30歳、ピョン・ヨハン
ピョン・ヨハンは、期待と希望だけで綴られた20代の終わりに <未生> と出会った。期待と希望が現実になった瞬間を迎えた彼は今年で30になる。
俳優にとって時間は正直とはいえない。努力を重ねたからといって早く有名になるわけではなく、長く演技をしたからといって何度も認められるわけでもない。俳優にとって、ぴったりハマる役と作品に出会えるのは天が与えたチャンスだ。矛盾していた俳優の時間を除けば、ピョン・ヨハンは機会と運を同時に手にし始めたのかもしれない。
2011年、短編映画 <土曜勤務> でインターネット設置技師ドヨン役でデビュー、ひき逃げ事故を目撃したコンビニの深夜アルバイト、ジフン役を演じた <目撃者の夜>、その後 <野良犬 (日本題:起爆) >では師弟で爆弾を作る20代の就活準備生、大学院生チョング役を演じた。チョン・ウソン、ソル・ギョングが出演した <監視者たち>、チャン・ドンゴン、キム・ミニ出演の <泣く男> では助演で登場した。様々な役で積んだ彼のフィルモグラフィーは11編。「独立映画界のソン・ジュンギ」というニックネームは、単に出演数の多い俳優だから与えられたものではない。ルックス、演技力などを広く認めての言葉だ。
だが人々は、彼を「期待の俳優」と認識した。その言葉は、希望であり毒だった。「いつまで有望株でなければいけないんだ?」と自問自答していた時、ハン・ソンニュルに会った。昨年最高のドラマに選ばれたウェブトゥン原作ドラマ <未生>。
そうそうたる俳優たちの中にいても、センター分けでダサいヘアスタイルのハン・ソンニュルは登場から話題になった。愉快で元気いっぱいだが、懐の深いハン・ソンニョルはチャン・グレの同期であり、パートナーだった。ややもすると埋もれたり、逆に浮いてしまうハン・ソンニュルをピョン・ヨハンは、見てとばかりに活き活きと演じ、名前が知られることになった。
ドラマが終わって一か月になるが余韻は今も残る。作品を作った人も視聴者も彼らを放さなかった。ドラマの裏話はまだポータルサイトで話題になっているようだ。ピョン・ヨハンは <未生> を語り、「僕の中にハン・ソンニュルを満たした」と表現する。<未生> が好きだったごく普通の人のように、彼もハン・ソンニュルを抜け切れないようだ。撮影現場で彼は、雰囲気がゆるむと「ファイティン」と叫んで気合を入れ両手をパンと合わせた。
グラビア撮影は今回で3度目だ。
慣れないが、どんどん興味がわいてきた。写真を見ると自分ではないような気もするが、演技でキャラクターを作る時に役立つ。「こんな姿で演技ができるんだ」と色々と試せるのがいい。
<未生> 放映中も、SNSにあげた日常の写真が話題になった。ゆるく着こなした服のスタイルも話題だ。
服はシンプルでラクなものが好きだ。よく似合ってピッタリくるのが大事だ。今日は、むさくるしい格好で来て申し訳ない (笑)。
ドラマ出演後、ファン層ができあがった。
ファンが「よく休んで、次回作を期待する」と元気をくれる。所属事務所にもプレゼントや手紙がたくさん届く。手紙を読んでいると「この人たちはどうして俺のことを好きなんだ?」と思う。ファンが初めてできたので、自分もその方たちについて気になることが多い。
なぜ「好きなんだ」と思うのか?
演技をしているのが好きなんじゃないか? 人見知りも激しい。人見知りしない時は酒を飲んで酔っ払ったり、今日みたいに風邪薬を飲んでいても大丈夫 (笑)。
<未生> 最終回、ビアホールで同期が集まって飲むシーンではずいぶん顔が赤かった。
撮影監督と相談して、そのシーンでは実際に酒を飲んだ。ソン代理とも上手くいかないし、会社にチャン・グレはいないし。ハン・ソンニュルの心が乱れて悩み苦しむ感情を表わしたかった。ソンニュルがチャン・グレに久しぶりに会ってつまらない話をする、真っ先にハグしたのもそんな理由だ。そのシーンでは、「おまえの心の中で俺が残業するんだよ」とストレートな話もする。
実際のお酒の量は?
あまり飲めないが、飲んでも酔わない。どれだけ飲んだか気にしながら飲んだことがない。酒グセは、寝てしまうか、口数は減るがちゃんと話をする。人見知りなので親しくなれなかった人に (酒の力で) 寄っていくこともある。
セリフでは、口で音を出したり、手で音を出したり、楽しいジェスチャーや表情が多かった。すべてアドリブだったのか?
Webtoonよりもイキイキと見せようとした。コミックでチャン・グレが「ハン・ソンニュルさんは何が好きですか?」と尋ねるシーンがある。ソンニュルは、かがんでタバコを吸いながら「ふぅ~」っとする。そこでグレがソンニュルの姿に陥る。そんなコミック的な要素をそのままできないので、ジェスチャーで引きつけた。オーバーな身振りと喋りでソンニュルがチャン・グレに惹かれたように、「何ですか?」と、がっかりしたように。
会社に行っている友人に何を聞き込んだのか?
「会社生活は大変じゃない?」だった。ほとんどが大変だと言っていたよ。だからワンインター (ナショナル) に通う人たちは皆が大変だろうから、その人たちに力を与えるのがハン・ソンニュルだと思った。ハン・ソンニュルは絶対に面白い (笑える) 奴ではない。大変な時は誰にも言わない。他の人を絶対に疲れさせる奴ではないってことだ。
初のドラマで現場に慣れるのが大変だったろう。
キャスティング決定が遅れて、Webtoonも読まなければならないし、ヘア、スタイリストなどのセッティングや台本熟知、キャラクター分析もあって時間がなかった。演技のトーンも映画と違って合わせなければならなくて。ところが、監督がよりによってドラマ初撮影の僕を抜擢した。その時は監督が憎かった。一週間経つと監督がとても賢い方だとわかった。途中で投入されたら、僕が人見知りなのでドラマのトーンに沿って行くのは難しいだろうとわかっていらした。撮影がない時も現場に行って、イ・ソンミン先輩が演じるのを見て感覚をつかんだ。その後はずっと勢いづいた。
イ・ソンミンさんが現場の雰囲気を良くしていらした。
人見知りが激しいという点で、自分の20代とよく似ていると常におっしゃり大きな愛情が感じられた。(こいつは) 人見知りだと後輩に何度も声をかけてくださった。特にホテルで一緒にプロジェクトの作業をするシーンで、数値データを言う長いセリフがあったが、先輩が直にコメントも下さった。おかげで勇気も出て、思い切って演技ができた。
バラエティ番組 <タクシー> の未生特集編で歌ったのが話題になった。ミュージカル経験者のカン・ハヌル、キム・デミョンを抜いて1位になった。
お二人は訓練を受けられたが、僕はカラオケで練習した (笑)。自信があった。歌が上手いわけではなく、「1位になれなくても舞台を楽しめればいい。どっちにしてもこの中の一人が牛肉 (1位の商品) をもらうんだから」という考えだった。本当に楽しんだ。残念だったのは歌いこなせなくて歌詞を何度も間違ったことだ。
選曲も良かった。「言うとおりに」という曲は、すべての就準生 (就職準備学生) をはじめとする無職や未生にとって慰めになる曲だ。
すごく悩んで選んだ曲だ。あのような場では感情をこめて歌いたいところだが、それは大事にしまって置くことにした (笑)。20代後半が特に大変だった。演技をしていても「これでいいのか?」と悩むことが多かった。そのたびに、この歌を聞いて思い切り泣いて、カラオケでもよく歌った。音楽を聞いて運動するのがストレス解消法だが、この歌をよく歌った。録画の前に、どの歌を歌うか悩んでいたら親友が「おまえがいつも歌っていた『言うとおりに』を歌え」と言うので、それでいいかと思って歌った。練習もせずに、いつもどおりに。
演技者としての道に疑問を抱いたことが多かったのに、それでも演技を続けられた原動力は何か?
信じてくれた家族や友人だ。ドラマが終わって自分を褒めてあげたかった。そこでナイキ常設店に行きランニングシューズを買った。友人何人かにも買ってあげて、親戚の妹弟たちには小遣いも渡した。最も大変だったのが「期待される」という言葉だった。最初は力になった。「お前は上手くやれる」という言葉が力を与えた。その言葉を数万回聞いて疲れてきた。昨日、学校の先輩オ・マンソク先輩とキム・ドンウク先輩に会った。いつも聞く言葉なのに、お二人から聞くと新鮮な感じがした。「期待されるという言葉、上手くいくだろうという言葉は耳に入れずに、ただただ努力しろ。俺たちは努力しなければならない」と。年齢の前の数字 (29歳から30歳になると十の位の数字が変わる) が変わると、その一言一言が違って感じられた。 「一緒に」頑張ろうとおっしゃられたが、その「一緒に」という言葉も心地よかった。
大学 (ハンニェジョン- 韓国芸術総合学校。2009年度に24歳で入学)に入る前に留学していた。
高校の時から留学準備をした。その頃は休み時間も中国語の勉強をした。父は、国際貿易に進むことを願われたが、僕には他の目的があった。中国語を頑張って <赤壁の戦い> や、<三国志> を撮ることだ。大学に入って先生に「先生、僕は <赤壁の戦い4> を撮ります」と言うと、「ヨハンならできるぞ~」とおっしゃった (笑)。
留学から戻ってすぐに、お父様が帰国プレゼントとして入隊令状を出された。演技にも強く反対され、とても毅然とした方だと思われるが。
父は息子をよくわかっているのではないか。僕の性格をよく知り、どれほど僕が切実なのかを見たようだ。考えてみれば、ずっと挑戦していた。芸術高校に進学しようと準備して文系に入ったし、中国に留学に行っても韓国人のお祭りに出て賞を頂いて。軍隊に行っている時もオーディションを受けに行ったのだから。大学は合格通知書をお見せして、入学すると言った。本当にありがたかったのは、その時その時に希望が見えたということだ。軍の認識票用に断髪した頭で (オーディションを) 受けた。面接の教授が軍人だったが、学校にどうやって入るのか聞かれ、授業料を前払いして2年後に通うと言った。会場を出た後、自分に可能性があるかと教授に聞くと、あると言われた。本当に予備7番になった。
父が牧師で、家の雰囲気が保守的なようだ。
内緒でオーディションを受けられたのは母親のアシストが大きかった。母が娘時代から歌手が夢で、今でも色々な楽器ができるほど才能にあふれている。最近、父が僕のことを深く尊敬してくれていると感じる。はっきりした方なのでサポートする時は、しっかりと応援してくださる。
シナリオの勉強をする妹の進路に反対しなかったのか?
教会で一緒に演劇をした経験があったので、妹も俳優になりたかった。高3の時、何度も願書を送った学校に受かった。(演技の) 未練が捨てられなくて、妹が支援期間が合う他の学校に願書を書いて受かったら出してくれると言ったが、父が「まさか」と思ったらしいが、約束して下さった。何の準備もしないのに受かるわけないと思ったが受かってしまった。父は約束を守った。できないことでも叶えた人なら認める方だ。妹が先に父と交渉をしてくれて僕も演技ができることになった。今では、妹は台本を見ると常にコメントをしてくれて僕にはかけがえのない良い先輩だ。
作品に入る前にキャラクターを「満たす (成りきる)」プロセスはどうするのか?
まず台本を「さらーっと」見る。それからその人物の流れを頭の中で描き続けてみる。「どう行動して言うか? 声はどんな? どんな服を着て、瞬きはどうしようか?」そんな感じで想像する。その人物にふさわしい音楽も考えて、こんなふうに歩いたり、あんなふうに歩いたりする。するとある瞬間、その人物が僕の中に満たされてくる。現場で相手役とアクションしながら人対人でぶつかる感じがパッと浮かんでくる。その時、その感情を失わずに突き進む。
3月に公開される <ソーシャルフォビア> はどんな映画か?
SNSによって巻き起こるヒョンピ (Web上で起こっていることが実際に殺人、ケンカにつながること。現在の「現-ヒョン」とPK (Player Kill) の「P」) の問題を扱った推理映画だ。警察志望生の役だが、友人についてヒョンピのサークルに行くことになり、そこで死んでいる女性を見つけ、他殺か自殺かを解き繰り広げられる話だ。
この先、商業映画も多く撮るだろうが、独立系の映画にまた出演する予定はあるか?
もちろんだ。良い人々が一緒に作る良い作品なら。僕は人福がある方だ。一緒に作業した方はみな良い人で、今でも連絡をとっている。大金をかけた映画だからといって何でもいい映画だとは思わない。
<未生> の褒賞休暇では、特派員並みでSNSに写真を上げていた。
休暇に行くと先輩たちが写真をアップしろと言ってきた。実際には、映画 <ソーシャル・フォビア> を撮りながらSNSをあげていた。メソッドだったから (笑)。撮影が終わって疲れきったのもある。最近、悩んでいる事がある。SNSはコミュニケーションもとれるが、悪く見る方もいるから。楽しむ程度にしておく。
その写真では中指に指輪をしていた。
自分へのプレゼントだ。大変な時期に体を酷使したので自分に贈ったのだ。以前していた指輪は全部捨てて「演技を熱心にしよう」という意味でそれを買った。自分自身との約束であり、決意だ。
女優との作品がなかった。一緒に撮りたい女優はいるか?
レイチェル・マクアダムス。無理でしょ?(笑) 全~部いい。
理想は?
昔は一目惚れするほうだったが、最近は2か月経っても惚れているような女性がいい。一度会って好きな感情が2か月続いたら好きだとすぐに告げる。短い恋愛はつまらない。行き着くところまで行く恋愛がいい。永遠を夢見る。友人関係も同じだ。だからいつも義理を叫ぶ。
義理が足を引っ張ることもある。
足を引っ張るのは義理ではない。足を引っ張られそうになったら、わかっていても離れていくのも義理だと思う。
30になるというのは、どんな意味があると思うか?
折にふれて「30代、40代はどう生きているのだろうか」と考えていた。20代後半になるほど中途半端だったよ。面白味もなくて。20代に飽きてしまった。30代というのは世界を見る目は違うように思う。俳優として男として、もう少し多くを知って、もっと広く見なければという気がする。20代はあっという間に過ぎて漠然と欲を出す激しい時だとしたら、30代は熱心に仕事をする他に、人々をもっと愛して、話に耳を傾けることができるようだ。30代は程々に素敵な年齢に思える。
ハン・ソンニュルが広く愛されたので、次期作選びに悩むことも多そうだ。
まだ分からない。ただ努力してやり遂げるだけだ。やってみたいジャンルが多い。ラブコメ、アクション、ノワール、退廃的な映画も撮りたい。ドラマ、映画を問わずに良い人と一緒にできる良い作品であれば、ぜひやってみたい。
http://www.thesingle.co.kr/common/cms_view.asp?channel=451&subChannel=453&idx=8277
<タクシー> での「言うとおりに」




