前回の記事で、スポーツなど何らかの動作の習得をしようとするなら「重心」を知ることは有意義だと述べた。

 

動作として現れる形の全ては、重心と支点を揃える作業の裏返しだからである。

 

老若男女、西洋東洋、生物の種類に関わらず、動作の共通事象。

 

ここから動作の理解をスタートすれば、余計な理屈など要らない。

最短距離となる。

 

 

 

細分化され、ジャンル分けされ、複雑化してしまった「動き方の指南」。

よく考えれば矛盾だらけの前提ありき。

 

本質が見えないのは、伝言ゲームのように云い伝えられた「誰かの言葉」ばかりだから。

 

 

僕は根源的にシンプルに、矛盾無きように、「動きの本質」に迫れるように、どこぞの先生方の中途半端な指導で混乱しないで済むように、記事が約立つならば幸いと思う。

 

 

 

この記事では、動く人に対してその重心位置の求め方を解説する。

前置きは長くなったが、やり方は単純である。

 

 

重心の位置

というわけで、その「重心」がどこにあるか分からなければ始まらない。

 

念のために言うが、「重心」はモノじゃなく位置である。目に見えるものではなく、空間上に算出するものだ。

 

実体は無いんだけれども、相対的な概念でもない。

人でもモノでも、一つに一つ、必ず“そこ”は在る。

 

 

まずは動かないモノで説明する。

図表なんだが、それじゃあ立体の人間と違うんでは?と思うかもしれないが、最終的にはそれで問題なくなるから安心してほしい。

 

 

👇正四角形

正四角形

 

 

👇重心位置はど真ん中でOK。

重心の位置

 

教科書的には、「この面は、質量が均一に分布している」という但し書きがあっての”ど真ん中でOK“である。

要するに、「この面は、隅から隅までまんべんなく同じ物」っていう事なら“ど真ん中でOK”なのだ。

以降では省略する。

 

 

👇四角形をずらして、形を変える。

重心の位置

 

形が変わったことで、全体の重心位置は、どのように改め直せばよいか。

 

 

👇まずは、動いたものを別々のブロックと捉えなおす(色分けをした)。

重心の位置

 

 

👇それぞれの重心位置を把握する。図表の重心は「ど真ん中でOK」だから話が早い。

重心の位置

こんなふうに分割して捉えなおす

このやり方が、動くモノの重心を追う基本作業となる。

 

 

👇分割して表れた2つの重心を直線で結ぶ。必ず直線でなければならない。

重心の位置

 

 

👇重心を結んだ直線の真ん中が、

重心の位置

 

重心の位置

全体の重心位置となる。

 

 

直線の真ん中で良いのは、2つが同じ重さ(質量)だからである。

2つが同じ重さの1:1だから、結んだ直線も1:1の真ん中でとっていいのだ。

 

なので、2つの重さが2:1の比率だったならば、直線上の比率も2:1で重心ということになる。

 

 

👇並べ方を変えても、

重心の位置

 

 

👇やり方は変わらない。

重心の位置

 

タテに並んだ2つのブロックの、その2つの重心を結んだ直線の真ん中に全体重心がある。

 

立ち上がった人間の姿に似てきた。

 

 

👇こんな変則的な形となっても大丈夫。

重心の位置

 

 

👇重心のとり方は一緒である。”例外“は無い。

重心の位置

 

だけど、重心の位置が物体の外になってしまった。

 

もしもこの図形が大地に立たせた物であるならば、地面に接する範囲(支点)に対してこれがいわゆる「重心を外した状態」であり、倒れるという事となる。

 

重心を外す

 

 

 

最後に、実践のための応用編。

 

👇このカタチの重心位置は、どのように導き出すか。

重心の位置

 

ここまでの説明から、重心の求め方に2つの手段がある。

 

 

👇一つは等分割(ミクロ化)方式。

 

重心の位置

ポイントは、変形した赤ブロックの重心位置の求め方。

 

 

👇このように、赤グループを更に等分割(ミクロ化)すれば、重心位置は同じように求められる。

重心の位置

 

 

👇赤と青の両グループの重心それぞれが、割り出された。

重心の位置

 

 

👇最後に、両グループの中心を取れば、それが全体の重心位置となる。

重心の位置重心の位置

 

ひと手間増えたが、ミクロ化したりマクロ化したりしただけで、作業は単純明快。

 

 

👇もう一つは、2分割でなく比率を使う手段。

重心の位置

 

 

👇上にはみ出しているブロック1つと、その他3つという事で捉えなおす。赤1つと青3つ。

重心の位置

全体で4つのブロックは、質量が個別に等しい。

だから、グループ分けした比率は赤:青=1:3となる。

 

 

👇青3つの重心と、赤1つの重心を、それぞれ算出する。

重心の位置

 

 

👇例のごとく直線で結ぶ。

重心の位置

 

 

ただし、今回はその直線の真ん中ではない。

重心の比率は「赤:青=1:3」であるからして、直線を分ける比率も「1:3」となる。

重心の位置

 

直線を4等分し、少ない方に多くを比重してバランスするべく、直線上では「赤3:青1」となって重心の位置が求められた。

 

重心の位置

 

 

👇全体重心はこの位置。

 

重心の位置

 

 

👇2分割で求める「等分割方式」と、比率で割りだす「比率方式」

※勝手に命名してますが、専門用語は分かりません。

重心の位置

手段が違っても、算出された重心の位置は同じである。

この図形の重心は、誰がどうしてもこの位置でしかない。

 

 

重心の位置について、お分かりいただけたと思う。

次は人の重心位置に応用してみる。

 

 

人の重心位置

人の重心位置だとて、これまでブロックと同じこと。

 

👇ブロックの全体重心の求め方

重心の位置

 

 

👇人の場合も同様

重心の位置

 

 

人体の3大関節(腕なら肩・ヒジ・手首、脚なら股・ヒザ・足首)に首を加えてそれを可動部分とし、体をその部分で区切ってブロックにみたてる。

 

ブロックの重さはまちまちなんだが、教科書的にその比率の平均値は決まっている👇。

身体重心

※数字は全身100%に対する各部の比率。右側カッコの(8)は単上肢合計、(15)は単下肢合計である。

本当はブロックごとの重心位置が無いと困るんだが、見つけたら書き直しておく。

 

 

これで、ブロックが動いても「等分割方式」や「比率方式」を駆使すれば、その時の姿勢に応じた重心位置が割りだせるというわけ。

アバウトだが仕方がない。生きてる対象者を本当に切り割って計測するわけにはいかないから。

 

 

人の重心の算出は、このような平均値をつかうか、研究機関であれば透過装置で計測した上で、その数値をもとに重心計測機でリアルタイムにモニターするというカラクリだ。

 

身体重心

だが、この表を使う場合、静止ならまだしも、動く人を目で追いながら重心を見る時には、ブロックが多すぎて目算など絶対ムリ。

 

どうせ人が見ている景色は2次元であるし、僕が人の動きをみる時には、上下2つのブロックだけで充分である。他の人がどうしているかは知らない。

 

 

2つのブロックとは、

👇直立姿勢の全体重心位置を境に、体の質量を上下に2等分したものである。

身体重心

 

 

👇上ブロックを「上半身」、下ブロックを「下半身」とし、その2つの重心位置は下表の位置となっている。

身体重心

この表の数値は、川合健太先生, 福井勉先生による学術論文から抜粋した。

※引用元【健常成人における上半身質量中心点と下半身質量中心点位置の検討

 

例によって、個人ではその数値を量り知るすべがない。

参考にしたこのデータは、一般的な指標よりも上半身の比率がやや大きい。

 

通常の運動学教科書では、成人男子で身長の56%、成人女子で身長の55%とされている。

その場所の目安は「第2仙椎の前」。

 

大問題なのは、「第2仙椎の前」に全身重心があるのは、直立姿勢の時だけという事。

 

動く姿勢に対応するためには、全体を上下2ブロックとし、その2つの重心から「等分割方式」で割りだすのが現実的だと思う。

「第2仙椎前」のことは忘れて、上下2つの重心の合点を見ていれば、大凡であるが全身重心の軌跡を分かる事ができる。

 

 

幸いにして両半身の間に運動の大きい股関節があるので、

身体重心の位置

👆このような感じの、2つのブロック方式はちょうどいい塩梅になる。ヒザの曲がりや挙手などは、そのつど適当に見繕えばいい。

 

 

👇論文の数値を、強引に骨標本の絵に乗せてみると、上半身重心の位置は「みぞおち」の高さで、下半身重心の位置は「大腿(ふともも)の中間ちょい下」となった。

身体重心の位置

教科書的には、上半身重心は「第7胸椎の前」、下半身重心は「大腿の中間よりやや上」となっている。

僕の作ったイラストでは、上半身重心の位置は「第7胸椎=みぞおちの高さ」で大凡良いが、下半身重心の位置はご覧のように大腿中間のちょい下となった。

 

まあ、実際に誰かの動きをみる時には、この誤差は大したものではない?。ヒザが曲がってゆけば、下半身重心の位置も上昇する。

 

 

重心と動作

説明が長くなりすぎてしまった。

動作との関わりについて、ほんの触りを書く。

 

身体重心の位置

👆この絵の人は、前屈によって、身体重心が足の爪先を超えようとしている。

このままでは前に重心を外して、倒れてしまうことが見て取れる。

 

前に倒れることを阻止するために、この人は重心を足の上に戻す動作を行うことになるのだが、その様子をみることで、この人の体の使い方の特性を評価する事ができる。

 

 

あまり良い題材では無かった。

重心と動作の関連については、今後の記事すべての根幹になると思うので、目を通して頂いて参考になる事があれば幸いである。

 

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※順に読み進むと、話が構築されてゆくようにしています。