イム・シワンの反転

イム・シワンは反転の多い男だ。軍入隊を目前にした夏、彼は意外にも浅黒く男らしかった。その日のイム・シワンとBALENCIAGAは、お似合いの組み合わせだった。また、彼が反転の醍醐味を知る男の証拠でもある。

 

 

イム・シワンは元気な声で明るく挨拶した。彼が大人しく恥ずかしがり屋だと漠然と思っていたので少し驚いた。それはたぶん<未生>の「チャン・グレ」で彼と向き合ったからなのだろう。イム・シワンはアイドルグループのメンバーでキャリアを開始した。釜山で工科大学に通い、ソウルに出て来て踊って歌い、演技者としても誠実に経歴を積み重ねてきた。

 

2010年にデビューし、いわゆる「経歴から出るバイブ」が積もったのだろう。長い間、多くの人々と接して身についた優しさと余裕のようなものなのだろう。その陽気な挨拶はとても自然に見えた。

 

彼は軍入隊を数日後に控えていた。あちこちで「一杯やろう」という人が多く慌しく過ごしていた。ソン・ガンホ、ソル・ギョングなどビッグブラザーと共にする飲み会は考えただけでもホッケ水が切実になる。この春の映画、<不汗党>で韓国型ノワールに一線を画した彼は、あらゆる面で反転の多い人だった。彼から美少年像を思い出させたが、テーブルで向かい合ったイム・シワンはかなりシャープな男の印象だった。

 

趣味は家の掃除に一人酒という愛想っ気のない釜山男は、ずっと宿題のように延ばしてきた「軍隊」をやっと片付けることができてうれしいと語った。なんだか軍隊も「チンチャサナイ-本物の男」のように楽しんで行ってくるようだった。思いのほか男らしくて意外にもクールなイム・シワンなら1年9か月ぐらいは。

 

 

 

 

数か月前に<不汗党>の広報でソル・ギョングに会ったことがある。その時に、カンヌ映画祭に招待されて良かったですねと言うと「ただ行って写真を何枚か撮ってくるだけだ」と淡々と語っていた。だが、実際にカンヌで撮られた写真見ると、心底楽しそうに見えた。あなたはどうだったか?

カンヌ映画祭と自分は縁のないものだと思っていた。私には関係のない映画祭だと常々思ってきた。だから招待されるとは思ってもいなかった。「今、周りで何が起こっているんだ?」とつぶやくほどだったから。ただ楽しく撮影した映画なので、みなさんが楽しく見て下さればと思っていた。予想以上に大きな反応を得たので、すごく不思議だった。

 

 

映画祭の試写会ではスタンディングオベーションがすごく長かっただろう。<不汗党>も7分ほど拍手が鳴り止まなかったのでは? こみ上げてくるものがあったろう。

こみ上げてくるというのはちょっと違う。護衛されて劇場に入るまで、映画祭の関係者は、私が誰なのか知らなかったようだ。そんな状態で映画だけを評価されて拍手され、本当に感無量だった。最も思い出に残る時だった。

 

 

イム・シワンという俳優が演技すると、観客はその役に同情するようだ。その点について考えてみたか?

私が小柄だから? ハハ。弱い者を守りたくなって。よく分からない。またそこが助けになるとは思っていない。ゆくゆくは私も守る立場ではなく、誰かを守る頼もしい役もこなしたいが、それが自分の宿題でもあって。

 

 

それでも<不汗党>では「男」らしさを見せた。

見せられたとしたら、もう望むことなく。

 

 

カンヌ映画祭招待はさて置き、<不汗党>はどういった意味合いの作品か?

映画の撮影を終えた数か月後に、カンヌ映画祭招待の発表があった。カンヌとは関係なく、その前から私にとって特別な映画だった。自分のやりたいように演技できたからだ。監督が私を信じてくださり、カメラの中で解き放たれた。自由に自分のやり方で演技できた。ますます愛着が沸いた。ストレスを受けずにできた作業は初めてだった。

 

 

イム・シワンは演技上手だと感じていた。<ワンライン>の時からだと思う。オープンで自由に演技する感じがした。何かきっかけがあったか?

<未生>の時まで修能試験の勉強をするように演技をした。それだと身を削り情緒を失っていくだけだった。そうやって苦痛を経験してみると演技をいくらもしていないのに長くはできない気がした。そこで演技のやり方を変えなければと心に決めた。いろんな方法で変えてみようと努力した。長く演じていたくて。

 

 

それで演技がますます面白くなったか?

そうだ。今までは演技を作っていく過程が苦痛だったが、今はそのプロセス自体を楽しむことができるようになった。

 

 

それはキャラクターが自由に演技できる余地があったからか? それともキャラクターに関係なく、自分の姿勢が変わったからか?

キャラクターの影響もあるようだ。今またチャン・グレをするとしたら、このように自由な演技ができるか、という疑問はある。

 

 

私は<未生>もそうだが、<赤道の男>を印象深く見た。家でTVのチャンネルを合わせて自分の昔の作品を見る事はあるか?

TV自体そんなに見ないから。ハハ。

 

 

以前に演じたキャラクターをまた演技するとなったら上手くできるだろうか?

全く同じくはできないと思う。あの時しかできなかっただろう。それは演技を上手くできるできないの問題ではない。その当時、私が感じた感情をまた再現することはできないのだから。5年前の私と今の私は違うのだから。

 

 

最近の活動は演技に集中している。しかし、歌手でデビューしただけに歌も欲があるようだ。

当然、今後の活動計画の中に歌は含まれている。「歌への欲は本当に多い」と書いてほしい。ハハ。私の入隊後に放送されるドラマ<王は愛する>のOSTも録音した。ファンには先に私の声を聞かせてあげられそうだ。すごく恥ずかしいけれど。

 

 

久しぶりに歌うから?

いや、歌が好きでも上手くはないから。好きと上手は違う、間違いなく。

 

 

どんな歌手のように歌いたい?

キム・グァンソクさんが大好きだ。聞かせてくれる感性と情緒が大好きだ。たぶん私は正統派のバラードを主に歌うと思う、これからも。

 

 

撮影がなく、する事がない日はどう過ごすのか? もし、<私一人で住んでいる>のオファーが入ってきたら、放送では何を見せるのか?

想像したことがある。<私一人で住んでいる>に出る事になったら? 苦心の末に下した結論は、大変なことになるということだ。放送時間が埋まらないと思う。家で何にもしないから。寝溜めに一人酒。じゃなかったら家の掃除をして眠くなったらまた寝る。起きたら夜になって、バラエティを見てまた一杯やる。これ放送できます? ハハ。見ている人はつまらないだろう。放送だからって、作った素顔を無理やり見せたくもない。出演自体が迷惑になる。PDさんのためにしない方が良い。

 

 

いつからこんなにお酒を嗜むようになったのか?

ソン・ガンホ先輩に会ってからだ。映画<弁護人>の時からだ。今では酒が日常になった。平日でも楽しむ方だ。

 

 

<不汗党>の撮影で勢いが増したようだ?

そうだ。だが、もともとアルコールは嫌いではなかった。好きでもなかったが「飲まなくはない」ぐらいだった。その程度だったが、<弁護人>の撮影で酒との縁が始まった。映画の話をしながら酒を飲むのが一番楽しいし、おいしくて。

 

 

酒を飲みながらもう一度見たい作品があるか?

酒を飲みながらではなく、<未生>を全話通して見たくはある。その時に自分がどう演じていたのか気になる。当時を復習してみようと<未生>の台本をまた見ている。その時から演技スタイルが変わっていると思うからだ。もちろん今はストレスもあまり感じずに楽しみも感じているが、演技のアプローチ面で初心を失ってはいないか自問することになる。もしかしたら失ったものがないか気になって<未生>をもう一度復習してみたい欲がある。

 

 

数日後に軍隊へ発つ。そこでプレゼントにワインのボトルを買った。こんなに毎日飲むとは思わなかったが、買っても無駄だったかも。酒の約束が絶えないだろう?

人と毎日会っている。会えばみんなとっても良い人だが、毎日のように約束があるので、さっさと軍隊に行きたい。ハハ。

 

 

本当は軍隊に早く行きたかった?

早く片づけたかった。しなければならない事をせずにいる感じがずっとしていて、気になってしかたなかったよ。やっと行ける事になってすっきりした。除隊したら海外旅行ももっと自由に行けそうだ。すごく楽しみだ。

 

 

1年9か月後は、今とはイメージが変わっているだろう?

今とは違うだろう。まずは行ってくる。