とても騒々しい孤独
まともに休んだ事は一度もなかった。出演したドラマはすべて成功し、映画では鮮やかな局面を見せた。世界のどこにいても孤独になる事などないスターでありながら、不意に「倦怠と孤独」を口にしたイ・ジョンソクと午後3時に交わした対話の記録。
イ・ジョンソクは今や予測不可能な俳優になりました。一番の驚きは、目標通りにやり遂げたことです。
目標というより、その時その時の方向をじっくりと考えます。自分の現在と進む方向について。僕自身イ・ジョンソクという自我にとても……作品のモニタリングも逐一して毎日イ・ジョンソクについて考えていると、イ・ジョンソクそのものから一歩離れて見ようと努めます。
俳優として? 人として?
インタビューでこんな質問をよく受けるでしょう? 自分の長所や褒めたい点を。客観的に見ると短所は色々言えるのに長所となると考えてしまいます。
それで見つかりましたか?
う~ん……頭はかなり良いと思います。
パク・フンジョン監督も、賢さをイ・ジョンソクの強みに挙げましたよ。(私も) 同じように感じました。とても賢い俳優です。
そんなことはないですよ。その時その時、相手のセリフのテンポやニュアンス、デシベルによって瞬時に反応する、動物的な感覚と言うでしょう? 僕はそんな演技スタイルではありません。とても研究肌です。計算して演技するスタイル。感情に応じてその人物でしっかり演技すべきなのに、外側から探そうとする事がちょっと多くて……。
だとしたらキム・ミョンミンさんと一緒の時は不思議な感じがしたでしょうね。正確な演技と定評のある俳優ですから。
先輩がNGを出すのを一度も見ませんでした。セリフを噛んだり忘れたこともないです。メソッド演技(真に迫った演技)というでしょう? 撮影する間は、その人物で生きようと努力する感じでした。それでいつも付いて回りました。「先輩、僕これできそうもありません。演技はどうすれば良いでしょうか?」と何度も尋ねました。
本当に分からないから分からないと言ったのではないですか?
そうです。ドラマに慣れてくると機械のように演技する事も多かったです。このぐらいの表情なら状況が十分説明してくれるだろうと考えて。そうしたくはないが、そうするしかなかった自分から抜け出せる突破口があればいいが、答えが出てこないと助けを求めましたよ。
最も胸に響いたアドバイスはありましたか?
実践に結びつく話。本当に事細かくおっしゃられました。「先輩が感情を爆発させるシーンなのに、ここで声を張り上げたら少しオーバーな気もするし、場が沈みそうですがどうしたらいいでしょうか?」と尋ねると「こんな感じあるだろ、何故そうしたかわかるだろう?」ではなかったです。「ここで筋肉をこうすると感情が大きく出せるし、体をこうすれば感情をこんなふうに伝えられる」という感じでした。実践に結びつくアドバイスをくれました。
<あなたが眠っている間に>より前に撮ったでしょう? まったくの別人を演じました。
<あなたが眠っている間に>の序盤では方向性が定まらなかったです。これは全く別のものだと思おうと努力しました。
<V.I.P>で演技に対する悩みがいくらか解消されたのなら、以前よりずっと自由に演技できるようになったのでは?
どんな負担があったかと言うと、パク・ヘリョン作家とは3度目の作品ですね。作家の作品がファンとして大好きです。ところが今までと違わなくては、という気持ち。同じ作家の作品を同じ男主人公がするのに、前と同じなら作家にも迷惑になり得るからです。ですが、おもしろく見ています。このように事前製作をしたのも初めてです。以前はすぐにフィードバックを見て前回の感情を次で補う形でしてきたが、今回は続けて撮ったのでそこも慣れなかったです。他の人のドラマを見るように見ています。
それはとても高い次元の瞑想とも言えます。自分と、自分の感情を客観的に見ること。
作品の度に成長してきたと思いました。演技的にも人間的にも成長して行くんだなと思って、それがぴたっと止まる瞬間があるでしょう? 崖っぷちに立ったような。
なぜそこまで自分を責め立てますか? ちょっと肩の荷を下ろして楽しんでもいいでしょう?
成長してきたと感じる自体、劣等感から始まったようですね。自分を客観的に見て、他の人と比べ始めて、そこから劣等感が生まれて劣等感によって刺激を受けて。一段階ずつそうしてきたようです。だから「なぜここまで?」と聞かれた時、考えてもよくわからないです。でも「上手くやりたい」、「恥ずかしくなりたくない」というのが最も大きかったようです。
「顔のラインがしっかりとした俳優は格好良く老いられるが、自分の顔はそうだと思わない」と言った言葉、今でもそう思っていますか?
はい、そう思っています。演じていなくてもアングルから感じられる威圧感? 例にあげると僕がキム・ミョンミン先輩の役で、タバコをくわえて汚い言葉を吐き捨てるシーンを (ミョンミン先輩とは) 別の演技として表現できても、何となく感じられるものってあるでしょう? 僕は線が細いので、そこを克服するには演技のスキルがいるわけで。まだ努力が足りなくて残念だという意味です。
俳優として努力して積んだものは直接的にも間接的にも経験があるはずなのに、デビューしてから休む時間がなかったのではないですか。その時はそれが楽しかったのでしょう?
そうですね。
ところが振り返ってみて虚しいと。
今まではTVや他のドラマで、先輩たちの演技とドラマの中の世界を見て感じて、間接的に経験をしてきたということでしょう。その感情に基づいて今まで演技をしてきました。そうこうして20代後半になって、ほとんどを頭の中で実らせたが実際にイ・ジョンソクが経験した事ではないですから。
持っていたものを使い果たした感じ?
僕が今まで培った経験値は使い果たした気がしました。それで最近は人間イ・ジョンソクとしての他愛のない経験について考えます。俳優以外のイ・ジョンソクを考えてみたことはないけれど。
旅はいくらかできましたか? 今回、Esquireでサンローランとパリに行ってきたじゃないですか?
サンローランのショーを見てお母さんと弟と一緒に旅しました。ルツェルンとローマに行きました。ガイドブックにある観光地を車もガイドもなく行ってみたのは初めてでした。かなり歩いて大変だったけれど良かったんですよ。ところが弟に聞くと、兄さんとはもう旅行に行かないって。
なぜですか?
バチカンでもどこでもアジアの方が僕を知ってるって。家族が敏感になったんです。気付いて写真を撮って「あの~すみません」なので隣でストレスになるんです。
パリはいかがでしたか?
一つ感じたのは、僕も昔モデルをしていたので「確かに韓国のモデルはウォーキングが上手いな」って。背が低いモデルが多かったようで。サンローランはデザイナーが変わって感じが変わりました。僕もサンローランが好きで、今回のコレクションのステージは本当に素晴らしかったです。エッフェル塔を背景にして。
友達とも初めて旅行したでしょう?
あ、チョン・ヘインとシン・ジェハと日本に。<あなたが眠っている間に>が終わってから色々と経験しました。僕は旅行が本当に好きではありませんでした。ただホテルでじっとしていても、出かけてきた感じが良くてほとんどホテルにいましたよ。でも今回はあちこち歩きまわる旅をしました。日本でも、ここが有名なんだ、ここが美味しい店なんだ、と行ってみて。
日本では、気付かれることが多かったでしょう。
ジレンマです。そばで気を遣ってストレスになるからです。
イ・ジョンソクはそれを楽しめるでしょうか?
耐えなければならない部分だと思います。
パラドックスですね。演技は自由でなければならないのに。
性格によって違いはあります。僕はすごく内向的で外にもあまり出ないのに、今ようやく出ようとしているところだから。慣れる段階というか?
今のイ・ジョンソクを列車に例えるなら、今、停まっているこの駅は割と気に入っていますか?
んー、抽象的な質問ですね。
今までは各駅停車で停車時間が5秒ほどでした。いきなり案内が放送されるんです。「降りる方はさっさと降りて、さっさと乗って! 早く!!!」スッと方向を変えましたよ。違う風景が広がってきました。ギアも一段おとした感じ。
そうです、今はそんな感じです。
でも、ゆっくり進むのもそう簡単ではないでしょう? 早く走る列車は自分の速度を体で覚えていると。
不安です。最近の僕の関心事は、このカフェ (新寺洞89マンション) ですよ。すべての関心がここです。かなり斬新でかなりおもしろいです。ビールの種類がこんなに多いと思わなかった。僕はただ道行く人達が立ち寄ることができる、僕が楽しめる空間を作りたかったが、開店前に噂になりファンが来始めました。「あ、もうダメってことか」と思いました。
検索すればすぐにイ・ジョンソクカフェと出てきます。
わずか2週、3週前だけでも隠したかったです。甘かったです。新人の時から路地にある静かなカフェで心おきなく人に会って、というのが夢でした。それが難しくなってまたジレンマになりました。
ファンはどんな存在でしょうか?
多くをくださるが、永遠に取り戻せないものを奪ったりもします。
この前、ファンミーティングもしたでしょう?
約束した場所でファンに会う時、応援と愛がとてもあふれています。今回もオープニングで上る時、歌を歌っていたら泣きそうになりました。ここのカフェで会うのはまた違います。さきほども中国のファンが来られました。その方は僕を見るとまずは固まって。すぐにカメラを取り出します。当然ですが、このカフェはイ・ジョンソクが好きな方も来られるが、イ・ジョンソクを好きではない方もいるという事でしょう。それではお客さんとして来られた方は気まずい事もあるので心配です。「あぁ、もうファンがいる時はここにはいられないね」と考えるんです。僕はどうしたらいいんでしょう。
夢がある人が現実と折り合いながら夢を追い求めると常に葛藤するでしょう。仕事をしながら小説を書く人の例をあげると、仕事で経済的な安定は得られても時間は空しく奪われます。不安に陥って。会社という列車に乗っているが、夢という駅を通り過ぎるのではないだろうか。イ・ジョンソクが通って来た時間もそうでしょう。何を得て何を失ったのでしょう?
かなり感じます。得たものはすぐに浮かびます。ありふれていますが。お金と名誉を得て自由を失った? あえて失ったものを言うなら「青春」でしょう。30を前に考えてみると、僕は、MT (合宿)、ワークショップ、ミーティングもした事がないし。今回の旅行でも弟は一人でGoogle Mapを使ってUberを呼んで、出歩いています。「おい、それどうやってやるんだ?」と聞いてみたり。「すごいな、うちの弟」って。そんなにすごいことではないのに。
とはいえイ・ジョンソクが俳優でなかったなら「青春」と言えるような経験をしたでしょうか?
何日か前に、その事をスイスからイタリアへ向かう飛行機の中で考えていました。かなり真剣に、1時間もの間、飛行機の中で考えてみました。今のイ・ジョンソクではなく普通の大学生だったら、俳優を夢見る学生だったと思います。夢だけを見て今の年齢になったと思うので、ありがたかったです。21歳の時のデビュー直前を振り返ってみると「一生懸命やります!」と言うほど演技練習はしていなかったんですよ。つまり情熱ぐらいしか準備できていない志望生だったようです。そういう事です。
世間では「青春」には余儀なくされる愚かで軟弱なイメージがあります。ですが、一度もそんな青春ではなかった人もいるでしょう。
21歳をやり直してみる? なら断ると思います。
得たものと失ったもの、という質問自体が虚しくなります。
確かなのは、生きるのがつまらないです、この頃。
酒があれば良いでしょうね、ここに。倦怠を感じるのでしょう? とても怖い感情でしょう。
何と言ったらいいかわかりません。30になろうって時に何となくただそんな事をね? わけもなく「三十の頃に (byキム・グァンソク)」を聞いて落ち込んでは努力する感じ? 実際は変わりはしないってわかっていてもね。30にどうなっているか?
私 (記者の30歳) は締め切りに追われていました。振り返って見ると、あっという間のようで、1年のようで何か月の間に起こった事のようで。
この頃、これといって悩むことがありません。作品が今放送中で、今後について悩むと時間がかかる事もあります。ところが寝ようとしても眠れません。気がつくと朝日が昇るのを見ることになって。それで「僕は今何を考えているんだろう?」と考えていると、(そのうちに) 考えなくなっていますね。ところがただ辛い。何か悩んでいるような感じなのに実際には悩んでいるわけではなくて。そんな感じで夜を過ごす事が多いです、家では。こんなふうに食卓に座っています。
それだと朝、お母さんがびっくりされますよね。
今朝も水を飲もうと台所に行くと朝7時頃でした。お母さんは僕がいたのでびっくりして「あなたは何で寝ないで起きて来て」って。「わからないよ僕も」そう言いました。ハハ。この頃そんな感じです。それでも幸せだと思っています。感謝しようとして。
最近でもTVを見て演技の練習をしますか?
それは習慣です。この頃は本放送の時に見て、家に帰ってまた見て、見直したい事があればまた寝る前に見ますね。自分のシーンを見て問題点を把握しようとします。何が問題だったのか見ます。日常のようになってしまっただけで、特に意味はなくて。<愛の温度>を見たいが努めて見ないようにしています。
なぜですか?
1度だけ見てジーンときました。悲しいシーンでもなかったけれど。男主人公と女主人公が会っただけなのに「あ~見てられない」と消しました。「終わったら一気見しなくちゃ」って……。あ~僕ってこの頃寂しいのかな?
倦怠や退屈は一人でも何とか克服できます。でも孤独は……。
「孤独だ」が合っているようです。お母さんにもその話を何度かしました。「お母さん、僕すごく孤独で」「今すごく孤独だけど、これって結婚したら解決できる?」
その孤独なイ・ジョンソクにユン・ギュンサンさんは本当に良い兄のようでした。<三食ごはん>を見てそう思えました。
はい、本当に良い人。今も<三食ごはん>の飲み会をしているが「来るか?」とメールが来ました。本当に兄らしい兄です。期待できる人。腹を割って話してもかまわないような人。
イ・ジョンソクの孤独はどうしましょう?
それはユン・ギュンサンでは解決できなくて……。
自分をずっと困らせてビデオカメラで撮影して見るのももしかしたら。
そのとおりですよ。 完壁でないのでずっと自分を責めますよ。ただただ毎日が苦しくて。完壁にしようとしても完壁なはずがないからとても苦しい事ってあるでしょう。どうにかなっちゃいそうです。素敵な俳優に会うと羨ましくて激しく嫉妬して。
最近イ・ジョンソクを刺激した俳優は誰ですか?
チョン・ヘインという俳優がかなり好きです。とてもハンサムで毎日「兄さん、僕と顔を取り換えちゃダメですか?」って。ギュンサン兄さんと似た所があります。僕より一歳しか違わないのですが、かなり兄な感じです。演技は僕のほうが先輩だが、人生の先輩として話をしてくれて周りに合わせる事を知っている人。もう本当によく分からないです。どうしたら演技が上手くなるのか。演技はするほど難しいという先輩のそのお言葉が今は分かるから頭がおかしくなります。それでこのインタビューはOKですか? 使えるような話はありますか?
もちろんありますよ。
俳優イ・ジョンソクについての質問より、人間イ・ジョンソクについて尋ねてくださって、僕も慌てながらも「こうです」と申し上げたが、ぱっと答えられなくて。僕もまだ苦悩しているところで。使われる時に困るかと思います。
ところで紳士という言葉についてどう思いますか?
記者さんは?
3つ。毎日少しずつでも良い人になろうとする態度。一人でも孤独ではない人。女性に対する良い態度。
あ、僕もそれにします。同感です。あ! 最も重要なのはそれだと思います。自分の事を自分から話さないこと。対話してみると僕はこんな人で、性格はこうでって話している事は正確でないと思います。自分では自分の事をいいように言うでしょう? 僕をそばでずっと見守った友達やお母さんはもっと正確でしょう。それが一つ目です。二つ目は一人だけ愛する、異性に対するマナー。
昨日もほとんど休めなかったでしょう? 今日はこれくらいにしてちょっと寝なければならないんじゃないですか?
今日は…… 5時にパティシエに会うことにしました。
170822 MagazineM VOL.227でも「三十の頃に」について語っています。
https://ameblo.jp/hb625/entry-12303392386.html