オスカルがアンドレとの間に身分差を感じなかったことには、もう一つ彼女が男性の役をしなければならなかったことも大きいですね。オスカルは女性ですから、どうやったって男性の性に似せて学ばねばならず、それは一番そばにいる本物の男性アンドレを真似ることが多かったかと思います。きっとアンドレは足投げ出して開いて座ってたりして、オスカルがそれを真似、ばあやが「お嬢さまにみっともない格好させるんじゃないよ。」とか怒られていたでしょう。本物の男性という点ではアンドレは優位に立てるのでオスカルはますます身分差を感じなかったのだと思う。

 

そして、フェルゼンです。最初の出会いでは、フェルゼンはアントワネットに恋に落ちたと思うけど、オスカルはそれほどなんとも感じなかったと思うのね。格好の良い美形の貴族なんていっぱいいるだろうし。やっぱり、王太子妃落馬事件の時じゃないかなあ。オスカルはすごい正義感の持ち主ですよね。ピエール坊やが打たれた時も燃えんばかりに怒っていた。この王太子妃落馬事件の時は、オスカルが一緒に落馬して下になって落ちたんだけど、負傷しているのにアンドレの危機に出てきて、王に裁判を申し込むんですよね。恐るべし正義感。でもそこへ「正義のために私も死ねるぞ。」っともっとアホウなほどすごい超正義感男が。いやー、オスカルは清廉潔白、正義の人ですが、彼女は初めて自分より上の正義感を持つ男に出会ったのではないでしょうか。結局、王太子妃様が王様に懇願してくれて、全員お咎めなしのありがたい結末に。オスカルはフェルゼンに超感謝してます。この恩は一生忘れないぞと。

 

オスカルが熱い情熱の持ち主で喧嘩っ早い強い男性性があるので、なかなか見えないのですが、これってね、少女漫画の常道シーンですよね。命が危ないところを自分と自分の大切な家族の一員(アンドレ)を救うために立ち上がってくれた男。正義の男。少女漫画では好感度上がりまくりだよ。恋に落ちたい相手、恋が始まる予感ですよ。オスカルさまはねえ、強い男性性ももちろんあるんだけど、その内に秘めてる女性性は超恥ずかしがり屋の乙女だからね。ここに本人も気がつかないような小さな恋の芽があっても不思議はないです。

 

対するアンドレ。彼はきついっすねーーー。命を助けてもらった。愛する女性に。彼はただでさえ幼馴染の鎖で恋人の土俵に乗れないのに、彼女の命を助けるどころか助けてもらっちゃったわけですから、男としてはとても辛い。そう、せいぜいいつか彼女のために命を捨てると誓うのみ。

アンドレねえ、この時点でほんっと厳しい。マイナス150からのスタートって感じ。

この時点での状況を見ると本当に彼はよく彼女の恋人になれたなっという感じがします。

 

オスカルのフェルゼンへの愛は、なかなか表には出ません。

彼女が男の殻を被っているせいですね。宮廷での噂の抑制でフェルゼンを止めたり、アントワネットさまに諫言したり。でもアントワネットさまには女の心を問われ、フェルゼンには男の愛のあり方を語られ、オスカルの男の殻の内にある内面が揺さぶられていきます。

フェルゼン、フランスを離れている期間も長いんだけどね。

ついに独立戦争後、帰ってこないフェルゼンを巡って、オスカルが酒場で大爆発。

「フェルゼンのばかやろう、地獄へいっちまえ。」

でアンドレは秘めたオスカルの恋心を改めて知ります。

で、ここで星空キスなんだけどさぁ。アンドレって悪いヤツっというか抜け目ないヤツだのう。おまえが誓ったのは彼女のために命をかけようっでなかったっけ?護衛なのにキスしちゃって。まあ、「兄」より護衛の方がまだチャンスがありそうだけどね。ここのアンドレは、オスカルがフェルゼンのことを好きだと知っていてキスしてるんですからねえ。ルール破りのとんでもないヤツというべきでしょう。

 

フェルゼン、帰ってきますが、オスカルはそそくさと逃げ出します。そう、ほんっと彼女は乙女なのねぇー。フェルゼンの顔を見て泣くのではなく、馬に乗って、誰にも見られず、「無事で帰ってきてくれた」と泣いているのです。アンドレはこの時、どうしていたのかな。走って追いかけ?馬借りて追いかけ?絶対追いかけて見ていたとは思います。

 

そして、あのロザリーがいない僅かな間隙をついて、オスカルはローブを着るんですね。いや、もう乙女すぎるよ、発想が。1度だけでいいとかさ。うーーーん。年相応に女性性が育っている女性なら、相手の目を見て、ローブの(肉体の)美しさで勝負するよねえ。でもこの時もオスカルさまはすぐに逃げちゃう。どこまでウブなんだって感じ。まあ、女性から誘惑するというのは、自分の女体を認容し愛していないとダメだからね。オスカルさまは多分全然ダメ。硬い乙女のまま。

 

さて、このシーンもなんですが、オスカルさまは2度にわたってフェルゼンに振られています。これは稀なことです。ベルばらは非常に簡潔で無駄なくストーリーが進んでいき、冗長な部分というのがありません。でも、オスカルはドレスのシーンとソフィアさんの馬車が故障してカフェに行った後のシーン、この2つで振られているんです。少女漫画の女主人公が失恋するのは滅多にないのに、オスカルさまは可哀想に2度も泣かされてしまってます。

 

これは、最初のドレスでフェルゼンと踊って、逃げ出しちゃって噴水のとこで泣いていたんですが、黒い騎士に襲われてオスカルさまが投げ飛ばしています。これって、どうなんだろう。オスカルの相手役として黒い騎士があったと思うんですよね。黒い騎士、オスカルを上手く押さえつけて、さらっていくストーリーも初期にはあったんでしょうか?さらわれるのがロザリーでなくてドレスのオスカル。

ま、でも、もうこの時にはアンドレ頑張れ底上げ委員会が立ち上がっていて、髪切り偽黒い騎士があったのか。

 

そして2度目のフラレシーンの後には、青いレモン、ブラビリが待っています。

もうここではアンドレが恋人役候補完全決定。むしろそうするために、もう一度オスカルさま失恋させられたと言ってもいい。

ここでのフェルゼンは前にも書きましたが、彼女の性自認をコッパ微塵にしてくれているのですね。初めてあったときに女の姿だったら、とか、彼女の男として生きてきた人生を全否定。あれほど勇気を持って着たドレスも効果なし(恋心を知られてしまっただけ)、フェルゼンは男としては誠実なんだけど、後天的な性自認が男で生得的な性自認が女の彼女にはとても辛い失恋だったと思います。

 

そしてアンドレ登場。激しい愛の告白。彼は禁を破ります。オスカルにとっては従僕という身分が下という男であるより、兄とも家族とも思う信頼している男が、襲ってきたことの方がショックだったと思います。アンドレは、フェルゼンがオスカルを抱いたと思ったんですよね(私の見解です。別の意見はもちろんありです。)で、オスカルの涙を見て、違うと思って留まった。

この未遂事件、どうしても必要ですよね。これがなかったらアンドレが恋人になることは決してなかった。アンドレ兄ポジション、離脱。

 

続きます。