理組合の一員としての役割を果たすことが必要である旨の努力義務規定が設けられている
・現在、法制審議会では、民事法たる区分所有法における区分所有者の責務規定に係る検討が行われている。

3.1.2 マンションの長寿命化の推進

・マンションの長期修繕計画は通常20~30年の期間であり、管理組合において、マンションの寿命を意識した上でその長寿命化を進める観点からの意思決定を行うための環境が整っていない。
・区分所有者等に対し、マンション長寿命化促進税制の周知を通じ、マンションにおける長寿命化の必要性・重要性についての普及啓発を進める。
・管理組合においてより長期的な視点に基づく意思決定を行うため、マンションの寿命を見据えた通常の長期修繕計画よりも長期の計画(超長期の修繕計画)のあり方についての検討を行う。

3.1.3 適切な修繕工事等の実施

(1) 修繕積立金の安定的な確保
・マンションの長寿命化にあたっては、適切な長期修繕計画を作成するだけでなく、修繕履歴等を踏まえ、適切に見直しを行い、修繕積立金を安定的に確保することが必要となる。
・国土交通省の調査によると、近年分譲された「段階増額積立方式」を採用するマンションについて、長期修繕計画の計画当初から最終計画年までの増額幅の平均は約3.6倍となっており、なかには10倍を超えるものも存在する。
・条例により、分譲時には「均等積立方式」とすることを分譲事業者の努力義務とした地方公共団体も存在する。

(2) 適切な工事発注の確保
・国土交通省の調査によると、近年は「設計監理方式」の割合が高く、約8割を占めている。

(3) 性能向上工事の促進
・EV用充電器の設置にあたっては、費用負担や事故等が生じた場合の管理責任の所在などに留意して管理組合で合意形成を行うことが重要。

3.1.4 管理不全マンションへの対応

・所在不明となった区分所有者を管理組合が探索する場合、容易に探索することができず、また、探索に要した費用を当該区分所有者に請求できる仕組みが存在しない。
・区分所有者等に住所変更が生じた場合、管理組合がその事実を確認する方法が必ずしも定まっていない。
・所在不明者の探索にあたって管理組合が費用を支出した場合、その費用を原因者に請求できる規約のあり方について検討を行う。
・(公財)マンション管理センターが作成した「管理組合のためのマンションの空き住戸対応マニュアル」について多くの管理組合・管理業者等が知ることができるよう、関係機関や地方公共団体の協力も得ながら、様々な場における周知を進める。

3.1.5 管理組合役員の担い手不足

・国土交通省の調査によると、管理業者が管理者に選任されているケースのうち、半数程度の管理業者について、管理者としての契約を結んでおらず、また、管理業者が大規模修繕工事を受注することがあるとされている。また、多くの場合において、管理組合保管口座の通帳と印鑑を同一の社で保管している実態がある。

3.1.6 定期借地権マンションの今日的評価

・定期借地権マンションは1990年代後半から市場に供給されており、所有権型マンションに比べ、一般的には安価、好立地で広い居住面積が確保されたマンションが供給されている。
・定期借地権マンションは、敷地の利用に係る契約終了時に、建物の除却が地主との間で合意されているとともに、一般的には解体費の積み立てを行っていることから、将来にわたって建物の管理不全化が放置されるリスクが少ない点が特徴として挙げられる。
・契約終了時における建物の除却が地主との間で合意されているという点で、将来の管理不全化のリスクが低いという定期借地権マンションの優位性が社会的に評価されていない可能性がある。
・契約により明け渡しや取り壊し時期が定められていることで、契約期間の終了が近づくにつれて、適正な管理を維持することが困難となるおそれがある。
・地代改定・徴収、マンションの解体等に対して、管理組合の関与に係るノウハウが整理されていない。
・定期借地権の契約期間終了後の具体的な対応(除却、借地権の再設定、所有権化など)について、実務上の知見が蓄積されていないため、対応に苦慮する可能性がある。

3.1.7 大規模マンション特有の課題への対応

・超高層マンションは、それ以外のマンションにはあまり見られない特有の設備等※を有しており、こうした設備のメンテナンス等には高額な費用を要する場合もある)。一方で、国土交通省が定める「長期修繕計画作成ガイドライン」においては、超高層マンション特有の設備項目について必ずしも位置づけがされていない。
※ 非常用エレベーター、タワーパーキング、内廊下内の空調設備、セントラルヒーティング、スプリンクラー、非常用発電設備、エスカレーターなど

3.1.8 マンションの管理状況が価格に反映される環境づくり(市場への情報提供の充実)

・マンション標準管理規約(本文)では、管理組合が宅建業者の求めに応じて長期修繕計画を提供することになっているものの、具体的な情報提供が定められている同規約別添4においては、長期修繕計画の内容(修繕積立金の値上げ時期、値上げ額など)が定められておらず、これらの情報が購入希望者に提供されにくい環境となっている可能性がある。

3.1.9 (3) マンションと宅配サービス

・民間企業の調査によると、築20年以下のマンションではほとんどのマンションに宅配ボックスが設置されているが、築26年以上になると設置率が大幅に減少し、築31年以上のマンションにおける設置率は約1割程度となっている。
・マンションは戸建て住宅と比較して荷物の配達に時間を要し、特にタワーマンションにおいては、1個の荷物を配達するために30分以上要する場合があるなど、宅配事業者の負担が増加しているとの指摘がある 。

3.1.10 マンション管理士の専門性の向上等

・特に、管理会社に属さないマンション管理士は、その専門性に加えて、第三者性・中立性に特徴を有しており、今後管理組合においてニーズが発生しうる大規模マンションにおける会計監査や管理業者が管理者となる場合における監事への就任、高齢化に伴う理事会の支援業務などの業務では、これらのマンション管理士の第三者性の発揮が期待されると考えられる。
・今後管理会社が撤退し、自主管理となるマンションも増加すると見込まれるが、その際にも地方公共団体と連携する形も含めたマンション管理士による管理水準の維持が期待される。
・今後管理組合においてニーズが高まり、かつ、政策上の手当ての必要性が高いと考えられる業務(大規模マンションの会計監査、管理業者が管理者となる場合における監事への就任、理事会支援、自主管理、防災支援等)について、必ずしも多くのマンション管理士が必要なスキル・ノウハウを有していない可能性がある。

3.2.1 円滑な建替え事業等に向けた環境整備

(1) 住戸面積基準による区分所有者の負担増加や事業採算性の低下
・建替え事業における住戸面積基準のあり方について、地方公共団体等の意見の把握を進めた上で、当該基準の必要性も含めて検討を行う。

(3) 建替え事業における建築規制に基づく制約
・東京都の調査によると、都内の1971年以前に建築されたマンション約2,200棟のうち、建築後に制定された容積率の基準に適合しないマンションが約半数存在し、また、容積率の基準に適合している場合であっても、建築後に制定された日影規制等の基準に適合しないマンションも多くあるとの結果がある。
・マンションの建築後に建築基準法の形態規制が制定された場合、建替えに際しては当該形態規制に適合させる必要があるため、建替え前の建物規模を確保できないことから、事業性や合意形成の確保が困難な場合があり、この解消が必要。
・形態規制の緩和については、周辺市街地との関係を踏まえ、慎重な検討を要することを前提としつつ、地方公共団体が行う独自の緩和事例や緩和の考え方等を収集し、他の地方公共団体の参考となるよう横展開を図るなど必要な施策の検討を行う。