イ・ジョンソクは今、どのあたりにいるのだろうか
方向を失ったと感じた時、立ち止まって振り返ってみる。私たちはどれほど変わったのだろうか。

イ・ジョンソクは2年余りの時を経て帰ってきた。よく笑い、余裕が感じられた。すでに映画 <魔女2> と <デシベル> の撮影を終え、ドラマ <ビッグマウス> の撮影も始まった。さて、イ・ジョンソクは今、どのあたりにいるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

『ARENA』とは2019年の4月に会いましたよね。あの時よりも余裕がありそうです。
だいぶ余裕ができました。代替服務の前は、うしろから急き立てられている感じでした。仕事も息苦しかった気がするし。招集解除後は気が楽になりました。急いで仕事をする必要はないと思いましたよ。

 


リセットされた感じ?
そうです。本当にそうです。

 


今日の撮影では、外側 (ジョンソクさんの輪郭がデジタル処理で) が崩れた作品がありました。それがジョンソクさんの今と似ているようでした。自分を包んでいるイメージを剥がして素の自分を見せる点と、別の殻を探している点ですね。
最近、撮影している時や他の作品を見ている時に感じる事があります。<D.P.> は見ましたか? チョン・ヘイン俳優とは親しいですが、本当に良い俳優だと思いました。演技のトーンや演出も見事ですよ。俳優は作品に臨む時に諦められない事がいくつかありますが、それを諦めて演技するのが良いようです。だから俳優が作品に臨む姿勢に、すでに点を加算して見ているんですよ。「うわ、本当にいいな」と見ています。僕も今回の新しいドラマでは、初めてモニタリングをあまりしませんでした。以前は撮影すると必ずモニターをずっと回して見ましたよ。顔や演技や問題点をチェックしたが、今ではもう鏡を見たり画面を何度も繰り返し再生しません。今は演技の本質だけを考えるようになりました。だからかな、生の演技をする俳優の作品をよく探して見ます。(Netflix <D.P.> 出演の) ク・ギョファン俳優が本当に魅力的です。彼が関わった独立映画も全部見ましたよ。あの呼吸はどうやっているんだろう? 生まれつきのもの? 訓練で養われたの? そんな事を考えながら見ていました。最近は、演技の上手い俳優の過去作を探して「全作品イッキ見」をしています。

 


いい俳優が数多くいますよね。
いい演技をする俳優が本当に多いです。僕も自責しながらも典型的な枠から抜け出したいと思いました。10年の活動で固まったものを壊してみたいです。

 


この2年で状況は変わりました。TVの時代は時間帯によってドラマに決まりのようなものがあったが、OTT (ストリーミング) ではドラマのテーマも内容も自由です。作家が顔色を気にせずに書きたいものを書くんです。もちろん俳優も意欲が出ますよね。
激動の時代に生きているんだと思います。この2年でずいぶん変わりました。撮影現場も変わったし、おっしゃったように作品の質もとても変わりました。こういうこと? 僕は、ふるいにかけられるんじゃないかと思って。世の中が変わっていますね。

 


社会に慣れていないと軍隊では当然体験するでしょう。
僕は一般社会にいたので適応できないのではと思ったが、今、人に見せる仕事をしているし、伝える手段は変わるだけで。「ん?  ちょっと違う? 呼吸も何か違うなぁ。あっちのほうが良さそうだけど?」と (社会と軍隊の) 違いを体感しています。

 

 

撮影現場の変化も大きいですか?
一番の変化は労働時間が定められたことでしょう。ドラマの撮影は夜を明かすことが多かったです。一日に数時間しか寝られない事もよくありました。今は労働時間を守って撮ります。(労働時間内に) 撮りきれなければ製作スタッフで多数決をとって、続けて撮ったり中断したりします。大きな変化でしょう。ドラマの撮影期間が延びたのも変わりました。今、初めての撮影をしているところで、まだ感じる事はあまりなかったが、新しい何かを演技しないといけないのでは、と考えています。

 

 

新しいプラットフォーム (映像コンテンツや配信コンテンツ等々) が生まれ、最近はその本質について言及する人が増えました。デジタルアートなどはまだ新しい分野で詳しい評論家もいませんから。必ずしもそれが必要ではないですが。多彩な作品が増えたが、判断基準がはっきりしていない事もあり、再び本質に戻ることもあって。演技するほうとしても本質に深く悩みそうです。
そうですね。以前はドラマにプレッシャーがありました。バスト演技 (胸から上だけの演技) というでしょう。(顔の) 表情で表現して、ここぞというところで呼吸を止め、言葉の発し方と伝え方に集中して、正しく聞こえるように努力すると変われるとわかりました。変わろうと努力するのに、今までに培ったものがあるので、抜け出すのはそう簡単ではありません。僕は普段サラッと話すほうです。ところが作品をする時は、きちんと話すプレッシャーがあります。親しい演出家や作家が「なぜ仕事の時はあまり喋らないのに、普段はサラっと喋るの?」と言いましたよ (笑)。

 


ジョンソクさんはTVで見ると強そうに見えるが、実際は話しやすい人ですよね。
もともと話すのがゆっくりです。人にあまり会わないので話す事があまりないですね。それで「イ・ジョンソク個人」として台本もなく話をするのは、三十を過ぎた今でも慣れません。ところが最近は、演技の時も自分の話し方でいいんじゃないか? と思うようになりました。その術を知らなければ知らないで終わったのに、ほんの小さな事ですが見つけたようです。

 

 

ジョンソクさんにとって代替服務期間は、どんな思い出ですか?
特に意味を考えたり、考えの方向が変わったりはなかったです。ただ、(早く仕事が終わるので) 時間がたっぷりあるのは悪くなかったです。ゆーっくりできて、何の仕事もなし、明日もスケジュールなし。これがとても良かった。(俳優の) 仕事をする時は撮影が終わったら何をしようかと計画がありました。どうしてもやりたい仕事なら息苦しくても掴んだが、今は自分で考えるようになりました。良い作品のオファーが来ればするだろうし、良いオファーであっても休みたければお断わりします。これを撮影したら大変だろうか? 上手くできるだろうか? 今はそう考えます。

 


今まで演技者として生きていますが、他の類の仕事をしたら面白いのでは?
そうですよね。(代替服務要員の) 通勤パターンにすぐに慣れましたよ。最初は9時にどうやって仕事に行くか、6時にどうやって終わるかを考えましたが、でもやってみたらそれが普通の暮らしなんですよ。6時に終わって家に着いて7時。ご飯を食べて8時。じゃあ8時から何をしようか。TVをちょっと見て寝て。その生活が本当に安定していて、代替服務要員なのでクビになる心配もなく新鮮でおもしろかったんですよ。ところが組織にいると会社員の辛さがわかるような気がしました。自分はフリーランスなので一度も感じたことはありませんが。たとえば2、3分遅刻する時があるでしょう。顔色を窺いながらこっそり席に座ると「ジョンソクさん! 遅れてどうするんですか?」と怒られて、「すみません」と謝りながら顔色を窺って。周りの人を見て社会生活が何なのかを感じましたよ。今も福祉館の先生たちとたまにご飯を食べます。 

 

 

それでも残業がないのがいいです。
ええ、会社員は仕事が終わってもゆっくりできる時間がないとわかりました。会社員はビヤホールでチキンを食べるのが本当に「소확행ソファケン-ささやかでも確かな幸せ」だな、疲れていても2~3時間ほどビールを飲むのが幸せなんだなとよくわかりましたよ。
 


映画の話もしましょうか。映画 <魔女2> と <デシベル> の撮影が終わりました。2つの作品を選択した理由はそれぞれ違うでしょう。

以前パク・フンジョン監督と <V.I.P> をしました。監督が <魔女2>は「出番は少ないけれど役が『かっこいい』から」と言うので、「やります」と台本を受け取りましたよ。特にきっかけというより、監督が「この役いいよ」と言うので決めました。悪役ではないけれど悪役のようなキャラクターで面白い役です。<デシベル> は、休んでいる時に入ってきたシナリオを見ていたら引き込まれましたよ。すぐやるつもりはなかったのですが、この役は挑戦してみる価値がありそうだと思って出ることになりましたよ。

 


<魔女2> のシナリオを頂いてどうでしたか? 期待以上でしたか?
シナリオを見て「ああ、僕なら上手くやれそうだ」と思いました (笑)。監督がなぜ僕を考えたのか分かりましたよ。一緒に作業した事があったので、僕のアクセントまで全て把握してセリフを書かれたようでした。セリフを読んだ時、これは上手くできると思いましたよ。あまり登場しないのに出るたびにセリフがとても多くて大変でした。

 

 

 

 

アクションもしたでしょう?
ちょっとネタばれになりますが、状況が一段落したら後で格好つけて立っています。

 


では、<デシベル> ではアクションを期待してもいいですか?
はい。ちょっと一言。最初のシナリオではアクションがなかったんですよ。ところが出演を決めてハンコを押したらアクションシーンができていたんです。それで大変でした。

 


アクションこそ映画のパワーではないですか。1対1の対決 (タイマン) 中心の昔のアクション映画に比べて、最近はアクションがとてもかっこいいです。ビジュアルが本当に……。

アクションシーンは大変かと思ったが面白かったです。アクションをしていると相手も自分もケガをすることがあるでしょう。殴るほうも殴られるほうも気まずいです。殴られたほうがかえって気が楽で、2人でやりあっても気まずくて、アクションは避けたい方向です。

 

 

私が知っている中では、ジョンソクさんが一番のドラママニアです。最近、印象的なドラマはありますか?
今はドラマを見て「ああ、あの俳優は本当に演技が上手いな。どうやったら、ああできるんだろう? 台本をどうやって読んだのだろう?」と考えます。以前はドラマを見ると自分の考えが、あらぬ方向へ伸びて行って、自分もあんな演技をしてみたかったと思ったが、最近はシンプルです。直観で見て「ああ、あの俳優本当に立派な俳優だ。これ、演出は誰なの?」そんな程度です。 

 

 

ドラマの見方も変わりましたね。
はい、ずいぶん変わりました。あ、これも影響があると言えばありますね。以前は台本の中のキャラクターの立場で見たとしたら、代替服務を終えてからは仕事を休んでいたので、本当に視聴者の立場で気楽に見ました。今でもドラマの初回放送はチェックして見ます。本当にほとんど見ていますね。初回放送を見て自分の好みかどうかが決まりますね。


OTT (ストリーミング) はユーザーのアルゴリズムに沿ってオススメしてくるでしょう。「あなたはこれが好き」と。ジョンソクさんは何を薦められましたか?
韓国映画だとノアールなどが出てきます。

 


最近は一本で完結する映画より、シリーズものが脚光を浴びているようです。プラットホームはユーザーを縛っておけるし、創り手は長期的に仕事が出来て良いと思います。俳優としてはどうでしょうか?
シリーズが増えると俳優には資産になる点で長所でしょう。キャラクターを構築する段階が一番大変なのですが。いいキャラクターを一つ作っておけば、シリーズ化されると俳優はラクです。

 

 

<ビッグマウス> をドラマ復帰作に選んだ理由は何ですか?
今までにやった事のないキャラクターとジャンルです。ドラマチックな要素が多いです。監督が作品を準備している時に連絡しました。「最近は何を準備なさっていますか」と。準備中の内容をざっと見たが、面白いんです。それで監督に「それでは私と一緒にやりますか?(笑)」と聞いてみましたよ。年齢がちょっと上の役です。結婚している設定で。僕がやるとしたら挑戦するストレスで、上手にやらなければならないプレッシャーに苦しめられそうだが、それだけの価値があると思いました。おもしろいと思ったし、新しいなと思いました。

 


昨日は撮影初日でしたが、ちょっとは緊張しましたか?
すごく緊張しましたよ。以前と違って演技をしたい気持ちはあるが、それが上手くできません。緊張したが久しぶりの撮影で面白かったですよ。以前は上手くやらなくてはというプレッシャーに苦しんで寝るのもままならなかったが、昨日は足取りも軽かったし良く眠れました。以前は汗をかいたらNGになると思って集中できなかったのですが、今は汗が流れたら流れたで「あぁ暑い」と、放っておきます。汗をかいたらどうだ、肌がちょっと赤くなったらどうだ、と気持ちからして変わりましたよ。そんな事が新しいと感じたし面白かったです。次の撮影日が待ち遠しいです。そして昨日は富川(プチョン)のアパートで撮影したが、アパートで撮っていると住民の方が出てきて見るでしょう。何をしているか気になって。それで初めての撮影なのに住民の方がみなさん出てきて見るのでますます緊張しました。緊張して汗をかいたが、暑かったし服も厚かったしね。

 

 

 

 

まるで舞台に上がったようだったでしょう?
はい、本当に楽しかったです。住民の方が通って「あら! なかなか童顔ね!」(笑)と言ったが、そのお母様、よくわかります。顔はわかるけど名前がわからない、でも褒めなくちゃいけない。生まれて初めて聞いた称賛でした。

 


関心のあるテーマは何かありますか?
タンニングです。健康的で小麦色の肌がきれいに見えます。僕はもともと色が白くて、今までずっと白かったでしょう。褐色の肌が健康的に見えます。それでちょっとタンニングしてみました。

 (注:タンニング-ひと塗りで小麦色の肌になるジェルやローション)

 


肌が白い人は赤くならないですか?
ええ、なりますね。タンニングに関心を持ったのは作品の為です。陸上のシーンがあって、陸上をする方を見ると、しっかり筋肉があって焼けた肌でしょう。僕が短いパンツにノースリーブのユニホームを着たら、太ももや腕がとても白いんです。「あ、これはないでしょ」って。それで試してみようと思ってタンニングに興味ができました。

 


コメディもよく似合いそうです。
僕は本当にコメディは好きだが、コメディの呼吸が何なのかを知っている人が上手いと思うんです。それぞれが自分の呼吸で演じてもテンポ良く話す人です。そんな人がコメディに合っていると思います。そんな人を僕も尊敬しているし、コメディはやってみたいです。でも僕にはコメディのDNAがないかもしれないです (笑)。

 

 

自分の演技が枠にはまっていると思いますか?
解釈しながら演技をする訓練をしてきたので、体に備わったものがあるからです。でもわかりません。僕もこの先ずっと仕事をして、自分の状態がわかると思うんです。今はどの辺りにいるかよくわからないです。

 


最後の質問になります。今後の方向性について何か悩みはありますか?
まだわからないです。自分は何をどうして、どう生きたいか。はっきりとした方向のない状態です。それだけです。方向性を持たなくては、という考えはなくて。演技をするのが本当に面白い。その過程そのものが面白いです。ファンが待っていてくれて、僕がしなければならないのは、この作品を上手くやり遂げること。それ以外の人生の方向性はまだ迷っています。

 


自分が面白いと思える事が何なのか知って、それを業 (なりわい) にできるというのが良いでしょう。
一番好きなのは作品を見ること。TVや映画を見るのが好きです。自分の作品を見るのが一番おもしろい。今まで演じて経験してきたプレッシャーを見ることで報われましたよ。自分を追い込んでストレスになったのは自責するが、と同時に出た結果がとても良かったです。ところが今は撮るのも面白いです。結果はまだ見ていないがとにかく幸せです。 

 

 

 

 

FASHION EDITOR チェ・テギョン
FEATURE EDITOR チョ・ジニョク
PHOTOGRAPHY モク・ジョンウク
OBJET & ARTWORK キム・ヨンジン
STYLIST キム・ジョンミ
HAIR イミン
MAKE-UP カンミン
ASSISTANT ハ・イェジ

 

 

 

 

 

 

 

 

この赤い字の訳は本当の本当に自信がなくて……。

今日の撮影では、外側 (ジョンソクさんの輪郭がデジタル処理で) が崩れた作品がありました。それがジョンソクさんの今と似ているようでした。自分を包んでいるイメージを剥がして素の自分を見せる点と、別の殻を探している点ですね。

 

 

今回のエディターさんは、ARENA 2019年4月号でも執筆しています。